初恋の彼女
鶏 庭子さんの
募集します! ベタな昭和恋愛短編小説!
用に書いてみました。
昭和の匂いプンプンには遠いかな?
そこは自信ありませんが、どんなもんでしょうか。
俺の名は鈴木健二。高校一年生。
一応、地域の進学校なんだけど、まあ普通科だし、
大学?まだ進路とか考えてないし。
エンジョイ!高校生活!・・・ならいいんだけど。
部活・・・天文部。暗い・・・な。
友達つながりで入部したってとこで、そんな積極的なわけでもないけど。
まあ、夏の合宿は楽しかった。
真っ暗な山の中の広場で、ぼーっと星空を見ているのはそんなに悪くなかった。
夏の大三角形ぐらいしかわからなかったけど。
女の子たちのほうが詳しいぐらいだった。
「あれがヴェガであっちがアルタイル。ほら、織り姫様と彦星様。え~、知らないの?」
・・・しょうがないじゃん。「記憶にございません」だよ。
「ロマンチックじゃないなあ。年に一度のラブだよぉ。ときめいていいんじゃない?」
はあ・・・おれは現実の女の子にときめきたいなあ。
・・・実はいる。
どきどきしている相手はいる。
うちの高校は男子は詰め襟学生服。その襟の所には学年とクラスの記章をつけている。
だから、何年生とかクラスとかは丸わかりで、悪いことは出来ない仕組みになっている。
女子はセーラー服の胸のところに、学年、クラスのついた名札をつけている。
だから彼女の名前も、学年もクラスも知っている。
「1年9組、佐藤 優子」
実は、春から気になっていた。
真っ白なトレンチコート、ショートヘアーの落ち着いた感じの子がいるなあ、
ってすれ違ったときにそう思った。
気がつけば、彼女の姿を目で追いかけている自分がいた。
すぐに名前もクラスもわかった。
「理数科・・・・・かぁ」
うちの学校は普通科と理数科がある。普通科が8クラス、理数科は2クラスだ。
理数科は2クラスで80人。でも女子は10人もいない。
大学進学を目指しているといってもいいんだろう。
つまり、頭がいい娘なんだ。
頭が良くて、顔もかわいいし、つまり、その、えっと、・・・・・釣り合わない。
おれと釣り合わない。
近眼で度のきつい、牛乳瓶の底みたいな眼鏡をして、ぼさぼさ頭で、
運動はあまり(というか、全然?)得意じゃなくて、
だから、ちょっと(じゃなくて、だいぶ)ぽっちゃり系で、
背も高くなくて、たぶん、彼女の方が高いかもしれないぐらいで、
頭は彼女の方が良くて、つまり、オレには・・・・いいとこない。
もともと、そんなに軽いノリは持ってないし、口もうまくないから、
そう思うと、ますます彼女に声なんかかけられなかった。
だから、窓から見てるだけ。
中庭で友達とキャーキャー言ってる彼女も見た。
心の底から楽しそうに笑ってた。
あんな笑顔見せられたら、誰だって、イチコロだろうなあ。
オレに向けてくれたら、もう、どんなことだって出来ちゃうような気がする。
・・・気だけ。
声もかけられないオレに何が出来るって言うんだ。
・・・声かけるだけじゃん。
・・・声かけてみればいいじゃん。
その声は家に帰ってもくっついてきた。
「かけられないから、手紙書こう!」
オレは立ち上がって叫んだ。
うちの親がびっくりした顔をしていた。
縦書きの便せんを買ってきた。
親に入学祝いで買ってもらった万年筆。
何回も書いてはやぶり、また書いた。
「字が汚ねえ」
「文章が浮かんでこねえ」
「どうやったら、心に伝わるのか、わかんねえ」
頭の悪さ、文才のなさ、後悔だけはそれこそ星の数ほどした。
天文部の女の子達の言ってたみたいに、ロマンチックな本でも読んでおけば良かった。
書き上げた手紙は、自分でも読めないような情けないような内容だったと思う。
でも、読んでくれるかもしれない、そう思うとすごく心臓がどきどきした。
最初は靴箱に入れて、と思った。
でも、実際に学校に行ってみると、靴箱はふたのないオープンな姿。
ここに手紙を入れたら、丸見え。
彼女だけが見てくれるのならいいけど、これじゃあ誰にでも見えてしまう。
だから、靴箱は止めた。
天文部の部屋は理数科のクラスと同じ棟、同じ階にある。
だから、彼女と廊下ですれ違う確率は結構高い(と思う)。
ならば、手渡し。
・・・無理だった。
彼女と二人っきりになれるのなら、手渡しも可能かもしれない。
でも、学校の廊下で二人っきり?ありえねえ。
絶対に誰かいるに決まってる。
教室に行ったところでそれは同じ事。
呼び出すったって、それをどうやって声かけるかになってしまう。
結局、オレは一つの問題の周りを、ウロウロ、グルグル回っていただけだった。
何度も握りしめ、クチャクチャになり、しわを引き延ばしした手紙。
白かった封筒も、いつの間にか薄い黄色い小さなシミまで付いていた。
それでも、まだオレはその手紙を持っていた。
チャンスは来る、そう信じていた。
そして、とうとう来た!
天文部で遅くなった帰り、玄関の所、
彼女も部活の帰りだろうか、一人でいたんだ!
彼女の姿を見つけたとき、とうとうやったと思った。
これなら、この状態なら、手紙を渡せる!
手のひらが一気に汗ばむ。
できるだけ、普通の顔、そう思っていたけど、ほおが緊張でこわばっている。
ポケットの中、手紙を握りしめる。
もう少し、もう少し、近づいて、声をかける、そうすれば・・・・
彼女はこっちを向いた。
あの笑顔が、満開の笑顔が、僕を向いている。
彼女が小走りでこっちにやってくる。
「あ、あの・・・」
そう言いかけた僕の横を彼女は過ぎていく。
振り向けば、そこには大柄な3年の男子生徒。
彼女と仲良さそうに話している。
膝の力が抜けて、その場に座り込みそうになった。
・・・そうだよな。こんなにかわいいんだから、もう、彼氏の一人ぐらいいたって、不思議ないよな・・・・
なんかホッとしたような感じもしたけど、
でも、やっぱり泣きたくてしょうがなかった。
男は涙を外では見せないもの。
って言ったって、上を向いて歩こうをしないかぎり、涙が出てきそうだった。
「み~んな悩んで大きくなった」
うるせえ!野坂昭如!!てめえに、てめえにオレの悩みが理解できるかあ!!!
オレは一晩中泣いた。
初恋が終わった。
そう思うと、不思議なぐらいに涙が出た。
もうしねえ。恋なんか、絶対にしねえ。
そう固く決意した。
腫れぼったい目をしているオレを見た親は恥ずかしいから学校を休めと言ってきたが、無視した。
もちろん、学校でも部室でも、オレは冷やかしと好奇心の対象だったけど、それも無視した。
心のどっかが空っぽになってる、感じがしてた。
そんなオレを、荒っぽい方法で励ましてくれたのは、天文部の例の女の子達だった。
「なに、ひどく落ち込んで。思いっきりひどい失恋したって顔よ」
「そうそう、今日は男子にはいいニュースあるんだから、もっといい顔してよ」
そういうと、彼女たちは新入部員で~すって、新しい女の子を紹介してくれた。
その子は・・・・・佐藤 優子。
恥ずかしそうに笑みを浮かべる彼女を、オレは呆然と見つめた。
「しかも、重大発表があります!」
真っ赤になって止めようとする彼女の制止を押し切って、
「優子ちゃんは、なんと、彼氏、募集中です!」
周りからえ~っ!っという声。
ウソだ、そんなの、ウソだ。だって、昨日、見たぞ。
見たのはオレだけじゃないらしい。
三年生と仲良くしてるって聞いたよ、そんな声が挙がる。
「あ、あれ、兄です」
お~っという叫び声。もしかすると、オレも一緒になって出していたかも知れない。
「あたしに声かける人は多いけど、兄を見るとみんな逃げちゃうんです。
兄もそんな根性なしはいらん、とか言って、わざと威嚇するし・・・
でかいし、顔はごっついし、言葉も乱暴でしょう。
だから、彼なんて、全然できなくて・・・ほんと、募集中なんです」
心臓が、ドキドキしてきた。
じゃあ、まだチャンスは残ってるってことか?
「どんなタイプが好みですか?」
「えーっと、特にありません。
っていうか、顔とかは兄じゃないけど、ごっつくってもいいけど、
やさしくて、あたしに一生懸命なら、どんな人でも、かまいません。
でも、兄のチェックはいるから、やっぱり根性がいるかも・・・」
そんなら、そんなら、オレだって、オレだって!
「よっしゃあ!」
思いっきり叫んでいることに気がついてなかった。
部室の全員がオレを凝視していた。
オレは真っ赤になっていたと思う。
慌てて彼女を見る。
彼女もびっくりした顔をしていたけど、
オレを見て、ニッコリ微笑んでくれたような気がした。
履歴書の上では、平成より昭和の方が長い人ですから、
思ったことそのままで、昭和テイストだと思っていましたが、
なかなか難しいかも?
目の前にはベータテープだの、カセットテープだの、
LPだの、ごろごろ転がってて、
昭和の中で毎日生活してますけど。(笑