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その花嫁、代行します! 〜ヌシ様は元プログラマーで、異世界デバッグ生活が始まりました〜  作者: 桃田


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第3話 お輿入れでございます

 村長も、ユウナも、セイジュもまるで灯里の言っている意味がわからなかったのかのように、一瞬、止まった。

「そんなわけにはまいりません」


 ユウナが最初に反対した。自らの宿命として、強く決意したばかりだからだろう。そんな彼女を見て、灯里はニッコリと笑いかける。


「いいえ。ユウナさんはセイジュさんと結婚する約束をしたのでしょう。ならば、私が代わりにいきます。だって、私は迷い人なので帰る場所もないですし、なんといっても昨日ウギョウの家に迎えられたのですから」


 その声に、迷いはなかった。拓馬と結婚するつもりだった。結婚資金を貯め、仕事のスキルも磨き上げて、彼をサポートするために考えられることは全てしていた。でも、それは泡と消えてしまったのだ。冷静に考えてみれば彼の付属品だった毎日を進んで過ごしていた私に、一体何が残ったのだろう。灯里にとっては、目の前で気丈に振る舞おうとしているユウナにかつての自分が重なった。


(誰かのためじゃなく、自分の意志で選ぶんだ)


 話し合いの結果、灯里はウギョウの養子という扱いになり、そのままヌシ様への嫁入りが決まった。村長も同時に訪れた迷い人ならばと、最終的には折れた。


「貴方に人身御供(ひとみごくう)のような真似をさせるとは……」

 ウギョウの夫妻とユウナは、申し訳なさに押しつぶされそうな顔で言った。そんな人身御供なんて大袈裟な、と灯里は思わなくもなかったのだが、それは口にしない。それとも、そんな風に思われるほどにヌシ様は傲慢な人なのだろうかと少し考えたが、恩恵をもたらすと言われている迷い人だと言い張ればなんとかなるはずだと自分に言い聞かせた。



 嫁入りの日。白装束に白い綿帽子のような花嫁衣装を着せられ、輿(こし)に乗せられた。同じく白装束に身を固めた若い村人達に担がれた輿は、四方を白い布で囲まれており、外の様子は伺い知れない。灯里を乗せた一行は、ヌシ様の社へと運ばれていく。周囲の見えない揺れの中で、果たして何が待ち受けているのか。好奇心と不安が、ないまぜになって胸に渦巻く。やがて、輿が静かに下ろされた。


「ヌシ様、お定めになった花嫁を献上いたします。何卒、お受け取りくださいませ」

 同行していた村長が口上を述べると、複数の足音が去っていく気配がした。辺りは静寂に包まれる。


 その時、金属の鐘のような鈴のような澄んだ音が辺りに響く。ふわりと吹き抜けた柔らかな風が四方の布を翻し、急に視界が開ける。正面には大きな神社のような造りの建物が鎮座していた。薄靄(うすもや)の中に浮かび上がるその姿は、荘厳でさえあった。中央の階段に面した扉が開け放たれている。


(あるじ)様、お嫁さまのご到着です」

 声が響くと、中から真っ白な巫女装束を纏った女性が現れ、灯里の元へ歩み寄ってきた。見渡せば、輿は建物の正面にある立派な台座の上に置かれている。女性は灯里の手を引き、輿から降りるのを介添えしてくれた。


「お嫁さま。主様の元までご案内いたしまする」

 促されるまま階段の前で履物を脱ぎ、一歩一歩、広間へと上がる。その最奥には二つの膳が並んでいた。灯里は左側の席に座らされる。右側は空席だが、立派な座布団が置かれていた。ふと気づけば、広間の両脇にも膳が並び、多くの者たちが着座している。影のように形が定まらないものや、明らかに人間ではない異形の者たちが人の形を借りているような、そんな不可思議な連中がザワザワと祝宴に興じている。


(これは、何。一体、私は(なに)に嫁ぐというの?)

 ここに来てウギョウの人達が言った「人身御供」という言葉が、不吉な重みを持って蘇る。不在のままの隣の座布団を呆然として見つめるしかなかった。

 その時、乾いた音を立てて奥の襖が開かれた。現れた人物が、灯里の隣にどかりと座り込む。


「やれや、めでたや」

「やれや、めでたし」

 広間の客たちが一斉に囃し立て、盃を交わし始める。


幾久(いくひさ)しく、宜しくお願い申し上げます」

 灯里は教えられた通りの口上を慌てて口にした。こうなってしまえば女は度胸だと腹を決めるしかない。ふわり、と綿帽子が外された。今までよく見えなかった相手の顔がはっきりとあらわになる。真っ黒な長い髪を後ろで一つに束ねた、驚くほど端正な顔立ちの男だった。切れ長の鋭い眼光は、灯里を射抜くようにまっすぐ見据えている。怜悧(れいり)で上品な雰囲気を纏う。


(……何、この美形。心臓が痛い)

 現状のおかしな状況を忘れるほどの衝撃が走る。しかし、よく見ればその美しい顔には疲労がが滲み、目の下には濃いクマがあった。それでもなお、男は妖艶な色気を纏っている。男は灯里の顔をまじまじと見ると少し意外そうに眉を上げた。


「君は、迷い人か」

「はい」

 即座に見抜かれたことに驚きながらも、灯里は肯定した。男の眼光が鋭くなる。


「なぜ、迷い人がここに来た。花嫁の儀など」

「私がウギョウの家にお世話になった時、ちょうどそこに白羽の矢が立ったので。私が来ました」


 同日に白羽の矢と迷い人があの家にあったのだ、問題はないはずだと主張するつもりであった。だが、ヌシ様は不審そうに眉を顰めた。

「ウギョウの家に、白羽の矢だと?」

 男は灯里の言葉をなぞるように呟く。


「白羽の矢は、村の広場にある社に立てるように指示したはずだ。それがなぜ、ウギョウの家に……」

「はい?」


「私は『村で話し合いの上、一人を手伝いに差し出せ』と書状を付けたのだ。嫁を求めた覚えはない。……おい、お前たち」

 ヌシ様が周囲をねめつけると、あれほど溢れていた異形の者たちが、霧が晴れるようにすっと消え去った。


 呆気に取られる灯里の傍らで、男は深く、大きなため息をついた。

「すまない。あいつらは私が『人を寄越せ』と言えば、すぐ花嫁だと信じ込むフシがあるのだろう。前任者の悪癖がまだ抜けないのか。私は、ただ仕事の助手が欲しかっただけなののだ。村の者が指示を違えるはずもない……一体、書状はどこへ消えた」


 男は深刻そうに考え込み、ぽつりと独り言を漏らした。

「今度は一体、なんのバグだ?」

 そう言って、男は天を仰ぐ様に再び大きな息を吐き出した。

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