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【5話:まだ滅びていない外側】

【5話:まだ滅びていない外側】


 太陽は、世界を照らしている。

 物語の中に太陽はないが、光が無ければ文字は読めない。

 世界は滅んでも、太陽は輝いている。

 太陽は、いつだって世界の外側で輝いているものだ。

 人はそれを、当たり前と呼んだ。


 ~~~~~


 ある商人は、悩んでいた。

 彼は真実売れると確信していたとある名刀が、

 蓋を開けるとさっぱり売れないのだ。


 いやまあ、売れるには売れている。

 しかし、買い手がついても結局戻ってくるのだ。

 商人の手に戻ってくる、なんて変な呪いがある訳ではない。

 事実良さそうに見えて買うのだが、

 使ってみると不便だからと返される。


 ――名刀ではあるのだが、道具なんてそんな物か。


 昔は俺も憧れたんだがなぁ、なんて溜息すらもついてしまう。

 まあ……もしかすると、時間が流れているだけかもしれないのだが。

 商人にとってはもう無い故郷の名残であり、技術の粋を凝らした名刀だが……

 他の人にはそうは見えないと言うだけの話である。

 まあ、別に両立する話だ。


 澄み渡る青空に浮かぶ太陽が、じりじりと商人を照らしている。


 ――今日は、特に暑い。もう店仕舞いをしてしまおうか。


 晴れている空の代わりに少しだけ商人の心が曇った。

 しかし雨が降り始める前に聞こえた乾いた土を踏む音が、

 商人の意識を引き上げる。


 ――客は、見慣れない剣と槍を背負った、どこにでもいるような男のようだ。


「おや、新しいお客さんかい。色々置いているんだ、好きなものを……と」


 いつものように売り文句を言葉を口にして、

 どうやら客の視線が【無双の大太刀】に向いているらしいことに気が付いた。


「おや、それが気になるのかい? 良い目をしてるね、あんた」


 鬱陶しい太陽に焼かれていたところに、実に良い清涼剤が来たものだ。

 少しだけ気分が良くなった商人は、

 下がっていた気分のことも忘れて口を開く。


「それは、【無双の大太刀】と言って……」


 と。

 そこまで言って、客に言葉を止められた。

 なんとこの客、この太刀のことを知っているらしい。

 もっと言えば、この武器を求めて遠くからやってきたのだ、

 とまで言ってくれるではないか。


 その言葉に、商人はとても満足して頷いた。

 そうだろう、そうだろう、と。

 この武器は、本来そういう武器なのだ。

 世に二つとない……というのは、流石に大げさだが。

 それでも、早々には見かけることはできない名刀である。


 ――それでも……いやまあ、かなり不人気ではあるのだが。


「欠けず、曲がらず、よく切れる。重いけどね…… 買っていくかい?」


 そう聞くと、無口な客は金を取り出した。

 この大太刀の元の値段を知っているのか、と。

 そんな疑問が浮かぶような……

 或いは、どこかの戦いで大きな武勲を上げたような……

 そういうレベルの、まあ、あまり見かけない大金を取り出している。


「……へぇ、驚いた。ほんとに買うのか」


 むぅ、と。

 商人は内心で葛藤のうなりを上げた。

 ――はるばる太刀を買いに来てくれた客だ。心情的にも、太刀は売りたい。

 ――同時に、使いにくい武器を売るのもどうなのだ、とは感じてしまう。


「これが買えるなら、別の魔剣も見ていかないか?

 うちなら、他にもこんな魔剣を取り扱っていてね」


 そう言って、商人はゴソゴソと袋の中から幾つかの魔剣を取り出した。

 剣のような魔剣。

 槍のような魔剣。

 盾のような魔剣。


 小さな道具のような魔剣もあれば、

 耳飾りや首飾りなどのアクセサリーにしか見えない魔剣もある。

 魔剣とは、物語である。

 そして、便利なものでもあった。


「安くする……かはまあ、お客さん次第だけど。とりあえず、これなんかどうだい?」


 無口なあんたに合うんじゃないか、と。

 そんな事を考えながら、商人は魔剣を差し出した。


 ――そして客は、熱心に説明を聞いてくれる。


 なるほど。

 色々な意味で上客である。

 そう考えて商人は、客の顔を記憶した。

 あんまり特徴のない人だな、なんてことを考えながら。


 ~~~~~


「……この人、こんなことを考えていたんだ」


 読み手が入ることによって照らし出された物語の内容に、

 髪の長い少女は少し驚いていた。

 どうやら、彼女の予測は外れたらしい。


 しかし、それは当然のことだった。

 彼女は、あらゆる情報を統括して常に思考を先回りする。

 つまり統括する情報がない場合、先回りはできない。

 先回りしているように見えるからそういうだけで、

 彼女の性質を一言で言えば、本質的には「深掘り」が近い。


 その言葉を使うと、前に進めないような気がする。

 だから彼女が、意図的にそう言い換えているだけのことなのだ。


「これは……分かりませんでした」

「ですね。詐欺師の類だと予想していました」


 眼鏡の少女も、特徴のない少女も似たようなことを考えていたらしい。

 つまりどんな加護を与えたのかは分からないが、

 眼鏡の少女の加護は今回に限っては明確に「外れ」であるらしい。


「こっちには、罠は置けなかったみたいですね」


 豊満な少女が、少しだけおかしそうにそう言った。

 馬鹿にしている意図はない。

 ただ後ろを歩くと言う性質上、

 彼女は「落とし穴」に引っ掛かりにくいだけの話であった。


 もし馬鹿にしているように聞こえるのであれば、

 それはきっと何かのフィルターがかかっているに違いない。


「でも、別に良いんじゃないかな? 困って無さそうだし」


 幼い少女がそう締めて、少女は書き込まれていく文字に視線を落とした。

 どうやら、物語の中では二人の関係は良好らしい。


「そうみたいですね。今のうちに、部屋を片付けておきましょうか」

「ですね。やると言いましたし」


 眼鏡の少女と特徴のない少女は、そう言って席を立った。


「私はここで待ちますね」

「私も。話を聞きたいし」


 豊満な少女と幼い少女は、そう言って席を動かない。


「私もこっちにいるわ。あなたたちなら良いようにしてくれるでしょ」


 そして髪の長い少女は、席を動かなかった。


 人は往々にして、

 目的は同じ筈なのに、別の仮定を求めることがある。

 珍しい話ではない。


 ――帰る場所を作る。


 少なくとも少女たちの目的は、間違いなく一致していた。

 過程は違っていたとしても。

 そして少女たちは、それを「競争」と呼んだ。


 もしかすると、それは別の意味かもしれないが。

 そう呼ぶことが重要なのだと。

 彼女たちは、学んでいた。



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