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リルシャの森に住む人  作者: 喜多彌耶子
第一章 森の娘
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森に想う



――そして、今日もリルシャの森に朝日が昇る。


朝起きたら、さっと動きやすいワンピースに着換えて、裏庭に出る。井戸で顔を洗うと、そのまま庭の住みに作ってある小屋にいって、今日の分のたまごを、鶏に良く似た鳥からもらって、エサをあげて掃除をすませる。

いつもなら庭に、ヤギと羊のあいのこみたいな動物といっしょに出して、自由にさせてあげるのだけれど、今日はでかける用事があるから、小屋でお留守番。

なついてくる子達を、撫でて宥めながら、裏庭へ。


香草の中でも、普段使いやすいものを植えてある畑から、今日の朝食用にいくつかつんで、川から引いてある水場で洗ったら朝食の支度。

薪ストーブを起こして、火を焚いて、コンロのようになった部分に、フライパンのような浅い鍋をかけて、卵をオムレツ風にふんわりと焼き上げる。

焼いて保存してあるパンと、オムレツと、香草のサラダ。これにたまにチーズやミルクが付くのが、私の朝食の定番だったりする。

シンプルで、だけれども、自然の恵みがたっぷりで、そして滋養に溢れている。


あの世界のように、やたらに豪華だったりいろんな味だったりはしない、けれども、だからこそ、心のそこからほっとする味、というヤツなのだと、しみじみと想う。


「いただきます」


ほわりと湯気を立てるオムレツに、思わず頬を緩めながら、手を合わせる。


ひとりになっても、挨拶は欠かさない。欠かせない。

これはもう、癖のようなものでもあり。また、こちらに来て、改めて感じた「命をいただく」という言葉の意味の重さのせいでもあったりする。

この手で、育てて。この手で収穫して。この手で、料理していただく。

その過程の重さを知るからの、いただきますであり、だからこその、おいしさ、なのかもしれない。


朝の光が差し込む、静かな部屋の中で、ゆっくり、ゆっくり食事をすすめる。


穏やかなひと時。

そして――幸せな、ひととき。


聞こえるのは、遠くでなく鳥の声ばかり。





朝食を終えたら、食器を片付けて。それから、簡単に家の中を掃除して。

普段なら洗濯するのだけれど、今日はその日じゃない。

ただでさえ辺境らしきこのあたりの、さらに私の住む家は森の中。

出かけるとなると、ほぼ一日仕事となってしまうのだから、しょうがないことなのかもしれない。


昨日までに出来上がったポプリの小袋サシェと、お茶用に小分けした香草と。

それから、久しぶりに焼いた香草入りのクッキー。

それを丁寧に、香りうつりに気を付けて、籠に詰めて。


洗いざらしの普段着のきなり色のワンピースから、少しだけ余所行きの、でも、シンプルな淡いグリーンのワンピースに着替えたら、準備は完了。



今日は、月に1度の、村へいく日。



2年前、おじいさんがなくなるまでは、ほとんど村にいくことはなかった。

半年の間に、1・2回、おじいさんのお供で出かけたくらいだ。


――けれど。


2年前に、おじいさんがなくなってからは、そういうわけにもいかなくて。


森の中で一人、自給自足でいきていけないわけじゃないけれど、小麦や布地、さまざまな道具なんかは、やっぱり不足してしまう。


――本当は。

森のなかから、一歩も出ないで生活したい、と、思わなくもない。


だって。

どうしても私は、この世界では異質なもの、だから。

私の持つ、この髪と目の色は、この世界ではあまりない――ほとんどの人が「今までみたことがない」色、だから。


人は、自分とは異なるものを、初めて目にするものを、恐れる。

どうしても、目を引いてしまうし――本能的な拒絶だって、受けないわけじゃ、ない。


たとえ、村の人達がどれだけ優しくとも――優しくしようとしていたとしても、どこか根っこにあり、そしてそこはかとなく感じる「拒絶」に近い空気を、私は無視することはできなくて。


優しい人達だからこそ、余計に、それを押さえ込んで接してくれる事実が、切なくて。


だから、できる限り、私は森から出ないで生活している。


それでも、服は着て洗えば擦り切れてしまうし、布地はさすがに森ではまかないきれない。裁縫の針や糸だって、森の中に生えてくるわけじゃない。


だから、月に1度は、必ず村へいく。

最低限の、月に一度だけ、村へと、でかけていくのだ。

作ったサシェや、香草茶や薬草を抱えて、村で買い取ってもらっては、必要な物を買い込むのだ。



ひとつ息をついて、気合いをいれる。


そして、ワンピースの上に羽織った上着のフードを目深に被ると、のんびりと村への道へと足を進めた。



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