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神への祈りは0と1とで出来ている-追放悪役令嬢は修道院から世界を書き換える-  作者: さいべり屋
2: ′ 石鹸 ′

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6/8

███


寒い季節とあってか、石鹸液はなかなか固まらない。


・1日目 表面にホットミルクのような膜が張る

・2日目 生キャラメルのような弾力

・3日目 ちょっと固めの生キャラメル


──このまま乾いて固まっても、あれじゃあね。ここまで労力をかけて作る価値はないのかもしれない。


「庶民に石鹸が普及しないわけがわかったわ」


スカスカの泡と刺すような痛みを思い出して、徒労感が強くなる。


「まあ、ここまでやったんだから、最後まで付き合いましょうか。気分はアサガオの観察日記だわ」


終わりの見えないバグとの格闘こそ、底辺プログラマの真骨頂だ。ど根性だけを相棒に、わたしはそうやって生きてきたのだ。


溜め息をひとつ吐くと新しい反故紙に線を引いて、わたしは半ば惰性でメモを取っていった。


  ・7日目 キャラメルから消しゴムの感触に変化。型から外して簀の子に並べ、さらに乾燥。

  ・10日目 固めの消しゴム。心なしか油臭さが薄くなり、土のような匂いに。


そして、やっと2週間で。


「石鹸に、なったわ」



ティースプーンで叩くとコンと音がする。切り分けてみると中はまだキャラメルで、ウイスキーボンボンのようだった。


わたしは端っこの固い部分だけこそげ取り、お湯を注いでにティースプーンでかき混ぜた。カスタードの時の痛手が記憶にあるので、いきなり手を入れるのは少し怖い。


「──カスタードの時と泡のテクスチャが違うわね」


わたしの思う石鹸とは比べるべくもないが、カスタードの時より肌理(きめ)の細かいもっちりとした泡が少し発生し、カップの縁に少し残った。


わたしは覚悟を決めて、石鹸液に人差し指を浸し、汚れた布巾を摘み洗いした。


「痛くない……。石鹸、出来てる」


自分でも半分諦めかけていた石鹸が、気付いたら完成していた。


わたしは狐につままれたような気分だったが、アンヌが半泣きになって喜んでいるのを見るうちに、じんわりと実感が湧いてきた。


「石鹸って、乾燥すると出来上がるの? ……違うわね。まさか、熟成?」


混ぜるだけではなく、材料が反応を終えるまでじっくりと待つ必要があったのだ。


ここまで来るのに、ほぼ1ヶ月。スローライフの名は伊達ではないと言ったところか。


完全に固まった石鹸をお披露目すると、シスター達には大変喜ばれた。顔や体に使うには強すぎるが、掃除や洗濯には充分だ。


修道女とは基本手間を尊ぶ性質があるので、石鹸作りも苦にならないようだ。油が多く余った時には、暖炉の側でくるくると桶をかき回すのがシスター達の日課になった。

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