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第6話 ひとりでも大丈夫?(と言われてる気がした

「幌馬車の亜空間倉庫についてですが、麦山さん。荷台を確かめてみてくれませんか?」


 コムギさんをどうするか問題については、幌馬車の大改造を終えてから話をしましょう……ということになった。


 そして今、魔導師ルーナさんの施し処置が終わったとかでお試しで幌馬車の中を覗いている。


「……えっと、荷台のまま何も変わってないように見えるんですが……」

「ええ。()()()()ではただの荷台ですね。まずはどこでもいいので触れてみてください。そうすれば所有者と認められ、刻まれるはずです」


 ルーナさんが何を言っているのかいまいち理解出来ないまま、適当なところに手を触れる。


「――あれ? えっ……?」


 さっきまでただの荷台だったはずなのに、自分の目の前に見えている光景は日本にある某巨大倉庫で、所狭しと動く作業員の姿だった。


 実際そこにいるでもなさそうで邪魔にはなっていないものの、一歩でも前に出ればすぐに交渉が出来そうな、そんな光景に見える。


 俺はすぐさま顔を引っ込め、外にいるルーナさんに口パクと身振り手振りで驚きを伝えた。


「よかったです! やはりコムギによって、こちらの世界とそちらの世界が一時的に繋がりを持てているみたいですね」

「――というと?」

「麦山さんとコムギが異世界同士を結んだって話です」

「え、じゃあ日本に帰れるってことですか?」


 でも、もし帰れるとしても猫カフェにコムギさんが戻るわけじゃないだろうし、車検の後の支払いとか色々問題があるんだよなぁ。


 向こうに帰っても特に楽しみなんてないといえばないし、誰も俺の帰りを待つ人なんて――なんて考えたらきりがない。


「残念ながら麦山さんがいた世界に長くいることは叶わず、滞在も出来ません。その代わり、幌馬車の亜空間倉庫……倉庫だけでしたら向こうの方とのやり取りが可能です」


 商売に限ってだったら空間が自由に繋がるって意味か。


 そうなると今いる世界で誰も見たことのない商品で商売が出来たら、それほど楽しみなことはないよな。


「どういうことなのか、大体分かりました。こっちの世界に招かれたうえで、こちらの世界でも商売がしたいと思ったので、今さら向こうに帰りたい思いはありませんよ」


 ……コムギさんもいるし。


「麦山さんの決意が固いのは分かりました。さて、商売のお話をしましょう!」

「え? 商売ですか?」


 幌馬車の亜空間倉庫はもういいのだろうか?


「麦山さん。麦山さんは確か、猫カフェというお店でコムギにお金を払っていましたよね?」


 正確にはお店に、だけど同じようなものか。


「そ、そうですね」

「そこで提案なのですけど、こうしましょう! 麦山さんを魔物などから狙われないようにする護衛役としてコムギを同行させます。ただし、コムギは麦山さんの猫ではありませんので時間制で代金を支払い続ける前提で!」


 うわ……予感はしてたけど、やっぱりお金が絡んでくるんだ。この場合、コムギさんはレンタル猫になるんだろうか。


 それに、コムギさんと気持ちが通じ合っていると感じたのは俺の勘違い?


「え、しかし……」

「麦山さんはコムギの恩恵を受けながら商売を続けていく……これなら、やり甲斐もあるのではありませんか?」

「やり甲斐、それとこっちで生きていく生き甲斐……そう考えれば確かにそうなりますが……」


 理屈では分かっているけど、面と向かって言われると流石にへこんでしまう。


「……なるほど。コムギ! こっちへいらっしゃい」

「えっ」


 ルーナさんの声を聞いたコムギさんが、家の中から駆けてきてルーナさんのそばにちょこんと座った。


「コムギに何か言いたいことがあるんじゃありませんか?」

「それは……」

「大丈夫ですよ。コムギはきちんと麦山さんの言葉を理解していますから」


 俺の推し猫だっただけのコムギさんが、言葉を理解して何を伝えてくれるのだろうか。


 対する俺は素直に伝えるだけだ。


「コムギさん。ええと、俺をこの世界に招いてくれてありがとう! これからはコムギさんに守ってもらいながら旅を続けることになると思うけど、改めてよろしくお願いします!」

「ふふっ、ストレートなお気持ちですね」

「ど、どうもです」


 元々キッチンカーで商売してた時からずっと一人でやってきたんだ。推しのコムギさんが異世界でそばにいてくれたからって、タダでずっと一緒にいてもらうとか甘えが過ぎるってものだよな。


 考えてみれば異世界に来てからコムギさんを頼りすぎていたし、ただの一度も俺の考えを伝えずにいた。それに、向こうの世界でも人間関係から解放されたくて一人で移動販売していたし、結局のところ原点に戻るだけなんだ。


 変わるといえば、完全にぼっちだったのがそうじゃなくなるって点くらい。


(ひとりでも大丈夫? でも、心配しないで。これからは時間のままにトージを守ってあげる)


「えっ? コ、コムギさん、俺に話しかけ……てないですね?」


 コムギさんを見ると俺をじっと見つめてはいるものの、あくびをして退屈そうにしているだけで特に変わった様子は見られない。


 多分、俺の希望と願望と憶測がそう聞こえさせたんだろうな、きっと。


 ……気のせいだったみたいだ。


「いいえ、麦山さんのお気持ちが伝わったんですよ、きっと」

「そ、そうですよね」

 

 飼い主で魔導師のルーナさんにはコムギさんの声や気持ちが聞こえているのかもしれないが、そうだとしてもいい方に考えるしかなさそう。


 それにここでお別れじゃなくて、時間制で一緒に旅をすることになるわけだし。


「それでは、さらに具体的にお話を進めることにしましょう!」

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