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猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める  作者: 遥風 かずら
魔導世界

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第22話 魔導スキル、発注される

 俺をおっさんと呼ぶこの声は――


「――ああ、やはり君か」


 アイゼルクラスで不明な物ばかりを俺に無料で譲り、そのまま逃げたドワーフの子供だ。礼服で態度を改めている様子なので、俺は手にしていた礼服に袖を通した。


 さて、どうしたものか。


 品物鑑定が出来ない俺にとって、焦げだらけ煤だらけの物は全く使い道のない荷物だった。今のところ袋ごと放置しているが、その件について叱るべきかどうか。


 そもそもあのままドワーフの里に逃げたかと思って諦めていたのに、まさか王都で遭遇するとは思わなかった。


 もしかしてドワーフの子供は各地に出没するのだろうか?


「おっさん、偉かったんだな。おいら、知らなかった……」


 そして意外にもかなりへこんでいて、俺の顔をまともに見られないくらいの落ち込みを見せている。


 木箱の上に立って店を出していた時はそれほど気にしていなかったが、やはりドワーフというだけあって子供でありながら筋骨隆々な体つきをしている。


「君はドワーフなのだろう? 里は近くにあるのかい?」


 訊いてみたものの、ロディアークは崖の上。ドワーフの里が近くにあるとは到底思えない。


 俺の言葉にドワーフの子供は力強く首を振っている。


 ……やはりそうだよな。


「里は近くない。それよりも、おっさんに悪いことした。だから、お詫びにこれやる!」

「うん?」


 何かくれるっぽいので手を差し出してみると、彼は俺の手の平に錆だらけの石を置いた。


「……これは何だい?」

「知らない。だけど、崖下の砂浜近くで拾った高そうな石だぞ。偉そうなおっさんにあげるのが合ってると思った。だからやる!」

 

 王都制式の礼服は借り物だから俺自身は偉くないが、意外な効果が発揮されたらしい。


 手の平に乗せられた石を指先でこすりながら確かめてみる。

 

「――! 猫の絵というか紋章が刻まれている? まさかこれは……」


 ……魔導石?


 魔導石は魔獣や採掘、凶悪な魔物からしか手に入らず、レア扱いされているメダルのような石だ。


 それが砂浜近くに落ちていたとするなら、崖上にいたビッグボアが隠していた可能性もあるし、もしくは海底に沈んでいた可能性も考えられる。


「砂浜近くってことは、今まで海に沈んでいたかもしれないね――って、あれっ?」


 魔導石らしき石に夢中になっていたらまたしてもドワーフの子供に逃げられていた。しかし今回は物譲りなどではなく単なる拾い物を貰っただけだし、細かいことは気にしないことにする。


 それにしても、猫の絵が見えているこれはどう見ても魔導石。金貨は見慣れたからすぐに分かるが、まだ大して手にしたことがない魔導石なだけにいまいち確信が持てずにいる。


 もし魔導石だとしても、金貨と違って魔導石は魔導車の燃料になるものと聞いている。これを投入口に入れなければ魔導車はおろか、魔導師ルーナのためにもならないはずだが。


 ――とはいえ、いつも魔導車にくっついているタブレットは亜空間を通じてネット倉庫に繋がっている同様のアイテム。携帯して持ってきているし、タブレット画面に 魔導石を触れさせればそのまま通じてくれるのではないだろうか。


 魔導車は崖下に止めたままとはいえ、借り物の礼服を着たまま崖上の王都から下りていくのは気が引ける。


 ……タブレットでも多分大丈夫のはずなんだよなぁ。何せ亜空間から段ボール箱が降ってきたくらいだし。


 というわけで、魔導車に戻らずにネット倉庫に繋がっているタブレットに投入してみることにした。


 魔導石らしきものを画面に近づけると、金貨を入れるのと同様に画面上に揺らぎと波紋が起こり、魔導石はそのまま吸い込まれていった。


 おっ、上手くいった。


 しかし金貨を入れた時のような表示は起きず、タブレット自体に特別な反応も示されていない。


 ええ?


 亜空間に吸い込まれていったのに、吸い込まれ損なのか?


 やはり面倒くさがらずに魔導車の投入口に入れにいくべきだった――そう思いながら、商人ギルドがあるところに向かう。


 せっかくあの青年が紹介してくれているのに、関係者を待たせるのは失礼すぎると思ったからだ。


「あっ! あの人、ムギヤマ商会の人だ!」

「本当だ~! ムギヤマさ~ん!」


 ギルドが集中している噴水広場に近づくにつれ、道行く人が俺に声をかけるようになった。家屋周辺はほとんどひと気がなかったが、やはり王都なだけあって中心に近づくと途端に通行する人ばかりになる。


「ど、どうもです!」


 礼服が目立つ色というのもあるだろうが、何で俺を見ただけで分かるんだろうか?


 それとも、ロードが言っていたように特別ゲスト専用の礼服だったりして。


「ムギヤマさん、握手してください!!」

「へ? は、はい」

「やった~!」


 俺、ただの商人なんだけど。


 国を救った英雄とかじゃないよ?


 しかし、俺を見て興奮して近づいてきているのは見事に子供ばかりで、近くにいる大人たちは温かい目で見守っているだけだった。


 礼服を着ている商人がレアだと思われている?


 気恥ずかしい思いをしながら商人ギルドの案内を示す建物に近づこうとすると、タブレットから聞き慣れた電子音が鳴った。


 もしかして?


 俺はすぐさまタブレット画面を確認する。


 【魔導スキル発注を受領しました】


 へ?


 スキルの発注受領って、どういう意味なんだ。俺は確かに魔導石しか入れてないし、何も操作してないはずなのに。


 しかも画面にはそれしか表示されず、何の反応もしてくれない。


 ……駄目だ、ただの静止した画面だ。


 ここで立ち止まって考えても画面に変化はなさそうだし、時間経過で様子を見るしかなさそうだな。


「こんにちは、ムギヤマさんですね?」

「え、はい」


 商人ギルドの前で立ち止まっていたせいか、中から関係者らしき女性が出てきた。ドアの前で動かずにいたら不審に思われてもおかしくなかったか。


「どうぞ、中で商人たちがお待ちですよ!」


 魔導スキル発注が受領されたとか意味が分からないものの、王都の商人ギルドで自分をアピールするいい機会が訪れた。


 今は商人として色んな話を訊くことに専念しよう。そうすれば、いずれ謎に受領された案内も判明するはずだ。


「ムギヤマ商会、ムギヤマトージと申します。どうぞよろしくお願いいたします!」

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