童心と水と花冠
始祖部のメンバー紹介があらかた終わったところで、俺はある一つの疑問が頭に浮かんだ。
「そういえば、この助互衆って、どんな活動をするの?」
一応、始祖である俺がメンバーなので始祖部という名前は、ダサいがわかる、しかしそれだけでは一体どんな活動をするのかまったくもってわからない。
「う~ん、いろいろ。」
俺は、先生の発したそのいい加減な発言に「は?いや、いろいろって何、いろいろって。」
と返した。
「うん、まあ……、なんとな~く集まって、なんとな~く今日やる事を決めるかんじ。」
いい加減だな~、しかし、やる事やルールがガチガチに決められているよりは、俺としては断然いいため
「ふ~ん、そうか。」
と承諾の意思を見せたのであった。
「じゃあ、今日は何をするの?」
始祖部の数少ないルールに基づき今日やることを決めようとする。
「はいはーい!」
とクーが元気良く手を挙げた
クーは、覚醒者になってからいつも肩から指先まで覆う手袋をつけている、夏とか熱くないのかねと俺は思いながら。
「はい、クーさん。」
と意見を聞くことにした。
「この学園の端っこに綺麗なお花畑があるの、だからいってみたな~、なんて。」
クーとは小さい頃よく村のはずれにある草原で遊んだものである、懐かしい思いに背中を押されて
「いいんじゃないの。」
と俺は答え。
アトロナーヘ先生とアルケも
「ああ、いいと思うぞ。」
「ボクもいいと思うです。」
と答えたため、今日の活動が決定したのである。
「そういえばさ~、俺たちこんな真昼間から遊び歩いていいの。学園というからには授業とかないわけ。」
ふと、気になったので飛車のなかでそんなことをつぶやいてみる。
なぜ飛車を使うのかというと、学園の敷地は非常に広大で端っこにあるお花畑へ歩いていこうとすると1日かかる、その為移動の際には学園内移動用の飛車を使うことになる。
「ああ、それは、特別学園は学校の授業というよりは家庭教師とかのほうが近いからな~、だから暇な奴は暇だぞ」
先生が飛車の運転をしながら答える。
ああ、そういえば、特別学園はその本人の能力や性格や要望に合わせてカリキュラムを組むって昔なんかの授業で言っていたな。
「いや~、学校で習うことなのにすっかり忘れてしまった。」
俺は恥ずかしそうに頭をポリポリとかくと
「いや、やっぱり特別学園って縁のない人が多いから基本部分以外結構さらっと流されるからな、忘れるやつ結構多いぞ、だから気にすんなって。」と先生がいった。
「そんなものなのかね。」
と言うと
「そんなものだよ、人間というのは自分と関係ないものと思っていることはすぐに忘れてしまうものだぞ。」
そんなものなのか、なんて考えていると。
「ねえ、ロクちゃん。」
クーが俺に話しかけてくる。
「うん、なんだ。」
俺はそう答える。
「ロクちゃんはお花畑についたらなにしたい。」
今朝出かけることが決まったばかりなので特に着いてから何をするか決まってなかったなんてことを思う
「う~ん、そうだな~~~決めてないや。」
そう答えると。
「あ!じゃあ、じゃあ、追いかけっことかしない!」
と緑色の目を輝かせながら言う
「え~、追いかけっこ~、それは子供っぽすぎて恥ずかしいよ~。」
たしかに追いかけっこはよくやったが流石にいい歳こいてやるものないしそもそも、俺はクーよりずっと足が遅いので正直やりたくない。
「ええ~、いいじゃん童心にかえってやってみようよ~。」
とこっちの目をじっと見てくる。
あ~、こうやって目を見つめられるのに俺は弱い、クーはそれを知っていてわざとやってくるのだ。
「ああもう!わかったって、やるよでも少しだけだからな。」
と声を荒らげて言うと。
「えへへ、ありがとー。」
と肩ぐらいまでの髪を揺らしながら喜んだ。
そうこうしているうちに目的の場所であるお花畑が見えてきた。
「ぜー、ぜー、ぜー。」
クーとの追いかけっこについ熱くなり息が切れるほど走り回ってしまった。
「ロクショウ、お前どんだけ体力がないんだよ。」
アトロナーヘ先生が呆れながらに言ってくる。
それものはずである。クーの方は、その小麦色の肌か赤くなる程度で済んでいるのに対して、俺の方は青白い顔がもっと青白くなり今にも死にそうなぐらい息を乱しているからである。
「み……水…………。」
俺は先生のイヤミにも反応せず水を求めた。
「しょうがないな~、ほれ。」
と水の入った袋を投げつけてくる
俺はそれを拾えずに落としてしまった。
「は~」
とため息をつき拾うのもめんどくさいので草花の上に寝っころがり落ちた袋から水を飲む。
先生が俺の近くに座ってくる。
先生は、前は白く、後ろは黒い、そんな長い髪を短くまとめ、背も高い、服も男物でまるで男みたいだが、しかし彼女を女であると確信させる大きな乳房に目が引き寄せられてしまう。
俺だって男、目の前に大きなおっぱいがあったら目が引き寄せられてしまうことはある。
「ふふ、何を見てるいんだ。」
先生が腕を組み胸を強調しながら、にやけつた顔で見てくる。
「な、何でもない。」
おれは、真っ赤な顔を隠すように、逆方向を向いた。
「そう、恥ずかしがるなって。」
そうは言っても、恥ずかしいものは、恥ずかしい。
俺は、アトロナーヘ先生から逃げるようにその場を立ち去った。
「ふふ、かわいいやつめ。」
その顔は優しかった。
俺は、ポケットに手を突っ込みながら歩いていると、アルケが何かをやっているのを見つけた。
草花に囲まれているアルケはそのゴスロリチックな服装もあり、まるで一枚の絵画がそのまま現実として浮き出たような幻想的な風景を醸し出していた。
いつまででも見ていたい気分になっていたが、アルケが何をしているかも気になったので俺は
「おーい。」
と、声をかけ歩み寄った。
「何やってるの。」
俺がそう言うと。
「草と花で冠を作ってるです。」
そう言うと、草と花を丁寧に編み込んだ輪を見せてきた。
そういえば、よくクーも作っていたが、どやって作るかさっぱり検討もつかない。
「上手に出来ているな、そういうのってどうやって覚えたんだ。」
と聞いてみる
「本で、覚えたです。」
本は俺も割とよく読むほうだが、花冠の作り方の本なんて読んだこともなかったな。
「本と言えば、女の子が好きな男の子に花冠をあげるってよくあるよな。」
なんて、恥ずかしいセリフを言ってみる。
「たしかに、本でよくあるです。」
アルケは無表情ながらどこか楽しそうに言った。
「もしかして、誰かを想いながら編んだのかい。」
また、恥ずかしいセリフを言う。
今日の夜は恥ずかしさに悶えそうだな。
でも悪くないな。なんて考えると
「そういう気持ちよくわかんないです。そして、ずっと、わかんないです。」
アルケはそう言ってきた。
「俺もさ、今まではわかんなかったけど、今は少し分かる気がするんだ。だから、いつかアルケにもわかる日が来るよ。」
今のは、キザ過ぎたかなと、ちょっと後悔する。
「ボクはもし、わかったとしてもきっと誰にもそんな気持ちを抱いちゃいけないと思うです。」
「どうして。」
君はそんなにも綺麗なのに。と言いかけたがあまりにキザすぎるので喉の奥に押し込めて
「誰だろうと、誰を想っていい、俺はそう思う。」
だいぶ、陳腐な言葉になってしまったな、なんて思っていると。
「あげるです。」
そう言いながら、アルケは花冠を俺の頭にかぶせてきた。
「おーい!ロクちゃ~ん!アルケちゃ~ん!お昼にしよ~!!」
クーが大声俺とアルケを呼んでいるので。
「いくか。」
「はい、です」
俺たち二人は立ち上がりクーのもとへと向かった。