第42話 コムギさん、閃く!
「――というわけなんだけど、コムギさん。どうしようか?」
「トージが助けたいと思うのなら私は反対しないニャ。トージはどうしたいのニャ?」
コムギさんならそう言ってくれると思ってた。一応確認はしたものの、コムギさんには包み隠さずに話さなければ。
「サシャさんの娘さんのお願いなら助けたいし、話を聞きたいかなぁと」
「ウニャ」
どういう頼みかは分からないけど、多分そんな危険でもないはず。
「トージ、行ける?」
「他でもないサシャさんの娘さんの頼みだし、手伝うよ」
「リルル。わたし、リルル。そう呼んでいい」
「え~と、じゃあリルル。君が行きたいところはどこなのかな?」
行くのはいいとして一体どこに行きたいのか。
「……ありがと」
リルルは警戒と緊張が少し解けたのか、俺に笑顔を見せる。
無理もない話だ。理由は分からないけど、母であるサシャに言われて俺を訪ねてきたわけだし。それにウォルフ村から結構な距離があるのに、俺をずっと追ってきたというのもなかなか大変だったのでは。
「行きたいところは恐ろしい人間がいる聖獣の国、そこに行きたい。そこにサシャが求めるもの、ある」
「え? 恐ろしい?」
俺の言葉にリルルは頷いてみせた。
「そんな国があるんだね。恐ろしい人間と聖獣……う~ん? 国の名前は分からないのかな?」
「知らない」
「……うん」
この世界にはまだまだ俺の知らない場所がある。それは当然なのだが、国の名前が分からないとなるとどうやって探せるというのか。
「コムギさん。分かる?」
「ニャフフ。すぐに分かったニャ!」
いつになくコムギさんの機嫌がいい。俺に分からなくてコムギさんがすぐに分かるなんて頼りがいがありすぎる。
「どこなんですか?」
「ずばりシルバーバイン王国なのニャ! あの国は猫にとって楽な場所だからニャ~」
ん? どこかで聞いた覚えがあるな。
猫には楽な場所だけど人間が恐ろしい国?
――あ。
「もしかして、商人が多くいる猫王国?」
「当たりニャ! トージにとってあまりいい思いをしてない場所だったから、今の今まで忘れていたのニャ~。思い出したかニャ?」
「はっきりと思い出しましたよ~」
あの国か。リルルの言うように確かに人間が恐ろしい場所だった。駆け出しの商人に厳しかったし。
そういえば老商人はあの国にいるのだろうか?
「分かった?」
「俺の知ってる場所だよ。そこに行けばいいんだね?」
「行ってほしい」
「えっと、じゃあどこに座らせようか」
以前エルフ姉妹を乗せた時は後部の亜空間部屋を使わせていたけど、リルルだけだと心細くさせそうなんだよな。
「……わたしが猫を座らせる」
「えっ? いいの?」
というか、コムギさんもそれで平気だろうか。
「トージ。私は大丈夫ニャ!」
俺の考えていることが分かったようで、コムギさん自らリルルの膝の上に収まってみせた。
「それじゃあ、猫王国へ走らせますよ」
猫王国のシルバーバインはコムギさんとこの世界に来てすぐに行った国なんだよな。俺にとってあまりいい印象じゃなかったけど。
「行き先はシルバーバイン王国……と。これでよし」
目的地は運転席の前方にあるメーター回り――インパネに向けて意思を示すと、それだけで移動を開始してくれる。
その時点で俺がすることは何もなくなり、後は到着するまで眠ってもいいし運転するフリをしていてもいいのでかなり気楽な移動になった。
「……? トージ。車、動かさないの?」
「この車は魔導の力で動いてくれるんだよ。だから俺が動かして何かすることは少ないんだ」
「よく、分からない。でもそこに行けるならいい」
そもそもここがどこなのか分かってない俺が、ここから猫王国に向かうとしてもどっちに行けばいいのかさっぱり分からないから魔導による自動運転は凄く助かる。
ある程度道が分かるところだったらハンドルを握って動かすけど、当面はそんな機会も無いだろうな。
「あれ? コムギさん、寝ないの?」
コムギさんは魔導車で移動する時のほとんどを睡眠に使っている。力の蓄えと回復をする機会が限られているというのもあるが、今回は珍しく眠っていない。
「もしかして眠れない?」
人化しているとはいえ、狼少女のリルルに乗っているからというのもあるのかも?
「違うニャ。あの王国に着いた時の対策を考えているニャ」
「対策? あ、もしかしてリルルが狼だから?」
「それもあるけど、トージも何とかしないとだニャ」
「お、俺もですか?」
俺が何とかするとすれば、初めて行った時のような汚れた格好じゃなく、それこそ王族に似た身なりで行くとかくらいしか思いつかない。
「サシャが言ってた。猫王国、狼と敵対関係。だから人間が恐ろしい」
「敵対関係か~。それだと確かに恐ろしいよね」
「……ん」
猫を崇めている反面、狼を敵とみなしている辺りはあの国らしいな。
「心配はいらないニャ。リルルには変装してもらうからニャ」
「それって、猫にですか?」
「商人のトージならそれが可能なのニャ」
「あ、そうか! そうでした」
俺が注文すれば猫変身アイテムくらいは簡単に出てくるってことをすっかり忘れていた。
「じゃあ、猫王国に近づいたら注文しますね」
「フムム……違うニャ。まだ足りない気がするニャ」
リルルの膝の上にいながらコムギさんはずっと何かを考えているみたいで、ちょこんと座るその姿が凄く可愛い。
「あ、そうだったニャ!! トージのこともあったニャ!」
何かを閃いたのか、コムギさんが凛々しく見える。
「へ? 俺が何です?」
ウニャウニャと何か言いながらコムギさんが俺をじっと見つめてくる。
「トージ! トージも猫になるのニャ!」




