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リルシャの森に住む人  作者: 喜多彌耶子
第一章 森の娘
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――カインの想い

迎えに来た、などと、言い訳に決まってる。

会いたかった、といったら、彼女は一体、どんな顔をするのだろうか。



馬にのるように進めたが、にこやかに微笑む彼女に、穏やかに拒否されてしまった。

少しばかり残念な気はしたけれど、隣に並んで歩けるのも悪くないか、と、気を取り直して。


他愛ない話を交わしながら、村へ続く細いわかりにくい道を、ゆっくりと二人、歩いた。


――これだけで、幸せな気分になってると知ったら、彼女はどう思うだろうか。





はじめてみたのは、1年ほど前だっただろうか。彼女の保護者であった、人嫌いのダロス老が、薬草をおさめに父の所に来た時だった気がする。父と言葉すくなに取引をするダロス老の後ろで、じっと黙って、フードを被ったままたっていた、幼い少女。

ちょうど仕事から戻った彼は、父に挨拶しに入った居間で、その姿をはじめて見た。


小さな少女。


一瞬絡んだように感じた視線は、気のせいだったのかもしれない。


けれど、その奥にゆれる不安そうな色が、忘れられなかった。


後から、ダロス老に森で拾われた子供なのだと聞いた。


捨て子か。迷い子か。


そのときは、軽く興味を引かれた程度で、それだけの話だったのだ。



直接的に関わるようになったのは、あの、ダロス老がなくなった日からしばらくしてのこと。

彼女の作る品々は、娘達には人気ではあったものの、売るには村では実用的ではなかった。けれど街ならば、と、街へと出る自分と引き合わされた時のことは、今でも忘れられない。


フードの下に隠されていた、漆黒の髪と、透明にしかし深く色をたたえた、瞳。黒のように見えながら、光に透けると濃い茶に輝くことに気づいた時、心臓が跳ねた。


小さな村にいる他の男どもよりは、街や他所の村へと出る分、色々と経験があることを自負していただけに、まるで慣れない少年じみた自分の反応は、驚きでしかなかった。


なんにせよ、幸せな子供ではないようだと、それから彼女を見かけるたびに、飴だお菓子だと、気まぐれに渡していたのは、はたしてどんな心境だったのか。


哀れと思ったか。――それとも。


答えは、充分な時を経た今でも、はっきりとはしない。




会話は弾むことはないけれど、けれど不快ではない程度に穏やかで。

隣で静かに歩を進める、フードをかぶった少女を眺めながら、思う。


どうか静かに穏やかに、彼女が暮らせますように、と。

この、小さく幼くすらみえる、「異邦人」の彼女が、どうか幸せでありますように、と。



脳裏をよぎるのは、街で聞いた噂。

彼女に関する、広まった噂。


それが彼女に、どういう影響をあたえるのか――未だわからない。


わからないけれど。

カインは、想う。

できることを、ただするしかないのだ、と。


彼女を想い、彼女のために、今の自分ができる範囲のことをすることしか、できないのだと。


――それ以上を、彼女は望まないし、求められていないのだ、と。



時折、風にさらわれるように、光に霞むように消えてしまいそうに思える、そんな彼女に、目を細める。


――彼女を愛しく思う気持ちは、たとえそれがどんな形であろうとも、カインの胸に、深く根付いているのに間違いない。





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