第11話 ウォルフ村の子たち
まさかコムギさんと会話出来るようになる条件が、俺自身のスキルアップにつながっているとは。
いや、もしかして金貨を収めるたびに俺自身のスキルが上がっていく?
ルーナさんは教えてくれなかったけど、目的をはっきりさせればいいとか言ってたから、もしそうなら俄然やる気が出てくるな。
「どうやら通じたみたいだね、トージ」
「そうみたいです。サシャさんから言われなければ、俺は何も分からないままでした。ありがとうございます!」
「あたしは何もしてないさ。それよりも、そろそろ向かいたいんだが……行ってもらえるかい?」
そうだった。
サシャさんの村に行かないと報酬がもらえそうにないんだった。歩いて行くつもりだったけど、やっぱり魔導幌馬車に乗っていくのが確実か。
「トージ、どうしたのニャ?」
俺の様子を心配してか、コムギさんが首を傾げている。話せるようになったコムギさんにちゃんと話しておかなければ。
「えっと、今からサシャさんの村に行くんですが、外は魔物だらけと聞いたのでサシャさんを魔導幌馬車に乗せていってもいいのかなと……」
「お客様の安全が第一ニャ! むしろトージは何を迷っているのニャ?」
「え、いや、荷台は亜空間倉庫につながっているし……御者台は外なので危険性もあってどうしたものかなと」
「ふんふん……」
猫の姿のままながら、コムギさんは俺の話をきちんと頷きながら聞いている。おそらくやり取り自体もルーナさんには筒抜けかもしれないが、一応確認はしておきたい。
「迷うことはないニャ! 幌馬車さんはトージのものニャんだから、ルーナの許可なんていらないニャ」
「そ、そうですよね」
「サシャはトージにとって記念すべき最初のお客様。特別に乗せてあげても構わないニャ。……それに、彼女は人間じゃニャいから何も問題ないニャ」
人間を乗せるのは問題があるように聞こえるけど、今は気にしなくていいか。
亜空間倉庫も使う必要のない時は使えなくすればいいって言ってた気がするし、単純に乗せるだけなら気にしなくていいのかもしれない。
「サシャさん。お待たせしました! 荷台で申し訳ないのですが、乗っていただけませんか?」
「え、いいのかい? 馬がいないようだが、どうやって……」
「問題なく動きますのでご安心を! ですので、村への道案内をお願いします」
「あ、あぁ、それは構わないが……」
魔導の力で動く――ある意味向こうの世界の自動車と同じものだから不思議がられてしまうけど、安全性を考えたら乗ってもらうのが確実だ。
「それでは出発します!」
「ああ。任せるよ」
荷台へはサシャさんとコムギさんが座り、俺は御者台に腰掛けた。コムギさんによれば、魔導幌馬車に乗っている限り魔物に襲われる心配はないという。
その言葉通り、サシャさんが行きたいウォルフ村に着くまでに外をうろつく魔物が寄ってくることはなかった。
魔導拠点のアイゼルクラスに来られたのも魔導幌馬車に乗っていただけで景色すら見られなかったので、外の景色を落ち着いて見られたのはコムギさんと一緒に歩いた時以来だった。
ウォルフ村はアイゼルクラスを出てすぐだったせいか、迷うことなく到着。村への入り口は杉林で遮られ、まるで街道から見えないような場所にあった。
魔導幌馬車はそんな杉林すらも避けられるので、何の問題もなく村へ入れた。
「……魔導師が作った幌馬車だったなんて驚きだね」
「え?」
「彼女が教えてくれたのさ。まぁ、こっちとしては助かったけどね」
さほど時間もかからなかったものの、コムギさんと話をしていたサシャさんは拠点にいた時よりも落ち着いているみたいだった。
ウォルフ村は一見何の変哲もない小さな村で、街道から見えなくしていたとは思えないくらいの小さな小屋がいくつも建ち並んでいるうえ、小屋の真後ろには巣穴のような穴が見えている。
しかしまるでひと気がなく、外に出ている人もいないせいか静まり返った村という印象だ。
「さて、トージ。さっそくだけど、箱を持ち上げて適当なところに放り投げてくれないか?」
「……え」
ここまで来て箱の中身にあるビー玉を隠す必要はないが、上に持ち上げて放り投げるとなると、地面に落ちてなくなってしまうのではないだろうか?
「放り投げたら散らばってしまいますよ?」
「いや、それでいい。どうせすぐに飛びついて拾われるさ」
「は、はぁ……」
コムギさんを見てみると、御者台に座ってくつろいでいて俺がすることに何の興味もなさそうにしている。
小さくて重さもないビー玉ではあるが、箱ごと持ち上げて放り投げるのは結構力が必要だった。
「い、いきますよ!」
俺は言われた通り思いきり適当なところにぶん投げた。その直後、あっという間に箱の中のビー玉が放り出され、回収が難しいくらい地面に散らばった。
――その直後、ワ~っという歓声とともに散らばったビー玉をめがけて一斉に沢山の子供たちが現れ、地面に落ちたビー玉に飛びついていた。
それもどう見ても人間の子供ではなく、獣の耳をさせた狼の子供たちのようだった。
「えっ? 狼の子ども!?」
思わずサシャさんを見ると、優しそうな眼差しを子供たちに向けている。
「みんな楽しみに隠れて待っていたみたいだね」
狼の子供たちに向けている視線は、まるで――。
「あの、あの子たちは?」
「あの子たちはあたしの子なんだ。驚かせてすまないね」
「ええっ!? サシャさんのお子様!?」
ぱっと見でも六人から十人くらいの子供たちがいて、サシャさんが言ったように我先にとビー玉を拾い集めている。
「フフッ。思っていた以上の喜びようだね」
……全員サシャさんの子供!?




