第一話
不運な時に幸福な時代を思い出すことほど辛いものはない。
―――ダンテ・アリギエーリ
●
「いいえ、知りませんね。なんせこの町はとっても平和で治安が良いですから!」
良い旅を、撃退士さん! ニッコリ。路地に座り込んでいた浮浪者はシロが話しかける前にそう言った。壊れたラジオのように言い続けた。異様に笑いながら。
ヨイタビヲ、ゲキタイシサン。
ヨイタビヲ、ヨイタビヲ、ヨイタビヲ……
いい加減聞き飽きた言葉にシロは覆面の奥で溜息を噛み潰した。
土谷と別れてからしばし。うず高くビルがひしめき合う路地の中。夜の中。雨の中。町は暗い。果てしなく。
そんな最中に。
「あれぇ……」
和束がふと困惑の声をこぼした。シロは赤いカッターを片手に持ったまま相棒に訊ねる。「どうした」と。
「う、うーん。何だか……あれぇ? 情報をうまく拾えないというか干渉しにくいというか動作が重いというか調子が悪いというか何と言うか……」
「? どういう事だ」
「何ででしょ……絶不調です、私」
苦い声だった。眉根を寄せるシロは通信機を開いてみる。同じく眉間にシワを寄せた和束のアバターがそこにいた。
「ごめんなさいシロさん、先に申し上げておきますと」
涙目の電脳少女が身を乗り出した。画面に手を突き、「あのですね」と。
「なんか私ちょっとヤバイかもしれません! なのでちょっと一旦落ちます、でもすぐに――すぐに戻りますから! 待ってて下さいね! 無茶しないで下さいね! 入浴と風呂は欠かさずやるんですよ! 必ず戻りますからね!!」
「なっ……」
「シロさんらぶ!!」
「お前、」
一体全体何がどうしたと彼の理解が追い付く前にプツンと電脳少女が画面の中から姿を消した。
言葉の端々はさておき――異常事態なのは確かだ。今までこんな事はなかった。画面を見詰める。されども彼女が戻る気配はなく、シロは通信機を閉じ懐にしまった。
雨の音――お喋りな者がいないが故にそれだけしか聞こえない。
そう言えば一人になるのは本当にいつ以来だろうと思考を巡らせる。思ったよりも静かなものだ。
灰色の壁が視界の隅で通り過ぎてゆく。ばしゃりと踏んだ水が跳ねる。沈黙の男。
「……」
ただ沈黙。
その視線の先。
雨に煙る人影が二つ。
「……」
シロは物言わず、歩みを止める。
それ以上の行く手を人影二つが阻んだから。
更にシロの後方にもう二つの人影。前進も後退も許さぬかのように。
「……」
髑髏は余分な言葉を紡がない。雨の中に立つ彼等は人間だった。どう見ても友好的な気配ではない。その手には傘の代わりに凶器。そして正面二人の肩越し奥にはもう一人。その人物にシロは見覚えがあった。
――あの厚着の男。
マリエルを死体袋に詰めて運んでいた男だ。
嗚呼――シロは後悔する。あの時とっ捕まえて監禁しておけばよかった。
それはある種の甘さとも言えた。シロは自身の力を人間に振るうものではないと思っている。いかなる理由があろうと人殺しは犯罪で、人として称賛される行為ではない。
「……何か喋れよ、ビビってんのか?」
無言のままの髑髏男にしびれを切らし、厚着男が溜息のように問うた。その間にもシロを囲む四人は様子を窺っているのか、包囲網を縮める事はしない。油断なく武器を構えてはいるが――どうやら『ヨイタビヲ』と言わない辺り、彼等も覚醒者なのだろう。
「ボスとやらに命令されたのか?」
上着の衣嚢に両手を入れたままシロは言う。厚着男は薄笑った。
「まぁ、そんなところだ。悪く思うなよ」
「お前。……言っておくが、お前達のボスは悪魔だぞ。『スマイリー・ジョー』というとびきり凶悪な奴だ。なぜ人間であるお前達がそんな奴に従う?」
「ほー。で、その証拠は?」
「まだ無い」
「ならお前に『寝返る』事ァ出来ねーなぁ。信じる理由も無い。……俺を馬鹿でペラペラなモブAとか思うなよ? 俺だって生きる為には色々と大変なんだよ」
「その為に俺を通せん坊か」
「そゆこと」
「そうか」
で。相変わらずの姿勢でシロは緩やかに首を傾けて厚着男に訊く。
「お前の名前は何だ」
「は? なんだいきなり」
「何だ」
「……美崎だ」
「美崎」
確認の発音。そうか、と頷き。指先を突き付ける。唐突に。
「美崎。覚えたぞ。名前も顔も。お前、全てが済んだらブタ箱送りにしてやる。逃げられると思うなよ。絶対に逃がさん。悪魔に媚びるなど人間の恥だ」
恥を知れ。冷たい声音に厚着男――美崎は一瞬顔を強張らせるも、すぐさま声を張り上げ言い返した。
「だぁーからその悪魔とやらの証拠だせっての! 決めつけでペラペラさえずんじゃねぇ脳味噌腐ってんのか!?」
「さぁな。自分の脳味噌なんぞ見た事がない。お前は見た事があるのか? それから一応言っておく。『そこを退け』」
が、シロのその言葉に彼等が従う事はなかった。当たり前だろう。嗚呼、シロは思う。おのれ悪魔め。人間同士で戦わせるなんてゲスなマネを。だから天魔は嫌いなんだ。
仕方がない。やるしかない。
シロが踏み込んだのと、前方の二人が地を蹴ったのは同時だった。
振り下ろされた警棒。突き出されたメリケンサックの拳。振り抜いたカッターナイフ。
斬撃が堅い衝撃波となって警棒を弾き、拳を留め裂いた。その勢いのまま警棒を持っていた男へとシロは体当たりを喰らわせる。
うわ、という驚いた悲鳴と一緒に警棒の者が背中から濡れた地面に着地した。ばしゃぁん、盛大に水が跳ね、次いで「ぐえ」と潰れるような声が聞こえたのは彼がシロに腹部を強く強く踏み付けられたから。
腹を抱えて呻きを漏らすそれに構う事なく、シロはすぐさま後方を確認する――だが、背後の二人が攻撃を仕掛けてくる気配はない。彼らだけではない、美崎もだ。
(何だ……?)
この自分を殺しに来たのではないのか。
疑問を抱きつつシロは組み付いてきたメリケンサック男を振り払い、得物を一文字に振るって彼の額を浅く裂いた。溢れる赤。雨水交じりの鮮血が彼の顔面を伝い、視界を赤く邪魔をする。
舌打つ男が視界を確保しようと顔を歪めたその隙に、シロはメリケンサック男の髪を雑く掴み引き下ろすと同時に膝蹴りをその顔に叩き込んだ。何かが潰れる軽い音。
「い゛ってぇえええええええ゛え゛ッ!!」
鼻柱を押さえてうずくるその顔がどうなっているかは――まぁ、『お察し下さい』だ。
「……」
黙し、腹を踏まれ尻もち姿勢だった警棒の男へシロは視線を向ける。その間にも顔を押さえた手を真っ赤にしたメリケンサック男が「鼻が鼻が」と戦意を喪失させて喚いている。
「うぐっ……!」
無表情の髑髏。隠された顔。仄暗い視線。顔を青くして後ずさる警棒の男。
されど後方の二人と美崎はまだ様子を窺っている――ナメられているのか、他に何かあるのか。
まぁいい。
今はここを突破せねば。
踏み出した。飛び上がって壁を蹴り、一気に加速して間合いを詰めるのは美崎へと。恐らく彼がこのゴロツキ達のリーダー格なのだろうと判断したからだ。
だが。
「ぐがっ!?」
ぶつかった。直撃した。真正面から。何に? 堅くて冷たくて透き通っているもの。
――氷だ。
(これは……)
無様にも額から思い切り突っ込んで自滅してしまった。体勢を立て直しながらシロは目の前を――美崎と自分との間に立ち塞がった分厚い氷の壁を見上げた。その足元を冷気が撫でる。
「俺の技能は『スノウマン』! どーゆーもんかっつーのはまぁ御覧の通りなワケでして」
厚着男が凶相をニヤリと笑ませた。その手からは冷気が溢れ、滴る雨がことごとく凍りついてゆく――氷属性の覚醒者。
同刻に背後にいた二人が行動を開始した。片方は拳銃を構え、片方は魔道書に手をかざす。放たれた。弾丸と魔法弾。
シロは地面を滑るようにそれらを回避したが、更にもう一発と飛んでくる。それも散弾状。そしてここは狭い路地裏、後方は氷壁――完全回避は諦めた。飛び下がりつ、身を縮め防御の構えを取る。着弾の衝撃と痛みと。一発一発の威力は低いとはいえ。
「……ふむ」
想像以上には手応えのある連中だ。もったいない、悪魔なんぞに加担せず天魔撃退士になれば国から支援を受けながら人類の役に立てるというのに――残念だ。全く以て残念極まりない。
さてここに和束がいれば今頃なんと言っていただろうか。「大丈夫ですか!」そう言ってきっとこの傷を心配しただろう。アイツは少々心配性な所が過分にある。
(しかし……どうしたんだろうなアイツ)
チラと脳裏を過ぎった。だがまぁ、自分が心配をしたところでなんの解決にもなりやしない。
今に意識を集中する。
じり、じり。射手と魔導師は距離を詰めるどころか間合いを開いている。慎重な、というよりは時間を稼ぐような。
(……時間稼ぎ?)
何の為に。自分には特に火急の用などなかった筈だ、とシロは思う。
嗚呼、謎ばかりが増えてゆく。
モヤモヤしたいるのは性に合わない。
ひゅん、とカッターを振るった。赤い軌跡。その一瞬後に、飛翔した斬撃が二人の脚に血の花を咲かせる。
「――!?」
ぐらり。膝を突く、くずおれる。一般人なら足が刎ねられていたかもしれない。相手が覚醒者で良かったとシロは思いつつ――氷の壁へ視線を移した。一歩後ずさる美崎の姿が氷越しに見えた。
振り被るカッター。振り下ろす。壁が抉られる。もう一撃。もう一撃。もう一撃。一撃。一撃。
どんどん抉られてゆく壁に美崎は奥歯を噛み締めた。そうしている内にも壁は――見る見る内に――砕け散る。切り裂かれて。氷の結晶と雨の奥に髑髏の顔がある。
「魔力で強化した氷だぞ……!」
「あぁ、だろうな。堅かったよ」
スラッシャー。切り裂く者。悪い言い方をすれば攻勢にしか能がないが、裏を返せば攻撃に関しては他の追随を許さない。
髑髏男が垂らした手に握るカッターの刃が鈍く光った。一歩分詰まる距離。
他の四人は既に戦意を失っている。戦おうと思えば戦える程度の傷だろうが、命に代えてでも絶対に仕留めろという命令ではないのだろうか。見開いた目でただ見守っている。
故にシロは美崎に問うた。
「……俺を殺す為に来たんじゃあないのか?」
「ベタな返事でカッコつかねぇが、『知りたかったらこの俺様を倒してみな!!』って奴でっせ旦那」
「成程、単純明快で実に良い」
構えた。瞬間に美崎が両手を合わせ開くや巨大な氷の斧を造り出す。振り下ろされた冷気を受け止めるのは薄いカッターの刃。斧とカッターがぶつかり合うという、一種のシュールさすら覚えそうな光景。
何度もかち合う音が攻防の激しさを物語る。
カッターに斧の刃は何度も抉られるが、垂れる雨雫と送り込まれる魔力ですぐさま修復を。だがシロからの怒涛の猛攻にその修復も追い付かなくなり始めていた。
「ぐ……!」
圧され、後退する美崎。目前には凶器を振りかざす髑髏の顔。その眼光が彼の目を射抜いた瞬間。
一閃――氷が砕け散る音。
砕けた氷と雨粒が落ち行く中。かくして振り下ろされた刃が美崎の肩口に突き立てられた。厚着と皮膚を突き破る。男の鳩尾を強かに蹴り飛ばしながらシロはその刃を引き抜いた。
くぐもった悲鳴。地面に転倒した美崎は顔をしかめたまま傷口を手で押さえていた。対天魔用の兵器が突き刺さった傷口からは性急に赤い色がにじみ始めている。
そんな男が起き上がる前にシロは彼の胸倉を掴んで引き起こす。片手には血の付いたカッターナイフをちらつかせ。
「何が目的だ?」
低い声で問う。隠された舌の発音。
「やろうと思ったらお前の首筋を刺す事も出来た。今も出来る。……答えろ。それが『現実』にならない内に」
「ぐ、ぐ……」
躊躇するように言い淀む。だが再度、「答えろ」と髑髏が呻ればようやっと美崎は苦々しそうに口を開いた。
「そ……そうだよ、俺達はお前を殺す為に来たんじゃない……『できるだけ時間をかけてボコってこい』ってボスからの命令で――」
言いながら美崎は上着のポケットに手を入れた。反射的にシロはカッターを突き付けるが、「違う待ってくれ」と慌てて彼は首を振った。
一体何か。用心深くシロが見守る中、美崎がそろそろと様子を窺いながらポケットから取り出したのは――小さな人形だった。キーホルダーにおあつらえ向きな、布とフェルトの人形。だが趣味がとことん悪い。なぜならツギハギだらけで白一色で、顔面には『(笑)』の文字。悪魔の羽と尻尾。
「……何だこれは」
「ボ、ボスが『負けちゃったらこれを渡せ』って……」
「それは一体――」
どういう事だ。
そう、シロが言葉を発する前に。
『こんぐらっちゅれーしょーーーん!! どんどんぱふぱふ!!』
人形が、喋った。それもとびきり陽気な声で。
「――!?」
美崎は思わず「どわぁ!?」と叫びながら手を離して飛び退き、シロも間合いを取る。
『あべし!』
ばしゃ、と水の中に落ちた人形が変な悲鳴を上げた。それからゲラゲラ。そのままマシンガンのごとく一方的に会話を開始する。
『あぁんもういきなり落とすなんてキチクな事しますねぇぃ。とゆーわけでしてっ! ハロハロもるげん『顔無し』シロちゃん、はぁぁ~~ンじめましてですぅ! Disによーこそウェルカーム。歓迎しちゃうのよぉ。生憎の雨ですけどねぇ。
そんなこんなで我輩ですよぉ。我輩我輩。お利口ちゃんの君ならもう分かりますわよねぇん?』
嗚呼、分かる。こいつが、恐らく魔法で遠隔会話を行っているこの声の主が、ニヤニヤ笑っているのが。
かくして、わざとらしく開けられた間の後に告げられたその名は。
『どうも、例の”ボス”こと素敵で無敵な悪魔ちゃんの“スマイリー・ジョー”でぇーーっすオッスオッスやほほほほ!!』
予想はしていた。しかし驚愕する。まさかのまさかだった。
一呼吸の間を開けて、シロはそれへと訊ねる。
「……いつから俺の存在に気が付いていた?」
『あぁ、そりゃ~、君が“我輩の街”に来た時からずぅっと見てましたよぉ。あぁそれと、君は次にこう言うね。”この町はお前が支配しているのか~”ってね!』
「……」
『噂通りのカタブツだねぇ。まぁそういうワケでして、我輩はいわゆるアンダーグラウンドのボスっていうの? ここ元々治安が悪かったからさぁ~~我輩がちょみっとテコ入れしたらちちんのぷいぷいでさぁ!
だからさぁホラ、み~んな君に”スバラシイ御歓迎”をしてくれたでしょーん? まぁ覚醒者には効かないんだけど、あれちょ~っとした洗脳魔法なんですよねぇ。てへぺろ。
だからこの町の仲間達は、アイアンメイデンに閉じ込められよーが何されよーが我輩の味方なんですよぉ。ビックリしたでしょー? 街全体にね~一生懸命張り巡らせましたよ我輩! あとなんだっけ、悪魔が多いってのも気にしてましたよねシロちゃんさん? 教えて欲しい?』
「随分と気前の良いお前なら教えてくれるだろうな」
『アハハハハッ嬉しいなぁ褒められちゃいましたぁ。じゃあ教えませぇーん。ってかもう分かってるでっしょぉ? 悪魔がボスの街に悪魔がいないなんてちゃんちゃらおっかしいでしょーーー常識的に考えてそうじゃないですかぁ? JKじゃないですかぁ?
と、まぁ、そんな訳ですから今君や他のユカイな仲間達はイン・ザ・我輩のお腹の中って考えてもらっていいですよぉ』
「成程な」
吐き捨て、シロは無表情の双眸をツギハギ人形へと投げかけた。
「で、お前は今どこにいる?」
『Disですよぉ。もうちょい具体的に言えば、とあるホテルを目指しているんですよぉ。ウォーキングなう』
「ホテル?」
『うんっ。シロちゃん、遊びましょ。ルールはカンタン、だってただのかけっこですもの。ゴールはそのホテルね』
「……は?」
唐突な切り出しにシロは覆面の奥で眉根を寄せた。悪魔人形が、クスクス笑う。
『この為に、お遊びの準備をする為に、君の時間をちょ~~っくら潰してもらってたのだ! んでそのホテルっていうのがねぇ……もう我輩の可愛い仲間達がた~くさんつめかけてますのよねぇ。あ、ちなみに場所は教えません。だってその方が面白そうだから。
それでそれで……あぁ、もう、面倒臭い。ズバっと言っちゃえ』
一呼吸の間。悪魔が言う事には。
『そのホテルには土谷ちゃんとマリエルちゃんが泊まっています早く行かないと我輩達がぶっ殺しますので急いで来てね以上』
けらけらけらケタケタあはははははははははははははははははははははは以下省略。
「――」
シロは何も言わなかった。悪魔からこうして何か持ち掛けてきたという事は、必ず『罠』があるに違いない。
だが。だとしても。嘘かもしれないけれど。もしそうでないとしたら? 良い意味の嘘なんて悪魔が吐く訳ない。それに、それ以前に、だ。
――土谷達を見捨てる事など出来ない。
「クソ野郎」
ありったけの悪意を込めて吐いた。言葉と同時にカッターを振り下ろせば交渉を垂れ流し続ける悪魔人形が真っ二つに、飛び出したワタが雨に濡れて滴り落ちる。
その頃にはもう、シロは雨の中を走り出していた。
建物の壁を蹴り、その屋根の上に着地する。
(クソ――クソッタレが――)
ホテル。どこのホテルだ? 土谷に連絡を付ける為に通信機を取り出した。だが、繋がらない。舌打ち。それを懐にしまいかける――その瞬間。
「シロさん!」
馴染の声が響き、閉じかけた画面に和束のアバターが現れた。息を弾ませて。
「ただいまです、もう大丈夫です! なぜかは分かりませんが凄まじく妨害を受けていました。どこからだと思います? ……この町の警察の特殊部隊からですよ!」
「あぁ……この町はやはり『スマイリー・ジョー』の支配下だったからな。納得がいく」
「えっ!?」
驚く和束の声。そして彼女はシロの身体の負傷に気が付いた。
「だ、大丈夫ですかっ!?」
「言うと思った――さて和束、お前に伝える事がある」
悪魔へのイラだちと焦りを押し殺し、シロは和束に先の出来事を簡潔に述べ伝えた。
黙って聴いていた和束だったが、最後には「うわぁ」と。苦い声を発した。
「かなりヤバイ状況じゃないですか……!」
「マリエル達の居場所は分かるか?」
「大丈夫、こういう事もあろうかとマリエルちゃんに缶バッチ型簡易通信機兼GPSを付けましたからね……と言いたいところなんですが。現在、マリエルちゃんからのデータ発信がありません。通信も出来ません」
でも大丈夫、と和束はシロを落ち着かせるような声音で言う。
「ログを辿った結果、件のホテルの場所が判明しました。ナビゲーションします――準備はよろしいですね?」
「もちろんだ」
通信機の中のアバターが展開するのは地図だった。目的地のホテルにマーカー。そこへの最短ルート。
それを確認しながら。シロは夜の中を飛び出した。