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「わぁ……!」
アンヌが歓声を上げた。それくらい、見るからに焼き上がりが違ったのだ。
「いつものパンの1.3倍は膨らんでるわね」
「レーズン水の量が足りなかったんで、いつもの生地に水の代わりに足したんですよ。そしたらこれです」
エッタは誇らしげに胸を張った。いつもの酵母とのハイブリッドタイプにすることで、小型のジャグ一杯分の酵母水を、修道院全員分のパンに仕立て上げたのだ。
レーズン酵母を使ったパンは、茶色い表面には艶があり、レーズンの甘い香りが立ち上る。
指で引っ張るともっちりと千切れ、しかもどっしりと食べ応えもある。まろやかな酸味とふくよかな甘い香りに、食堂のシスターたちからため息が漏れた。
「この作り方なら寒い季節にも失敗が減るし、混ぜて焼くよりレーズンが少なくて済むから経済的です。献立に組み込めるよう提案してみますよ」
「でも、カビて無駄にしてしまったものもあったから、必ずしも経済的とは言えないんじゃないかしら」
エルネスティーヌは捨ててしまった瓶のことをくよくよと思い出した。
「それは仕方がないですよ。サイダーキンだって、カビてしまうこともありますし。その辺はわたしら厨房係の腕の見せ所ですね」
「へえ、そうなのね。サイダーキンってなあに?」
聞きなれない言葉に、わたしとアンヌは小首をかしげた。
「ああ、お嬢さん方は今年から入ったから、まだ飲んだことがないんですね。こないだ、皆でシードル作りをしたでしょう? シードルは販売に回しちまいますけど、残ったボマースに水を加えて寝かせると、わたしらの冬のお楽しみになります」
「初めて聞きましたわ。シードル作り、林檎を刻むの楽しかったです。修道院ではビールを作ると聞いていましたが」
「うちは小規模だし、この辺は山間で井戸水が飲めるんで、ビールは作らないですね。サイダーキン、しゅわしゅわして美味しいですよ。そろそろ飲み頃だから、あとで様子を見てみましょうか」
押し黙ったわたしをよそに、ふたりは和やかに話し続けていた。
──林檎の搾りかすに水。
──しゅわしゅわした飲み物。
「それ、林檎酵母水じゃないの!」
なんてこった。青い鳥はわたしのすぐ近くにいたのだ。
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