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猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める  作者: 遥風 かずら
魔導世界

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第32話 アズリゼ王国の魔導師姉妹

「……よし、これでいいわ」

「あ、ありがとうございます。ジーナさん」

「今度は大事に着ることね!」


 まさかこの歳になって女性に服を着替えさせられるとは思わなかった。布服はそのまま肌着として着ることになったから良かったとはいえ、脱衣から着衣まで任せることになるなんて恥ずかしすぎる。


「うんうん、似合ってる。コムギちゃんもそう思うよね?」

「トージは今まで着替えがなかったからニャ。でも何を着ても似合うニャ~」


 コムギさんに褒められたのは何か嬉しいな。


 妹エルフのマリヤと仲がいいのか、俺のそばにいないで妹さんのそばについているけど。


 そして姉の方は、やたらと俺に構う。

 

「その【ミストコート】は認められた者じゃなければ着られないものなの。だからトージ。少なくとも、あたくしたちと別れるまではそれを着ていなさい!」


 強引に着替えさせられたが、ミストコートはこれから俺が取引をするために必要なアイテムらしい。


 これを装備していなければ相手が見えないだとか、ちょっと何を言ってるのか分からない。


「なるほど……それであの、コムギさん。目の前のアパートには行かないんですか?」


 せっかくアパートの前まで来たのに、コムギさんは中へ入ろうともしない。


「ウニャ。アパートがきちんと残っていたのが分かったから行く必要はないニャ」

「そうすると、ケットシータウンでこれ以上の販売は難しいってことになりそうですね」

「でも大丈夫ニャ! 猫たちの代わりにエルフ姉妹が役に立つニャ」

「エルフ姉妹が?」


 たまたま居合わせたわけじゃなくて、コムギさんが来るのが分かってここにいたのか。それにしたって、猫さんたちとのもふもふタイムがこうもあっさり終わるとは。


「感謝なさい! ここでは商売が成り立たなくとも、あたくしたちの国では存分に稼がせてあげるのだから!」

「トージさま。お姉ちゃんの言うとおりです~!」


 自分たちの国を案内してくれるということは、もしかしてすぐ隣とかなのか?

 

「トージ。魔導車の後部座席の亜空間を繋げて欲しいニャ」」

「あ、そうか」

「ウニャ」


 ネット倉庫というか亜空間倉庫は単なる倉庫としてではなく、二段ベッド付きのちょっとした部屋として開放が可能だ。


 俺とコムギさんが使うことはないが、誰かを乗せる時は後ろの亜空間を拡げて使えるようになる。その機会がここだとは想像していなかったが。


「あたくしたちが乗っていれば、魔導車は勝手に走るわ。あとは到着するのを楽しみにしていればいいわ。特にトージがね」

「そこに行けば商売が出来るって意味ですね?」

「ええ、そういう意味よ」

「トージさまは何も心配いらないです」


 妹のマリヤさんだけなぜか俺を『さま』で呼ぶのは何でなんだろうか。コムギさんの雇用主と知られたあたりから呼ばれているような気もするけど。


「それでは出発します」


 猫たちとのもふもふタイムとコムギさんのアパートを見ただけで終えたケットシータウンを後にして、魔導車はさらに霧が深い場所に向かって動き出した。


 俺とコムギさんが座る席から後ろは完全に遮断されているが、二人の声だけはしっかりと漏れ聞こえていて、俺の耳にははっきりと届いている。


「お姉ちゃん。人間を入れるなんて、どういうつもりなの?」

「コムギが認めた人間は初めてだもの。まして雇用主であるなら、認めざるを得ないことだわ」

「でも、他のエルフは……」

「あたくしたちに逆らうエルフは存在しないわ」


 ……何だかヤバい話に聞こえるが、やはりエルフは人間を認めない種族だというのは共通している感じか。


 俺としてはどこに行っても稼げれば文句は言えないんだが。


「う~ん……異常に眠いな」

「眠いニャ……」


 コムギさんが眠たそうにしているが、俺も急激に眠気が襲ってきた。魔導車は勝手に動いているし、あとは自動的に目的地についてくれる――そう思いながら、俺は自然と眠りに入っていた。


「起きなさい! 人間のトージ」

「トージさま。起きて~!」

「……う~ん?」


 後ろの亜空間席にエルフ姉妹を乗せて魔導車を走らせたまでは覚えているのに、起こされるまでの記憶がない。


 コムギさんも寝息を立てているし、何で俺はずっと眠っていたんだ?


「お目覚めになられましたか? トージさま」

「……君はマリヤさん、だったかな?」

「そうです。魔導車はすでに王国に到着していますので、体を起こしてくださいね」


 ……王国?


 はっきりと目を開けて周りを見てみるも、辺り一面濃い霧だらけで特に何も見えない。老眼にはまだ早いと思うのだが、じっくりと目を凝らしてもせいぜい建物らしきシルエットが見えるだけだ。


「ここは霧の王国……ですか?」

「はい。アズリゼ王国と言います。今はまだ何も見えないと思いますけど、外に出て歩けば違って見えてきますから安心してくださいね」


 そういえば姉のジーナだけがいないな。


「お姉さんはどちらへ?」

「姉は先に準備して待っていますよ。ですので、コムギちゃんが起きたらお城に来てくださいね~」

「お城……って、あれ?」


 話をしていたのにマリヤの姿もいなくなっている。姿が見えなくなるくらいの深い霧がまとわりつくように立ち込めているせいだろうか。


 とりあえずコムギさんを起こすか。


「コムギさん~! 着いたよ~」

「フニャァァ~……よく眠れたニャ」


 コムギさんは前足をグイっと伸ばし、背伸ばしポーズを見せた。最近よく眠ることが多いみたいだけど、彼女の元気が続くならいいことかもしれない。


 車の外に出ると相変わらずの深い霧で周りが見えないが、すぐ近くを歩くコムギさんだけははっきりと見えている。


「コムギさん。ここは霧の王国みたいですよ」

「そうみたいだニャ~」

「エルフ姉妹は先に出て待ってるって言ってたけど、こうも見えないんじゃ厳しいなぁ」

「あの二人は警戒心が高いからニャ~。でも、トージはミストコートを着てるから大丈夫ニャ。まずは最初の家に近づくことニャ」


 コムギさんの言う通りに近くに見えるシルエットに向かって歩いていくと、途端に霧が晴れ、普通の一軒家の他、その近くに建ち並ぶ家々が次々と目の前に現れる。


 これもミストコートのおかげなのか?


 光景に驚いていると、家からエルフたちが出てきて俺の姿に驚き恐怖している。


「人間! 人間がどうしてこの街に!?」

「ヒッ……に、人間!」


 エルフの彼女らが俺に驚く中、その背後からは弓を手にしたエルフたちが一斉に俺を狙って構えていた。


 あれ、これは駄目なやつでは?

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