魔導師レイモンと導かれの猫
魔導師ココア・レイモン――レイモンか。魅力的なエルフの女性であることに間違いはないのだが、どこかで聞いたことがある名前のような気がする。
しかしよく思い出せない。
「魔導師レイモン。いえ、ココアさん。失礼なことを言いますが、俺とどこかで会ってます?」
「む? 我とトージがか?」
「いや、気のせいだったらすみません」
向こうの世界で会ったことがあったとしても、女性よりも猫に夢中だったから覚えてるとかはないが、何とも懐かしい感じを受ける。
部屋に日本の物が置かれているからかもしれないが、何となくそんな気がした。
「……ふむ。直接的な出会いは――」
「――あ、ありますか?」
「あぁ、そうだ。もしや、これかもしれぬな」
出会いの手がかりになるものがあるのだろうか。
「ムギヤマ・トージ。我は落とし物をずっと預かっていた」
そう言うと、魔導師レイモンはパーカーのポケットに手を入れて、厚めの紙切れのようなものを俺に手渡してくる。
「うっ!? こ、これは!」
「猫猫スタンプカード。ふふ、常連カードというものだな。のぅ、コムギ」
「ニャフフ~」
まさか、ここでそれに出合うのか。こっちに来てから失くしてしまったと思っていたのにまさかの。
スタンプは経年劣化ですでに消えてしまっているものの、俺の名前は消えてないし【推し猫:コムギ】という表記も消えてない。
何とも懐かしいが同時に恥ずかしい気持ちになる。
「それと、我のことはレイモンで構わぬよ。ちなみにココアという名は、猫たちにはそう呼ばせているが……」
「……なるほど。では、俺はレイモンと呼びましょう」
「おぬしとの出会いという意味が分かったかの?」
「はい、よ~く」
そういえばコムギさんがすでに彼女に馴染んでる――というより、以前から知っているような感じがある。
「ところでコムギさん――」
「――トージ。私はココアのおかげで日本に行けちゃったし、トージにも出会えたのニャ。私がルーナと口喧嘩していなければ会えなかったのニャ」
コムギさんは家出しがちだったとか言ってたな。
「そっか。じゃあコムギさんがレイモンに導かれなければ、俺とは出会えなかったんだね」
「ニャゥ」
「そういうことだったんだ」
そう考えると恩人だし、運命を引き合わせてくれたということになる。
「……コムギ。我はトージとこれから長い話をする。コムギは隣の部屋で食事をとって、クウとともにゆっくり休みなさい」
「分かったニャ! トージ、また後でニャ~」
食事か。確かクウもいて先に食べてるんだったよな。
そういえば今更だけど、レイモン廃村ってレイモンの村とか?
「レイモンさんはあの村、今は廃村ですがそこの出身ですか?」
「うむ。かつてあの村を拠点に活動していた。正確には、元だがな」
レイモン廃村は、魔物がはびこっていて近づく人間はほとんどいない。しかし、俺はあの場所の近くに招かれて転移してきた。
そんな廃村の名前となっている人が俺に会いたがっていたということは、重要なことを俺に話したがってる気がする。
「俺に話が?」
「おぬし、これまで何度となく、向こうの世界に帰るかどうかの選択を迫られたことはあるか?」
「ありますが、全て断っています」
日本へ帰るよりもコムギさんを選んだのは今でも本当に良かったと思ってるし、今後も帰る選択はないだろうな。
「ふむ、そうだろう。コムギも同じことを言っていた」
「そうですよね!」
やはりコムギさんは運命的な猫さんだった。
「……時に。我が集めたコレクションについて、トージはどう思った?」
「へ? コレクション?」
「部屋のあちこちに置いてある」
ここに到達するまでに見たものといえば、ちょっと前いや、昔の日本の物の数々のはず。
コレクションということはかき集めていたということか。
「こたつとか、タンスとかですか? 懐かしいなと思いましたよ。少し前の物ばかりだったので」
「……ふむ」
「もしかして、廃村から日本へ行ってたんですか?」
「当時は割と行っていた。今の魔導師たちと違い、ちょっとした旅行で転移していた。思えばそれが磁場を強くして、廃村につながったのかもしれぬが……」
俺には分からないが、レイモンは他の魔導師よりも相当に力があってそれを惜しげもなく使いまくっていた感じなのかも。
「トージ。我からお願いがあるんだが……」
この流れ、何となく予感がする。
「な、何でしょう?」
「我と一緒に日本に転移してほしい! このままでは道具が壊れて使い物にならなくなる。その前に新たな道具を買いに行きたいのだ! トージ、お願いだ!」
ああ、やはり。
一緒に買い物に行くために日本に転移するとか、う~ん。




