第18話 追う猫、追われる冒険者?
「今度はどこに行くのニャ?」
「よく眠れたみたいですね、コムギさん」
「ぐっすりニャ!」
魔導師拠点アイゼルクラスから道なりに進んでしばらく経つ。途中、馬車とすれ違うことがあったが、魔導世界だからか車を見ても特に驚かれなかった。
この世界における魔導師の存在はどれだけのものなのか未だつかめないが、徐々に慣れていくしかない。
それはそうと、周辺は真っ暗だが魔導車のライトのおかげで道を間違うこともなければ、外れることもないのは助かっている。それもこれも異常に明るいライトが道を照らしているおかげなのだが。
「あの魔導師、電気街で得た知識を発揮しすぎだろ……」
「ニャ?」
魔導師アイゼルクラスといえば、俺の腕時計を使ってネット倉庫をスキルアップさせ、タブレット端末を使えるようにしてくれたが、まだ何か隠している感じがあった。
……とはいえ、他の魔導師も日本に行ったらしいし、個性的スキルを得られるのなら俺は歓迎するしかない。
今まで気にしていた時間は空を見上げて色で判断したり、時を知らせる鐘の音で判断するだけだったが、一人で商売をしていた時と比べればゆとりを持てるようになったのは素直に感謝したい。
これからはどこに進むかについては特に何も決めてもいないので、魔導車に乗りながら気ままに決めようかなと思っている。
もちろん金貨だとか魔導石を増やさなければいけないわけだが、焦っても集まるわけじゃないので旅の行動についてはのんびりと行くことにした。
手持ちのお金は金貨が数枚と銅と銀が数枚ほど残っているが、商売上の取引に加え、ネット倉庫での購入用にも取っておかなければならない。
そう考えるとドワーフの子供から貰った物をいつまでも放置するわけにもいかないし、コムギさんの協力を得て魔物から得られる肉や皮を集めていかなければいつまでたってもお金が貯まらない――というのが当面の問題。
「トージ! 海が見えるニャ! すごいニャ~」
そういえば猫カフェにいた時のコムギさんは海というか、まともに外に出たことがなかった気がする。あくまで客目線だが、猫さんたちを外で遊ばせるのはビルが多かったあの辺りでは難しかったかもしれない。
「そうだね、海は広くてすごいよね」
「ウニャ」
本来コムギさんは魔導師ルーナの猫だ。何より、時給の支払いありきで一緒にいてもらっている関係なのだが、ルーナさんが言っていたとおり気楽に話せているのは近くなった感じがして嬉しくなる。
それはともかく、どれくらい進んだのか分からないまま走っていると、徐々に景色の大部分が海ばかりになりつつあることに気づく。
水辺が近いせいなのか、魔物はあまり見られずどちらかというと大型の野生動物が目立つ。見晴らしのいい場所のせいか、冒険者らしきパーティーの姿もちらほらと見られる。
魔物と戦っている光景や武器を振るっている姿なんかも見られたりして、異世界の光景を目の当たりにすることが増えてきた。
「トージが嬉しそうなのニャ」
「え、そう?」
冒険者パーティーを眺めるだけだったけど、そう見えたのかな?
「トージも冒険者になりたいのニャ?」
「いやぁ、俺は戦えないからね。争いとかも好きじゃないし……でも、商売敵とかは別かな」
「ふんふん」
商売上どうしても品物やなんかで被ることがある。
どの町や国でも同じ商売をする人がいるし、お互い生活のために商売をしている。そうするとその距離が近ければ近いほど売上勝負になってしまうので、そういう意味で商売敵を避けられないのは多分この世界でも同じだろう。
これからは亜空間によるネット倉庫を使うので稼ぎに困ることはなくなりそうだが、世界各地となるとそう上手くいくはずもないので、やはり単純に商人として名を挙げていくしかない。
「トージ、魔導車を止めて欲しいニャ」
「うん?」
「冒険者たちが追われているニャ!」
「ええっ?」
コムギさんの可愛い手は前方に見える海辺の草原を指している。俺は魔物や野生動物がいない適当な場所に魔導車を止め、コムギさんからの指示を待つが――。
「あのままじゃ追い付かれるニャ! 私が獣を追いかけて気を逸らすニャ。その間にトージは冒険者を何とかしてくれニャ」
冒険者パーティーを追いかけている獣は角が見えているだけで判断すると、体長1メートルをゆうに超えるイノシシのようで、ひたすら突進している感じだ。
「俺は――冒険者向けに回復薬を大量注文しておきます!」
「ニャニャ!? トージは商魂たくましいニャ〜。それなら外に出て何とかするニャ」
追われている彼らに恩着せで売るつもりはないが、回復や滋養強壮で役立ってくれたら、この先も買ってくれるかもしれないという期待がある。
急いでタブレットを外し、注文画面を開いた。その隙にコムギさんは冒険者を追っているイノシシの背後を突いたようで、そのまま追っている。
稼ぐチャンスはもうすぐやってくる――そう信じて、俺はなりふり構わず金貨を三枚ほど投入してありったけの回復薬を箱買いで注文した。




