怪物
怪物だ。
街路樹ほどの大きさがある。
足は太く、二足歩行。
胴は少し細いが、胸部から腕にかけてがっしりとした筋肉質の身体。
手は骨が浮き出たようにゴツゴツしていて、その先には鋭利な爪がついている。
顔は肉食動物の頭蓋骨のような形、そして角のようなものが二本後ろの伸びている。
そして、太い足と共に、太い尻尾でその重い体を支えているようだ。
まるで、ティラノサウルスを彷彿させる容姿だ。
だがきっと、ティラノよりもっと、『殺戮』に適した巨体のように思える。
身体に、、なんだ?・・氷?、氷塊のようなものが身体のあらゆるところに付いている。
こいつは絶対に自然界にいていい奴なんかじゃない。
目があった。
鋭い眼光。
僕は呆然と立ち尽くしていた。
・・・死ぬ、、僕もこいつに殺される。
「い゛や゛あ゛あ゛あ ぁ ー」
さっきのカップルの女の人!?
叫んじゃダメだ! 殺される!
シュバァーーーンッ!! ガラガラガラガラ、、
怪物が女の人目掛けて腕を振った。
周りの建物も一緒に崩れた。
砂埃が舞う。
どうなった?女の人は?無事か?
いやこれじゃ、、
はっ!怪物はどこだ、どこッ、、、
ハー、ハー、ハー、ア゛ー、、、
荒々しい獣の息が聴こえる。
僕のすぐ側に、、怪物がいた。
終わった、無理だ逃げても、背中を抉られて終わり。
覚悟した。僕は死ぬ。
シュッッ!
バギィィィーン・・・
・・・・?、?なんだ、、、、誰かが助けてくれた。
見覚えのある背中、、この革ジャン!!
あの時の彼氏さん!!
「君、逃げな。死にたくなきゃ」
「えっ、あっ、はっはい、」
僕は一目散に逃げた、
はっ、はっ、はぅ、はっ、胸がドキドキして、上手く走れない。体に力が入らない。
振り返ると、あの男の人は、怪物の腕を、どこから持ってきたかもわからない金属板で受け止めていた。
僕は立ち止まる。
あっ、でも、あの人も死んでしまう、、
ダメだ、、でも逃げないと。
どうする?、どうすればいい?
*******
俺の家族は、怪物に殺された。
母さん、父さん、弟 三人とも瓦礫の下で死んだ。
僕は塾にいた。知らなかった。避難警報も何も、、
帰ってきてたら、家の辺り一体ぶっ壊れてた。
三人の死体を見て、微かな希望も潰された、許されなかった。
死因は、『氷鬼』とかいう怪物出現による二次被害。マンション住まいで、4階だったから、即死だったらしい。
長く苦しまずにしねたというのが唯一の救いだったと思うほど、あの時は絶望し、生きることの希望を失っていたことを覚えている。
家族というものは、いつか失ってしまうものだ。
でも僕が想像していたのは、
親が棺桶に入れられて、お経を聞いて、、
弟と、どちらが先に死ぬかだなんて話して、
そんなお別れ。
だから、簡単には受け入れられなかった。
どうして僕が?どうして僕の家族が?
訳のわからないまま死んで。誰かもわからない奴を恨んで。
悲劇というには、とても陳腐、無味乾燥な話。
だから、空を掴むような憤怒に、真っ当な意味を見出せなかった。これはきっと、諦めに近い。
だが今現れた。僕が本来復讐の念を持つべき相手が。
目の前に。
でも今の僕はどうだ?逃げているじゃないか。
助けてくれた人を置いて。
もうこれ以上、僕の人生をくだらないものにしたくない!!
動け、死にたいと思っていた自分の心を動かせ!!
「うおおおぉぉおおーー!!」
僕は近くに落ちていた鉄パイプを持って怪物の方へ走った。
あの彼氏さんは怪物に押し付けられた腕を金属板で支え続けていた。
どうする?走ったはいいものの、どうする?
、、、助ける!あの人を、助ける!
「おおーーらあぁぁーーー!」
ヴヴヴゥゥアアア゛ーーーー!
怪物がこっちを向いた。
や、やばい、どうする!
「よくやった!君!! おかげで、やっと本気を出せる!」
えっ?
『硬玉・収束!』
えっ!?なんだ!?あの人何してるんだ?
なんか槍みたいなものを持っている。
「離れてな!君!」
すると彼氏さんは怪物目掛けてものすごいスピードで、その槍のようなものを投げた。
ドゴォォーーーンッ!!
槍は、怪物の胴を貫いた!!
怪物はその場に倒れ、僕もあまりの衝撃に、腰が抜けたように倒れた。
怪物を、倒した、、笑っている、、
いったい、何者なんだ!この人は!