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神への祈りは0と1とで出来ている-追放悪役令嬢は修道院から世界を書き換える-  作者: さいべり屋
1: ′ わたし′

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2/5


──そもそもの事の起こりは、数か月前のあの日。


滴る赤い血に前世の記憶を取り戻した時には、すべてが手遅れだった。


そこは断罪の真っ最中だったのだ。


リーンハルト殿下は、皮膚が破れ血が流れるのも構わず、その薄い唇を噛みしめてわたしを見据えていた。


謁見の間には多くの貴族たちがひしめき、彼を守るように配置されていた。


つい先日まではその隣にいたはずの(わたし)は、まるで罪人のように肩を押さえられて、それを見ていたのだ。


銀髪をなびかせた絶世の美男子と、豪奢な衣装に身を包んだ貴族男性たち。


ここにヒロインさえいれば、まるで乙女ゲームのエンディングのようだ。突如思い出した前世の記憶でパンパンになった頭で(わたし)は思った。


「殿下」


殿下の傍らの男が、促すように声をかける。


「殿下、ご決断を」


また別の男が畳みかける。


殿下は返事もせず、ただ(わたし)を鋭い目で見つめていた。溢れた血のひとしずくが、唇の端を、意志の強そうな顎を、喉を伝い、白い襟を汚した。


皆がただ壇上の役者のように彼を急かした。仮にも一国の王子が血を流しているのに、誰ひとりそれに触れないのが、三文喜劇のようで不気味だ。(わたし)はつい手巾を差し出そうとしたが、届くわけもなくただわたしの足元に落ちた。



──ぽたり。


遂に銀色の睫毛が震え、薄い唇が開くと、白い装束に高貴な血が落ち、紅い花を咲かせた。


「──アルヴァン公爵が娘、エルネスティーヌ嬢との婚約は……白紙とする」


その声もやはり震えていた。


それで茶番は終わったとばかりに、(わたし)は引き摺られるようにその場を辞した。


拙い刺繍の刺された手巾だけが、踏まれて、蹴られて、(わたし)の代わりにそこに残った。


殿下は唇を紅く染めたまま、いつまでもそれを鋭い目で見つめていた。


そんな衝撃的な幕開けだったせいか、「わたしたち」は朦朧としたまましばらく自室に引き籠っていた。


  ──デバッグばっかりやらされていた底辺プログラマの ’わたし’。


  ──国母となるべくつま先立ちで生きてきた公爵令嬢の ’私’。


  ──ラノベと映画と乙女ゲームが生きがいだった社畜の ’わたし’。


  ──こっそりお菓子をつまむのが生きがいだった少女の ’私’ 。


  ──私が胸の中でひっそり温めていた、五分咲きぐらいの恋心。


いろんな思い出が、混ぜて伸ばしてパン生地みたいに捏ね回されて。


 ’前世のわたし’ と ’今世の私’ がすっかり馴染んで、ひとつの ’わたし’ になったころには、追放される準備は万端に調っていた。

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