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「うん、いい出来」
淡い琥珀色の液体を樽から注ぎ、エッタは満足そうに頷いた。フレッシュな林檎ではなく、焼き林檎のような少し重い香り。発泡はしていないように見えたが、口に入れるとしゅわっと微かに舌を刺激された。
──明らかに酵母水だ。
「果物に水を入れて、しゅわしゅわするのが ' コウボ ′ なんですね。確かに似てるかも」
「明日あたり、応接室組のコウボがいい感じになりそうだから、比較してみましょうか」
ふたりは次の実験の計画を立て始めたようだ。
しかし、わたしはまだ立ち直れずにいた。
貴重なレーズンをわざわざ使って、こそこそ実験して。
栓が飛んだり、カビたり、食材を無駄にしたりして。
苦労して作った発酵水が、既に修道院にあったのだ。
わたしはがっくりと項垂れた。
「でも、サイダーキンは季節ものですから」
エッタはわたしを慰めるように背中を叩くので、わたしは顔を上げた。
「そうなの?」
「ええ、そんなに沢山はないし、あんまり置くと酸っぱくなっちまいますから、冬の間には飲み切っちゃうんです。レーズンの方が一年中使えるから、扱いやすいですよ」
「いろんな風味のパンが食べられたら嬉しいです!」
「……そう、ね。美味しいパンは焼きあがったんだもの。一歩前進よね」
パン作りは成功したというのに口々に励まされているのがおかしくて、わたしはへらりと笑った。
「膨らむようにはなったけど、やっぱり思ってたパンと違うのよね。もっとふわふわになるはずだったのに」
わたしが疑問を口にすると、アンヌにたしなめられた。
「エルネスティーヌ様、白パンは白い粉を使っておりますから、同じようにはなりませんのよ。砂糖やバターも使いますし」
「パンは焼かないと作れませんからね。焼いたら固くなるのは当たり前ですよ」
エッタも料理人らしい知識を披露してくれる。
ふと、「パンは焼かなきゃ作れない」というエッタの言葉に、わたしの中の何かが引っ掛かった。
「……エッタ、焼いたら固くなるの?」
恐る恐る確認する。
「そうですよ。熱いオーブンに入れると、湯気が上がって逃げていくでしょう? あれが水分なんですよ」
身振りを交えながら、子供にするように教えてくれる。その姿を見て──閃いた。
「Eureka! エッタは天才だわ。焼いたら固くなるなら、焼かなきゃいいのよ!」




