コムギさん、誇り高き猫のプライドを見せる?
「もしかして、コムギさんは初めからクウくんのことが分かってたの?」
「ニャフフ。当然なのニャ!」
猫同士何か通じるものがあってもおかしくないか。人間になれるのはいいとしても人間のニオイが、とか言ってたしやっぱり心配だな。
「とにかく、彼が心配だし外に行こう!」
「仕方ないニャ~……ウウニャ」
「よし、それじゃあ……んん? コムギさん、何かな?」
部屋のドアを開けて外へ出ようとすると、コムギさんがズボンの裾に爪を引っかけている。
コムギさんはとても可愛い猫さんだけど、今まであからさまな甘え方はしてこなかった。そんな猫さんが裾に爪を引っかけて無言で訴えてくるなんて、俺が外に行くことに何か不満でもあるのだろうか。
「……抱っこして欲しいニャ」
「抱っ――!」
なんというおねだり!
あまり抱っこが好きじゃないコムギさんの方から俺におねだりをしてくるなんて、どういう心境の変化があったんだろう?
しかしこんな機会は滅多にないし、とにかく抱っこしてあげないと。幸いにして落ち着いた状態だ。
まずはコムギさんの後ろに回って、両脇に片手を入れながらゆっくりと持ち上げ、あとはお尻を支えながら抱き上げ、俺の体に引き寄せて密着させれば。
「フニャゥ」
……良かった、正解だった。
「え、えっと、このまま外に出ればいいのかな?」
「ウニャ」
いつもの言葉を話さないということは、愛猫として外に出してほしいってことみたいだ。
――ということで、村の人が集まりやすい宿屋近くに足を運ぶと、そこには一人の少年が村の人たちに囲まれ、話をしているのが見える。
「もしかして彼がクウくんなのかな」
「ニャ~」
コムギさんは頑なに言葉を使ってくれず、単なる猫鳴きしかしてくれない。そんなコムギさんを抱っこしながら彼に近づいた。
「あ! トージだ! このトージがおいらを居候させてくれるおじさんなんだぞ。だから、おいらを信じて欲しいぞ~」
居候?
ああ、そうか。メルバ漁村は人が少ない村。そこにいきなり少年が現れたら、怪しまないわけがない。
それで囲まれているのか。
「トージ。この子の言うことは本当か?」
「ん~まぁ、そうなりますね」
「そうなのか。いきなりお前さんの家から出てきたから、てっきり泥棒かと思って取り囲んでしまったんだが、そうか居候なのか」
コムギさんと俺が岩山の部屋で暮らしてることは周知の事実。
だが、猫はともかく人間の子供がいきなり出てきたら、漁村の人間が警戒するのは仕方がない話かもしれない。
ここの漁村は外からの訪問者に目を光らせているし、無理もない話だ。
「お~お~、コムギさんは相変わらず可愛い美人さんだな。抱っこされて出てくるなんて、本当に可愛い猫だな!」
「ありがとうございます。コムギさんは本当に美人さんなんですよ~」
「ニャ~」
「おぅおぅ……猫はいい! 実にいい!」
などなど、この漁村の人は猫に優しくしてくれる。村の中心にある宿屋に猫さんを置いているだけあって、守り神かなにかだと思っているせいもあるかもしれない。
「……ここは猫を歓迎する村なのか~?」
「そうだ。冷たい対応をしておいて悪いが、ここは猫神のおかげで栄えた漁村。無論、人間の少年よりもな!」
「そ、そうだったのか……おいら、そうと知ってたら人間に化けることなんてなかったのに……」
人間に化ける能力で打ち解けようとしていたっぽいが、猫のままで良かったんだな。
「ん? ……なんだって? お前さん、人間じゃないんじゃあるまいな?」
「どうした、どうした? まさか魔物か?」
やばいな、クウが疑われ始めている。
「しょうがないニャ……」
「え?」
いつもの言葉を話したと思ったら、コムギさんが俺の胸元から飛び跳ねて囲まれているクウのところに近づいた。
「ニャニャニャニャ! ニャニャ!!」
……などと、クウを守る感じで漁村の人々を威嚇し始めた。
「お、お前……何でその姿でおいらを?」
「ニャニャ!! フゥゥ……!」
クウが動揺を見せる中、コムギさんは一歩も引かずにクウを守ろうとしている。
「お、おい、トージ……どうしてこの子は怒ってるんだ?」
「なぜコムギさんがわしたちに牙を向ける?」
「えっと、その少年からは悪い気配は感じられない……だから、取り囲むのは許せない――と言ってると思います」
「なんだ、そうなのか」
「それはすまなかったな。トージとコムギさんがそう言うなら間違いないんだろ。悪かったな、少年」
コムギさんの威圧と俺の言葉で、漁村の人々はすぐにこの場から引いて宿屋の中や、酒場へと入っていく。
この場に残ったのは俺とコムギさん、クウだけになったのでクウの手を引いて部屋へと連れ帰ることにした。
「ごめんよ、コムギ、トージ。おいら、人間の姿なら簡単だと思ってたんだ。だけど、おいらはまだまだ未熟だった」
クウはそう言ってすっかり落ち込んでいる。
そんな彼の言葉を聞いて、コムギさんはなぜか俺を見つめながら――
「トージはどう思ってるのニャ?」
「え? どうって、人間の姿に化けること?」
コムギさんは無言で頷いている。
「それはどうだろうね、人間だからって警戒を持たれないかというとそうじゃない時があるし、クウくんがしたことが間違っていたとも言えないし……ただ、メルバ漁村は外から来た人間に警戒してたから今回は仕方なかったんじゃないかな」
俺とコムギさんが初めてメルバ漁村に来たときも俺に警戒してたし、辺境なりのルールがあったというかなんというか。
「だから、クウくんは悪くないよ」
「本当か? おいら、人間に化けても怒られないか?」
「そうだね、今度は俺と一緒に外に出て村を歩けば、すぐに馴染むと思うよ」
「分かった。そうする! トージと一緒に歩く!」
「うんうん」
素直に返事をしてくれたので、人間姿のクウの頭を軽く撫でてあげた。
「よ、よせやい。そういうのは猫の時に撫でておくれよ!」
そう言ってクウは照れてみせた。
「……ところでトージ」
「何かな、コムギさん」
「私も人間になれるって言ったら、トージはどっちがいいのニャ?」
「え?」
まさかのコムギさんも人になれる?
いや、力のある猫さんなんだからなれない方がおかしい話だ。しかし獣人の姿にすらなったことがないコムギさんが人間の、それも女性の姿になるとすると俺はどっちを選ぶ?
そんなのは決まっている。
「もちろん、俺は……」
ここで選択肢を間違えばコムギさんが家出するかもしれない。でも俺の答えは決まってる。
俺が選ぶのは――
「――私は誇り高き猫なのニャ! 一時的にご主人様を喜ばす真似をするつもりがないニャ。だからトージにはこれからも今の私をたくさん可愛がってほしいニャ~」




