第48話 トージ、シルバー王公認の商人になる
わわわっ!
もふっ……も、もふもふが目の前に。
いつものコムギさんに戻ったようで、コムギさんが俺の顔をめがけてダイブしてきた。そのもふもふっぷりは一瞬で俺を骨抜きにした。
「ニャウゥ~……さっきはごめんニャ~」
「え? あ――」
俺が話しかけたのに言葉が分からない感じになってしかも興奮状態にあったことを謝ってるんだろうけど、ルーナの使い魔として仕事をしてきたのであればそれは使い魔としてきちんと仕事をこなしてきた証。
きちんとしてるんだなと改めて感心するレベルなんだよな。
「さっきのことなら気にしないでいいからね。毛づくろいも必要だっただろうし、俺の前ではいつも綺麗な状態を保ってくれてるって分かってるから」
「ウニャァ~嬉しいニャ」
照れているのか、コムギさんは頬を赤くしている。
「それでコムギさん。今後もまた使い魔としての仕事があるようなら俺に気にせず行ってきていいからね?」
「…………ないニャ」
「ない?」
魔導師ルーナがここに来ていたのは仕事とか近況報告、あるいはコムギさんの様子を直接確かめに来たものとばかり思っていた。
そんなルーナはずっとシルバー王に睨みを利かせていて、俺とコムギさんには見向きもしない。
「私の使い魔としての仕事は今回で最後なのニャ」
「それってつまり――?」
魔導師ルーナがそんなことを言ってたけど、それと何か関係があるのか?
「麦山さん。コムギとお話をさせていただいても?」
「あ、はい」
「少しの間で構いません。その間、麦山さんはここにいるシルバー王と契約の話をされてはいかがですか?」
「契約ですか?」
「ええ。わたくしは分からないことですが、麦山さんでしたら分かる話かと思いますよ」
契約というと商売の話しか思い当たらない。まだこれといってまともに話をしていないのに、いきなり王と契約の話が出来るのだろうか。
「ムギさん。いや、ムギヤマさんだったね。こちらのテーブルで話をしてくれないかな?」
「分かりました」
王に手招きされたので、シャムがいる場所から離れたテーブルに移動して向かい合うように座る。
「ルーナの話によれば、あなたはかつて商売をするため王国に来たという。合ってるかな?」
「そうです。その時にいた老商人に世話になりました。ですが……」
あまりいい思いはしなかったと王に伝えていいものだろうか。しかも、逃げるようにして王国から脱出してるんだよな。
俺は思わず首を垂れた。
「頭を上げてほしい。あなたがそうなる理由も全て聞いているよ。とても不快な思い、それと失望をさせた。申し訳ない」
今度は王が俺に頭を下げた。
「あ、頭をお上げください」
「うん。おあいこだ」
ルーナによほどの目に遭わされたのか、王はすっかり人がよさげな態度になっている。
「それじゃあ話を進めるよ。あなたも知っての通り、シルバーバイン王国は猫を聖なる獣として崇める一方で商人たちが多く集う商人の国でもある」
年齢層は結構高かったのを記憶してるけど。
「そうなんだ。この国にいる商人は老人ばかりで頭も固く、他からきた商人を素直に受け入れないんだよ~本当に困るよね」
……妖精だから心を読まれたのか。
「そこでムギヤマさんに僕からの詫びで与えたいものがあるんだ。受け取ってくれるかい?」
「何をです?」
「これだよ」
俺の目の前に出されたのは、ミスリル板に刻まれた証明証のようなものだった。目を凝らしてみると、それにはシルバーバイン王公認と書かれている。
「これは……?」
「ムギヤマ・トージさん。あなたをこの国の商人として公式に認める! この証明証を手にしていれば、他の商人は一切口出しが出来ない。どうかな? 悪くない話だと思うんだけど」
シルバーバイン王国公認の商人とは驚きだ。
「この国で商売をする場合に限った話ですよね?」
「そうだね。でも、その証明証は猫帝国でも有効なんだ。シャムガルドに誘われているんだよね?」
「はぁ。しかし帝国へ行くかは決めていません」
「そうなのかい? あぁ、そうか。あなたにはすでに永遠のパートナーがいるんだね。それなら仕方がないかもしれない」
俺のパートナーはコムギさんになるが、永遠?
言ってる意味がよく分からないが、いずれにしても猫帝国へ行く気には今のところならないな。
「え、えっと?」
「おっと、ルーナの方も話が済んだようだよ。それじゃあムギヤマさん。僕は失礼するよ。これからは敬遠することなくこの国を利用していいからね!」
「あ、ありがとうございます」
公認の商人になったとはいえ、ずっと滞在するわけじゃないからまた後で寄ることにしよう。その時は確実に商売を成功させたいし。
「麦山さん。受け取りましたか?」
「公認証明証ですか?」
「ええ。それがあることによって、魔導ボックスを置きさえすればいつでもこの国で商売が出来ますよ。もちろん、麦山さんが直接交渉するのも可能です」
「な、なるほど」
あれ、そういえばコムギさんがいないな。
「あの、コムギさんは?」
「あの子でしたら、リルルという狼の娘を探しに行くといって外に行きましたよ。フェンリルの子供だそうですね?」
「ええ? フェンリルの?」
サシャさんって単なる人狼族の女性じゃなかったのか?
「……麦山さんには特に問題にならないお話みたいですね。とにかく、コムギはわたくしから離れましたので、これからは麦山さんがあの子を見てあげてください」
「あの、それってどういう意味ですか? コムギさんと俺はビジネスパートナーでしたよね? それに、コムギさんと一緒にいたい場合はルーナさんへ多額の支払いを……」
その為に魔導石を手に入れたりしてる話だったはず。
「あの子はわたくしの使い魔をやめました。ですので、わたくしがあの子に仕事を頼むのは今後一切無くなりました。それ以外のことは麦山さん。あなたからあの子に伝えてあげてください」
これ以上俺と話をすることは無いといった態度で、ルーナは猫獣人のシャムのとこに行ってしまった。
むぅぅ、仕方ない。俺もリルルを探しに街に行くか。
コムギさんを探して、コムギさんときちんと話をしなければ。




