1―5 逃走……面倒事は勘弁してください
アルティナと一緒にギルドから出た俺は食材を買っている。
食材の値段が思ったよりも安いので調味料なども纏めて買えた。
あとは魔道具の材料をいくつか買った。まあ、作っても能力の低い物しか出来ないが……。
「さて……買う物も買ったし、帰りますか」
「うん!」
元気よく頷くアルティナ。やっぱり子供は元気じゃないと。
そう思いながらアルティナの家に帰るため街の外に向かっていると……。
なにやら背後から土煙が立ち上っていた。その土煙にどんどんこっちに近づいてくる。
「……オ……レ………ト……レイ…ット…」
誰かの人名を叫びながら走ってくる誰か。
「レイオットォォォォォッ!!!!!!!!!!!! ようやく見つけたーーーーーーーー」
ヴェインだった……。しかも必死の形相で走ってくる。
うん……凄くめんどくさいことに巻き込まれそうな気がする。
よし!逃げよう。
「アルティナ、これを持って」
俺はアルティナに荷物を持たせる。
「じゃあ、荷物を落とさないように抱えて……それじゃ少し我慢して」
「キャッ」
俺はアルティナを抱きかかえる……そうお姫様だっこで。
ヴェインから逃げるためだ恥ずかしいがアルティナには我慢してもらおう。
ダッ!
俺は全速力でその場から街の外に向かって走り出す。
「なっ!!……待ちやがれレイオット!」
ヴェインも走る速度を上げる。
こうして俺の逃走劇が始まった。
ある時は路地裏を駆け抜け、またある時は家屋の上を飛び、様々な方法を使い俺はヴェインから逃げた。
だが、途中からあのギルドマスターが参戦して状況が一変した。
「ウフフ……逃がさないわよォォォォォッ!!」
「キャアァァァァァァァァァァ!!」
走ってくるギルドマスターを見たアルティナが悲鳴をあげた。
俺は必死に振り向かないようにしながら走る。
「しかたない……クイックムーヴ」
俺はSPDupの補助魔法を使い本気で逃げ出す。
「チィィィ!逃がすもんですか……クイックムーヴ」
ギルドマスターも同じ補助魔法を使った。
「ハハハハハハ!!俺を忘れられちゃ困るぜ……レイオット」
チィ、ヴェインか…あのギルドマスターのせいですっかり忘れていた。
どうする……前方からはヴェイン、後方からはギルドマスター。
このままでは捕まってしまう俺もさすがに疲れてきた。
しかたない……街中で使う気はなかったのだが状況的にしかたがない。
「ディープミスト、ディープミスト、ディープミスト」
ディープミスト3連続発動。
これにより50㎝先がギリギリ見える位にまで視界が悪くなった。
今のうちに脱出を急がなければ……。
一気に加速して街の門を越えアルティナの家に向かう。
街道は遮蔽物がなく見つかってしまうためさらに補助魔法を使う。
「クイックアクション」
補助魔法クイックアクションは全ての動作を一時的に二倍の速さで行うことが出来るようにする効果の魔法だ。
そのまま走り続け数分後、森が見えたのでその中に入りアルティナの家に向かう。
普通は迷いそうなものだが心配はない。このあたりはアルティナがよく採集に来ている場所だからである。
さらに森の中を数分走り続けてようやくアルティナの家についた。
アルティナをゆっくりと地面に降ろす。
「ハァ…ハァ……フゥ、疲れた。アルティナは大丈夫?」
「平気……だけどお姫様だっこは恥ずかしかった」
アルティナの顔が徐々に赤く染まっていく。思い出してまた恥ずかしくなっているようだ。
とりあえず荷物を家に運び今日買った食材で料理を作る。
やはりこの世界では地球の料理を再現するのは難しい。まず何よりも食材が足りないのと調味料が少ないのである。
これはまあいずれ時間を見つけては地球の料理再現を頑張ってみようと思う。何せ時間ならたっぷりとあるのだから。
そう考えている間に料理の方が完成した。
本日の夕食はチーズフォンデュと果実酒である。
「アルティナ、夕食が出来たよ」
未だに恥ずかしさで動けないアルティナを呼ぶ。
「……えっ!?いつの間に……」
夕食が出来たと呼ばれてようやく正気に戻った。
「ほら、夕食が冷める前に食べよう」
アルティナが椅子に座るのを確認し、俺はテーブルに野菜とパン、果実酒、干し肉を運ぶ。
それらを並べ終わったら、俺も席に着く。
「「いただきます」」
それから二人で黙々と料理を食べる。
思ったよりも美味しく出来ていたので安心した。食材の関係上少し美味くできるか心配だったのだ。
アルティナの方を見ると、パンや野菜がどんどん食べられ減っている。
今日はそれなりにハードな1日だったのでお腹も空いたのだろう。
俺も疲れているので今日は夕食を食べ終わった後は食器を洗いすぐに寝た。
翌日、目が覚めると隣にアルティナが寝ていた。
しばらくは黙認しようと思う。まだ子供だし本人も気にしてないようなので。
それにしても……昨日は大変だった。あのギルドマスターが夢に出なかったから良かったものの、もし夢に出ていたらと思うとゾッとする。
アレは確実に悪夢としか言いようのない存在だ……並みの魔獣よりもたちが悪い。
まあ、今はとりあえずアルティナが起きるまで魔道具を作りますか。材料も昨日買ったし。
やっぱり作るとしたら状態異常の耐性を上げる物でしょ……麻痺してなぶり殺されるのなんて勘弁だしね。
さて作りますか。
それからしばらく魔道具の作成に入る。本当は杖又は羽扇も作りたいが如何せん材料がないので作れない。
「おはよう」
アルティナが起きたので魔道具作成を一旦中止して挨拶する。
「おはよう、よく眠れたかい?」
「うん……少し待ってて今朝食を用意するから」
そう言うとアルティナは朝食のパンと果実、チーズ、水を用意して、テーブルに並べる。
その間に俺は作った魔道具を片付ける。作ったのは指輪型のとネックレスタイプの二種類。どれも状態異常に耐性のある物である。
「用意できたから食べよう」
「わかった。すぐに行くよ」
俺は魔道具を片付けるとテーブルに向かい椅子に座る。
「「いただきます」」
朝食を食べながらこれからの予定について伝える。
「昨日の今日で街に行くとまた追われる可能性があるから2日後に街に出向いて作った魔道具を売ろう思っている」
「でも2日後で大丈夫?もう2.3日後にしたら」
確かに言われてみれば……。
「そうだね、じゃあ4日後に売りに行くよ」
こうして4日後に再び街に行くことにしたのだがそれが無駄であったのをこの時の俺はまだ知らなかった。