第45話 なりきり猫獣人、見破られる?
王国の北門には南門にいたような門衛は見当たらず、王宮に続く道を通行する人もほとんどいなかったので、俺とコムギさんはそこから難なく王宮に潜入した。
王宮内部はてっきりきらびやかな装飾で彩られた壁かと思っていたのに、なんの変哲もない木目調の壁と天井が続いているだけで、王宮内に華やかさは感じられない。
華やかさはないものの、猫を模った銅像が通路のあちこちに見られ、数メートルおきに置かれているのだけは目を引く。
「なるほど……。猫を祀っているのは本当なんだ」
「猫への愛は本物っぽいニャ」
「お、俺も負けてないよ?」
「トージの愛はいつも感じているニャ~」
抱っこした状態でそんなこと言われると身悶えそう……。
簡単に潜入出来た王宮だが、特に何かを求めての潜入じゃなく何となく来てみただけなのでどうしようかとコムギさんに訊こうとすると――。
「あやや? そこを歩く殿方くん。少しお待ちになってくださいなのだ」
おっと?
周りを見ずにコムギさんだけを見てたというのもあるが、いつの間に人がいたんだろうか。
……というか、『くん』呼びって。
正面にいる女性――というか、どう見ても幼女にしか見えないその子は猫耳こそ見えるが、黒いローブを身に纏っていて身分の高そうな猫獣人のような感じを受ける。
「な、何でしょうか?」
「猫の獣人かと思ったけど違うのだ? 何だか人間のニオイがするのだ」
目の前の猫幼女は俺に近づき、クンクンと匂いを嗅いでくる。
もしかしてバレた?
抱っこされているコムギさんは周りが見えていなかったようなので、状況判断をしてもらう。
「コムギ、コムギ……。誰かが話しかけてきてるんだけど、どうしよう?」
うーん、呼び捨てはやっぱり慣れないな。
「ニャ? 誰かって誰ニャ?」
そう言って抱っこされた状態でコムギさんが首を伸ばすと。
「ニャッ!? どうしてここにいるのニャ?」
「どこの甘え猫かと思ったらコムギなのだ? 何でここにいるのだ?」
おや?
幼女でしかも猫獣人なのに、コムギさんの知り合いなのか?
「――あぁ! 分かった! このお方がムギヤマくんなのだ」
「ニャウゥゥ……」
コムギさんが苦手そうにしているのは珍しい。
幼女の猫獣人は俺に向き直り、片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げて、背筋を伸ばしたままあいさつをしてきた。
確かこれは。
「高位の貴族に対するポーズニャ。トージは今、高位の猫獣人なのニャ。だからなのニャ」
「あ、ありがとう。コムギ」
コムギさんは落ち着いているように見えるけど、俺は内心気が気じゃない。見破られているうえ、俺をじっと見てきているのが物凄く気になる。
「ふふん? ある程度の知識はあるようなのだ。だったら話は早いのだ。ボクはシャム。ムギヤマくん! ボクと一緒に王宮の中を散歩してほしいのだ」
シャムか。シャム猫という意味かどうかは分からないが、黒ローブを着ている幼女の猫獣人という時点で油断は禁物だ。
そもそも何で王宮内で遭遇するのかって話になる。
「コムギ。俺はどうすればいいかな?」
「……トージの思うままに動けばいいと思うニャ」
「そっか。じゃあ――」
幼女猫獣人のシャムは俺の反応を黙って待っているようで、コムギさんのことはあまり気にしてもいない。
「――抱っこタイムはここでひとまず終わりにするニャ」
そう言って、コムギさんは俺の腕から離れて床に着地する。
ええっ!?
そ、そんな……。
「ふふん、その方が利口なのだ」
「トージ。私はしばらく一人で動くニャ。トージはそこの猫獣人と散歩してればいいニャ~」
「ええ?」
床に着地してからのコムギさんの動きは素早く、俺が動揺している間にどこかへいなくなってしまった。
……もしかして来たことがある場所なんだろうか?
それとも?
「賢い選択なのだ。ムギヤマくんは流石割り切って行動できる商人なのだ」
「あれ? 俺が商人って言いましたっけ?」
「そんなの見れば分かるのだ。そんなことより、すぐ近くの部屋に入るのだ。そこで話をしてほしいのだ」
「わ、分かりました」
コムギさんが心配だけど、もう一つの心配はタブレットを持ってきていない俺にどういう商売の話をしてくるのか。
コムギさんが知る猫獣人だから危険は無いと思われるが、果たしてどうなることやら。
「さぁさぁ、入った入ったなのだ!」




