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1ー1 異世界初日

少女におじさんと言われショックを受けている俺にもう一度少女が言う。


「ねぇ、おじさんは誰?」


グサッ!グサッ!


悪気のない少女のおじさん発言に俺の心がダメージを受ける。


「えーと……お嬢ちゃん、俺はまだ二十歳だからおじさんはやめてくれないか」


「わかった。それでおz……じゃなくてお兄さんは誰?」


この子……今、おじさんって言いかけてたよ……。


「名前はレイオット。そして旅人みたいなかんじかな」


本当のことは言えないので旅人と偽っておく。


「私はアルティナ。何でお兄さんはここにいるの?普通ここに人は寄りつかないのに……」


アルティナの問から自分がかなりの僻地(へきち)にいることが推測出来る。


「お兄さんじゃなくてレイオットの方で呼んで……ここにいる理由は旅人だからかな?それでアルティナはどうしてここに?」


「これ見てわからない?」


アルティナが手に持ったカゴを突き出す。カゴの中には野草や果実が入っていた。


アルティナは野草や果実の採取にここまで来たらしい。


今更気がついたがアルティナの頭上に緑と青のバーが見える。


たぶん、緑がHPを示し青がMPを示しているのだと思う。


ハァ……ゲームに酷似しすぎな異世界に来ちゃったな……。


「それでレイオットはどこに行こうとしてるの?」


旅人って言っちゃったから行き先を言わないと怪しまれるしな……。


「決まってないよ、どちらかと言えば行き先は気分次第だよ」


俺が苦笑いしながら言うとアルティナの少し考える素振(そぶ)りをした後――。


「だったら私の家に来ない?」


ハイ?


「えっ!?何で?」


普通出会ったばかりの人を家に来ないかと誘うなんて……ありえない。


予想外過ぎる反応に俺が聞き返したら、


「私、この付近のことしか知らないから……よその国や街の話を聞きたいの。それにレイオットの行き先は気分次第なんでしょ!なら、いいじゃない!……駄目?」と返された。


や、ヤメロ……そんな捨てられそうな子犬のような表情で俺を見るんじゃない……。


「……駄目なの?」


こ、断れない。何故か抱くはずのない罪悪感が俺を責める。


「あ〜わかった。今日はアルティナの家に行くよ」


「本当に?」


「本当に行くよ。だから案内してくれないか?」


「こっちよ、ついて来て」


疑うよな感じで聞き返されたが案内してくれないかと言ったら表情を明るくした。


うん、断らなくてよかった……これで断っていたら今頃俺は罪悪感に苛まれていただろう。


「レイオット、早く行きましょう」


アルティナが俺のところに走って来る、そして俺の手を掴み駆け出す。それにつられて俺も駆け出した。


アルティナに手を引かれ走りながら俺は考えていた……こんな風に誰かに手を引かれ走ったのは何時以来だろうかと。


元居た世界ではもう出来るはずのないことだ……そういう意味では異世界もいいだろう。


しかし地球にいる両親が心配だ。これが一番の心残りであり未練だと思う。


地球に戻れるかわからないけど、とりあえずちゃんと生きていこうと思う。それが今の俺に出来る親孝行だと思うから。


そんなことを思っていると、疲れたのか走るのを止めて立ち止まるアルティナ。


「ハァ、ハァ……ちょっと休憩」


やはり疲れたようだ呼吸を整えようとしている。


俺はまったく疲れていない……さすがlevel:92は伊達じゃない。


俺はアルティナが呼吸を整えている間に自分がいる大陸の予測を立てる。


utopiaには5つの大陸が存在する。


極寒の大陸であるルペシオン。


常夏の大陸であるサニートゥス。


不変の大陸であるイーディノン。


天空の大陸であるフェイニレイ。


深淵の大陸であるエンデュラン。


まあこれは俺がいる世界がutopiaと同じだったらだが……。


個人的に言えば深淵の大陸エンデュランでないことを祈るだけだ。エンデュランに生息する魔物はlevel:100以上の者でも一人では下手したら返り討ちにあう可能性がある。


この大陸は少なくともサニートゥス、ルペシオン、フェイニレイではないのは確かだ。暑くなく、寒くもないそれに雲があるそれだけで上記の3つは候補から外れる。


残ったのが不変の大陸イーディノン、深淵の大陸エンデュランである。


まあ、それはアルティナの家でわかるだろう。さすがに世界地図ぐらい持っているだろうし……。


「もう大丈夫よ、レイオット行きましょ」


回復したアルティナに手を引かれ森の中を進んで行く。


「♪〜〜♪〜〜♪〜〜〜♪〜〜」


何かの唄を上機嫌に口ずさむアルティナ。


俺はそれを聞きながらアルティナに手を引かれ森を進んで行く。


しばらく歩くと木で出来た一軒家が見えてきた。


「あれが私の家よ」


「でも何で人里離れた場所に家を?」


「あ〜ちょっとね……色々あるのよ」


俺の言葉に言葉を濁して答えるアルティナ……何かしら秘密があるらしい。


まあ、誰にでも人には言えない秘密の1つや2つはあるし、本人が言いたくないなら無理して訊くわけにはいかないしな。


「さっ、入って。ただいま」


アルティナが家には行っていく。


「お邪魔します」


続いて俺も家に上がる。


家の中にはアルティナ以外の人がいなかった。


「アルティナ、両親は?」


ビクッと肩が震えるアルティナ。


「……父は数年前に死んで、母は先月病気で死んでしまったわ…」


「ゴメンな、つらいこと思い出させて」


俺は謝ることしか出来なかった……。


「いいよ、それよりもレイオットが行った場所の話を聞かせて」


気丈に振る舞うアルティナに俺も声を明るくし話し出す。


「そうだな……じゃあ俺が行った国の話をしようかそこはな――――」


アルティナに話した国は日本だ……正直に言って俺が話せる国はそこしかない……。と思いながらも結局俺は寂しかったのだ……家族も知り合いもいない……異世界に来たのだ、寂しくて当然だと思う。


誰だって一人は寂しいのだ……だからアルティナも俺を家に誘ったのだろう。


グゥ〜〜!


「あっ……」


「…………………プッ」


俺の腹の虫が鳴り顔を背けるアルティナ。


正直、恥ずかしい……まさかこのタイミングで腹が鳴るとは思わなかった……不覚。


「フフ、そうね……お腹も空いてきたし夕食にしましょう」


そう言ってアルティナがパンと果実、水、干し肉を用意する。


「えっと、これだけしか用意出来ないの……」


アルティナが顔を俯かせて言った。


「構わないよ。食べ物があるだけでも十分だよ」


この言葉は俺の偽り無き言葉だ。考えてみて欲しい、自分ではなにが食べれる物か判別出来ない状況で食べ物を貰えるのは十分にありがたいのだ。


アルティナが顔を上げる。


「気遣わなくたっていいのよ?」


「気遣ってるわけじゃないよ。実際に世界の何処かでは毎日満足に食事を食べれない人がいるからね」


「そうなの?」


「そうだよ。だから毎日ちゃんと食べられる物があるのは幸せなことなんだよ」


そう、こんな当たり前のことこそが幸せなことだと今更気づくなんてな……。


俺は内心苦笑しているとアルティナが言う。


「なら、一人で寂しくても食べ物があるのは幸せなことなの?」


そう問うアルティナの目は真剣であった。


「そうだなぁ〜〜実際、生きているからこそ幸せになれるし不幸にもなれる……それに食べ物がなければ生きてけないしな……」


「……生きているからこそか……そうよね、生きているからこそよね……」


俺の返事を聞いてアルティナは自分で納得できる答えを見つけたようだ。


こうしている間に日が沈み辺りが暗くなったのでライトの魔法で光を灯す。


「とりあえず夕食を食べよう……話の続きはそれからだよ」


「そうね、なら早く食べましょう」


そうして2人で夕食を食べ始める。


異世界初の夕食は簡素なものだったが、やはり食事にありつけただけで十分だと思った俺はおかしいのだろうか?


異世界の果実も地球で食べた果実と大差はなくて美味しかったが、さすがにパンはお世辞にも美味しいと言えなかった……。


夕食後は日本の話の続きを話を再開する。


話が終わるとアルティナが水を汲んだ桶とタオルを用意した。……2つも。その用意した一つを指さしたアルティナが言う。


「これはレイオットの分よ」


どうやら俺の分も用意してくれたらしい。せっかくなので使わせてもらうとする。


「ありがとう。使わせてもらうよ」


そう言って俺は上を脱ぎ、タオルを濡らし拭き始める。


どうやらアルティナも体を拭き始めたようだ、俺の背後からチャプチャプと水音が聞こえる。


数分後お互いに体を拭き終わり、後は寝るだけとなった。


俺が寝る場所は床だアルティナにはベッドを使ってもいいと言われたが断った。さすがにお世話になりっぱなしは不味いだろう。それが理由だ。


俺はアルティナがベッドに入るのを確認すると壁を背にして床の上に座り毛布を羽織るとライトの魔法を解除した。


「おやすみ、アルティナ」


「おやすみ、レイオット」


そうお互いに言って俺たちは寝た。


ズズッ!


何かを引きずる音がして目が覚める。


ズズッ!ズズッ!


徐々に俺の方に音が近いて来る。


そして俺の前まで来ると止まった。


「ねぇ、レイオット……起きてる?」


「……起きてるよ。それでどうしたんだい?こんな夜中に……」


「レイオットに訊きたいことがあるの……ハーフについてどう思う?」


……何故にハーフ?うーん……特にないかな。


「特にどうも思ってないよ。……ハーフだろうが何だろうが、そいつがそいつであることは変わらないからな……」


「……そいつがそいつであることに変わりないか……」


俺の返事を聞いたアルティナはボソボソと呟いているが何だろうか?気になるが俺は眠い……今は眠りを優先したい。


「それだけなら俺は寝るからな……おやすみ、アルティナ」


そう言って俺は再び眠りについた。

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