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その花嫁、代行します! 〜ヌシ様は元プログラマーで、異世界デバッグ生活が始まりました〜  作者: 桃田


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第7話 お仕事は順調です

 今日回りたいのは、村の水路の一区画、ザンギという家の鍛冶場、それからサザレという家の畑だ。この三箇所はさほど離れていない。


 まず一箇所目。水路に大きな黒い蜘蛛が網を張っていた。黒い糸で流れを塞ごうとしているが、水に糸が流されてうまくいっていないように灯里には見える。慌てて駆け寄ると、それを鷲掴みにして蓋付きの籠へ放り込む。この籠は女官に用意してもらったものだ。その様子を見て、事情が分からないセイジュはポカンとしている。急に水路に向かって走り出した灯里が、空中でなにやら手を動かしているようにしか見えなかったからだ。


「あの、アカリさん。おまじないか何かですか?」

 不思議そうに問いかける彼を見て、今度はユウナがえっという顔をした。

「セイジュ。あの黒い(もや)が見えなかったのですか? アカリさんは水路にかかる靄を払ったんですよ」

 三人三様の反応に、その場の空気がしばし止まった。


 ユウナの話を聞くと、灯里の周りにはほわほわとした光の玉が飛んでいたのをずっと感じていたのだという。だから灯里が水路に向かって走ったその先に黒い靄も見えたのだという。

「光の玉は、ヌシ様がアカリさんの守りに付けた精霊様がいらっしゃるのだと思ってました」


 どうもそれがあったので、灯里がヌシ様のところから逃げてきたのではなく受け入れられたのだと思ったのだそうだ。彼女は稀に社の近くや森の中、それから自分の機織り機に光の玉が見えていたのだという。灯里が捕まえた大蜘蛛は、黒い靄に見えても、蜘蛛の形までは判別できなかったみたいだ。

「だから、今まで誰にも言ったことはなかったのです。父母にもそれは口にしないほうが良いと言われてましたので」

 彼女は腹をくくったかのように、強い瞳で灯里に告白した。


「そっか、ユウナはすごいな。俺も見えればいいのに」

「ただ、見えるだけです。恩恵があるわけではないのです」

 そのセイジュの言葉に、驚いたようにユウナはそちらをみた。ユウナは首を振る。何か申し訳ないようにセイジュがユウナの手をそっと握った。

「いや、同じものが見えないのが、少し寂しいなと思っただけだ」

 二人の微笑ましいやり取りを見て、灯里は思わず違う方向に目をやり頬をポリポリかいた。 


 とりあえず次に行こうということになり、ザンギの鍛冶場へ。そこでは、小さな黒いテントウムシのようなものを数匹捕獲した。これらは素早く飛び回るので、捕まえるに苦労する。

「今度は捕虫網を用意してくるわ」

 灯里は心の中で決心した。


 このテントウムシは、ユウナにも見えなかったようだ。

 次に向かった畑では、案山子(カカシ)の上に手のひら大のバッタが止まっていた。灯里が近づいても、逃げようとせずじっとしている。彼女は手慣れた手つきでそれを捕らえた。

「本物よりも少し動きがトロいのもいるのね。でも、やっぱり捕虫網は必要よね」


 このバッタは、ユウナにも黒い靄として見えた。どうやら対象が一定以上の大きさであれば、彼女の目にも映るようだった。どうやらサイズによって視認できるかどうかが変わるのかもしれない。サイズは影響力の違いとかに結びついているのだろうか。


 (やしろ)に戻って、奥座敷で仕事をしているヌシ様のところに籠を届ける。

「ヌシ様。形の悪いデータの場所に行ってきたのですけれども、(バグ)らしきものを見つけました」


 ヌシ様が籠を開けると、中にいた(バグ)たちの挙動が止まる。ヌシ様が小さな黒いテントウムシを掴むとそれが糸のようにほどけていき、一緒に入れてあった虫食いの葉に注がれる。

「おお、これは小さなデータのズレかな。こんな小さなものでも蓄積すればI/Oが不安定になる。そうなれば応答速度に影響がでるからな」


 何事かをブツブツとつぶやきながらも、次に蜘蛛を掴む。するとスルスルと糸のように蜘蛛がほどけて光の帯へと変化する。黒ずんで変形していた葉を編み直していく。それはバッタも同様だった。

「君のデバッグ能力は、特筆すべきだな。これで、この場所の行く末に光が見えてきた。君は本当に希望の灯火だ」


 ほっとしたかのように穏やかな微笑みを見せるヌシ様に、大袈裟な言い方をするなあ、なんて灯里はこの時は思っていた。


 打ち合わせの結果、1日の仕事の中に村の見回りという仕事を組み込むことにした。村に出現した(バグ)の回収も重要だろうという話になったからだ。(バグ)が発生していそうな場所を葉の状況で判断してからとなるので、データ変換を午前中にして午後は村回りということに。データ変換に異常がなければ一日データ変換の仕事とする。


「そうだ。虫を捕まえる捕虫網を作って欲しいんです」

 女官にむかってそういうと、コクリと頷かれた。

「どのようなものをお望みですか」

 虫によっては、必要となる形状が違うので簡単に説明すると、心得たとばかりに女官は頷く。

「それでは、任意に網の口径と柄の伸び縮が可能なものをお作りしてお渡しします。網の素材は、お任せください」


 女官は何やら錬金術士みたいで、かなり頼りになる存在のようだと感心してしまった。

(これでもう少し彼女たちに表情があるといいのに)

 そんな感想を抱いてしまったが、仕方がない。


  翌日、村長の家で村についての話を聞きがてら、見回り方法も説明をすることにした。基本的にはおかしなデータが出たところに行くのだが、村全体も把握したいのでそれ以外の場所も順に見回りをしたいという希望も話してみた。あとはユウナが黒い存在が分かりそうなので彼女が手すきのときは、一緒に来てもらいたいとも加えた。


「彼女は腕の良い機織り工です。急ぎの仕事に関しては申し訳ないが優先していただければありがたいです」

 村長はそんな風に言って頭を下げる。ウギョウの家には機織り用の部屋があったのを思い出した。あそこは彼女の仕事場だったのか、と。


「勿論、彼女の仕事の邪魔にならないようにしますから大丈夫です」

 ユウナも一緒に回ってもらうのには灯里にも意味があった。一緒に回って彼女の能力を把握し、黒い霞を見る能力で灯里が回っていない場所をどこかに行くついでで良いので気にしてみてもらいたいと考えたのだ。勿論、彼女には黒い靄に近づかないようにしてもらう。黒い虫を回収するのは灯里の仕事なのだから。


 それに、見回りに時々でもユウナがついてくるということに、セイジュは喜んでいるのはオマケだ。彼もまだしばらくは灯里の見回りに付き合ってくれることになっているから、お礼の意味も少しある。

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