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猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める  作者: 遥風 かずら
魔導世界

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第20話 ロディアーク王都への招待

 ネット倉庫で注文したミナギリンαは予想以上の効果を発揮した。


 試飲してもらった直後、低レベル帯の回復士が魔獣であるビッグボアに体当たりをし、ものの見事に行動不能にまで追いやってしまったからだ。


 その結果、二人の戦士が残りの強壮剤を求めてくるのは必然だった。


「あ、あいつ、あんなに強かったっけ?」

「……いや、そもそも後衛だし。回復しか出来ないはず……というか、商人さん! オレらにもあいつみたいに強くなるドリンクを売ってください!!」


 ――待ってました……と言いつつ、俺は焦りながら壁のように積み上がった段ボール箱を手当たり次第に開封。


 その結果、やはり残り二人分の瓶しか入っていなかった。


 金貨三枚入れて冒険者パーティーを強化というのは、あまりにもコスパが悪いのでは?


 確か投入口に金貨を入れれば入れるほど、俺自身のスキルが上がるという話だったのに、今回は見事に冒険者パーティーのみ。


 これではいくら駆け出し冒険者たちを助けたうえ強化しても、商売あがったりになるのではないだろうか。


 そう思っていたが、意外にも彼らが渡してきたのは金貨二十枚だった。


「え、こんなに?」

「気にしないでください!」

「そうですよ! じゃあっ!」


 ――といって、彼らも魔獣に向かっていった。


 二人も体当たりに加わり、魔獣はすっかり身動きが取れなくなっている。それでも極端に弱くなるでもない魔獣は力尽きる気配を見せていない。


 そんな状況が続いているにもかかわらず、彼らは全く怪我を負っているように見えず、その心配もないように見える。


 何より、さっきまで逃げまくってへたり込んでいた者たちとはとても思えないくらいの強化っぷりだ。


「ニャフフ……楽しそうニャ~」


 三人の冒険者がビッグボアに体当たりしまくる光景を、コムギさんはのんびりと眺めている。


「……ところで、コムギさん。ミナギリンαの効果って――」

「全身強化しまくりニャ」

「あれ、でもあの三人、さっきから体当たりばかりで致命傷を負わせてないような……」

「ウニャ」


 最初の大人しそうな回復士が雄叫びを上げながら魔獣に体当たりした後、残りの二人も魔獣に向かって体当たりをしまくっているが、ビッグボアと呼ばれる魔獣はふらつきこそするものの、全く倒れる気配を見せていない。


 そんな魔獣に対し、武器を所持していない三人は強化されたことに興奮して、体当たりだけで満足しているように見える。


「あれじゃあ何も意味がないような……」


 高価な金貨で注文したのに魔獣一匹を倒せずにいるとか、ネット倉庫で注文した商品効果はそこまで強くないのだろうか。


「仕方ないニャ……」

「えっ?」

「トージはここで待っててニャ~」

「えええっ?」


 いつまでたっても魔獣を倒せる見込みがなさそうな冒険者パーティーを援護でもするかのように、コムギさんが魔獣に向かって突進していってしまった。


 コムギさんって守りに長けた猫じゃなかったっけ?


 もしそうなら、ルーナさんに何て言われるか――などと、俺の心配をよそにコムギさんは今まで倒せずにいた三人のうちの一人の冒険者を連れて、俺のところに戻ってくる。


「ニャ~」


 冒険者が近くにいるせいか、コムギさんはただの猫さんに戻っているようで、言葉を発してこない。


「商人さん、いえ、ムギヤマさん!!」


 俺の前に戻ってきたのは、最初にミナギリンαを飲んで雄叫びを上げた回復士の男だった。


「どうでしたか?」

「もう最高でした!! まさかオレたちがあんな魔獣相手に体当たりして傷一つ負わずにいられたなんて、夢のようでしたよ~!」

「それは良かったです。それで、あのドリンクはリピートされますか?」


 逃げまくっていたビッグボアに体当たりしただけで満足したとすれば、もしかしたら商品を継続しなくてもいいとか思われそうだが。


「もちろんですよ! あれだけ動いたのに全然疲れなくて、それどころかまだ力がみなぎってまして、この場にいない彼らもオレと同じでした。是非、これからも継続的に購入させて欲しいです! それこそ定期的に」


 意外な答えだった。


 てっきり魔獣相手に善戦しただけで満足したかと思っていたのに。


「そういえば魔獣は結局どうなったんですか?」

「あのビッグボアでしたら、そこの猫さんが近づいたと同時くらいに力尽きたみたいで、大きな音をさせて倒れこみましたよ。魔獣の処理はこれからですが」


 ふとコムギさんを見てみると、彼女は尻尾をピンと立てていて機嫌が良さそう。


 多分目に見えない力でとどめを刺したんだろうけど、俺に見せないだけでコムギさんはかなり強い猫さんなのでは?


「そうでしたか。ところで、残りの二人はどちらに?」

「そのことなんですが、ムギヤマさん。この近くにある王都へ来ていただけないでしょうか?」

「え、王都?」


 強力なライトで夜道を走ってそのまま昼間になっていたから、周辺に何があるのかまでは気にしていなかったが、ルゴー湾の近くに王国があったんだ。


 だだっ広い海が眼前にあって、手前のルゴー湾には草原が広がっている。


 荒れ果てた地面でもなく草原になっているという時点で、近くに町か村があってもおかしくないが、まさかの王都とは。


「はい! オレたちが暮らしているロディアーク王都に、ムギヤマさんを招待したいんです!」

「この近くに王都があるということは、王国はかなり大きい国なのでは?」

「そうですね、ロディアーク王都は王国の一部に過ぎません。王都はルゴー湾に面した位置にあるのですが、王国はここより遠い場所にあります」

「……なるほど」


 駆け出し冒険者の彼らは近くの王都から外に出てきていたというわけか。王都が近くにあるなら、多少無謀でもすぐに帰れるという油断があったかもしれないな。


「どうですか?」

「気ままに移動販売をしてる身なので、いいですよ! そこでなら落ち着いて商売の話が出来そうですから」

「ありがとうございます! ムギヤマさんにとってもきっと悪い話じゃないと思います。王都にはいくつかギルドがありますし、オレたちよりも強い冒険者がいますから」


 ミナギリンαの詳しい効果はともかくとしても、彼らにとっては経験したことのない効果があったみたいだし、商品の感触は悪くない。


「そうですか。ちなみに魔導車を王都に入れても?」

「問題ありません! 先に戻っていった彼らがムギヤマさんのことを伝えていると思いますので」


 大したことがないように思えたのに、それほどの効果が生じるとは。しかも王都に招待されるなんて、ネット倉庫の効果は抜群だな。


「それではオレも一足先に戻ります。王都はこのまま街道を進んだ先に道しるべがありますので、そこまで来られましたら改めてお迎えに上がります」

「分かりました」


 何だかいやに丁寧な青年だった。


 彼が離れたので、コムギさんに真相を訊いてみることにする。


「ところであの魔獣はコムギさんが倒したのかな?」

「違うニャ。人間たちの積み重なったダメージの後に爪で引っ搔いただけで私じゃないのニャ」


 どうやら彼らの手柄にしたいらしく、コムギさんは首を縦に振ることはなかった。


「そ、それじゃあ、王都に向かおうか」

「ウニャ!」


 初めて注文したネット倉庫で、強力な強壮剤を頼み、それが見事に冒険者の心をつかむことが出来た。


 俺が直接口にすることがないだけにその効果を知ることはないが、これからも需要に応えた商品を提供していければもっと楽しい旅になりそうだ。

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