第百十一話 難関再び
パソコンが壊れたため、このお話は全てスマホで書きました。
改めて、パソコンの大事さ感じます。
買い替えるのが当たり前なのでしょうが、一応修理に出しております。
少し短いですがご容赦ください。
「こりゃ…ラーメン屋か…?」
「え、えぇ…そう書いてありますね〜」
ソフィアは屋台の軒先にある看板を凝視する。
「幹太さん、奥にも何軒かありそうです〜」
「そっか、しばらくこっちで営業してなかったから…」
「まさか〜姫屋は潰れたと思われてしまったんですか〜?」
「うん。でもそれにしたってこの数は…」
幹太がパッと見で数えただけでも、カウンターに丼を並べたラーメン屋らしき屋台は四、五軒ある。
「…ソフィアさん」
「…えぇ、幹太さん」
二人は顔を見合わせて頷き合う。
「それじゃあオレは奥の店から…」
「私は手前のお店から買ってみます〜♪」
そして十数分後、二人は両手に湯気の立つどんぶりを持って屋台街の中心にあるテーブルに座った。
「…これは、ラーメンなのかな?
こっちはウチのラーメンに似てるけど…」
幹太が買ってきたものは、片方が蕎麦のような茶色い麺、そしてもう片方は日本のラーメンのように黄色い麺が入っている。
「私の方は両方が〜?」
一方、ソフィアの買ってきた物は、片方はうどんのように白く太い麺、もう片方はしらたきのような透明な麺である。
二人は真剣な表情で、お互いに持ち寄ったラーメンらしき物体を観察した。
「…と、とりあえず食べてみよう」
「はい〜」
幹太はまず茶色い麺の方のどんぶりを手に取り、スープを啜った。
「あっ!スープはラーメンっぽい!」
「え、えぇ、こちらもです〜」
幹太の隣では、ソフィアがうどんのような麺のスープを啜っていた。
「よし、ソフィアさん…次は麺いってみよう」
「は、はい〜」
二人は恐る恐る麺に手をつける。
「…うん、こりゃ〜」
「…ラーメンっぽくないです〜」
幹太の食べた蕎麦のような麺が入ったものは、日本で言えば鴨南蛮蕎麦といった味であった。
そして一方、ソフィアの食べたものは日本でいうと肉すきうどんのような味である。
「どうすっかなぁ〜」
自分の知らない内にこのような事態になり、幹太は頭を抱えた。
「か、幹太さん!まだ…まだもう一杯ありますから〜!」
「お、おぅ…そうだったな…」
ソフィアにそう励まされ、幹太は次に目の前にならぶ四つのどんぶりの中で、見た目がもっともラーメンっぽいものの麺を食べてみる。
「…お、こりゃ麺は…いやダメだ。
卵を使って黄色くしているだけだな…」
ラーメンの麺の黄色は卵の色ではなく、かん水と小麦粉が混ざって作られる色である。
ラーメンの麺とうどんや蕎麦の大きな違いは、水を使わずにかん水で打つというところにある。
「では、わ、私も…」
がっくりとうなだれる幹太に、これ以上かける言葉見つからなかったソフィアは、とりあえず一縷の望みをかけて最後に残ったどんぶりに箸ををつけた。
「…あっ♪これっ!幹太さん♪」
「ん?どうだ?」
「ちょっと近いかもです〜♪」
「えぇっ!そんな麺で!?」
「はい、ちょっと食べてみてください〜」
そう言って、ソフィアは幹太の前にどんぶりを滑らせる。
「…本当だ…」
「やっぱり♪そうですよね〜♪」
「ん〜?でもどうして…?」
「もっと食べてみて下さい〜」
「あ、あぁ…ありがとう、ソフィアさん」
幹太はしらたきのように透き通った麺をズルズルと啜った。
「こりゃバーンズさんのとこか…」
バーンズさんとは、幹太がここへ姫屋を出す以前から、この場所でスープに入った米粉麺、地球でいえばフォーの様な食べ物の店を出していた店主の名である。
「あっ♪だからですか〜♪」
「うん。たぶん…」
幹太とバーンズは、お互いにローラのバザーに出店して以来、何度か話しをする機会があった。
「確か…その時、ラーメンの麺の作り方も話したような…」
「じゃあ食べ終えたら聞いてみましょう〜♪」
「そうだな、そっちのが早い」
そう決まり、慌ただしく食事を終えた二人はすぐさまバーンズの店に向かった。
「バーンズさんっ!」
「おぉ、婿どのっ!やっぱりかっ!」
ちょうど店がひと段落していたバーンズは、幹太とソフィアを見るなり店の外へ飛び出して来た。
「そうなんだよ♪なんかどっかで見たことある美人だなぁ〜って思ってたんだ♪
やっぱり婿どのの嫁さんだったんだなぁ♪」
バーンズはニコニコしながら、ひときわ力強く幹太の肩を叩く。
「あら〜♪嬉しいです〜♪」
「ちょ、バ、バーンズさんっ!痛いって!」
「いいじゃねぇか、コノッ!羨ましいぞっ!
そんで?いつ帰って来たんだ?」
「えっ?バーンズさん、俺が帰ってくるって知ってたんですか?」
「いや、知らねぇよ。
どこかいってんだろうなぁ〜ぐらいは思ってたけど…。
まぁ〜アレだろ、王家に入るってんで花婿修行とかだろ♪」
「い、いや、そんなんじゃ…」
「ん〜?なんだ、そうなのか?
まぁいいや…そんでオレの麺はどうだった?
言われた通り、海の近くの井戸水で打ったんだが…食べてくれたんだろ?」
「ま、まぁ美味いは美味いんですけど…」
「おぉ、良かった…けど、なんだ?」
「どうして強力粉…いや、小麦粉じゃないのかと…?」
「ハハッ♪何言ってんだ♪それじゃお前んとこと一緒になっちまうじゃねぇか♪」
「あー」
「そういうことでしたか〜」
「だろぅ♪」
そう言って、胸を張るバーンズには一片の迷いもない様子だ。
『そうか…この世界ではまだラーメン屋が浸透してないから…』
現在の日本でラーメン屋を始めるとしたら、ほとんどの人が小麦粉とかん水を使った使用した麺を工場から仕入れてラーメンを作る。
「まぁ、まだまだ婿どのとこには敵わないけど、オレのラーメンだって捨てたもんじゃないだろ♪」
と、無邪気に笑うバーンズに肩を組まれ、幹太は改めてイチからこの世界にラーメンを広める難しさを思い知るのであった。




