果てなき砂漠と灼熱の地へ
「うわっ!? ぺっぺっ、蜘蛛の巣が顔に!!」
ミネット村の猫たちによる導きでコムギさんと俺は秘密の道へと進んだ――のだが、猫のコムギさんには何の支障もないが人間の俺にはかなり難易度が高く、ほふく前進をしながら苦戦しまくっている。
「トージは私の尻尾だけに集中してついてきてほしいニャ」
コムギさんは自然の何かと戦う俺を気にかけてくれてはいるものの、出来れば顔を上げずに前に進んでほしいとお願いされたので、俺は土に顔をこすりつけそうなぎりぎりの位置を保ちながら前進中だ。
それにしても、コムギさんに対する村の白猫たちの反応は彼女が思っていたのとはまるで逆だった。
ムギヤマ・トージとしてこの世界に来てまだ日は浅いが、確実に分かったことといえば、この魔導世界は基本的に猫を中心に動いているということだ。もちろん猫好きの俺にとって幸せなことこの上ないが。
まだ見知らぬ場所だらけではあるが、猫のコムギさんと一緒ならこの先も楽しく生きていけそうな気がしてならない。
「トージ~! 遅いぞ~。後ろがつかえてるから急げ~」
……と、今までならコムギさんだけを考えれば良かった俺だが、今では一緒に行動する味方が増えた。
しかも俺とコムギさんのように常に一緒にいない存在が。
「ふふ、我としても楽しみで仕方がない。外を出歩くことがこんなにも楽しいとは夢にも思わなかったからな!」
……などなど、コムギさんを先頭に大木の穴に入って進むと、後ろから聞こえてきたのは追いかけてきたクウとレイモンの声だった。
クウとレイモンはそれぞれ自由に動いていてどこにいるのか分からなかったが、面白そうな気配には気づくのか、ミネット村の猫たちのにゃーにゃーとした制止を振り切って穴の道へと進んできてしまった。
コムギさんが先を歩いているのは白猫たちの先導もあってしばらく気づいてなかったが、クウたちの気配に気付いてからは勢いよく先へ先へと進んでいる。
「クウはともかくレイモンまでついてくるなんて、もしかしてこれから先も一緒に行動するつもりですか?」
ほふく前進で後ろのレイモンは見えないが、一応彼女の意思を訊いてみなければ。
「む? 当然だぞ。我はすでにトージの世話になっている。もう地下で過ごすのも飽きたというのもあるが、我が共に行動することでコムギの負担を減らせるのではないかと思ってそうしたまで。トージは我が嫌いか?」
世話をした覚えはないが、彼女の言う世話は部屋を繋げたという意味だ。本人は大胆な行動に自覚はないようだが、人目を避けて長く生きているせいか外をほとんど知らない。そう考えると俺が面倒を見るしかないみたいだ。
何より、コムギさんを古くから知るエルフでもあるうえ力のある魔導師でもあるので、今後頼ることも増えるかもしれない。
「嫌いなんて、そんなの思ったことありませんよ」
「そうだぞ~。トージは単純だけど嫌なものには嫌というおじさんだぞ」
……おじさんは余計だよ。
「うむ! 我もトージが大好きだ! これからもよろしく頼む!」
「おいらもいるぞ~」
そうは言ってるが、クウは途中でどこかにいなくなるしレイモンもその習性があるからあまり深く考えちゃ駄目なんだろうな。
「トージ。光が見えてきたニャ! もうすぐ外かもしれないニャ」
「おっ! 光が差し込んでいるね。そうか、どこかに出られるんだ」
「ニャニャ……? 何だか歩きづらくなってきたニャ……」
今までこの世界での移動は魔導車という便利すぎる乗り物に頼りきっていた。だが、こうして大好きな猫さんと自分の足で新しい場所に行けるのはこの世界で生きているという感じがしてとても楽しく思える。
……体力的な問題はあるが、そこは自分で何とかするしかない。
「トージ! 先に出て外の様子を見てくるニャ。トージはココアを見ててニャ~」
「分かったよ、コムギさん!」
猫だけに許された魔導師レイモンの呼び名はあの飲み物を思い出してしまうが、この世界にもあるのだろうか。
「トージ。おいらも外に出るぞ~!」
「えっ? あっ……」
俺の後ろをついてきていたクウが俺の背中に乗った感触を感じた――かと思えば、俺の頭を飛び越えてあっさり追い越していく。
追い越そうと思えばいつでも追い越せたわけだ。
「ふふ。あの男の子はとても優しいのだな」
「……そうだと思います」
恐らくレイモンを置いて行かないようにわざと俺の後ろをゆっくりと歩いていたはず。そうじゃなきゃ、とっくに先に行っててもおかしくない。
「時に、トージよ」
「はい?」
「この先はとても体力を奪う大地のはずだから、我をおんぶして進んでもらえるか?」
「へ? レイモンはこの先に何があるのか知ってるんですか?」
そういや、レイモンの村が廃村になるまでは外にいたんだったな。その時代に外にいたならこの世界のことを知っていてもおかしくはないか。
「我の記憶が正しければこの先はとても足を取られるうえ、喉が渇き、どこまでが果てなのか錯覚する場所だと記憶している。しかもたどり着いたとしても面倒な奴が――とにかく、我をおんぶしてほしい」
「は、はぁ」
正確な年齢を聞くつもりはないが古老のエルフでしかも綺麗な女性だ。素直に言うことを聞いておいた方がいいだろうな。
コムギさんもレイモンに対しては放置というか、放任だろうから俺が世話をするしかないというか。
「トージ~まだか~? 外は何もないぞ~。早く出てこ~い」
外に出たらレイモンをおんぶすることが決まっているのはともかくとして、どうやらこのまま外に出ても問題ないようで、クウの急かす声が聞こえてくる。
「猫たちが待っているのでこのまま外に出ますよ」
「うむ。期待している」
……何を期待してるのかは聞くまい。
ほふく前進でひたすら進んで外に出た直後、上空からは強い日差しが降り注いでいて、汗が一気に出てきた。
「あ、あつっ……!? す、砂?」
今までひんやりとした土に手をつけてきたのに、外に出たら一面砂だらけで、手の平で感じた砂がとんでもなく熱く、そのせいですぐに立ち上がることになった。
「んんん~! ようやく体を伸ばせるな! ん? どうした、トージ」
俺の動揺とは別に、続いて外に出てきたレイモンが思い切り体を伸ばしている。
「ここって砂漠ですよね?」
「我の記憶は間違っていなかったな! 歩きづらく、果てしない……その通りだったな!」
……なるほど。分かりづらかったが、外がどんな場所なのかを教えてくれていたのか。
「トージ! 大丈夫ニャ?」
「あぁぁ~コムギさん……砂が凄いね」
「ウニャ。素早く歩かないと足が焼けそうになるニャ……」
やっぱり猫の方が直にくるから大変だよな。すでに暑いし喉も渇くし、日陰になりそうなところを探さないと。
「さぁ、トージ! 我をよろしく頼む!!」
「え、あ~……」
「ニャ?」




