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第九幕 ノスタルジーな旅、ふたりの地元へ

6月上旬、初夏の陽射しを受けて、電車が緩やかに走っていた。


窓の外には、都心の喧騒から少しずつ離れていく景色。

ビルの群れが遠ざかり、代わりに低く広がる屋根、緑に染まる田畑や林が視界に広がっていく。


風が少しだけ窓の隙間から入り、髪を揺らした。


進行方向左の座席に並んで座るのは、ひのりと七海。

その隣に、唯香がタブレットを膝に乗せ、静かに本を読んでいて、学校方面とは反対側、紗里とみこの地元へ向かっていた。


車内には心地よい揺れと、時折遠くから聞こえるアナウンスだけ。


そんな中、ひのりがスマホを手にとって、グループLINEにメッセージを打ち込む。


 


【ひのり】

もうすぐそっちの最寄り駅だよ〜! ちょっとドキドキしてきた!!


 


【みこ】

駅に着いたら改札前で待ってるね。帽子かぶってる方が私!


 


【紗里】

あんた帽子って、そんな目印になる?笑

こっちはいつものジャージ羽織ってるよ〜ん!


 


【七海】

了解。駅名、次の停車で合ってるよね?


 


【紗里】

バッチリ! 降りたら左に出て、ロータリーのベンチに来てー!


 


【唯香】

現在の座標は正確に一致しているわ。あとは道順に従うだけ


 


【ひのり】

さすがGPSマスター……


 


メッセージのやりとりが続く中、駅の到着アナウンスが流れる。


「まもなく、終点の〇〇駅です――」


電車のブレーキ音がゆっくりと高まり、窓の外に、ノスタルジックな駅舎の屋根が見えた。


「着いた……!」


ひのりがパッと立ち上がり、バッグを肩にかける。


「さて、“紗里とみこの地元ツアー”、はじまりだね」


七海が小さく微笑み、電車がゆっくりとホームに滑り込んでいく。


白く塗られた木造の駅舎と、静かに佇む改札――

都心とは違う“時間の流れ”が、彼女たちを迎えようとしていた。


改札を抜けると、そこには見慣れた制服ではなく、ラフな私服姿の紗里とみこが並んで立っていた。


「よっ、ようこそ〜! ザ・田舎の駅前へ!」


「わざわざ来てくれてありがとう……!」


みこが小さく会釈し、紗里は手を広げて歓迎のポーズ。


「うわ〜……なんか、“アニメの夏休み回”って感じじゃない?」

ひのりが目を輝かせながら、あたりをぐるりと見渡す。


「駅から降りて、地元の子が待ってて、商店街を歩く……絶対このあと、神社とか駄菓子屋とか出てくるやつでしょ!」


「いや、それまんま今の流れだし……」


七海が呆れながらも、どこか楽しそうに笑った。



ひのりがあたりを見回して、どこか懐かしそうに言う。

木造の駅舎から続く石畳の歩道。小さな花壇にはマリーゴールドが咲いていて、商店街にはのんびりとした空気が流れていた。


「まずは商店街をちょっと歩いていこう。うちら、よく放課後にここで時間潰してたんだ」


紗里が言うと、みこも頷いた。


「お団子屋さんとか、古い文房具屋さんとか、小さなお店がまだ残ってて……懐かしいっていうか、落ち着く感じ、あるよ」


一行は歩き出す。

小さな魚屋の前ではおばちゃんが店先に氷を撒いていて、ガラス戸の文房具屋には昔ながらのカラフルな表紙の自由帳が並ぶ。


「この感じ……ほんとに、タイムスリップしたみたいだね」


七海がそう言って歩幅を緩めると、唯香も足を止めて周囲を見回す。


「店舗密度は低いけれど、各々の“記憶の景観”として価値は高いわ。こういう空気、嫌いじゃない」


「ちょっと! 唯香さんにそこまで言わせるとは……うちらの地元、案外やるね〜!」


紗里が嬉しそうに笑う。


と、その時。


「おやおや、見慣れないお嬢ちゃんたちだねえ」


声のした方を見ると、道沿いの駄菓子屋の軒先に、おばあちゃんが一人、椅子に座って手を振っていた。


「――あっ、ばあちゃん!」


みこが嬉しそうに走り寄る。


「お久しぶりです」


「やだねぇ、あんたたち、すっかり大きくなって……あら、今日はまたずいぶんにぎやかじゃないの」


「都会の友達! 演劇部で一緒なの!」


紗里がひのりたちを紹介し、おばあちゃんは目を細めて頷いた。


「いいねぇ、若い子たちが集まって……あんたたち見てると、あたしの若い頃思い出すよ。毎日こうやって、友達と笑ってさ……ふふっ」


陽射しの下、風鈴の音が微かに揺れる。


昭和のまま時が止まったような店先で、彼女たちは一瞬、“時間の境目”に立っていた。


「せっかくだし、少し休んでいきな。暑い中歩いてきたんでしょ」


おばあちゃんが軒先に置かれた座布団をぽんぽんと叩く。


「いいんですか? ありがとうございます……!」


ひのりがぺこりと頭を下げると、おばあちゃんは「堅苦しくしないで」と笑った。


「アイスキャンディー、食べる? 昔ながらのソーダ味だけどねぇ」


「えっ、うれしっ……! それってスプーンで割るタイプのやつですか?」


「そうそう、半分こにできるやつ。懐かしいでしょ」


「え、私やったことないかも……!」


七海が思わず目を丸くすると、ひのりが「じゃあ今やってみよ!」とアイスを受け取ってはしゃぎ出す。


駄菓子の袋を開けながら、甘い匂いと遠くのセミの声が交差していく。


「このラムネ瓶、ビー玉が入ってるやつだ……! 久しぶりに見た!」


みこが手に取り、懐かしそうに微笑む。


「昔は毎日ここに来てたんだ。あんまり広くない場所だけど、放課後に“自分たちの世界”があったの」


「うちら、なんでもないベンチの下に“宝物の隠し場所”作ってたりね。駄菓子とか手紙とか入れてさ」


紗里がそう言うと、おばあちゃんが「ああ〜、あったねぇ」と思い出して笑う。


「ちょっとしたことで喧嘩したり、泣いたり、でもすぐ仲直りしてさ……青春だったなぁって」


「おばあちゃん、ごめんね。昔、ポテトフライのソースこぼしたの、あたしです……」


みこがそっと告白すると、みんながくすくすと笑った。


「おやおや、そうだったのかい? あれは掃除したとき“事件だ”って話題になったもんだよ」


「まじか、伝説残ってた!」


紗里が爆笑する中、おばあちゃんはふと思い出したように言った。


「ちょうど今日、お昼の焼きそば作ろうと思ってたの。あんたたち、食べてく?」


「え、いいんですか!? めっちゃ食べたいです!」


ひのりが目を輝かせて声を上げる。


「喜んでくれるなら作る甲斐もあるってもんだよ。ちょっと待ってな」


そう言って奥の鉄板の方へ消えていくおばあちゃんを見送りながら、ひのりたちは座布団の上でごろりと寝転ぶ。


「……なんか、現実味なさすぎて、夢の中にいるみたい」


「うん。いい意味で、“異世界”って感じだよね……」


七海がつぶやき、唯香も静かにうなずいた。


「今の空気、“記憶に残る時間”として保存されるべき」


やがて、鉄板からソースの香ばしい匂いがただよってきた。


「さあ、熱いうちに食べな。今日はちょっと多めに野菜入れたよ」


皿に盛られた焼きそばがずらりと並び、割り箸が添えられる。


「いただきまーす!!」


「……んっ、うまっ!!」


「なにこれ……お祭りのよりも美味しい……!」


みこが感動したように呟くと、紗里ももぐもぐしながら笑った。


「ほらな? おばあちゃんの焼きそば、地元じゃ無敗伝説だから」


「初耳なんだけどその称号……」


「勝手に作った」


焼きそばの湯気が空へ立ち昇り、笑い声が店先に溶けていく。


おばあちゃんは椅子に腰かけながら、静かに少女たちを眺めていた。


「……若いって、いいねぇ。ほんとに。こういう何気ない一日が、一番幸せだったりするんだよ」


陽射しと風、鉄板の音とラムネの泡。

すべてが、少しだけ懐かしい“魔法”のようだった。



「ごちそうさまでした! 本当に……とっても美味しかったです!」


「焼きそば、味もボリュームも最高でした!」


店先で、ひのりがぺこりと頭を下げると、七海や唯香、みこもそれに倣って丁寧に礼を述べた。


「あらあら、そんなに言ってもらえると、また張り切って作っちゃうねぇ」


駄菓子屋のおばあちゃんは嬉しそうに笑いながら、麦わら帽子を少し傾ける。


「また来なさい。演劇の話も聞かせてちょうだいな」


「はい、絶対また来ます!」


手を振りながら店を後にし、5人は再び歩き出す。

午後の陽射しが少しだけ和らぎ、蝉の声が木陰に混じっていた。


「次、どこ行こっか?」


ひのりが聞くと、紗里とみこが顔を見合わせてうなずく。


「うちらにとっての“原点”――ってとこかな」


「神社……だよね」


みこがそっと口にした言葉に、七海が頷いた。


「駅からここまでの道も雰囲気あったけど、神社ってまた一段と“物語感”あるよね」


「そこ、私もひそかに楽しみにしてた!」


と、ひのりが両手を胸元でぎゅっと握りしめる。


しばらく坂道を歩くと、小高い丘の上に、朱色の鳥居が見えてきた。

鳥居の向こうには、どこか静謐な空気をまとった小さな神社が佇んでいた。


「ここが――“見晴神社”。うちら、毎年のお祭りもここだったんだよ」


紗里が言うと、みこも懐かしそうに微笑んだ。


「小学生の頃は、よくここで遊んだよね。放課後とか、夏休みとか、缶蹴りやったり……」


「……そうそう、でさ。実はこの神社――“うちらの出会いの場所”でもあるの」


「えっ、そうなの!?」


ひのりが驚いたように振り返ると、紗里がにやっと笑って、少しだけ口調を和らげた。


「小学校3年生の夏。お祭りの日、私、友達とわいわいしててさ。

ヨーヨー釣りやったり、かき氷食べたり。で、境内の脇で、ふと見かけたんだよ。――ひとりでぽつんと立ってた子」


「……私、それが“みこ”だった」


みこは、鳥居の先に続く石段を見つめながら、ぽつりと語る。


「転校したばかりで、友達もいなかった。親も屋台のほうに行っちゃって、気づいたら一人で……迷子、ってわけじゃないんだけど……」


「でも、泣いてたでしょ?」


「うん……ちょっとだけ」


みこは照れたように笑うと、紗里が肩を軽く叩いた。


「でさ、なんか放っとけなくて、私の方から声かけたの。“あんた、友達いないの?”って」


「うわ、言い方!」


「いや、ガキだからさ! でも、そこから仲良くなって――その後、同じクラスになった時、“あ、あの時の子だ”って」


「それが始まりだったんだね……」


ひのりが目を丸くして言うと、唯香も頷いた。


「出会いというのは偶然のようで、案外必然かもしれないわ。演劇的に言えば、“運命の第一幕”」


「かっこいいこと言った!」


石段を上がった先、境内には静かな空気が漂っていた。


蝉の声と風の音。そして、二人の思い出が、そこにそっと重なっていく――


境内へと足を踏み入れた瞬間、竹ぼうきを手にした年配の男性が、境内の隅を掃いている姿が目に入った。


「……あっ」


みこが顔をほころばせて駆け寄る。


「神主さんっ、お久しぶりです!」


掃除の手を止めた神主が、ゆっくりと顔を上げた。


白いひげが顎にたっぷりと蓄えられたその人は、しばし目を細め――そして、ゆっくりと頷いた。


「……おお、こりゃまた……おまえさんは、みこちゃんかい? ……んで、そっちが紗里ちゃん。ずいぶん大きくなったなぁ!」


「でへへ。もう高校生っす!」


「そうかそうか。ほんと月日が経つのは早いもんだな。あの頃は、巫女装束ぶかぶかで転びかけてたのに」


「ちょ、それは言わない約束で……!」


「えっ!? みこちゃん、巫女やってたの!? てことは……」


ひのりがすっと前に出て、無邪気に言い放つ。


「本物の“巫女みこ”だったのかーーーっ!」


「……うわぁ……出た、ひのりギャグ……」


七海が額を押さえ、紗里が「毎回ブレないなあ」と笑う。


「巫女でみこって……名前で得してるね、私」


と、みこが苦笑すると、神主が嬉しそうに笑った。


「この子たちは都会の友達でして、演劇部やってるんです」


紗里がひのりたちを紹介すると、神主は深く頷いた。


「演劇、いいじゃないか。人前に立つってのはな、心を強くする。……この神社の舞台も、昔は芝居小屋の代わりになったことがあるんだぞ」


「えっ、そうなんですか?」


唯香が少しだけ身を乗り出す。


「ああ。昔はな、この社の前で地元の青年団が芝居をやってたもんだ。神様の前で演じるのは、ある意味“祈り”にも近かった」


「“祈りとしての演劇”……なんか、すごく素敵……」


みこがそっと呟くと、ひのりが思わずつぶやいた。


「じゃあ、私たちも……もしかしたら、ここで何か演じる日が来るかも……?」


「来るといいねえ。その時は、拝殿も掃き清めて待ってるよ」


神主の優しい笑みに、全員が自然と頭を下げた。



――その時、ふと何かに気づいたように、ひのりが声を上げる。


「てかさ……この神社、もし本編で何か演じることになったら、“巫女経験ありの子が地元の神社で再演する”って、かなりのレア設定じゃない!?」


「……またそういうメタ発言……」


七海が呆れ顔で返し、唯香がぼそりと呟く。


「記憶に残るのは、いつもあなたのそういう台詞ね……」


「えー! だって、そういうの“読者人気出る”ポイントでしょ?」


「誰の話……?」


みこがくすっと笑い、紗里が肩をすくめた。


「でもまぁ、間違ってないかもね。レア設定って、案外、物語を一番動かすんだよね〜」


笑い声とともに、風が神社の木々を揺らす。


“現実と物語”が重なるような時間の中で、少女たちの歩みは今日もまた、少しだけ未来へと近づいていく。


小さな社が見守る中――

それぞれの過去と現在が、ゆるやかにつながっていく。


そして少女たちは、また一歩、次の物語へと歩き出す。


境内の空気は清らかで、夏の陽射しも木陰の下では柔らかく感じられた。


「じゃあ、せっかくだし……」


紗里が言うと、みんな自然と拝殿の前へと並ぶ。


一人ずつ、心を込めて手を合わせる。


(――この時間が、いつまでも続きますように)


(――みんなと、もっといい舞台を作れますように)


(――自分の居場所を、もっと広げられますように)


(――この夏、忘れられない物語になりますように)


それぞれの願いが、木々のざわめきとともに、空へと溶けていった。


「お参り、終わったね。なんか、心が浄化された気分」


「清められたら、今度は“ほぐされたい”よね」


紗里がにやりと笑いながら言うと、みこが控えめに続ける。


「……近くにね、昔ながらの温泉があるの。ちっちゃいけど、露天風呂があって、のんびりできるんだ」


「えっ、最高すぎない!? 行こう行こう!」


ひのりが即答すると、唯香も頷いた。


「今日はかなり歩いたし、体を休めるにはちょうどいいかも」


こうして、一行は神社をあとにして、地元の坂道をくだりながら温泉へと向かっていった。


――数十分後。


山あいにひっそりと佇む、木造の温泉宿。

のれんをくぐると、そこには古風ながら清潔感ある空間が広がっていた。


露天風呂に浸かるひのり達。


「……はぁぁぁ~~~~~~~~っ」


ひのりが声にならない吐息を漏らす。


「……これ……生き返る……」


「温泉が“身体に沁みる”って、こういうことなんだね……」


みこがそっと湯に沈みながら目を閉じ、七海も湯船の縁に腕をかけてぽつりとつぶやく。


「この場所、思ってた以上にいい……。今後、合宿候補地に入れてもいいくらい」


「たしかに、自然あるし静かだし、ちょっとした稽古ならできるよね」


紗里がそう言ったとき、唯香がふと空を見上げて言った。


「……こんな静かな場所で舞台の構想を練るのも悪くないわね。“頭のざわめき”が全部洗い流されていく感じ」


「“静かな時間”って、逆に創作意欲わくよね!」


ひのりが目を輝かせる。


「この前、七海ちゃんが書いた魔法の話、あれの続きってさ、もっと壮大にできそうじゃない? 温泉街の神社で見つけた“秘宝”とか出てくるとか!」


「出た! またご当地演劇にしようとしてる!」


紗里が笑い、七海は少し考えるようにうなずいた。


「でもたしかに、“舞台を広げる”って意味では、別のロケーションや文化を取り込むのもありかも。旅先で出会う謎、みたいな……」


「温泉宿の人が実は魔法の使い手とか……?」


みこが小声で提案し、ひのりがすぐに乗ってくる。


「それ! で、ひのり役の子が偶然その秘密を知っちゃって――」


「また自分で主役になる前提で話す……」


七海が苦笑している横で、唯香も湯船に半身を預けながら静かに笑っていた。


「でも、いいと思うわ。そういう“物語の連鎖”って、今の私たちに必要な気がする」


「……だね。こういう時間、すごく大事にしたい」


露天風呂の湯面に、空の雲がふわりと映っていた。


それぞれがリラックスした表情で、お湯に肩まで沈めながら、これからの“次の物語”を想像していた。


そして、誰からともなく――


「今度の舞台、絶対、いいものにしようね」


自然と重なる声に、うなずく音が返ってくる。


今日という一日が、未来へ続く“物語のワンシーン”になっていくような――

そんな気配が、温かい湯けむりの中に確かに漂っていた。


露天風呂でたっぷりと癒された後、彼女たちは軽く休憩所で冷たい飲み物を飲みながら一息つき、駅までの道をゆっくりと戻っていった。


陽は傾き、田舎の空にはオレンジと群青が混ざるように広がっていた。


やがて、ホームの手前のロータリーまで来ると、自然と立ち止まる。


「じゃあ、うちらはここでお見送りね」


紗里が両手を後ろで組みながら言う。


「今日は本当にありがとう! 地元ってだけで、ちょっと恥ずかしかったけど……すごく嬉しかった」


みこが少し照れたように笑い、ひのりがそれに応えるように手を振った。


「ううん、こっちこそありがとう! ほんっと楽しかったよ!」


「焼きそばもアイスも最高だったし、神社もめちゃくちゃ良かった。なんか……映画の中みたいだった」


七海が少し感慨深げに言い、唯香も頷いた。


「あなたたちの地元、静かで素敵だった。たまには、こういう時間も必要ね」


「また来てよ! なんなら、合宿で泊まり込みでも歓迎!」


紗里が冗談混じりに言うと、ひのりがすかさず手を挙げる。


「それ、ガチでアリだよ!? 神社で舞台やっちゃう!?“見晴れ神楽”とかやっちゃう!?」


「また変なタイトルつけてるし……」


七海が小さく笑った。


改札の音が響く。


「じゃ、また学校で!」


「次は稽古だね!」


「うん、“みんなの物語”を形にしよう」


ひのりたちはホームへと進み、紗里とみこは手を振りながら、その姿を見送った。


電車がゆっくりと動き出し、夕暮れの光の中にその姿が遠ざかっていく。


「……なんかさ」


と、ぽつりと紗里がつぶやく。


「今日のこと、ずっと忘れない気がする」


「うん、私も」


みこが小さくうなずいた。


遠ざかっていく電車の音が、夏の夕空に吸い込まれていった。


続く

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