第百十話 再びの王都
いつも文書を書いているパソコンが壊れました。
申し訳ありませんが、次回の投稿が少し遅れるかもしれません。
よろしくお願い致します。
「ビクトリア様っ!アンナ様ー!
アンナ達一行の馬車が王宮に続く坂を登りきると、正門の前でおじいちゃんが孫の帰りを待っていた。
「おお!ムーア!」
「ムーア!アンナ、帰りましたよー♪」
二人の王女はそれぞれ馬車の窓から身を乗り出し、ムーア導師に手を振る。
「あぁ、ムーアを見ると帰ってきたっなって実感します♪
ね、シャノン?」
アンナは窓の外から御者台に座るシャノンに聞いた。
「えぇ…。でも、導師…心なしか老けこんだ気が…」
「えぇっ!だとしたらあれは地縛霊ですかっ!?」
「アナ、導師はそこまで…いえ、もしかしたら…?」
「そう言えば…ムーア導師っていくつなの?」
馬車の中から由紀がアンナのお尻に向かって聞いた。
「確か…六十いくつだったような気がします…」
アンナが座席に戻りつつ答える。
「えぇっ!そんな若いんだ!
やっぱり王女二人からの心労かな…」
「おれももっといってると思ってた…」
幹太達がそんな話をしている内に、馬車は王宮へとたどり着く。
「お帰りなさいませ、ビクトリア様、アンナ様」
「あぁ、ただいまムーア」
「ただいまです♪ムーア」
「皆さんもお帰りなさいませ。
さぁ、とりあえず中へ」
「ありがとうございます、ムーア導師。
すいません、ご心配をおかけしました」
「ただいま、ムーア導師♪」
「ただいまです〜♪」
幹太の誘拐から約ひと月、七人は久しぶりに王宮へと帰った。
「ふぅ…」
王宮へと帰った幹太はとりあえず自分の部屋である客間へと戻り、たまらずベッド上に横になった。
「なんだかずいぶん長い間離れてた気がするな…」
「そうですね〜」
「えっ!?ソフィアさん!?」
幹太は間近から聞こえた声に驚き上体を起こす。
「はい〜♪」
「ど、どうしたの?な、なんかあったかな?」
「なんだか寂しくて〜」
「あぁ…それ、わかるかも…」
幹太はフゥっと息を吐き、再びゴロンと横になる。
二人がリーズ公国にいる時は、幹太はクレアやゾーイと、ソフィアはアンナや由紀というように、ほぼ誰かと一緒に行動していた。
「幹太さん、あの…お願いいいですか〜?」
「うん?迷惑かけたお詫びのやつ?」
「はい〜♪」
といういつもののんびりした返事と共に、幹太のベッドがギシリと軋んだ。
二人は大きなベッドでハの字に横になり、天井を見上げている。
さすがの幹太も長旅で疲れているようで、最初に驚いた以外はソフィアの行動につっこんだり、動揺したりする余裕もないようだ。
「…どんなお願いかな?」
「えーと、とりあえず二人でお出かけを〜」
「あぁ、ぜんぜん大丈夫だけど…けど、いいのか?」
「なんでです〜?」
「それだとアンナと一緒だし、出掛けるだけなら約束を使わなくったって…」
「ん〜もったいぶってもしょうがないですし〜」
「…そうなんだ」
「…はい〜」
結局、二人はそのあと朝まで眠ってしまい、朝になって幹太の様子を見にきたアンナが悲鳴をあげるまで一度も目を覚まさなかった。
「だからゴメンってアンナ…」
「ごめんなさい、アンナさん〜」
「フンッ!もういいです!」
「いや〜まさか帰った夜に幹ちゃんの部屋に行くとはね〜♪」
「アナが叫ぶまで、私もぜんぜん気付きませんでしたよ」
そうして幹太とソフィアは、かなり居心地の悪い朝食をとった後、お互いに準備をしてブリッケンリッジの市街へとデートに出掛けた。
「…フフフッ♪」
「あ、ソフィアさん…」
正門を出てすぐに、ソフィアは幹太の腕に自分の腕を絡ませる。
「まぁいいじゃないですか〜♪」
「うん…じゃ、いこうか?」
「はい〜♪」
幹太はテレれながら頬を掻き、ソフィアにされるがまま歩き始めた。
「でも…どうして二人でブリッケンリッジなんだ?
お願いなら、ソフィアさんの村に帰るのだって…」
「あ〜そうですね〜♪
でも私、この前幹太さんが突然いなくなった時に思ったんです〜」
それはクレアが幹太を誘拐した時のことだ。
「えっと…何を?」
「もしかしたら、もうデートもできないかもってです〜」
「あぁ…なるほど」
「しかもこれからは、私も幹太さんも王族の一員になりますから〜」
「そっか…なかなか二人では出掛けられなくなるかもってことか?」
「はい〜」
ソフィアは幹太が攫われたあの日、自分で思ったいた以上に動揺した。
今回は命を狙われるようなものではなかったが、幹太がアンナの婿となれば、そういった危険に合わないという保証はない。
だけに彼女は勇気を出して、自分達の愛する人をもっと厳重に警護して欲しいと、シャノンにお願いするつもりであった。
「私と幹太さんのお出掛けでも、これからはきっと護衛の方が一緒になります〜」
「ハハッ♪アンナはいっつも一人でブラブラしてるのになぁ〜♪」
幹太はそう思っているが、実際にアンナが誰も連れずに街に出掛けるようなことはまず無い。
護衛のシャノンが同行していない時は、ほぼ幹太といるか秘密裏に護衛がついている。
「ん〜アンナ様は人目につきますから、よほどの事がない限り安全だと思いますよ〜」
「ブリッケンリッジじゃ人気だもんな〜アンナ」
「えぇ、山奥の私の村でさえ、アンナ様のファンはいますから〜♪」
「えっ!そうなの!?
あそこに行く道中はあんまり人気がなかったけど…?
でも、だったらジャクソンケイブに行った時は…」
「はい〜皆さん声をおかけするのを我慢してました〜。
私も含めて、ほとんどの方が幹太さんとのお忍び旅行だと思ってましたから〜♪」
「えぇ!そんな誤解がっ!?
…でも、まぁ助かったのかな?」
「そうかもしれません〜」
二人は腕を組んだまま王宮前の坂を下り、大通りへとやって来た。
ここは以前、幹太達が参加したバザーが行われた場所だ。
「なんだか懐かしいですね〜」
「あぁ、なんだかすっごい昔な気がするよ。
ほんのひと月ぐらいしか経ってないのになぁ〜」
二人はしみじみと屋台の並んでいない大通りを眺めた。
ここで行われたバザーの結果、幹太達の結婚は晴れて王家に認められることとなったのだ。
「さぁ、そんじゃ次はどこへ行こうか?」
「…ちょっとのんびりしたいです〜♪」
と言って、ソフィアが幹太を連れて来たのはブリッケンリッジで一番大きな公園だった。
井の頭公園という都内でも有数の広さを持つ公園の近所に住んでいた幹太ではあったが、さすがこの公園の広さには面食らった。
「な、なんか向こうに…あれは湖?いや海?」
「フフッ♪さすがにこんな街中に海はありませんよ〜♪
さ、幹太さんここへ〜」
「うん…」
幹太は呆然としながらも、ソフィアの用意したブランケットの上に座った。
「ん〜♪気持ちイイですね〜、幹太さん♪」
と、ソフィアがグイッと伸びをすると、彼女の豊満な胸が薄いシャツを突き破らんばかりに強調される。
「あ、あぁ…すっごいな…」
「すごいですか〜?」
「い、いや、すっごい気持ちイイなって!」
「はい〜」
最近のソフィアは、幹太がこのような態度を取る時は大抵の場合、自分の胸を見ているのを知っている。
だけに、
「エイッ♪」
と、勢いよく再び幹太と腕を絡めて密着する。
「ソ、ソ、ソ、ソフィアさんっ!?」
「あんっ♪なんだか本当に久しぶりです〜♪
もうっ!我慢がっ!我慢できません〜♪」
リーズ公国にいる間、ソフィアはほとんど幹太とくっつく機会がなかった。
つまり、お姉さんは我慢の限界にきていたのだ。
『あ〜やっぱりきゃわいいです〜♪』
と、堪らない衝動に駆られ、ソフィアはより一層強く幹太の腕を抱き締める。
そして、
「どーん♪」
「うわっ!」
と、そのまま幹太ごとブランケットの上に倒れこんだ。
「あ、あの、あの!ソ、ソフィアさんっ!?」
「は〜い♪なんですか〜♪」
幹太はなんとか離れようとするが、ソフィアの強い腕力と柔らかなの胸の誘惑に逃れることができない。
「幹太さん…ちょっとこのまま…」
とそこで、無駄な抵抗をつづける幹太に、ソフィアが先ほどまでとは違う静かな声で言った。
「えっ?なんて…?」
「しばらくこのままで…」
「ソフィアさん…うん、わかった」
自分を見上げるソフィアの表情を見た幹太は、身体から力を抜いた。
「そうだな…ソフィアさんと仕事以外で二人っきりなるのは初めてかな…?」
「…こんなに長くはありませんね…」
「あっ!そっか、プロポーズの時…」
「はぅっ!か、幹太さん!それは思い出さないで下さい〜。
あれは、今思えばあれは…恥ずかしいです〜」
ソフィアのプロポーズは王宮の裏庭で突然であった。
「ハハハッ♪そんなに恥ずかしがるソフィアさんを見るのは、本当に初めてかも♪」
幹太はそう笑って、恥ずかしさの余り真っ赤になった顔を両手で抑えるソフィアの頭を優しく撫でた。
「あぁ、できればプロポーズをやり直したいです〜」
「そんな事ないよ…少なくとも俺はすごく嬉しかったし」
「…本当ですか〜?」
「うん♪本当に本当」
「なら…いいです〜」
「そっか…」
「はい〜♪」
そうして二人は横になったまま、しばらく公園でゆっくりとした時間を過ごす。
「えっ!ソフィアさんって怒るのっ?」
話は幹太がクレアに攫われてすぐの話題であった。
「私、攫ったのがクレア様でなかったらどうしていたかわかりません〜♪」
「どうしていたかって…どうするの?」
「わかりませんけど…とりあえず私の村の近くには人の入ることのできない深い谷があります〜♪」
「…そうですか…」
結婚後、ソフィアとは絶対ケンカはしないと幹太は心に決めた。
「さて、それでは次に行きましょうか〜?」
「うん?もういいの?」
「はい♪お腹も空いてきましたし〜」
「そうだな。そんじゃ次は…」
「そうですね〜♪次は〜」
「中央市場だ♪」です〜♪」
二人は声を揃えてそう言って、さっそくブリッケンリッジ中央市場に向かう。
「…おぅ、こりゃ…」
「えぇ…すごいです〜」
公園で拾った辻馬車を降りた二人の目の前には、予想外の光景が広がっていた。




