【9話:不壊ではなく、結び直すもの】
【9話:不壊ではなく、結び直すもの】
物語に入った彼は、どうやら何かを探しているようだった。
すぐ戻ると言った割に、彼の動きは一定しない。
酒場や商店などをうろついている。
「……何を探しているんでしょうか?」
「分かりません。ですが、珍しいものではないのでしょう」
特徴のない少女は、彼の動きを目で追っていた。
眼鏡の少女も同じように。
彼が動くことで照らし出されていくのだが、
共通項は何もない。
それでも敢えて上げるなら、
人が多い場所に向かって動いている。
「人が多い場所にあるもの……」
「難しいですね。心当たりが多すぎます」
髪の長い少女と、豊満な症状が「むぅっ」と唸る。
幼い少女だけが、「ふぅん」と興味が無さそうに呟きながら、
静かに文字を眺めていた。
「気にならないの?」
「うん、別に」
髪の長い少女が、そう言った。
無邪気な少女は、そう答えた。
「だって、今聞いたらネタバレじゃん」
それは、本を用意した彼女らしい発言であった。
~~~~~
ある時の話だ。
鍛冶屋を営む男は、流れ者の幾つかの武器を背負った男に相談を受けた。
話を聞くと、何やら魔剣が壊れたそうなのだ。
見せてみろと言うと、確かに壊れている。
ただしこの魔剣、直し方が分からないと男は言うのだ。
本当に分かっていないのだろうか?
分かっていないのであれば、持ってこない気がするのだが。
鍛冶屋は、少しだけ訝しんだ。
ただまあ、受けた依頼ではある。
付き合ってやるかと頷いて、鍛冶屋は最初にこう聞いた。
――この魔剣、どんな効果を持ってるんだ?
男は答える。
――分からない。ただ、いきなり壊れたのだ。
次に、鍛冶屋はこう聞いた。
――つまり、お前は壊したつもりがないと。
男は答える。
――多分そうだ。でも壊れた。
最後に鍛冶屋は、呆れながらこう言った。
――お前さん…… わざとやってるのか?
男は答える。
――わざとじゃない。直したいから聞いた。
その言葉に、鍛冶屋は溜息を吐いた。
つまりこの男、この会話がしたかったらしい。
――使いたい奴に、直し方を聞いてみろ。ほら、商売の邪魔をするな。
~~~~~
そのやり取りの後、彼はすぐに本から出てきた。
そうして、見覚えのない剣を差し出した。
それは、彼女たちも見た事がなかった魔剣である。
――いつの間に、と不思議に思う。
――彼の魔法なら、とも同時に思う。
何にしても差し出されたその魔剣が、
先ほど鍛冶屋とやり取りしていた魔剣だろう。
壊れた刀身を持つ魔剣。
物語の中では見た目など語られていなかったが、そうに違いない。
「ねえ、これどういうこと?」
幼い少女だけが、素直に反応した。
そして彼は小さく笑って首を振る。
まるで、彼女には必要がないと言うように。
彼の視線は、特徴のない少女に向いていた。
「すみません、意図が分からず……」
少女は、少し気まずそうだった。
だから彼は、この魔剣の名前を告げた。
「【結び直すもの】……? それが、この魔剣の名前」
「もしかして、謎かけ?」
特徴のない少女は、告げられた魔剣の名前を反芻した。
髪の長い少女は、問われた理由が分からず彼にそう問いかける。
しかし彼は少し考えて、首を振った。
どうやら、謎かけではないらしい。
「この魔剣は、物語の中では最初から壊れていた。そして、鍛冶屋の反応。つまりこれは、物語の中では壊れていましたが、直せるものです」
それが分からないから困っているのだ、と。
みんなは呆れて眼鏡の少女を見た。
「使いたい奴に、直し方を聞いてみろ、と言っていたわ」
豊満な少女がそう言って、彼は頷く。
そして、改めて魔剣を差し出した。
つまり、直し方を聞かれているということだ。
「ねえねえ、私には要らないってどういうこと?」
幼い少女はそう言った。
なぜ自分は他と違うのか、イマイチ納得できていないらしい。
その言葉に、彼は静かに口を開いた。
壊れていないのだから、彼女には直せない。
そういうものだと言っている。
「むぅ……」
しかし、どうやら分からなかったらしい。
そんな様子に、彼は笑った。
そして、短く魔剣の警句を告げた。
――友情とは、壊れても直せるものである。
目を見開いた少女たちと彼は、言葉を交わした。
どんな言葉を交わしたのかは、物語には記されていないが。
この魔剣は直った、とは記されている。
修理に必要なのは、言葉であった。
少女たちは、いつも少しだけ早すぎる。
だから彼は、いつも少しだけ遅いのだろう。




