閑話 アンナのお願い
久しぶりの閑話です。
書くのが楽しすぎて前後編になってしまいました。
よろしくお願い致します。
「一日デートがしてみたい?」
「はい♪ぜひ♪」
ある日の休日、アンナは朝一番で幹太にそうお願いをした。
「なんでもお願い事を聞いてくれるということでしたので…」
それは幹太がリーズに攫われてきてからの無責任な行動の謝罪として、婚約者の三人に約束したことだ。
「そうか…そうだな、じゃあ行ってみるか」
幹太はリーズに来て以来、アンナや他の婚約者二人とゆっくり話しをする機会が無かった。
三人と結婚するにもかかわらず、最初からこれではいけないのではないのかと彼自身も思っていたところだったのだ。
「良かったです♪
では一時間後に正門前でお願いします」
「うん?俺がアンナの部屋に迎えに行くんじゃいけないのかな?」
「それはもちろん♪デートですから♪」
幹太にはよくわからないが、どうやらそういうことらしい。
アンナは満面の笑みでそう答えた。
そして一時間後、
幹太はなぜか緊張気味でアンナを待っていた。
「改めてデートって言われると緊張するな…。
つーか俺、デートに行こうって誘われたの初めてじゃないか?」
そもそも学生時代からラーメン屋台を開いていた幹太には、アンナと出会うまで由紀以外の女性と街を出歩いた経験がない。
それから何度かアンナとも出掛けたこともあったが、幹太の中でそれは観光であり、決してデートとは思っていなかった。
「ヤバい…ますます緊張して…」
「お待たせしましたっ♪」
と、幹太の緊張が最高潮に達したところで宮殿からアンナが出てきた。
「遅れてすみません、幹太さん。
いざデートとなったらお洋服で悩んでしまって…」
「あ、あぁ、大丈夫だよ。
でも、その服って…」
「はい♪幹太さんに日本で買ってもらったお洋服ですよ♪
久しぶりに着てみました♪」
その場でクルリと回ったアンナは、デニムのタイトスカートに白いブラウスという格好をしていた。
これは着の身着のまま日本にやって来たアンナの為に、幹太が資金を出し、由紀が選んだ洋服である。
「日本か…なんだか懐かしいな。
すっごい前な気がするけど、実はそんなに昔じゃないんだよなぁ〜」
「そうですねぇ〜長く見積もっても半年ぐらいでしょうか。
あ、あとこれも付けてきました♪」
そう言って、後ろを向いたアンナの銀の髪には蝶の形の髪留めが付いている。
これはこちらの世界に来て初めての休日に、幹太がアンナに贈ったものであった。
「おぉ!それも懐かしいな!」
「何度かお仕事の時に付けてたんですけど、やっぱりもったいなくって…」
「そっか…大事にしてくれてありがとな。
よし!それじゃさっそく行こうか!」
「はい♪」
二人は自然と手を繋ぎ、宮殿前の坂道を街に向かって下って行く。
「でもアンナ、どうしてリーズ公国でデートなんだ?
シェルブルックに帰ってからでも良かったんじゃないか?」
「ふっふっふっ♪甘いですね、幹太さん♪
リーズだからこそデートなんです♪
これはたぶんですけど、ブリッケンリッジに帰ったら、幹太さんは今までのままではいられないと思うんです」
「うん?それはどういうこと?」
「誘拐の件は公にはなっていませんが、さすがにあの場所に私の婚約者が住んでいるというのは皆さんにバレてしまいました」
「そっか、そういやシャノンさんが捜査したって言ってたな」
「優しいあの町の人たちですから、行く先々で色々ともてなしてくれるとは思うんですけど…」
「ははっ♪確かにゆっくりデートとはいかなそうだな♪」
シェルブルック全域とはいかないが、王都ブリッケンリッジではアンナは有名人だ。
「私、このレイブルストークならばゆっくりデートが楽しめると思うんです♪」
「…そうだな」
と、お気楽な二人はこの時まではそう思っていた。
「あー!妖精姫さまだー!」
「あぁそうね。でもお邪魔をしちゃダメよ」
「おいっ!シェルブルックの妖精姫だってよ!」
「一目見ただけで幸せが訪れるって本当かしらっ!?」
そして数分後、訪れた蚤の市で幹太とアンナはたくさんの人だかりの中心にいた。
「…すみません、幹太さん…」
「あ、あぁ、大丈夫…なんだかちょっと予感はしてた…」
よく考えてみれば、アンナほど目立つ容姿の人間が人目を引かないわけがない。
ドレスを着ていようがいまいが、彼女はすぐに隣国の王女、アンナ・バーンサイドであるとバレてしまうのだ。
「よし!こりゃもう腹をくくって楽しもう♪」
「えっ!?」
「だーかーら、楽しもうって言ったの!」
「ちょっ!幹太さんっ!?」
照れ屋の幹太にしては珍しく、彼はアンナの手を引いて人混みの中へ分け入って行く。
「どっちにしろ、アンナと結婚したらどこ行ってもこうなるんだろ。
だったら今から慣れておいた方がいいってもんだ♪」
「ふふふっ♪まぁそうですね♪」
そう言って、二人はにこやかに蚤の市を見て回る。
「あっ!幹太さん、これ良くありませんか?」
「おっ、本当だ」
今、二人が見ているのは雑貨店だ。
アンナは立て掛けられるサイズの黒板を手に取っていた。
「紙に書くよりこっちの方が良いな」
「えぇ。どちらにせよメニューは少ないですから、これに書いておけば直すのも簡単です」
リーズで出している幹太達の屋台では、店先の張り紙にメニューを書いている。
しかし、紙だけにすぐに痛んでやぶけたりしてしまうのだ。
「でもまさか、幹太さんがレイブルストークのご当地ラーメンを作る事になるなんて思いませんでしたよ」
「アンナはやっぱり嫌か…?」
そもそもラーメンで国おこしをするというのは、アンナが自国で始めたことなのだ。
それがライバルといってもいい隣国で行われるなど、気分の良い話ではないはずである。
「いえ、それはぜんぜん大丈夫です」
しかし、当のアンナは平然とそう言った。
「えっ?そうなの?」
「はい。正直クレアにマネされるのは癪ですけど、ラーメン屋さんが各国にできるのは望むところです」
「うん。そりゃもっともだ」
シェルブルック一国でラーメンの権利を独占したとしても、この世界の発展には繋がらない。
「ましてラーメンで国おこしというのは、こちら世界を発展させるキッカケであって全てではないんです…」
「あぁ…もしかしてこないだの温泉とかか?」
「えぇ、ブルーラグーンです。
あれってソフィアさんの村と一緒ですよね?」
「そっか、言われみればそうだな…」
ソフィアの村、ジャクソンケイブがご当地ラーメンと温泉で盛り上がりつつあるのなら、この温泉があるリーズでも同じことが出来る。
そしてそれは、発達し続ける幹太達の世界にも良くあることなのだ。
「そうだ…日本だけじゃなくて、確か…アイスランドなんかも温泉大国なんだよな」
地球のアイスランドでは入浴するだけでなく、温泉の熱を発電などにも利用して国の発展に生かしている。
「シェルブルック一国が発展をしたところで、そんなことは長くは続きません。
認めたくはありませんが、私、この国にクレアの様な人がいてホッとしてます」
「ははっ♪確かにアンナとクレア様って似てるかも」
「か、幹太さん?似てるってどこが…?」
二人はイメージカラー以外、体格や性格など、ほぼ全てが似ていると幹太は思っている。
「…まぁそれはいいとして、幹太さん、私たちまた国とラーメンの話になってます…」
「あぁ、そうだな…」
アンナは幼い頃から自国の発展について考えていたし、幹太は自分一人で生活するようになってからずっとラーメンのことだけを考えてきた。
それはお互いの置かれた境遇から仕方のないことなのだ。
「…じゃあそれ、今日はやめてみるか?」
「やめるって?国とラーメンのことをですか?」
「うん。なんだろ…普通の婚約者同士っていうか…。
少なくとも、アンナは王女じゃない体でってのはどうだ?」
「…いいですね、それ♪」
自分でも贅沢な話であるとは思うが、アンナ自身、普通の女の子への憧れがないわけではない。
「それでしたら、もういっそ夫婦っていうのはどうでしょう?」
「えぇっ!そりゃちょっと気が早くないかっ!?」
「いいじゃないですか♪予行練習って感じで♪
ね、いいでしょ?幹太さん?」
アンナは繋いでいた手を幹太の腕に絡め、上目遣いでお願いをする。
「し、しかたねぇなぁ〜」
この国で妖精と表現される美少女にそんなことをされた幹太に逃げ場はなく、この世界に来てから以来、最も締まりのない顔で、彼はそのお願いを了承した。




