第14話 魔導四輪車で再出発
「ええっ? 幌馬車は元々向こうの世界から持ってきたものだったんですか!?」
白と黒の猫さんに両腕をがっちりとしがみつかれながら、俺はルーナさんの話を驚きながら聞いている。
「そうです。ムギヤマさんもご存じのとおり、いつからかコムギがいなくなっていたのですが、日本の猫カフェで働いていたことを知ってわたくしもそちらの世界について調べていたのです。その際に、幌馬車を手に入れたのです」
俺への理解度も早い人だったが、まさか俺の世界に来ていたとは。
「すると、幌馬車が軽バンに変わったのは……」
「ええ。魔導力が上がったのでムギヤマさんのお車の一部を使わせていただいたのです。コムギを驚かせてしまいましたけどね」
車検に出していたから今頃は驚いているだろうな。
「やはりアレが魔導石だったわけですか? で、それを投入口に入れて魔導力が上がったから軽バンに進化した――で、合ってます?」
ルーナさんは静かに頷いた。
やってしまったな。サシャさんにもらったメダルがまさかの魔導石だったとは。迂闊に入れる前にきちんと確認してから投入すべきだった。
「いいではありませんか。実はこちらとしても気になっていたのです」
「……というと?」
「馬のいない魔導幌馬車は使いづらい――だからなかなか商売の道筋がつかめないと。そう思っていたのではありませんか? それから、亜空間倉庫というスキルについても……」
何でもお見通しなんだな。
……いや、コムギさんを通して分かっていたっていうのもあるか。
「そ、その通りなんです。亜空間倉庫は――それこそ、向こうの世界で使い慣れたように使いこなせないなと感じてしまって」
倉庫ってだけでも膨大なイメージなのに、イメージで使うとなるとなかなか簡単にはいかない。
「なるほど。亜空間倉庫スキルについては、アイゼルクラスにいる魔導師に訊いてもらうのがいいかもしれませんね」
「アイゼルクラス……あの拠点に他の魔導師がいるんですか?」
「言ってませんでしたか? 拠点の名前は魔導師の名前でもあるんです。ムギヤマさんのことを伝えたら、会いたいと言ってましたよ。何せ彼も日本に行ったらしいですから、亜空間倉庫を使いやすくしてくれるはずです」
「え? 日本に?」
そういうのは早く言ってほしかったな。そしたら商売的なスキルを早くに使えていたかもしれないのに。
とはいえ、すぐにサシャさんに商売の話をされたからそんな余裕はなかったが。
「ムギヤマさん。この際ですが、魔導幌馬車さん改め魔導四輪車で移動しません? きっとご自分で運転した方が動きやすいはずですし」
「俺が運転をですか? あれ、でも……」
これまで一人でキッチンカーをやってきた俺からすれば楽になるとは思うが、異世界で四輪車は通用するのか?
「ムギヤマさんが運転して、コムギを隣に乗せれば問題ないはずです」
「あれ、そうなると燃料は……」
軽バンはいいとして、ガソリンとかの問題があると思うが。
「残念ながらこっちの世界――グリモア―ドでは、あちらの技術や燃料に代わるものがありません。そのため、燃料については引き続き魔導の力を使って頂きたいです」
やはりないのか。
……というか、グリモア―ド?
「こっちはグリモア―ドっていう名の世界ですか?」
「教えるのが遅くなりましたね。ごめんなさい」
世界の名前は特に気にしていなかったが、魔導の世界ってわけか。
「そ、それはそうと、魔導の力で車を動かすとなるとどのみちエネルギーを必要としますよね? それはどうするんですか?」
石油があったとしても精製する場所とかが難しそうだし、燃料問題は仕方がないかもしれないな。
「もちろん引き続き魔導石を探していただきますよ。燃料となる魔導補給は拠点にいる魔導師が補充してくれると思います」
魔導師か。そうなると、世界各地にあるとされる拠点の町を隈なく回らないと駄目ってわけだ。
「そういえば魔石も存在すると聞きましたが、魔石で代用は出来るんですか?」
「出来ないこともありませんが、魔導石は一つで済みますけど魔石だと最低でも……」
「いや、大丈夫です! 魔導石を探して何とかします」
このパターンはコムギさんに金貨百枚のパターンと同じだ。魔導世界で魔石を使おうとするのが間違いなんだな多分。
「それでは、そろそろ解放としましょうか」
「あ」
ルーナさんの言葉で、両腕にしがみついていた猫さんたちはすぐに離れた。
「コムギをよろしくお願いしますね!」
ルーナさんに頭を下げられた直後、俺は魔導幌馬車ではなく魔導四輪車に変わった運転席に座っていた。
そして隣には――
「――お帰りニャ!」
ちょこんと座るコムギさんの姿があった。
う~む、相変わらず可愛いな。
隣のコムギさんに気を取られがちだが、とりあえず魔導四輪車を動かすことにする。魔導四輪車のハンドルは自動車そのものになっていて、疑似エンジンのような音が鳴っている。
おそらくこれもルーナさんの仕業に違いない。
そして、これまで御者台付近にあった投入口はコムギさんが座っている助手席付近に移っていた。
「トージ、嬉しそうニャ」
「そう見えますか? でも、ここにきて商売に向けた準備が整った気がするんですよ」
馬がいなくても動く魔導幌馬車から自分が使い慣れた四輪車になった以上、仕切り直して商売を頑張らないと。
「アイゼルクラスに戻ってから再出発なのニャ?」
「そうですね。引き続きよろしくお願いしますね、コムギさん!」
「任せるのニャ!」
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