第百十五話 みんなの妹リンネちゃん♪
間が空きまして申し訳ありません。
再びの腰痛に苦しんでおりました。
なぜか足の神経もおかしいようです。
このお話に関係して、以前、私が務めていたラーメン屋に超絶イケメンな店員さんがいました。
彼が店に入るだけで、女子高生からおば様、さらにはオネェ系の方々までもが殺到したことが本当にありました。
どうやらイケメンは世界を救うようです。
それは数ヶ月前のことでした。
「えっ♪お姉ちゃんたちからお手紙が来たの?」
「そうよ、リンネ♪」
と、私に手紙を渡したのはお母さんのルナ・ヘルガソン。
「良かったな♪」
そう言って私の頭を撫でるのは、お父さんのニコラ・ヘルガソン。
その日、クレイグ公国の南の島、サースフェー島に住む私の所にお手紙が届いた。
「あ!アンナお姉ちゃん達の名前だっ♪」
私が受け取ったその手紙の裏には、大好きなお姉ちゃん三人の名前が書いてある。
「よかったぁ〜♪ちゃんと会えたんだ♪」
「そういやそうだったね…」
幹太お兄ちゃんとアンナお姉ちゃんは、ある日突然、この島にやってきた。
由紀お姉ちゃんとシャノンお姉ちゃんは、その二人を探しにこの島にやって来た人達だ。
「リンネ、さっそく読んでみたらどうだ」
「うん、お父さん♪」
私は焦る気持ちを抑えて、百合の花の型押しがとってもステキな封筒を、破かないようにそおっと開きました。
「わぁ〜スゴい♪お手紙にお花の香りが付いてる♪」
「あの子、どうやら本当にお嬢様だったんだねぇ。
その手紙、封印も立派なもんだし、この離島まで配達されたっていうのにぜんぜん汚れちゃいないよ…」
「ハハッ♪アンナちゃん、俺が会った時にゃ真っ黒だったからなぁ〜♪
まぁ育ちは良さそうだったけど、さすがにここまでとは思わなかったよ♪」
「じゃあ読んでみるね♪え〜と…」
私はきっちり折り畳まれた便箋を、もう一度丁寧に開きました。
『リンネちゃん、お元気ですか?
アンナお姉ちゃんですよ〜♪
今回は私が代表して、このお手紙を書いてます。
あれから私達は旅を続けて、無事にシェルブルック王国のブリッケンリッジという町にある私のお家に着きました。
そのあと、由紀さんやシャノンともキチンと再会できましたよ〜♪
私達がちゃーんとお家に帰れたのは、リンネちゃんとご家族のお陰です。
本当にありがとうごさいました♪
それでですね、お姉ちゃん達は幹太さんとも話し会って、リンネちゃんへのお礼を考えました。
私達はリンネちゃんとご両親を、このブリッケンリッジにご招待したいと思ってます♪
もちろんお迎えもお泊りも全てお姉ちゃん達がご用意しますから心配しないでください。
お父さん、お母さんとお話をして、もし予定が立てられたら、中に入っている封筒でお返事を下さいね♪
あなたのお姉ちゃん
アンナ・バーンサイドより
追伸
私、幹太さんと結婚することになりました♪』
お姉ちゃんからのお手紙を読み終えた私が封筒を見てみると、中にはもう一つの封筒と、ニコラ・ヘルガソン様へと書かれた一枚の便箋が入っていた。
「お父さん、はい」
「お、おぉ…これは?
シャノンちゃんからおれ宛か…」
「け、結婚の方は遅かれ早かれそうなると思ってたけど、ご招待とお迎えって…本当にかい?」
アンナお姉ちゃんからのお誘いにビックリしすぎたのか、お母さんはちょっと変な顔をしていました。
「…ん〜?いや、どうやら本当だな…。
こっちのシャノンちゃんからの手紙にも、ご都合が良い日にお迎えに上がりますと書いてある…。
できましたらひと月ほどのご休暇を、だとさ…」
「う、嘘だろ…?
あんた、シェルブルックのブリッケンリッジって…」
「…お隣の王都だよな?
行くだけで、いったい何日かかるんだ?」
「も、もしかしてそれが全部…?」
「あぁ、むこう持ちって書いてある…」
「あの子…一体、何者だったんだい?」
「なぁルナ…俺、バーンサイドって家名をどっかで聞いたことあるような気が…?」
「…そうだね、なんだか聞き覚えがある気がするね…」
すごく嬉しいお話のはずなのに、なんだかお父さんとお母さんの顔は真っ青になってしまいました。
「もしかして…お父さんとお母さんはお姉ちゃん達に会うのがイヤなの?」
私は恐る恐る両親に聞きました。
「ち、違うぞ!リンネ!」
「そうだよ、リンネ!そんなことは無いよ!」
「そうなの…?」
「あ、あぁもちろんさ!
…あんた、こりゃもう…」
「うん。そうだな。
この年齢で外国の王都にいけるなんざ、リンネにとっちゃ最高の経験になるはずだ」
「そうね…それにあの子達の招待ってんなら、なんの不安もないんだものね」
「そんじゃ決まりだな!
よし、リンネ!みんなでお姉ちゃん達に会いに行くぞっ!」
そう言って、お父さんは私を抱き上げました。
「やったぁ〜♪」
「あぁ、こんなにすごい家族旅行なんて初めてだ♪
そうと決まれば、あとはいつ行くかだが…」
「でもあんた、宿と食堂はいいけど、小姫屋はどうすんだい?」
「いや…そちらがよろしければ、宿も小姫屋もきっちり経験を積んだ者に営業させるとさ…」
「う、嘘…だろ…?」
「ハハッ♪まぁそう思うよなぁ♪」
でもこれ、見てみろよ」
「…ほ、本当だわ…」
私は生まれ初めて、ここまでビックリしているお母さんを見た気がしました。
「もしかしてアンナちゃんの家って、ものすんごい名家なのかなぁ〜?」
「さあね。シェルブルックじゃ有名な大貴族の娘だったのかも…?」
そうしてそれから数週間が経った今日、王宮にリンネからの返事が届いたのだ。
「リンネちゃん…?からのお手紙ですか〜?
「あっそっか!ソフィアさんは会ったことないんだっけ?」
幹太達は市場から帰った後、ソフィアの部屋に集まっていた。
今日一日休養した彼女はだいぶ体力が回復したらしく、ベッドから起き上がり、アンナ達と一緒にソファに座っている。
「よくお話は聞いていましたけど、その方も幹太さんの婚約者候補なんでしょうか〜?」
「ブッハッ!!ち、違うよっ、ソフィアさんっ!」
と、幹太は飲んでいた水を吹き出しながらもなんとか否定する。
そもそもリンネは、日本で言えばまだ小学校高学年の年齢なのだ。
「あ〜でもわかんないよね、アンナ?」
「ですね、由紀さん。
リンネちゃん…ゆくゆくは強敵になりそうな予感がします」
「幹太さん、さすがにリンネさんの年齢で婚姻は…」
一方、由紀、アンナ、シャノンの三人はそれぞれに思うところがあるようだ。
「だから違うって!
まったく、俺をなんだと思って…」
「それで?リンネちゃんとはどのようなご関係なんですか〜?」
「あぁ…ごめん、ソフィアさん。
リンネちゃんは、俺がこっちの世界に来て最初に着いた島でお世話になったとこの娘さんなんだ」
「もしかして小姫屋の〜?」
「そうそう。
お父さんのニコラさんが俺がこっちで作ったラーメンを引き継いで、小姫屋って屋号で商売してくれてるんだよ」
「あぁ懐かしい…小姫屋かぁ〜♪
幹ちゃんは知らないかもだけど、すっご〜い人気なんだよ♪
まさにご当地ラーメンって感じ!」
「えぇっ!?そうなんですか?
私と幹太さんでやっていた時もけっこう忙しかったですけど、そこまでじゃなかったような…?」
島から大陸に渡る船の都合で、幹太とアンナはラーメンの人気が最高潮になる前にサースフェー島を後にしたのだ。
「そ〜だよ〜♪
もうあそこの港の名物みたいになっちゃってて、こっちの大陸からも漁師さんがたくさん来るようになってたんだから♪」
「へ〜そうなのか」
「あとはやっぱリンネちゃんだよね♪
いっつも一生懸命ラーメンを運んでたから、心配になった漁師さん達が集まるようになっちゃて…ね、シャノン?」
「えぇ、リンネさん笑顔の破壊力は凄まじいものがありました…」
「私達がいた時もそうでしたもんね〜♪」
「確かにそうだなぁ〜。
あぁそっか…ニコラさんもイケメンでリンネちゃんも可愛いんだ…」
「うん。よく考えたら完璧な布陣だよね。
ひょっとしてあの二人なら、日本でやったって上手くいきそうじゃない?」
「う〜ん…」
由紀にそう言われ、幹太は普段自分が屋台を出していた場所でニコラとリンネが働いているところを想像する。
「…そりゃ絶対イケるな」
「でしょー♪」
幹太が見立てでは、美形の多いこちらの世界であってもニコラほどのイケメンはなかなかお目にかかれない。
もちろん、ラーメン屋にとって一番重要なのはラーメンの美味しさなのだが、お客と接する機会が多い屋台の店などでは、店員次第で売り上げ変わることも事実としてあるのだ。
「それで由紀さん、リンネさんはなんと?」
「あっ!えっと〜なんだって…」
由紀は指だけで器用に封筒を開けて、一生懸命丁寧な字で書かれた手紙を読み上げる。
『カンタおにいちゃん、アンナおねえちゃん、ユキおねえちゃん、シャノンおねえちゃん、こんにちは。
リンネはげんきです♪
おとうさん、おかあさんといっしょにそっちにいけることになりました。
くわしいことはおとうさんのおてがみにかいてあるそうです。
リンネはだいすきなおねえちゃんたちにあえるのが、いまからとってもたのしみです。
そっちにいったら、いっぱい、いっぱ〜いあそんでください。
リンネからのおねがいです。
リンネより』
「可愛いお手紙ですね〜♪」
ソフィアがそう言って手紙を読み終えた由紀を見てみると、なぜか彼女は俯いたまま小刻みに震えていた。
「ゆ、由紀さん〜?どうしたん…」
「か、幹ちゃん…私、もう…」
「あぁ…俺もだ…」
「…シャノン、ここに遊園地は作れませんか?」
「えぇ、アナ。お父様のお庭を潰しましょう」
「み、皆さん!?どうしたんですか〜?」
予想を大幅に上回るリンネの可愛らしさに、お姉ちゃんとお兄ちゃんは常軌を逸してしまっていた。




