コムギさん、激怒する!?
レイモンのこの反応、やはりクウとコムギさんに食事を与えてお昼寝をさせるつもりだったか。
しかし悪巧みというつもりではなく、あくまで俺と異世界転移したいがための狙いがあっただけに思える。
「コムギさん。ごちそうはどうだったの?」
レイモンが悪い魔導師じゃないのは何となく分かるので、まずはコムギさんの状態を訊くことにする。
「ニャ? ココアが用意してくれたみたいだけど、ほとんど残ってなかったニャ」
「クウくんが食べきっちゃったのか~。ちなみにクウくんは?」
「満足したみたいでぐっすり眠っちゃってるニャ。私は残ってたサーモンを少しだけかじっただけだニャ」
「お腹は空いてなかったんだ?」
「トージが出してくれたおやつを食べちゃってたからニャ~」
なるほどね。即席おやつは相当に満足させたんだ。
それに食べ物自体に何か効果が含まれているわけじゃなくて、満腹になれば自然と眠くなるのを見越しての思惑があったんだろうな。
「むむむ……」
「コムギさんが眠っていなかったどころか、食べていなかったのは想定外でしたね?」
「う、うむ」
「なんのことニャ?」
コムギさんがバツの悪そうなレイモンに気づいたようで、首を傾げている。
「我に悪気などなかった。だが、すまなかった。コムギ」
「ニャ?」
レイモンはクウはともかく、コムギさんに隠し事をしようとしていたのは反省してるようで、訳の分からないコムギさんに向かって頭を下げた。
しかしコムギさんは全く分からないようで、頭を下げるレイモンを見ながら俺が代わりに理由を教えてあげることにした。
「コムギさん。実はレイモンは――」
「ふんふん……?」
俺の言葉にコムギさんは耳をぴくぴくと動かしながら聞いてくれたが、彼女の尻尾が激しく左右に振られたりして、結構怒っているように思えた。
「私がいない間にトージを連れて日本に転移だなんて、ココアらしくないニャ。お部屋に置いてあるものは確かに古くて壊れかけてるように見えたニャ。だけど、ココアは何も分かってないニャ!」
「む、むぅ……すまない、コムギ」
「そうじゃないのニャ! トージ! トージもダメダメなのニャ!!」
「ええっ? お、俺も?」
俺もはっきりと断ってなかったからそのことだろうか。
「だってそうニャ! どうしてスキルのことを教えてあげないのニャ? トージのスキルを使えば、別にトージのいた場所に行かなくて済む話ニャ!」
「――あ。う、うん……」
レストアスキルのことを忘れていたわけじゃなかったが、スキルを使うとコムギさんの体力が奪われるのがどうしても気になって、スキルを使うという考えが頭から完全に離れていた。
それと、あとは単純にコムギさんを置いて行きたくないとか、転移して帰って来れるのかとかを心配しすぎたのもあった。
エルフの女性に間近で迫られたのもなかっただけに、精神が緊張状態にあったかもしれない。
「トージが私を大事にしてくれてるのは分かってるし、嬉しいことには変わりないのニャ。だけど、使えるスキルを使わずに私を置いて行くかもしれなかったのを考えたら何だかとても腹が立ったニャ!! フゥゥ―!!」
「あうぅっ、ご、ごめん……ごめんね、コムギさん」
かなりの興奮状態で怒りを露わにするコムギさんが俺に相当怒っている。俺に対しこんなに怒ってくるコムギさんは初めてかも。やっぱりちょっとの迷いを生じさせたのは大間違いだった。
「すまなかった、コムギ。トージは何も悪くないんだ」
「ウウニャ……」
「我は自分のことしか考えていなかった。本当にすまない……」
俺以上にレイモンはずっと頭を下げていて、かなり頭を抱えている。こうなると俺もさっさと宝石を出してあげるべきだったな。
「ニャゥ……も、もういいニャ。ココアも私を騙そうとしてたわけじゃないのは分かってるニャ」
「う、うむ」
「トージ。トージもごめんニャ……」
コムギさんは自分が怒りで興奮したことを恥と思ってしまったのか、俺とレイモンに対しかなり落ち込んでいる。
コムギさんは出来た猫さんだとつくづく思ってしまった。
「ふわぁぁ~……よく寝たぞ~! あれ? いたのかトージ~」
コムギさんとレイモンが頭を下げて静まる中、昼寝から目覚めてきたクウが顔を見せた。
「よく眠れたみたいだね」
「たっぷり美味しいのを食べて寝たら元気になったぞ~」
食事自体に回復効果でもあったのでは?
「……クウはお気楽で羨ましいニャ」
「ん~? コムギは何かあったのか~? その魔導師からは悪い気配は感じないから、許してやれ~」
「そんなの分かってるニャ! ココアは昔馴染みニャ」
コムギさんは聖なる力の猫だけど、クウにも似た力があるんだろうか。
「トージ。コムギの言うお前のスキルを我に見せてくれないか?」
ようやくレイモンも落ち着いたようだ。
「そうですね。その前にこれをお返ししますよ」
俺はそう言って、レイモンにアレキサンドライトという宝石を見せた。
「――!? そ、それは我の宝石! トージ、いつの間に……!!」
「いやぁ、それを見つけたのはコムギさ――」
「――トージっ!! 好きだ、大好きだぞ!!」
「うぉえっ!? ちょ、ちょっと、レイモン?」
宝石を見せただけなのに、レイモンが俺に抱きついてきた。
「……フゥゥ!! 何なのニャ! 腹が立つのニャ!!」




