第43話 トージ、猫になる!?
「えええっ!? お、俺も猫に? 俺はそのままでも入れますよ?」
「人間にも良くない国なのにゃ。だけど、猫にはとてもいい国だから猫になる方が動きやすくなるのニャ!」
むぅぅ、まさか俺も猫になる日がこようとは。
「でも、エルフ女王が注文した時の必要魔導石がとんでもない数で……とてもじゃないけど無理なんじゃ?」
「トージは別に猫になるスキルを求めてるわけじゃないニャね?」
「……あ、そっか」
エルフ女王の場合は猫変化スキルを欲しがっていたからこその難易度だったけど、別にスキルを求めてるわけじゃないんだよな。
「そうじゃニャいなら安く手に入れられるはずニャ」
「分かりました。試してみます」
コムギさんが言うように、お客さんが希望する注文じゃなく商人として発注するならあんなに高い魔導石は求められないし、今回はスキルを注文するわけじゃないから心配はいらないか。
よし……発注してみるか。
【なりきり猫セット】×2
・猫耳
・猫の尻尾
・猫語翻訳セット(リルル専用)
【投入口に金貨を入れてくださいニャ】
へっ?
思わずコムギさんを見るも、俺との話が終わったことで安心したのかリルルと一緒に寝息を立てている。
ということは、コムギさんが喋ったんじゃなくて、亜空間倉庫の猫バージョン!?
まさかそこまで猫に徹底しているとは。
とにかく、金貨を投入――と。
【ご注文承りましたニャ! 商品は発送をもってかえさせていただきますニャ】
なんかどこかで聞いたことのある文言だな。流石に魔導車を走らせてる最中だし、すぐには届かないと思うけど、一体いつ届くのやら。
目的地を決めた魔導車は道なき道を進んでいて、窓からの景色は全く見えなくなった。こうなるとすでに眠っている彼女たちと同様に俺も寝るしかなくなる。
……寝るか。
「起きてニャ~起きてニャ~」
「う~ん?」
「起きないと悲しいニャ……トージ、起きてほしいニャ~……トージ、もっと構ってニャ~」
もふもふの感触が俺の顔を覆っているうえ、気のせいか水滴のようなものも頬を伝っているような――
「――わわっ!? コ、コムギさん?」
「やっと起きたニャ~……。全然起きないから心配したニャ……」
まさかコムギさんが涙を?
「トージは女泣かせ?」
「え? い、いや、そんなことはないからね?」
「サシャが言ってたとおりのオスだった。わたしも気をつける」
どんなことを娘に話してるんだか。
「えっと、コムギさん。ごめんなさい! すっかり熟睡してました」
「何のことニャ?」
一瞬だけ俺を心配して泣いていたと思われるコムギさんだったが、俺から離れたコムギさんは何事もなかったかのようにリルルの膝の上に戻っている。
「あ、いえ。コムギさん、起こしてくれてありがとう!」
「それでいいニャ。私とはもっとフレンドリーな関係になってほしいニャ」
「フレン……なるほど。そうするよ、コムギさん」
「ウニャ」
ついつい敬語を使うようにしていたな。俺が眠っていたのもそうだが、コムギさん的に寂しさを感じていたのかも。
「トージ。外が見える」
「本当だ。覚えのある景色が見えてきたかな」
猫王国シルバーバイン。
荘厳な装飾門に虎マスクをかぶった門衛がいて、入国の時はやたらと見られていた。商人が多い印象だったけど、猫はともかく人間への対応はあまり褒められたものじゃなかった。
そう考えると狼のリルルが恐れを感じるのは無理もない。
「トージ、猫になる準備は出来たかニャ?」
「そういえば寝る前に注文してたんだった。でも、まだ届いてなくてどこに出てくるのかさっぱり……」
まだ車内にいるから届かないかもしれないし、どこか門衛に気づかれないところにでも停車して外に出てみるか。
「リルル、コムギさん。外に出るよ」
「はいニャ~」
「分かった」
王国へは恐らく魔導車に乗ったまま入国が出来ない。たとえ入国出来るとしても、あの国には魔導車を知られるのはあまり良くない気がする。
やや離れた街道沿いに車を止め、手を触れて魔導車を見えなくした。
「消えた……?」
「うん。消せるんだよ。安全のためにね」
リルルは口数も少なく、魔導車が目の前で消えたことに特に驚きを見せなかった。この辺は狼というか獣人らしい度胸がある。
「外に出たし、待っていれば空から届くかな?」
今までのパターンだと段ボール箱か何かで届くが、スキルも上がっていることを考えれば手元に届いてくれるはずだ。
「――ニャ!? ニャハハ~! トージが猫ニャ~!」
大人しくその場で待っていると、コムギさんが目を細めながら楽しそうに笑っている。
「へ? もしかして俺、猫になってる?」
全然そんな感じがしないし空から段ボール箱が降ってきたでもない。俺自身が見れるわけじゃないので、ふと隣にいる子を見てみる。すると、猫耳と猫の尻尾を着けた女の子が立っていた。
「もしかしてリルル?」
「猫……に見える?」
「見える見える!」
「そうなんだ。これならきっと、行ける……」
リルルは両手をニギニギしながら猫になった感触を確かめているが、コムギさんは俺にしか興味がないのか、ずっと俺を細目で見つめてくる。
「コムギさん。俺、猫になったかな?」
リルルは狼になれるからまだいいが、猫耳と尻尾がついただけの俺は猫のように小さな体になれるでもなさそう。
このままだと単なるコスプレした痛いおじさんになるのでは?
「猫の獣人になってるニャ。猫の王国だと王族扱いになるかもしれないニャね」
「王族!?」
「きっとそうニャ」
「ちなみにコムギさんのように体を縮めることは――」
「スキルじゃないから無理なものは無理なのニャ!」
そうか、スキルとなりきりセットの違いはそれなのか。
「落ち込まなくてもいいニャ。トージと王国に入った時にはきっといいことが起きるからニャ~」




