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ご当地ラーメンで異世界の国おこしって!?  作者: 忠六郎
第四章 リーズ公国編
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第百一話 対決の日

本日、地球の果てより帰ってまいりました。

さっそく空港にてラーメンを食べました。

日本は最高です。

そして、ついにリーズ公国で開かれる経済交流会議の前夜。

幹太対ダニエルの決戦の夜がやってきた。

今晩は最終的に集まった大使達の顔合わせのパーティである。


「幹ちゃん、大丈夫…?」


由紀は心配そうに隣で青ざめる幹太に声をかける。


「…それはどっちの意味で?」


「ん〜対決とこの雰囲気の両方…かな」


「対決の方はそれなりに自信があるけど…雰囲気の方はヤバいな…」


アンナとの婚約が決まって以来、何度か華やかな場に足を運んだが、幹太は今だに上流階級ならではのこの雰囲気に慣れていなかった。


「そうだね〜私もこっちの格好の方が好きかな〜♪」


由紀はそう言って幹太とお揃いのTシャツの胸元を引っ張った。

今日はこのパーティのイベントとして幹太とダニエルにラーメン対決が催される予定になっている。

すでにダニエルとメーガンも、幹太達とは反対側の会場の隅に調理器具を並べていた。

対決はお互いに時間のかかる仕込み以外の調理を、お客に見せる形で行われるのだ。


「おぉ!久しぶりだなっ、芹沢幹太!」


幼馴染同士が会場の一角でそんな話をしていると、きらびやかなドレスに身を包んだビクトリアが、軍服を着たクロエと共に現れた。


「調子はどうだ?まさかとは思うが…この雰囲気に呑まれてはいないだろうな?」


「ビクトリア様…芹沢様は…」


「クロエ、こ奴はこれから王族の一員になるかもしれないのだぞ。

正直、こんなパーティぐらいで緊張してもらっては困る」


「それは、そうですけど…」


「とは言っても、私はまだキサマとアンナちゃんとの結婚を認めるつもりはないがなっ!」


「お姉様っ!」


とそこへ、ビクトリアの最後の一言を聞き付けたアンナがやって来る。

ビクトリア同様、後ろには護衛のシャノンも付いてきていた。


「おぉ♪アンナちゃん!今日もすばらしく可愛いなっ♪」


アンナは先日とは違う、薄いブルーのサテンドレスを着ていた。


「お姉様っ!幹太さんの邪魔をしないで下さいっ!」


「わっ、私は邪魔などしてはいないぞ!

ただ…少し緊張しているようだったからな、声をかけてみただけだ」


「…そうですか。それは…ありがとうございます、お姉様」


それは尊敬から来るものなのか、基本的にアンナはビクトリアの言うことを疑わないのだ。


『そっか…そうだったんだ…』


さらに人の良い幹太も、苦し紛れの彼女の言葉を信じ切ってしまっていた。


「あ、ありがとうございます、ビクトリア様。

本当に緊張がほぐれました…」


幹太はキラキラとした純粋な瞳で、ビクトリアに礼を言う。


「うぅっ…なっ、ならば良いのだ。

きょ、今日は頑張るのだぞ、芹沢幹太」


「はいっ!」


「で、ではな!」


ビクトリアは引きつった笑みを浮かべて、その場を去っていく。


「…芹沢様」


「はい…なんですか、クロエさん?」


「妹のためという事もありますが、あれでもビクトリア様は本当に芹沢様達の応援しているんです…そして私も…」


「ありがとうございます、クロエさん。

ビクトリア様にもお礼を伝えて下さい」


「えぇ。では後ほど…」


「はい。また後で…」


クロエはビクトリアの後を追い、足早に幹太達の調理ブースから去っていく。


「それで幹太さん、本当にお手伝いしなくて大丈夫なんですか?」


「あぁ、とりあえず一通り挨拶が済んでからで大丈夫だよ」


「うん♪私もいるしね。たぶん、そろそろソフィアさんも来てくれる頃だし…」


由紀はそう言って、大広間にかかる時計を見た。

ソフィアは、幹太が急遽思いついた食材を買い出しに向かっていた。


「うん。大丈夫そうだね…あっ…」


「おぉ!こりゃ…」


とそこで、パーティ会場がある香りに包まれる。


「幹太さん…これって…」


「幹ちゃん…」


「うん、間違いなくラーメンスープの匂いだ…」


会場に漂っているのは、ダニエルが会場のブースで沸かし始めたラーメンスープの匂いだった。


「すごいな…ダニエルさん」


先日、幹太が教えたのは、正にラーメンスープ作りの基本の部分だけである。


「これ…トンコツラーメンっぽくないですか…?」


おそらくこの世界で生まれた人間の中で一番ラーメンに詳しいであろうアンナが、正確にスープの内容を言い当てる。


「ははっ♪だよな。

う〜ん、こりゃアドバイスしたのは失敗だったかな…?」


幹太がダニエルにスープの作り方を教えた時、基本的には鶏と豚の骨でラーメンのスープは作るが、美味しくなるのならば海の物や他の物を使っても構わないと伝えた。


「本当にすごいよ…残された時間で自分がキッチリやり切れる選択をしたんだ…」


しかし、経験値の少ないダニエルが他の食材のスープを作ってみるにはあまりにも時間が足りない。


「ダニエル…芹沢様がこっちを見てるわ…」


「本当だ…」


「ふふっ♪なんだか笑っているみたい♪」


「うん。確かに嬉しそうだね…よしっ!」


ダニエルは思い切ってこちらを見つめる幹太に手を振った。


「あっ!やっぱり!振り返してくれてるわっ♪」


「そうだね…」


そう言って、ダニエルは自分の仕込んだスープに視線を移す。

彼の目の前の寸胴鍋には真っ白いスープが沸騰し、大きく対流していた。


『…芹沢様にはわかってしまっただろうな…』


ダニエルは微妙にトロミのあるスープをお玉で掬う。

幹太の読み通り、ダニエルが作ったのは純粋なトンコツスープだ。


「でもダニエル、この間とずいぶん変わっちゃったけど、大丈夫なの?」


「うん?大丈夫って?」


「ジェイク様に怒られないかしらって…?」


「美味しくなってるんだから大丈夫さ♪」


「そう…ね。うん、美味しくなったんだから大丈夫よね♪」


「あぁ…」


ダニエルは豚のゲンコツという骨と臭み消し野菜のみを使い、特濃だが臭みの少ないスープを作ることに成功した。


「でも、今までのやり方が通用して良かったよ」


「本当ね♪」


ダニエルの実家の料理店では、牛骨や野菜で取ったスープが名物だ。

彼はそのスープを改良していく過程で、それまで以上に牛骨スープの臭みを消す方法を発見した。


『やっぱり、一度オーブンで焼いた野菜の方がしっかり臭みか消えるな…』


そう…ダニエルは幹太のように生の野菜をスープに入れるのではなく、一度焼いた野菜をスープに入れて臭みを消していたのだ。

これは地球でも、フランス料理などで野生の動物を食材とするジビエ料理に使われる手法である。

そして、それはラーメン一筋の幹太の知らない料理の技術であった。


『このスープなら僕にもチャンスがあるはず…』


ダニエル自身、格上相手なのは百も承知であったが、もちろん最初から負けるつもりで勝負に挑んでいるわけではない。


『メーガンのためにも必ず勝つ!』


見た目は優男に見えるダニエルだが、実は結構な野心家なのだ。


「…なんだかウズウズしますね…」


その一方で、幹太とダニエルのやり取りを見ていたアンナは我慢の限界にきていた。


「ダメですよ、アナ…まだ挨拶は残ってます」


「大丈夫です!あとはお姉様に任せましょう!

行きますよ!シャノンっ!」


「ちょっ!アナっ!待ってくださいっ!」


腕を掴み制止するシャノンを引きずりながら、アンナは会場の外に出て行く。


「あ〜あ、行っちゃったね、幹ちゃん…」


「あぁ…でもこの状況で、あのお姫様が我慢できるわけないよな…」


「…うん。アンナ…もうお姫様っていうかラーメン屋さんだもんね…」


「そうだな…最近俺もそう思う…」


そして数分後、アンナは幹太達と同じTシャツにいつものショートパンツ姿で再びパーティ会場へと戻ってきた。


「お待たせしましたー!よいしょっと…」


「アンナ!頭っ!ティアラ付けっ放しだよ!」


笑顔でエプロンをつけ始めたアンナに、思わず由紀がそうツッコミを入れる。

アンナは王女の証であるティアラをカチューシャがわりにして、その美しい銀髪をまとめていた。


「この方が前髪が邪魔にならないんでこのままいきます!」


「ウソでしょっ!?」


ティアラに付いている宝石はどう考えても本物だ。

一般人の由紀から見ても、かなりの価値がある物だというのは一目でわかった。


「さぁ〜♪やりますよ〜♪」


この大陸において最高級のカチューシャをつけたお姫様は、そのまま調理ブースへと入り、麺箱を開けて前夜に自分が仕込んだ麺の確認を始めたのだった。



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