二十話 協高祭編 上 Ⅰ
今日は元々、5月30日の更新予定でしたが、遅れてしまった20分に投稿しました。
新しい ○○編 です。前にあった伏線回収ですな。
新幹線の窓枠に肘を付いて外の景色を彰吾。
「彰吾さん、おにぎり食べます?」
彰吾の隣に座っていた沙由莉が彰吾におにぎりを差し出していた。
「ん、サンキュー。もらうよ」
と言って彰吾は沙由莉の差し出しているおにぎりを一つ頂て食べる。
「あ、美味い」
「本当ですか!? 良かったです!」
「沙由莉が作ったのか?」
「はい。駅弁も良いのですが……、朝のご飯はおにぎりにしようと、そう思って」
「ほーう、この塩加減と鮭のほぐし身がまた良いな」
「ありがとうございます!」
沙由莉は彰吾に聞こえない様に、「やった!」と言う。
「まぁ、彰吾さんどうぞ」
それを正面で見ていた凛花は彰吾にお茶の入った水筒のカップを渡す。
カップを受け取り、彰吾はお茶を飲む。
「おぉ、このお茶も美味しいな」
「一応学院内の私の庭で作った物なので、良かったです」
「へぇ、学院内でそんな物も育ててるのか」
「はい、この時期ですとスイカとかもありますよ」
「今度食べさせてくれるか?」
「勿論です。その時は沙由莉も呼びますので」
凛花を睨んでいた沙由莉が上機嫌になり、うんうんと首を縦に振っていた。
そんな中、
「゛じ゛ょ゛う゛ご゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛」
と地獄の亡者が何かを叫ぶ様な声で彰吾を呼ぶ俊。
俊は彰吾達の前の席にいる為、俊は椅子の上から顔だけ出して彰吾を見ながら言う。
「いや、こえーよ」
「゛う゛ら゛や゛ま゛し゛い゛ん゛だ゛よ゛お゛お゛お゛お」
「いや、マジどっから声出してんだよ。デスボだろ、もうそれ」
「゛ぉ゛お゛お゛お゛お゛お゛お」
俊の目から血涙が出そうなぐらい、羨ましそうにしていた。
だが、そんな俊に彰吾は溜め息を一つつく。
「お前、羨ましいとか……、隣にいるだろうが」
「本当です。彰吾さんの言うとおりです」
実は前の席に座っている俊の隣に深月がいる。
俊が一旦帰省する事を沙由莉と凛花に伝えた所、
「面白そうなんで、私達も一緒に行きます」
と答えたのだ。彰吾も一緒に行く予定だったので、人数が増えても問題無いと思ったいた。
そこにサプライズで深月が参加する事になり、席のチケットをあみだくじで決めた。
その結果、八席借りた内の四席に彰吾、沙由莉、凛花になり、俊と深月で分かれる事になったのだ。
六人しか居ないのにも関わらず、八席を取った理由は簡単。
「他の方には申し訳無いのですが、はっきり言えば男女が二席取って、その前に座ってその光景を見るのって辛くないですか?」
と、凛花が言うと確かにその通りかも知れないと思い、八席を取ったのだ。
ちなみに、俊と深月が使っている四席分のお金は凛花が出したと彰吾達は聞いた。
「まぁ、席を八つも取ればこうなる事もあるだろうよ」
「はぁ……、まぁいいや」
ため息を付いてから俊は彰吾達を見るのをやめて外の景色を見る。
そんな俊に深月をお茶を渡す。
「喉乾いた頃かと思いましたので」
「ん、サンキュー」
深月から受け取り、お茶を飲む。
そのあとに雑談などをしていると、いつの間にか京都に着いていた。
新幹線から降りてから京都駅を出る。
出ると、目の前に京都タワーがそびえ立つ。
「見飽きたなぁ……」
と、呟く俊に彰吾は「まぁまぁ」と言ってから彰吾は腕時計を見る。
「11時ちょっとか、お昼にするか?」
「良いと思います!」
「私もお腹空いてたんだよねぇ~」
「いい時間ですしね」
女子全員がお昼にすることに決めたが、俊だけは何も言わなかった。
彰吾は俊に近づく。
「どうした?」
「いや、まぁ……」
歯切れの悪い言い方をする俊の視線を確認する彰吾。
俊の見ていた方向を見ると、一人の男性が彰吾達に近付いてくる。
彰吾は「あぁ~」と理解し、俊は「はぁ……」とため息を一つ付くと、
「お待ちしておりました若」
と言いながら頭を下げる男性。その男性に驚く女子三人。
「ご飯の準備は出来ております。こちらへどうぞ」
そういうと、男性は彰吾達を案内し始める。
何が起きているのか分かっていない女子三人は黙って彰吾達に付いていく。
彰吾と俊は慣れた光景に普通に付いて行った。
付いていくと、少し大きめの車があり五人を案内していた男が扉を開ける。
「どうぞ」
「ん」
「どうも」
俊と彰吾はそう言いながら車に乗り込む。
それに続づいて女子三人も乗り込んだ。
車の中は対面席になっていて、彰吾と俊は運転席側で二人の前に凛花、沙由莉、深月と並んで座る。
全員が乗り込むと男は扉を閉めて、運転席の扉を開けて乗った。
「では、出発します」
車を発進させる男性に我慢できなくなったのか、凛花が彰吾に近づく。
「あの、今のこの状況が全く理解できないんだよねぇ……」
「あぁー、ごめんごめん。俺は三回目だけど、みんなは初めてだもんな」
前のめりになって彰吾に聞く凛花と沙由莉と深月に言う。
「あの人は、専属ドライバーなんだ」
「「「あぁ、なるほど」」」
彰吾の発言に三人がすぐに納得した。
彰吾と俊は少し驚いたが、三人共お嬢様なのを思い出すと直ぐに落ち着く。
「それは分かったんですが、どこに向かってるのですか?」
沙由莉が一番気になっている事を言うと、彰吾が何処か言い辛そうな顔をする。
「俺ん家」
窓側の席の俊は椅子に付けられている肘置きに肘を置いて手を顔に当てて顎を預けながら言った。
俊の発言に女子三人が(゜Д゜)ポカーンと言う表情をしている。
「まぁ、最初はそんな反応するよな。俺もしたから」
と、話している内に車が止まる。
「皆様、ご到着しました」
小窓みたいな所から顔を見せながら言う専属ドライバー。
すると、車の扉が開かれ、男が一人立っていた。
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
五人は車から降りると車は駐車場へ車を置きに行く。
男は五人を案内する為に先導する。それに付いていく五人。
「俺と彰吾は左から行く。後ろの女子は右から行かせてくれ」
「はい、分かりました」
言いながら男に付いていく五人だが、彰吾だけは「はぁ……」とため息をしていた。
少し歩くと、古風だが立派で大きな道場みたいな建物が五人の目の前に表れた。
「凄い……、広い」
「壁とかも、何か凄い」
「圧巻です」
沙由莉と凛花そして深月が驚きながら各々のコメントを言う。
そして、入口の門に着くと案内役の男性が止まり振り向く。
「さて、爆弾師殿、雷光殿と絶対零度殿はこちらへ」
と言いながら、案内しようとする男性にそれを気にせず彰吾と俊は進んでいく。
「え!? いや、ちょっと待ってください」
何故分けてはいろうとするのか分からず、男に言う沙由莉。
それを気にせず彰吾と俊は進んでいく。
「何で分ける必要があるんですか?」
沙由莉が言う中、彰吾と俊は門に足を入れる。
「みんなで一緒に行けば言いじゃないですか」
「それをするとですね」
門をくぐり抜けた瞬間に、何処からともなく胴着を着た男性二人が彰吾達を襲う。
「若! ご覚悟!!」
「失礼します!!」
と言いながら彰吾達に迫る。
俊に向かっていった男は俊の顔に拳を放ち、彰吾に向かった男性は蹴りを彰吾に放った。
「俊!!」
「彰吾さんッ!!」
深月と沙由莉が声を上げて言う中で凛花だけは何処か信じきった顔をしながら黙っている。
俊は少し身体を横に逸らして、攻撃を避けながら男の身体に一撃入れる。
彰吾は回りながらしゃがんでから足払いをした。
同時に男二人がその場に倒れた。
その光景を見た女子三人に案内役の男性が女子三人を見る。
「分かりましたか? みんなで行くと言うことはあの中に入る事になります。もちろん、能力は禁止です」
男が説明している中で、
「若ァァァァァ!!」
「お久しぶりです!! 彰吾君ッ!!」
「今度こそは一本取ります!!」
「冬以来だね!! 彰吾君ッ!!」
などと、彰吾と俊に挨拶と言いたいことを言いながら戦う。
三人が黙るのを見た案内役の男性はニコッと笑う。
「あれは一応伝統なので、一般のお客様には私が案内することになっています。では、行きましょうか」
と言って彰吾達とは逆の右方向へ進むのであった。
左、伝統コースの彰吾と俊。
彰吾と俊はほぼ全ての門下生を倒し、最後の師範代との勝負をしていた。
因みに門下生は100人以上、だが100人以上を相手をするのは能力など、本気でやらねば倒せない。
その為、選抜された50人が彰吾と俊を強襲していた。
「ハァハァ……、さ、流石に辛いな……」
「それなッ……! ほんっ……と疲れるわ……」
師範代が持つ木刀の攻撃を避けながら会話をする二人。
「話せる余裕があるん、ですかッ!!」
鋭い一撃を彰吾と俊に放ち、彰吾と俊はそれをギリギリの所で避ける。
彰吾は後方にバク転をして避け、俊は後ろにバックステップして避けた。
有る程度距離を置いた瞬間に彰吾が突っ込み、その後に俊が突っ込んだ。
右、一般客を招く為のコースに来ている沙由莉、凛花、深月。
案内役の男性に部屋まで案内され、荷物などを置いてトイレ、居間、風呂、台所の場所を教えて貰った。
少し長い木の廊下を歩き、案内役の男性に最後の場所を案内されている最中であった。
「……、今は何処にむかっているんですか?」
何処に行くのか気になった沙由莉が聞く。
「今は稽古場です。そろそろ、若と彰吾さんが勝っていると思うので」
「はぁ……」
少し歩くと、普通の横にスライドするドアが開かれており、誰かが仰向けてで倒れていた。
ドアの前に着くと、仰向けになって倒れていたのは彰吾と俊と知らない男性が倒れている。
「ッ……ハァハァ……」
「ヒーヒー、ッ……ハァ」
息を荒くしながら、仰向けで倒れている二人に近寄る沙由莉と凛花、深月。
「大丈夫ですか? 彰吾さん」
「あ、あぁ……、ここのいつも疲れるんだ……」
「まぁ、これだけ見れば十分に分かるよね」
「あ、あぁ……」
彰吾には沙由莉と凛花が近寄り、俊には、
「ハァハァ……、クソ、彰……吾め、羨ましいぞ……――つめ!?」
突然俊の頬に何か冷たい物が当たり、驚いて避ける。
何だ!? と思い、冷たかった方を見る俊。
「頑張ったそうですね」
「深月か……」
「はい」
応えると深月は俊の頬に手を添える。
「冷たくて、気持ち良い、わぁ~」
「本当は汗でベタベタなので触りたく無いんですが」
「なら、離せよ……」
「でも――」
頬を少し赤く染めながら横を見て俊から目を背け、
「俊が気持ち良さそうなので、我慢します……」
「……、フッ……あんがとさん」
俊が軽く目を瞑り、気持ちよさそうにしている表情を見た深月は口元を緩めて俊を見ていた。
その中、パンパンと手の叩く音を稽古場に響かせた。
全視線が音を鳴らした張本人に向く。
そこに立っていたのは甚平を着た白髪の混じった黒髪のお祖父さんが立っていた。
「では、そろそろ昼ご飯と行こうじゃないか」
そのお祖父さんの表れた瞬間、門下生がぞろぞろと集まり、「はい!!」と大きな声で応えた。
そして、門下生達は食堂へ向かう。門下生が行くと残された彰吾達。
彰吾と俊に近付き、
「お帰り俊」
「ただいま、じぃじ」
俊が言うとうんうんと頷くじぃじ。
「また、来てくれてありがとうね。彰吾君」
「いえ、またお邪魔します」
彰吾にもうんうんと頷き、女子三人を見る。
「君達もありがとうね」
「「「いえいえ! そんな事ありません!」」」
と、仲良く同時に応える三人にも頷くのであった。
「では、行こうか。お腹が空いただろう?」
じぃじの後に付いていく五人だった。
座敷の食堂でお昼を済まし、そのまま食堂で休憩をする五人。
「これでも食べてゆっくりしていってね」
休憩している最中に食堂のおばさんがお茶と急須と茶菓子を用意してくれた。
「どうも」
俊がおばさんに言って、おばさんはニコッと笑って台所に戻る。
五人はひとまず、出されたお茶と茶菓子に手を伸ばす。
出された茶菓子は水ようかん、お茶は緑茶。
「因みにこの後、何かするんですか?」
それぞれが飲食している所に沙由莉が全員に聞く。
「俺は後で部屋に戻ってからエプロン取ってきてからここに戻ってからくるよ」
「え? 何でですか?」
「俊のじぃじが俺の作る餃子好きなんだよ」
「そうなんですか」
納得したのか沙由莉は満足そうにしている中、
「てか、彰吾さんは何で宮下さんのお祖父さんをじぃじって呼んでるの?」
そこが気になった凛花は彰吾に聞く。
「あー、じぃじが俊の親友ならお前も孫みたいなもんだ。じぃじと呼びなさいって言われたんだ」
「それ以来?」
「ああ、ずっとじぃじだ。まぁ、ずっとって言っても去年からだけどな」
「な、る、ほ、ど。因みに、餃子作り終えたらどうするんですか?」
「ん? まぁ、京都観光かなぁ……明日には帰るし」
彰吾の言葉を聞くと沙由莉と凛花は顔を合わせ、互いに「うん」と頷く。
「なら、私たちと観光しましょう」
「あぁ、まぁ作り終えたらね」
「私達も手伝います」
「あいよ。なら、終わったら行こうか」
約束を作ることが出来た二人はやった! と思った。
そんな中、一人の視線を感じた彰吾はそちらの方へ向く。
「……」
物凄く人を殺しそうな目で彰吾を睨む俊がそこにいた。
「あ、あのぉ?」
「……、因みに俺は今日外には出ないで家にいるから」
彰吾が話を掛けた瞬間に殺意を感じなくなり、何処か面倒臭そうな表情を見せる俊。
何かあったのかと思った彰吾。
「いや、心配は無い。ただ、休みたいだけなのと」
「てか、心を読みなよ……。で? 休みたいだけなのと?」
「京都は飽きた。元地元だし」
「あー、なるほど」
「そういうこと。だから、俺の楽しみはお前の作る餃子ぐらいだな」
「んじゃ、腕によりを掛けて作るわ」
「たのんますわー」
なら、頑張って作りますか。と心の中で思う彰吾。
「そういえば、深月はどうすんの?」
今まで殆ど何も言わない深月に凛花が聞く。
深月はみんなが話している間に茶菓子を食べ終えていて、お茶をズズズと飲んでいた。
凛花に聞かれた深月はゆっくりと湯のみをテーブルに置く。
「私も疲れたので、外に出ず、ここにいます」
「ほっほぅ~、なるほどねぇ~」
ニヤニヤしながら凛花が深月に言う。
「な、何ですか?」
そんな凛花に動揺しながら言う深月。
ジリジリとハイハイで深月に近付き耳元で、
「宮下さんが残るからでしょ?」
と深月の耳元で小さく囁くと顔を真っ赤にして驚きながら凛花から離れる。
「そ、そ、そうことではな、無いのですが」
「隠せてない隠せてないよぉ~?」
「凛花は性格悪いです」
「そうかなぁ~?」
「例えるなら、清楚系処女○ッチです」
「○ッチじゃないし!!」
もはや放送禁止ワードが二人の間で飛び交っていた。
それをアハハ……と彰吾と俊、沙由莉で笑いながら見ていた。
クッ……と少し頬を染めて涙目になって彰吾と沙由莉を睨む凛花。
「さて、と、それぞれ行動しますか」
これ以上何かあったとき絶対に彰吾も巻き込まれると思った彰吾は先に断ち切っておく。
そして、個々に行動するのであった。
黒髪でヘアピンを付けている女性が俊のじぃじの住む家の門をくぐる。
くぐり抜け、右側を進むと、
「お嬢様! お疲れ様です!!」
「「「お疲れ様です!!」」」
「はい、お疲れ様です」
少し笑いながら、何時も通りの挨拶を門下生達に向ける。
その笑顔に、門下生達は心を貫かれる。
挨拶を終えると、玄関に入り靴を脱いでそのまま二階にある自室に向かう。
「準備しときますか」
「そうだねー」
と自分の部屋の前に立つと隣の部屋から女性の声が聞こえた。
あれ、ここまで来る来訪者は珍しい……と思った女性。
「まぁ、いいっか。じぃじの知り合いの方かもしれませんからね」
女性は小さく呟く様に言ってドアノブを掴んで扉を開けた。
自室に入り、制服を脱いでハンガーに掛けて何時も通りのスタイルに着替える。
黄色いシャツに黄緑色の薄いカーディガンを羽織り、膝から上の短いジーパンを履いて一階の食堂へ向かう。
基本的に来訪者などが来ても食堂は行かず、来客専用の部屋に案内されそこでご飯など食べる。
泊まりの場合も一階にある客室があるのでそっちを使う。
だが、今回は特別何だろうと思った女性。
とりあえず何時も通り、食堂に行っておばさん達から茶菓子を貰って一休みしようかなと思っていた。
因みに食堂は奥の方にあるので、その理由で来訪者の方にそこまで歩かせるのは失礼だと思い、基本は誰かが運ぶ様になっている。
そんなこんなで、いつものラフスタイルで食堂に着いてから入る女性。
「ただいまー、おばさーん。何かありますー?」
食堂に入り、何時もどおりにおばさん達を呼ぶが反応が無い。
いつもなら、「おかえりー、ケーキか茶菓子があるけどどっちがいい?」など、言ってくれる。
女性は「たまたな聞こえなかったのかな?」と思い、台所へ向かう。
扉の無い台所の出入口から入る。
「おばさーん、ただい――」
台所の光景に目を見張った女性、
「あら、お帰りー杏華ちゃん」
台所の出入口で立っている女性、杏華。
杏華は台所にいる男性、背中だがその存在がここにいることに驚きを隠せない。
何かしていたのか、ワンテンポ遅れて振り返る男性。
「おぉー杏華ちゃん、久しぶりだね」
「しょ、彰吾さん!? 何でここに!?」
「ん? 俊が一旦帰るって言ってたから、じゃあ俺も久々に京都に行きたいなぁ……と思ったから来んだ」
「チッ! 俊兄めッ……彰吾さんが来るなら、予め連絡してってあれ程言ったのにッ!!」
彰吾の言葉を聞いた後に横を向いて、小さな声で愚痴を零す杏華。
「ん? 何か言ったか?」
「いえ、何でもな――!!」
笑顔で彰吾に答えようとした瞬間に自分の格好を思い出し、出入口に顔だけ出している杏華。
「……、どうした?」
「す、少し……着替えて着ます……」
「お、おう。行ってらしゃい……」
顔を赤くしながら、直ぐに自室に戻ろうと食堂を早歩きで出ようとする。
「彰吾ー俺手伝おう――あ」
タイミング良く俊が食堂に表れる。
杏華を見るなり、俊は「やべ……、忘れてた」と思った。
顔を赤く染めて涙目になりながら俊を睨む。
俊の横を通りすぎる瞬間、
「殺す……」
と呟かれ冷や汗をかく俊であった。
つづく
なぜ、京都にいるのかそれは次回にお話ししますので、しばしお待ちを。
では、6月になりましたが、今月も皆さん頑張って下さい。
少しでもこの作品が皆様の癒しになればと思います。
ありがとうございました。




