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その日のパンは特に固かった。
「固すぎて凶器になりそうね。ヘイ、デューク。こいつがありゃあ釘が打てるぜ」
「私はアンヌですわ。公爵令嬢様」
公爵令嬢の前世ジョークをメイドは軽くあしらい、厨房係のエッタはスープにパンを浸しながら申し訳なさそうに言った。
「寒くなると、うまく膨らまないことが増えるんですよ。あんまり固かったら、卸してパン粉にしちゃいますから」
「修道院のパンって、どうやって作ってるの? こういう酸味のあるパンって、ここに来るまで食べたことなかったわ」
わたしはコンコン、とパンを爪でノックしてから、エッタの真似をしてスープに浸し、ぎゅうぎゅう押しつぶす。
「大体は、前の日に作ったパン種を少し取っておいたのを混ぜて作りますかね。膨らんだ生地を混ぜると、次も膨らみやすいんですよ。奉仕の日に施すパンは、パンくずを混ぜて作ったりもします」
エッタの話を聞きながら、アンヌはどうやったのかカチコチの固いパンをうまく千切ってスープに入れている。
「アルヴァン家にお仕えしていた時は使用人も白パンでしたけど、実家の男爵家ではこんなパンも食べておりましたわ。寒い時期にはレーズンが入っていたりして」
エッタは、使用人も白パンですって? と目を剥きながら頷いた。
「修道院でもレーズンは入れますね。美味しいだけじゃなくて、膨らみやすくなるんです。貴重な甘味ですから、毎度ってわけにはいかないですけど」
それ、ラノベか何かで見たことがあるかも。りんごや果物を、水とかと一緒に瓶に入れておくだけで、ふわふわパンの酵母が出来上がるのだ。わたしはアンヌにパンを千切ってもらいながら考えた。
「要するに、寒いと酵母が働かないって話ね。エッタ、レーズンを少し分けてくれない? ──ちょっと、やってみたいことがあるの」
わたしがそう言うと、また何か面白いことをやるんですか、とアンヌが目を輝かせた。
「石鹸のお嬢様の頼みなら仕方がないですね。大切な冬の食糧なんで、あんまり沢山は無理ですけど。……その代わり、内緒ですよ」
エッタはふくよかな指を唇に当てて、共犯者の笑みを見せた。




