深遠の森へ
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俺は荷物を前にして、今後どう行動するかについて考えていた。
まあ、荷物と言ってもその殆どは必要な物だ。置いて行くとは言っても、それは今は読む事ができない本ぐらいになるだろう。
そんな風に荷物の整理自体はすぐに終わったのだが……あまり認めたくないが、進む先が定まっていないのは、間違いなく真実だった。
女の言葉を信じて、女の指差した方向に進むべきか。
それとも……まずは、剣を使ってみるか。
あるいは女の言葉など無視して俺の考えで足を進めてみるか。
そのどれもが正しい気がするが、俺は……女の言葉を信じ、女が指差した方に足を進める事にした。
感がいいと言っていた女の言葉に従えば、もしかしたら聖騎士の物語で語られなかったナニカがあるのではないか、と。そんな事を、心の何処かで期待しながら。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
女が指差した方向に向かって足を進めていたのだが、森は不自然なほど静まり返っていた。
肌を撫でる少しの風すらなく、木々の葉が擦れる音すらしない。
昼になると太陽が昇り、夜になると太陽の代わりに月が輝いているだけ。
草を掻き分け地面を踏む俺の足音だけが、この世界に存在する音の全てであった。
……
そんな森の中、俺は何かの目印……なのかも知れない物を見つけ、それを辿っていた。
それは、町にもあったリンゴだ。
女が指差した方向に進んでいると……そろそろ腹が減ってきたな、喉が渇いてきたなと。俺がそう思った時期を見計らうように、森の木々の中にリンゴを実らせた木が一本存在しているのだ。
見た目も味も、町にあった物と変わらない瑞々しいリンゴ。
それを腹に収め、満足して先に進むと……再び、俺が疲れた頃を見計らったかのようにリンゴが現れるのだ。
そしてリンゴは、日を追うごとに……より正確に言うならば森を進むごとに、瑞々しい赤色から萎びたような黄色にだんだんと変化していた。
一日目に見つけた一本目の木は瑞々しいリンゴだった。昼ごろに見つけた物も、夜に見つけた物も、朝に見つけたリンゴと見た目は変わらなかった。
しかし二日目に見つけたリンゴは……少しだけではあるが、光を反射する宝石のようなその輝きを失っていた。昼ごろに見つけた物は朝見つけた物と変わらないと思ったが、夜見つけたリンゴは美しい輝きをさらに落としていた。しかし、だからと言ってリンゴの味が落ちたわけではない。食えば美味いし喉も潤う。見た目が多少悪くなったといっても、元々の見た目が良すぎたのだ。思い返してみれば、これぐらいの見た目でも元の世界の店に並んでいたら綺麗な見た目だと感じただろう。
そして……三日目に見つけたリンゴは、少し萎びているような印象を受けた。
これまでにあった瑞々しさはその姿を潜め、元の世界の何処にでも売っている安物のリンゴのような見た目になっていた。赤い皮にぽつぽつと黄色い色が走り、赤と黄が混ざり合っている。持った時に感じる感覚は、引っ掛かりのない宝石のようなものからざらついた感触に変わっていた。
とは言えやはりと言うべきなのか、見た目とは裏腹に味が落ちているわけではない。……まあ、俺もそこまで舌に自信があるわけではないので、おそらく、と言う言葉が前に付いてしまうが。
さらに時間が経ち、四日目。
四日目に見つけたリンゴは萎びてこそいなかったが、宝石のように輝いていた赤はさらに衰えその代わりとでも言うように黄色が赤を犯していた。赤の中に少しだけ黄色が混じっているだけであった皮は黄色が目立つようになっており、町で食べた深紅に輝く宝石のような果実の面影は何処にもない。今この瞬間に手に取ったこれは、言い方は悪いが何処のスーパーに行っても並んでいるであろうと思ってしまうほどに普通であった。しかし、それでいて味が衰えていないのは流石としか思えない。……見た目的に言えば普通だが、味は極上。もしかするとこの味になるための秘密があるのではないか、と。そんな事を疑ってしまうほど味だけは変わらない。
そして、廃墟を出て五日目。
生き物の気配がしない森の中で、俺は久しぶりにやつに会う事になった――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ガサリ、と。
俺の脚が発したのではない音が俺の耳に入ってきた。
背の高い草を掻き分けるようなガサガサとした音を鳴らしながら、その音を鳴らしている何者かは確実に俺に近づいてくる。
とっさに隠れようとするが……俺が歩いてきた方向は草が倒れており、それ以外の場所は背の高い草に覆われている。これでは逃げた場所がばれてしまう。
どこか隠れる場所は無いのかと思い辺りを見回してみると、少し離れた場所に大きめの木があった。木の上を見上げてみると大きな木に相応しく、俺が乗っても折れないと思えるほど太い枝が幾つか存在している。太い枝がある場所はそれなりに高い位置にあるが、俺の脚力なら行けるはずだ。
隠れるならここしかない。
周りの状況と俺の能力からとっさにそう判断した俺は、勢いよく地面を蹴り一歩で木の上に移動すると、そのまま枝の上で息を殺すように身を縮めて音のした方を確認する。
俺が木の上に移動して少しすると背の高い草を掻き分けてゴブリンが現れた。
ゴブリンは何かを探すように辺りを見回すと、俺が進んできた事によって倒れた草が目に付いたのかその場所まで移動する。そしてそのまま探るように草が倒れている場所でがさがさと何かをやっていたが、特に何も無い事を理解したのか、俺が草を倒したせいで道のようになっている方向をゆっくりと進みだした。ガサガサと草を掻き分ける音が遠ざかっていき、やがて何も聞こえなくなる。
……
……どうやら、助かったようだ。
ゴブリンの背が低かった事もあるだろうが……そもそも、ゴブリンは上に注意を払っていなかった気がした。もちろん気のせいかもしれないが、逃げる際には役立つ情報かもしれない。
ゴブリンに見つからなかった事に安心し、そんな事を考えながらしばらくはやつの歩いていった方向を注視していたが、どうやらこの場所に戻ってくる様子はなさそうだ。
……何時ゴブリンが戻ってくるかもわからないし、さっさとこの場を離れるか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ゴブリンに出会ったが戦う事無くすんだのは運が良かった。
一応武器があるとは言え、戦えば怪我を負っていた可能性は高い。以前は怪我をしている時には何にも遭遇しなかったため何とかなったが……今回もそうだとは限らない。
そんな事を考えながら、俺は森を進んでいた。
相変わらず食事はリンゴだけであるが、今の所は何の問題もない。……とは言え、それはあくまでも今の所は、と言うことになるのだが。
森で見つけることの出来るリンゴは赤い部分が減ってきており、その大部分が黄色になっていた。
それでも味は全く変わらない。あまりリンゴには詳しくないが……味が変わらないと言う事は、同じ種類の物なのだろうと言う事は予想できる。そして、リンゴとは結局の所果物であるはずだ。果物であれば熟れ方によって味が……最低でも食感ぐらいは変わりそうなものだが、このリンゴにはそれもない。まるで見た目と味は関係ないとでも言っているかのようだ。
……それとも、こう言った元の世界の常識で物事を考えるから、何時まで経ってもリンゴの色が変わっている理由に気付く事ができないのだろうか? もしかするとこのリンゴの色が変化しているのには俺の常識では考え付かないような、何か特別な理由でもあるのかもしれない。
……とは言え、だから何なのだ、と。そう言われてしまうとそれまでの話ではあるのだが。
結局の所今分かっていることと言えば、このリンゴは食っても大丈夫と言う事ぐらいだろう。
……一応、俺のモノになったなどと言う女にこのわけの分からないリンゴについて聞こうかとも思ったが……それはやめておいた。
あの女の声をあまり聞きたくないと言うことも一応あるが、それ以上に聞く事を躊躇わせたのは……何となく、あの女の声があまり信用できないと言うことだった。
自分でも、何故ここまであの女の事が信用できないのか分からない。
たとえ信じる事が出来なくとも、話を聞くだけでも聞けばいいではないか、と。そうは思うのだが……心の何処かで、俺のその考えを否定する声があるのも事実だった。
そして今は、あの女の声を聞かない方が良いという感覚が勝っているだけの話だ。
……
まあ、女にこのリンゴの事を聞くのはもう少ししてでもかまわないだろう。
俺はそう結論を下し、休憩中をやめてさらに森の奥へと進んだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
最初にゴブリンと会ってからさらに時間が経ち、ゴブリンとも比較的遭遇するようになっていた。
そう。ゴブリンと、遭遇するようになっていたのだ。
森を進んだせいで何かに近づいたのか、あるいは離れたのか。そのどちらなのかは分からない。
だがしかし、今まではあまり会うことが無かったゴブリンにそれなりの頻度で遭遇するようになっていた。はっきり言って、これはかなりの大問題だ。
一体でも苦戦するゴブリンが、二体で歩いていた時の恐怖。
二体いれば俺はおそらく死ぬであろうと言うのに、その倍の四体を目にした時の絶望感。
それらは俺を、何処に戻るのかも分からぬまま今すぐ逃げ帰りたい衝動に駆り立てる。
とりあえず廃墟に戻ろうかとも思ったのだが、それは難しい。……と言うか、無理なのだ。
先に進む目印と食料の役割を果たしていたリンゴの木が、何故だか分からないが何処にも見当たらないのだ。まるで先に進む以外道がないとでも言わんばかりに、朝食べたリンゴですら見つける事ができない。……そして、そうなって初めて、俺はこのリンゴがおかしいと言う事に気付く事ができた。
このリンゴは、女が指差した方向に進めば幾らでも見つけることが出来た。
見つけることが出来れば食うことも出来るし、食う事ができれば飢える事もない。だが、それ以外の方向……左右もそれらの斜め前も後ろも真後ろも、何処に進んでもリンゴを見つけることが出来ないのだ。
俺が進んできた証……踏み慣らした草の跡があり、食う事ができないため捨てたリンゴの芯の部分もある。
だがしかし、リンゴの木は何処にもない。
リンゴの木の根元に捨てたはずの芯の部分は何の実もつけていない唯の木の根元に打ち捨てられているのだ。木をよく調べてみても何処にも変わった所は無い。何処からどう見ても唯の木以外の何でもない。……リンゴの実をつけてなど、いないのだ。
……戻り方すら分からないこの状況で、食料まで無くなってしまうのはさすがにまずい。死ねと言われているのに等しい。いや、間違いなく死ぬ。
……あまり気分は乗らないが、何か分からないかを女に聞いてみるしかない、か。
(おい、出番だ。出て来い)
俺の声に応えるように、押し潰されるような圧迫感が背中を襲う。
……この感覚だけは何度経験しても慣れる気がしないな。
『ずっと声がかからなくて寂しかったわ。……ふふ、今回は何を聞きたいのかしら?』
(お前の感とやらを信じて森を進んでみたらこの食い物が見つかった。これは、一体なんだ?)
そう言ってから、残しておいたリンゴを手に取り俺の顔の前に持ってくる。
女が何処を見ているのかは知らないが、これなら見る事ができるだろう。
『さぁ、分からないわね。唯の果物にしか見えないけれど、違うのかしら?』
(果物なのは間違いない。だが、この果物が生っていた木は何処を探しても見つからない。果物が生り、そこから果物を取っているはずなのに、二度は見つけることが出来ないなど……さすがにありえないだろう。普通の果物ではない)
『……ふふ……普通の果物ではない、ねぇ?』
俺の言葉を聞いた女の声は、何故そんな事を質問してくるのか分からないとでも言わんばかりに笑いを堪えていた。そして、無知な子どもに言い聞かせるようにゆっくりとした口調で再び口を開く。
『……ふふふ……ええ…ふふ……確かに、二度見つけられないのは可笑しいかもしれないわねぇ。考えられる理由としては、一度実を取れば二度と実をつけない植物か。それとも魔力に対する耐性が低い者にしか見えず触れることが出来ないナニカ、あるいはその逆かも。昼か夜かなんて関係あるんじゃないかしら? 植物が意思を持って動き回り、何らかの理由でその果物を配っているのかもしれませんし、あなた以外の何かがあなたが木を視界から外した一瞬で全ての果物を取ってしまったのかもしれません。……ですが――』
女はそこで言葉を区切り、少しまじめな調子になって言葉を続けた。
『それは、果物が見つからない理由としては普通ですよ? あなたは、一体何と比べて普通ではないと判断したのですか?』
……実に白々しいやつだ。
俺と会話している女の声が異世界の言葉ではなく日本語なのだから、俺がこの世界と元の世界とを比べて質問をした事ぐらいすぐに分かるだろうと。そう思った。
だから俺は、その事を口にしようとして――何も口にする事無く口を閉じた。
考えてみれば、女は俺と日本語で会話ができるくせに、言葉がこの世界物ではないと言う事について何も聞いてこなかった。
だとすると……本当に、もしかするとと言う事になるのだが、この女は俺がこの世界の住人でない事に気付いていないのかもしれない。……まあ、だからこの果物の話にどう関係するのだと考えると、関係ないとしか思えないのだが。
だがしかし、ならば何故このタイミングで俺を疑うような言葉を吐いたのだ? 聞かなくてもいい質問を、わざわざ今この瞬間に口にした意味は何だ?
果物について答えたくなかったのか?
それとも、今まで聞かなかった事を質問する事で今の俺のように警戒心を煽る事が目的なのか? だが、もしそうだとしたら何故今なんだ?
もしかするとこの果物は普通ではなく、それを俺に知られたくないから俺の思考を別の所に持って行きたいだけなのか?
……案外この果物は女の言う通り普通であり、俺が警戒しすぎているだけなのか? 疑問に思った事を口に出すのは、おかしな事ではないはずだ。女が俺の言葉を疑問に思い、その疑問を口に出しただけ……とも考えられる。
いや、そもそもの話……女ことを完全に信頼できていないのに、下手な事を聞いてしまったのが今回で一番の問題か。一度考えてしまった事を思考からなくすのは難しく、そのせいで考えが纏まらず何が本当なのかわけが分からなくなってしまった。
……いや、思考が纏まらなくなったからこそ、何でもいいから聞くべきか。
(俺の事はどうでもいいだろう。お前が、この果物について、知っている事を言えばそれでいいのだ。無駄話は必要ない)
『あら、嫌な思いをさせてしまいましたか?』
(無駄話は必要無いと言った)
『ふふ…こればかりは、直せそうにありませんね。人との会話は【私】の数少ない楽しみですので』
(……知っている事が無いのならさっさと戻れ)
俺は、これ以上無駄話に付き合うつもりは無いという意思を伝えるため強く言い切る。
『まあ、そう焦らないでくださいな。気の早い人は嫌われますと、以前お教えしたのにもう忘れてしまったのですか?』
(……)
ふざけた調子で言葉を続ける女の声に無言で返す。
すると女の声は、いい加減我慢できなくなる寸前であった俺の感情を読み取ったかのように、僅かな間を置いて言葉を続けた。
『……ああ、でもそう言えば……永遠の命を約束する果実は、輝くような黄金であったとか……そんな話を聞いた事があったかもしれませんね』
(……何故黙っていた)
『黙っていたのではなく忘れていたんですよ。それと……廃墟への戻り方は分かりませんが、進むならあちらがいいと思いますよ?』
女の声は以前は語らなかった情報を語り、町を出た時のようにある方向を指差した。
(それは、勘か?)
『ええ、勘です』
俺の言葉にそう返した女の存在感が薄くなっていく。どうやら、今度は俺に言われるまでも無く消えるつもりのようだ。
『ああ、それと……言いたい事が少しだけ――無闇に戦わぬのは賢者の条件であるが、抜くべき時に剣を抜けぬ者は愚者である。何時だったか話した誰かがそんな事を言っていましたよ』
それは、俺がゴブリンとの戦いを避けている事を言っているのだろうか?
(それは、俺が愚者だといいたいのか?)
『それは結果が出なければ分かりませんわ。未来を知る事など誰にもできませんもの』
薄れていく気配の中、空気に溶けながら広がる波紋のように女の声があたりに響き渡る。
『逃がした敵に背後から襲われたなら、あなたが行ったそれは愚者の行いであったのでしょう。逃がした敵が何らかの役に立つのであれば、あなたが行ったそれは賢者の行いであったのでしょう。あなたが選んだそれは、一体どちらに繋がる道なのでしょうかね?』
とても楽しみですよ、と。
そんな言葉を残して女の気配が消え去った。
……
…………結局、呼んだ意味は無かったか。
いや。むしろ悪いと言う意味で考えれば、女を呼んだ意味はあったか。
とにかく、まずは情報を整理してみよう。流石に考える事が多すぎる。
――――
俺が普通ではないと思ったこの果物は、女の話を信じるならばこの世界では普通の物らしい。
こんな意味の分からない果物の何処がどう普通なのかは分からないが、俺が俺の考えている普通をうまく言い表す事が出来ないように、この世界ではこんな意味の分からない果物でも普通なのかもしれない。
しかしそれは置いておくとしても、女が語った果物が見つからない理由はためになったのは事実だ。昼と夜で姿を変える物がある事は知っていたが、一度実を取ってしまえば他が取れなくなるという物があるのは知らなかった。そんな物がこの世界に存在するのであれば、次からは一度で出来るだけ多くの物を取るようにしないとな。
……まあ、それも結局は女の声を信じるのならば、と言う話になるのだが。
永遠の命を約束する果実について黙っていた事も気になる。
輝くような黄金であった、などと口にしていたが何故今まで黙って……
……
…………いや待て。輝くような黄金であった?
それではまるで、永遠の命を約束する果実を見た事があるかのような口ぶりではないか?
それに、女の声はその話を聞いたと口にしたな。女は、一体誰からその話を聞いたのだ?
伝承か? 人々の想像か? それとも……思わせぶりな事を口にしているだけなのか。
……
しかし……それよりもさらも重要なのは女の声の事だ。
今まで考えないようにしていたが……何故日本語で話しているのか――いや、話せるのか。そして、この世界の言語と違う日本語で話しているくせに、何故俺の普通を疑ったりしたのか。
永遠の命を約束する果実の事を黙っていたのも気になる。女は忘れていただけと言っていたが……本当かどうかは分からない。それに、何となくだが嘘をついているような気もする。
ゴブリンとの戦闘を避けていた事についてもどこか引っかかる。無意味な戦いをするべきではないと言いながら、まるで戦った方が良いと言っているかのように聞こえるのだ。
第一、俺のモノになったと言っている割にはどうも胡散臭い。
……
分からない。頭が痛くなりそうだ。
考えても答えの出ない問題を考える事ほど疲れることはない。
もしかしたら、しかし、あるいは……想像すればするほど選択肢が広がり、未知への恐怖と興味が湧き上がってくる。
先に進む事も後に戻る事もできなくなり、足を止めてその場で考え続けてしまう。
……
…………まあ、とにかく進むか。
結局考えても分からない事ばかりなのだから、この場に留まり続けるよりは先に進む方がましだろう。
進む方向は……前回も女の感を信じて進んだのだから、今回もそうする事にするか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
女の勘とやらに従って、俺はさらに森を進んだ。
そしてやはり、女が指差した方向にはリンゴがあり食料には困らなかった。しかし、進めば進むほどリンゴの黄色は増えていき、今では廃墟で見つけた時の深紅に輝く美しさは僅かも残っていない。
その見た目はリンゴが梨へと変化してしまったかのようだ。しかし、見た目が幾ら変化しても味はリンゴのままであり甘く瑞々しいままである。
そして、ゴブリンたちも増えてきた。
いや、ゴブリンだけではない。
忘れもしないあのオークやオーガも、ほんの少しだけではあるが見かけるようになった。
そして、その時に気付いたのだが……俺はオークやオーガと言った強大な存在の【気配】とでも言うべき何かを、押し潰されるような威圧感と言う形で感じる事ができるようになっていた。
目を合わせていないというのに感じられる視線、姿さえ見えていない強者から感じる呼吸。思わず息を吞むほどの圧倒的な【格】の違い。それを受けた俺は、まるで自分が小さくなってしまったかのような……魂が押し潰されるような感覚を叩きつけられるのだ。
……しかし自分の中にある小さな何かだけはオークたちの放つ圧倒的な気配に押し潰されておらず、冷静さすら湛えて危機から遠ざかれと告げている。そしてその感覚に従いその場から離れると、波が引くように徐々に自分が元に戻っていく感覚がするのだ。自分の中にもう一人の自分が居るようなこれまで感じた事のない意味の分からない感覚だが、そのおかげで結果的に俺は生きている。であれば、俺の中にあるこの感覚に従う事はおそらく悪い事ではないのだろう。
……とは言え、そんな何度も命を落としかけているとしか言えない状況の中、どうやって俺が生き残る事が出来ているかと言うと……実の所、馬鹿しくなるほど簡単なものだ。
何故なら俺は、何かの気配を感じるたびに木の上に飛び移っているだけなのだから。
するとゴブリンもオークもオーガも、木の上に生き物が居るなど考えていないかのように、俺が居た辺りを少し探すとすぐにその場を通り過ぎてしまう。
何故ゴブリンたちが上を見ないのかと言う事が気にはなるが、安全なのは間違いない。
そして……理由は分からないがこうして安全を確保できた以上俺がやるべき事は――
今回は選んでもらう選択が三つあります。
Aは○、Bは○と言う感じで答えてもらえると助かります。
別にどれか一つでもかまいませんので気軽にお願いします。
――A――
1・流石に全ての魔物たち上を気にしないのはおかしい。もう木の上に隠れるのはやめる。
2・不自然には感じるが、安全には代えられない。危険を感じれば木の上に隠れる。
――B――
1・女の声の忠告(?)を、一度勝利しているゴブリンと戦う方が良いと解釈する。
2・女の声の忠告(?)を、一度勝利しているがゴブリンとも戦わない方が良いと解釈する。
――C――
1・女が、永遠の命を約束する果実が黄金であったと。そう言ったことが気になるので森で黄金に光るものを探す。
2・生き残る事を優先し、無理の無い範囲で行動する。
3・いくらなんでも今の自分の能力でここは危険すぎる。食料などの問題はあるが、来た道を戻る。
今回は選択肢が三つあります。
それだけ危険ってことでもあり、小さなことで結果が変わるって事でもあります。
Aの選択肢についてですが、森の魔物はゴブリンたちだけしかいないのでしょうか? また何故ゴブリンたちは上を気にしないのでしょうか?
主人公はあまり気にしていませんが、魔物たちが気にしないのはそれなりに理由があるかもしれません。
Bの選択肢は大まかな行動方針です。
これは、女の言葉を聞いた主人公がどう動くがです。
剣を使いすぎれば死にますが、全く使わないというのもそれはそれでダメ。
以前のバッドエンド、今回オークと出合った時に感じた感覚などが重要です。
使いどころは見誤るなと言った感じでしょうか。しかし今だけではなく今後の事もありますから、よく考えて選びましょう。
ちなみにAとBは連動しています。
A、B双方で失敗した選択をすると死にます。注意しましょう。
A、B双方で成功すると物語の騎士の事を少しだけ知ることが出来ます。
今この瞬間の生死と言う意味では、注意を払うべきはAです。
Cの選択はどう過ごすかです。
簡単に言ってしまえば、怪しい物があった時それに手を出すかどうかの選択です。
女が口にした、果物が見つからない理由はここに関係してきます。また女が主人公の質問をはぐらかそうしている理由もこのあたりに関係しています。何故はぐらかそうとしているのか、誰にとって都合が悪いのか。ちなみに、ヒントは騎士です。
引き返すと言う選択はありますが、引き返したから安全と言うわけではないので気をつけましょう。
何か見つけたいなら少しは無茶をしましょう。無茶は危険だから無茶といいます。自分は何が出来、逆に何が出来ないのかを考えないと死ぬ事になります。
生き残りたいだけなら静かに過ごしましょう。息を殺して何事もないように過ごし、好奇心を押さえればきっと生き残る事ができるでしょう。
女の事を信じると一度決めたなら、少しは信じてあげましょう。嘘ばかりではなく、本当の事も間違いなく言っています。
こんな感じです。
ちなみに……女の話を聞かなければ、これほど選択肢が増える事はありませんでした。
しかしそれは、主人公が一人では取る事ができなかった選択が大量に隠れていた事の裏返しでもあります。色々と紙一重の世界ですので、リスクとリターンが釣り合っていない事は多々あります(例えば、選択肢が大量に増えても正解が一つしかない事もあります)
ですがその隠れた選択肢こそが、最も得のある選択である事は結構あります(危険を冒す必要がないこともあります)
この話は大体こんな感じで進むので、今後の選択の役に立ててください。
それと、今回いただいた感想で「小説を完結させる事で得られる能力」についての質問がありました。
あれは本来、この小説を続けるに当たって誰も反応してくれない時に、話が適当に終わらないために作ったものです。ですのでこの物語の主人公が自由に使えることを想定していませんでした。
ですが……この小説が軌道に乗った事は嬉しいのですが、そのせいで完全に死にスキルになってるなーっても感じました。
ですので本来想定していた使い方とは異なりますが
“主人公が冒険する事で知ることが出来る、今回の騎士の物語のような物を最後まで体験するor打ち切りエンドとして語れる程度には物語を知る事”
によってこの話の主人公が知ることの出来た物語を「小説を完結させる事で得られる能力」の弾丸にしてもいいか? と思いました。(本編とは分けて短編集みたいにして出します)
感覚としては、危険な選択肢を生き残った景品としての扱いみたいな感じです。
……とは言え、タメが無く絶対に効果があると言うかなり強力な(チートな)手札になりますから「危険な世界で頑張って生き残っている」現状を簡単に崩す事になりかねないので皆様の反応などを踏まえて最終決定をするつもりです。
長くなりましたが「小説を完結させる事で得られる能力」については、こんな感じに使用可能にする方針で考えています。
使う使わない、どちらでもいいのでこちらについても感想いただけるとありがたいです。
せっかく苦労して知る事ができた物語なのだから、記念に分けておいて後で見る事ができるようにして欲しいと言う方がいれば「この物語の主人公が知る事が出来た範囲で」短編にはします。
……とは言え、結局は生き残れた時の話なのでまずは生き残る事を考えましょう。正式に使用可能で決定したら、その時にまた説明します。




