第9話 助っ人(猫)さん、キレイなモノを拾ってくる
考えさせてくださいと言ったものの、輝きを保ち続けられる物なんてそう簡単に見つかるものじゃない。
ましてアイゼルクラスの永続的な明るさを参考にされたら、生半可なものじゃ――などと考えを巡らせていたら何も始まらないよな。
「え~と、サシャさん。その輝くモノはどれくらいお求めなのですか?」
「……ん? あぁ、そうだね。沢山あればあるほど嬉しいかもしれないが、大事なのは気持ちが込められているかどうか……うん、そういうモノなら贅沢は言わないさ」
さらに条件が厳しくなったような?
量よりも質って意味だろうけど、結局はそこにいきつく。よりいい品物を手にしたいと思うのは当然だろうが、初めてのお客様で早くもそれを求められるとは。
しかし、俺も商人として中途半端な覚悟で挑むわけにはいかない。魔導師ルーナが課した試練に挑みながらこの世界で生きていかなければならないのだから。
それと、もっとも重要なのはコムギさんと共に旅をし続けることだ。
「分かりました。それでは、私は今からお求めの商品を確保しに行ってまいります! サシャさんはこの場でお待ちいただくか、拠点マーケットを歩き回っていただいても構いません」
こうなれば、魔導幌馬車の亜空間倉庫を思いきり活用させてもらう。
「あ、あぁ……」
「それでは、私は商品を調達しに行ってまいります!」
俺はサシャさんに頭を下げ、魔導幌馬車の中の亜空間倉庫に入って探しに行くことに。
「――え? ちょっとあんた! 幌馬車に入っていってどうするん……い、いない!? 荷台も空っぽ……一体どこに行ったっていうのさ」
ルーナさんに初めて使い方を聞いた時はまだ中に進むことは叶わなかった。いくら恩恵スキルがあっても、目的がはっきりしていない状態ではスキル不十分とされて行けなかったからだ。
おおっ、先の方に行けるようになってる!
少し手を伸ばしてみると全然別の空間に通じていて、まるで水面の揺らぎのように空間が揺れたかと思えば、目に映る光景はどこかの工場の倉庫のように見えている。
ルーナさんによると、亜空間はあくまで想像上の空間。俺が行きたいと願う倉庫も想像した場所に限られるという。
……とはいえ、希望すれば過去世界にも行けるし、そうじゃない場所にも行けるという話だった。
亜空間倉庫は自動化された無人倉庫かつ無人の店舗のようなもので、わざわざ人を介して交渉する必要はなく、物をいつでも取り出せたり送ってもらうことも可能だ。
ルーナさんは初めだけは倉庫に入るような感覚で商品を探すことから始められては? と言っていた。
慣れてきたら自分が使いやすいようにお店のようにしてもいいし、単なる倉庫の収納棚という形にしてもいいという。
……えっと、サシャさんが求めている物に近い商品は多分――。
「むむぅ……。参ったね、まさか人間が消えてしまうなんて。かと言って、商人さんの幌馬車に勝手に入るわけにもいかないだろうし、他の者を呼んだとてどうすることも……」
「ニャウゥ~?」
トージが亜空間倉庫に入っている頃、外に取り残されたサシャはどういう状況なのか理解出来ずその場に留まっていた。
そこに現れたのは一匹の猫で、しかもサシャに話しかけるかのようにすり寄っていた。
「……ん? 君はトージの猫さんかな?」
「ウニャゥ……ウニャウニャ」
「うんうん、初めましてだねコムギさん。あたしはサシャさ! 早速で悪いけど、コムギさんにお願いしたいんだが、トージを呼んできてくれないか? 幌馬車に入ったっきり出てこないんだ。ここで待ってていいものかどうか分からないのでね」
そう言うと、サシャは困惑顔で幌馬車を眺めてみせる。
「ニャウ!」
「うん、頼むよ」
サシャの言葉を理解した猫は、幌馬車に飛び乗ってそのまま中へと進んで行く。
「うう~ん……どうしても届かないな。目に見える全ての空間を歩けるわけじゃないのか。奥に入っているアレが欲しいのに……」
目に見える倉庫空間に足を踏み入れた俺は、思い当たる物に手を伸ばし探していた。だが、スキル的なものが不足しているのか奥にある棚から箱を落としてしまっていた。
しかも落として散らばった物に手が届かず、欲しい物を拾うことすら出来ずにいる。
う~ん、一度外に戻ってみるか?
亜空間倉庫の具体的な使い方は訊いていなかったが、何となく通販倉庫の注文方法のようなイメージを浮かべていた。それだけにこの手こずりは想定外だった。
まだ稼ぎも無ければスキルも成長してないから仕方がないかもだけど。
「ウニャ~!」
「……あれっ? コムギさんの声?」
アイゼルクラスに着いてすぐに別行動をとっていたはずのコムギさんの声が、どこからともなく聞こえてくる。
もしかして見かねて探しにきてくれたんだろうか……などと思っていたら、コムギさんは俺がいるところを通り過ぎ、奥に散らばっている物を口に入れて俺のところに戻ってくる。
「ニャッ!」
「あ、ありがとう、コムギさん」
コムギさんの口に含まれていたのは丸くて小さいビー玉で、色がついたものは角度によっては光って見える。
俺が思い浮かべていたイメージは当初ガラス玉の方だった。しかし、奥に見えたビー玉の方が希望に近いのではないかと考え直した。
考え直して手を伸ばした結果が散らばしだったが、俺の優柔不断で空間が歪んでしまい、奥に行けなかった可能性が高い。
「ビー玉。俺が欲しいのはビー玉!」
俺の決定が固まったのが合図だったかのように歪んだ空間が正常に戻り、倉庫の端の方まで進めるようになった。
この間に俺は箱からこぼしてしまったビー玉をまとめて箱に入れ、それをそのまま持ち運んでこの場を後にした。
「ふぅっ、お待たせいたしました!」
魔導幌馬車から外に出ると、石の上に座っていたサシャさんが目を丸くしながら俺の突然の姿に驚いていた。
「……むぅ。まるで魔法だね。だけど商人の秘密を暴く趣味はないし、聞かないでおくよ」
「あ、ありがとうございます」
「礼ならコムギさんに言っときなよ! あんたを心配して幌馬車に入っていったんだからね」
「えっ? コムギさんが?」
近くを探すも、さっきまで一緒にいたはずのコムギさんがまたしてもどこかにいなくなっていた。
「フフッ、あの子は照れ屋さんだろうね。それでいて中々厳しそうな子だね」
「そ、そうですね」
もしかしたら、あくまで初回だけのサービスで助っ人してくれたのかもしれないな。
でも、おかげで品物が手に入った。
これがサシャさんが求めるものであればきっと上手くいくはず。