第百十六話 予想外の出来事
区切りのよいところで切りましたので、今回は少し短めです。
よろしくお願い致します。
またもや出張が決まりました。
夜は神戸近郊でラーメン食べ歩き予定です。
手紙の到着から一週間が過ぎた頃、
「やっぱり正確な日にちって分からないのかな…?」
「リンネちゃん達ですか?」
「うん」
幹太とアンナは、今日もブリッケンリッジ中央市場で姫屋を出店していた。
「すぐに出発したとしても、サースフェー島からだとまだもう少しかかりそうです〜」
そう言ったのは、すっかり体調が回復したソフィアだ。
「そっか!そういやソフィアさんは大陸側の港まで野菜を運んでたんだっけ?」
「ラークスの港ですね〜♪」
「そうでした!ラークス♪
なんだか懐かしいですね、幹太さん♪」
アンナはその時のことを思い出しながら、お気に入りの髪留めに触れた。
これは港町ラークスで、幹太がアンナに贈った初めてのプレゼントである。
「あぁ、だよな。
あそこからようやく旅が始まったって感じだったな〜」
「ウチの村からラークスまでが四日、村からこのブリッケンリッジまでも四日以上かかりますから、船旅を含めたら十日ぐらいかかるのじゃないでしょうか〜」
ジャクソンケイブ村で各地方への卸しの仕事を任されていたソフィアは、意外にもこの三人の中で一番旅慣れている。
「じゃあ、あと数日ってことかな?」
そう言う幹太は、かなりソワソワした様子である。
「フフッ♪幹太さん、本当に楽しみなんですね♪」
「な、なんだよ…アンナだって楽しみなんじゃないのか?」
「えぇ、それはもちろん♪
でもこれからお仕事なんですから、気をつけて下さいね、幹太さん♪」
「う、うん。そうだな」
そうして幹太達はそれぞれに開店準備を始めた。
昼前になり姫屋が開店すると、初めはいつも通りにポツポツとお客が屋台にやって来る。
「…幹…お兄…」
「…ん?アンナ、今なんか…?」
「はい?どうしました?」
「いや…なんでもない」
気のせいか、幹太は誰かに呼ばれた気がしたのだ。
『幻聴…?つーか俺、どんだけ楽しみにしてんだよ…』
幹太は頭を振って調理に戻る。
「…アンナお姉…」
「…あれ?幹太さん、今…」
「えっと、やっぱりアンナにも聞こえてる?」
「はい!ちゃんと聞こえてます!」
「お二人ともあれじゃないですか〜?」
そう言って外回りの仕事をしていたソフィアが指差したのは、市場の入り口に止まった巨大な王家の馬車であった。
「幹太お兄ちゃーん♪アンナお姉ちゃーん♪」
さらに巨大な馬車の窓からは、笑顔でこちらに手を振るリンネの姿が見える。
「あっ!やっぱ本物だっ!」
「リンネちゃんですっ♪」
幹太とアンナは、開店直後にもかかわらず店をほっぽって馬車へと駆け出した。
「いってらっしゃいです〜♪」
そんな二人を、ソフィアは笑顔で見送る。
「幹太お兄ちゃん♪アンナお姉ちゃん〜♪」
「リンネちゃん♪」
幹太より先を走っていたアンナは、満面の笑みで飛び込んでくるリンネをガッチリと受け止めた。
「久しぶりですね♪リンネちゃん♪」
「うん♪私、すっごい会いたかったよ♪」
「えぇ、私もですっ♪」
二人はそのまましばらく抱きしめ合い、再会の喜びを分かち合う。
「リンネちゃん、お父さん達は?」
姫屋へと戻った後、そういえばと、幹太がリンネに聞いた。
「なんか疲れちゃったって言ってて、先にお屋敷に行くって…」
「ですけどリンネちゃん、ずいぶん早い到着でしたね?」
アンナはそう言って、リンネの頭を撫でる。
「うん♪あの馬車がすごいの♪
中がお部屋になってるから、寝てる間もずっと走ってられるの♪」
「あぁ、なるほど…だからお姉様の馬車だったんですね」
「そりゃすごいな。
地球で言うモーターホームってやつか?」
「たぶんそうです。お姉様の馬車は中で暮らせるようになってますから…」
「なんでまたビクトリア様はそんな馬車を作ったんだ?」
「お姉様、移動に時間をかけるのがすっごくイヤみたいで…」
「あぁ、なるほど…」
「なんとなくわかります〜♪」
ビクトリアは第一王女という立場上、大使として様々な国に招かれることがある。
王族一せっかちな彼女は、下手をすると滞在期間中ずっと自分の馬車に宿泊するのだ。
現に先日リーズ公国にいる間も、客間に移動してくれとマーカスに頼み込まれるまでは馬車に宿泊していた。
「リンネちゃんはまだお城に行ってないのですか〜?」
ソフィアがリンネの前にしゃがんで聞いた。
「お城…?えっと…お姉ちゃんは誰ですか?」
「フフッ♪お姉ちゃんの名前はソフィア♪
幹太お兄ちゃんのお嫁さんですよ〜♪」
「えぇっ!?」
と、ソフィアの返事に驚いたリンネの顔がなぜか急激に暗くなる。
「か、幹太お兄ちゃんにはもうお嫁さんがいるの…?
あれ…?でも、アンナお姉ちゃんと結婚するってお手紙には…」
幼いリンネの中で、幹太に対する疑惑が広がっていく。
「もちろん♪アンナお姉ちゃんもお嫁さんですよ〜♪」
「!?」
目の前でニコニコしながらそう話すとびきり美人なお姉さんに、リンネの混乱はさらに増していく。
「ソ、ソフィアさん!そのあたりは帰ってからゆっくりお話しましょう!」
「え〜?そうなんですか〜?」
「リ、リンネちゃん!きょ、今日はお兄ちゃん達のお店を手伝ってくれないかなっ!?」
「う…うん、リンネ、お兄ちゃんたちの手伝いしたい♪」
「じゃ、じゃあよろしく頼むよ」
幹太は急いでリンネをカウンターの外に連れ出す。
「えっと…幹太お兄ちゃん、リンネがやる事は前と一緒なの?」
「うん、そうだけど…」
「わかった♪
いらっしゃっいませ〜♪」
その質問だけでリンネは笑顔で接客を始めた。
「…すごいな」
それからしばらく幹太は注意してリンネの仕事をぶり見ていたが、リンネはいつもとは違うラーメンのメニューにも混乱することなく、しっかりとお会計や食器の上げ下げなどをこなしていく。
「フフフッ♪当たり前ですよ、幹太さん。
リンネちゃんは小姫屋の看板娘なんですから♪」
「そっか、そうだよな…」
「私の仕事がなくなりそうです〜♪」
「お兄ちゃ〜ん!麺だけお代わりできますか〜だって〜?」
「おぉ!替え玉!できるよー!」
「はーい♪できますー!」
わからないことは素早く聞くという店員としての基本も、リンネには当たり前にできるようだった。




