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猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める  作者: 遥風 かずら
魔導世界

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第30話 魔導師ガルスと再現スープ

「出せるのだろう? 君の亜空間倉庫は! 我はそう聞いている」


 そういえば魔導師同士で情報共有しているんだったな。それに、何人かは俺が猫カフェでコムギさんに夢中になっている時に日本に来ている。


 確かあと三人で、ガルスがそのうちの一人か?


「出せると思いますが、商売ですのでお金が……」

「うむ。分かっている!」


 日本ツアーということは、この人が行った場所はおそらく。


「でも、スープの香りと匂いは再現出来ている感じに見えますよ?」

「やはり分かるか! ということは、君はあの味、あの感触、あの製法までマスターしているのだな?」

「いえ、製法までは流石に……」

「作らずとも物自体を買えばいいだけなことくらい理解している! だが、それではこの世界の住人にはあまりいい影響を与えないと我は考えた。資金ならいくらでも出せるが、村の者たちには自らで味を考えてもらいたいのだよ」


 日本で味わったラーメンに感動したからこそ、この世界では危険な影響を及ぼしかねないと判断したんだな。拠点にもなっている村で、お湯を入れるだけで出来るラーメンが出来てしまうのはよくないということか。


 村での生活が変わってしまうという懸念なんだな。


「そうすると、即席メンを食べるのは魔導師ガルスだけですか?」

「うむ。我がしっかりと味を覚えたうえで、村の者にはせめてスープだけでも味わわせたいのだ。湯を使う頻度もそれほど多くないからな」


 てっきりカップめんを大量発注して村の主食にするつもりなのかとばかり思っていたけど、カップめんの中毒性をよく理解しての発言か。


「その前に……そのスープを飲ませてもらえませんか?」

「……ほぅ? なぜだ?」

「どれくらいの味を出しているのかを確かめたいと思いまして」

「ふむ……いいだろう」


 とりあえず木製どんぶりに入っている野菜スープを口にすると、具だくさんなおかげでとろみがあり、スープの温度も適度に熱くてスープだけでも客を呼べる美味しさだ。


「どうだ? 拠点に客を呼べるような味か? 上手くいけば我の村が今より有名になる可能性があるのだからな!」


 つまり拠点としての名声を上げる狙いがあるのか。そういう狙いがあるなら、魔導師が作るスープで売り出した方がいいような気もする。


「美味しいです。他からお客さんを呼べるレベルだと思いますよ」

「嘘は言ってないようだな。だが、カップめんはこれ以上の味のはずだ。我が食べたあの味はもっと濃厚なものだった。だが、グリモア―ドの世界に悪い影響を及ぼす可能性がある味でもあった」 

「名物として売るとなると、その味を自分たちで覚えて作る必要がありますね」

「ふむ。だが、村周辺で取れる素材だけでは限度があるのだ」


 いくつか試供品としてカップめんを注文しておけば、味わいだけでも覚えられるかもしれないな。


「それでは、ガルスさん。あなたと村長さんで味を覚えるというのはどうですか?」


 チャラそうな村長だが、村のためなら頑張りそうな若者だ。


「……ふむ。大人数に覚えさせずとも、我と村長さえ覚えておけば作れるかもしれぬのだな。ガルスの小麦粉では再現が難しいかもしれぬが、まずは味を覚えるとする」

「それでは村長と相談して決めておいてもらえますか? 私はタブレットを持ってきますので」


 ついつい手ぶらで来てしまって、注文が出来ないのをすっかり忘れていた。


「タブレット……アイゼルの石板か。いいだろう、その間に我は準備をしておく」

「では、すぐに戻ります」


 それほど広くない一本道の村なので、魔導車にはすぐに戻ることが出来た。


「戻ったのニャ?」


 魔導車の近くには目覚めたコムギさんの姿があって、毛づくろいをしていた。


「コムギさん! もう大丈夫?」

「ばっちり眠ったニャ~。トージのおかげだニャ!」

「ええと、いま魔導師ガルスの村にいるんだけど――」

「ふんふん」


 魔導師ルーナを通じてガルスのこともよく知っているらしく、コムギさんも一緒に話をしてくれるらしい。


 タブレットを手にしてガルスの家に戻ると、さっきまで集まっていた村人の姿はいなくなっていて、その場に残っているのは村長と村の子供たちだけになっていた。


「ムギヤマさんが戻ってきたっす! おっ、猫さんもいるんすね」

「はい」

「ニャ~」


 魔導師ガルスは家の中でスープをいくつか作っているようで、テーブルの上には木製どんぶりが乗ったままになっている。


「おぉ、それが石板だな! よし、ムギヤマ。辛いのと薄いのと濃いのを注文頼む! 代金は金貨五枚だ。五枚で頼めるだけ頼んでくれ!」


 えらいアバウトだな。


「分かりました」


 そうなると、塩味とカレー味と濃い何かを注文だな。


「おっ、使い魔の猫……ルーナの猫だな?」

「ウニャ」

「ムギヤマは良くしてくれているか?」

「ニャウ」

「うむ」

 

 村長と子供たちは木製どんぶりを前にして、今か今かと待っている。子供たちに食べさせられるとしたら、薄い塩くらいになりそうだが。


 ガルスから貰った金貨五枚分で好みの味を手入力で注文すると、届いたのは海藻が入ったメンと、唐辛子だらけの真っ赤なメン、それから濃厚とんこつの三種類が届いた。


 あまり再現出来なさそうな気もするが、魔導師なら多分何とか再現するはず。


「……どうですか? 再現出来そうですか?」

「むむむむ……口の中から炎が出そうだ」

「あっさりとした味っすね。ルゴー海域の海藻っすか?」

「むぅ、とんこつならばなんとか出来そうではあるな……」


 ……村長とガルスの二人で食べ比べてもらい、何とか再現出来そうな味を二人だけで決めることが出来たらしい。


「よし。この味ならば……!」


 どうやら海藻スープととんこつに絞って再現したようで、子供たちからの評判も上々のようだった。


「ムギヤマ。恩に着る! 以前訪れた日本で味わった味を久しく忘れていたのだが、こちらで再現出来そうなものが少なく思えたが何とかなりそうだ」

「お役に立てましたか?」


 ……今回は魔導師ガルスの満足度を上げただけだったな。


「うむ。今回、ムギヤマの商売は手ごたえを感じなかったかもしれぬ。だが、この味を覚えた者たちが味を求めるようになれば、いずれムギヤマに注文がいくものと信じている。今はまだカップめんを求めるのは早急と判断したが、そう遠くないうちにムギヤマに頼む時がくるからその時は頼む!」


 ガルスの拠点、村で暮らす魔導師ガルスは俺を試す狙いがあった。


 今回はその目論見通りに事が進んでしまったが、こういう時もあるってことを思い出す時間だったかもしれない。


「魔導師ガルスはトージの将来性を試していたニャ。悪い人じゃないから許してニャ~」

「分かっていますよ。味を知ってもらわないと売れないのが食べ物だからね。今回はそういうことだったんだよきっと」


 単なる寄り道でお試しコースになってしまったけど仕方ないな。


「じゃあ出発しようか」

「トージに行ってほしいところがあるのニャ」

「うん?」


 コムギさんの頼みなんて珍しい。


「私の故郷に寄ってほしいニャ~」

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