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舞風学園演劇部 第一部 青春の開演  作者: 舞風堂
第二章 心の物語
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第九幕 ノスタルジーな旅、ふたりの地元へ

「まもなく、終点の見晴みはれ駅です――」


 見晴町。ここは風丘市からは電車で1時間程の場所。

 ノスタルジーな空気が漂い、古い駅舎に商店街が魅力的なこの場所は紗里とみこの地元でもあった。


「……着いた!」


 ひのりが立ち上がり、バッグを肩にかける。


「いよいよ、“地元ツアー”開幕だね!」


 白く塗られた木造の駅舎に、電車がゆっくりと滑り込む。


 ひのり、七海、唯香は電車を降りると改札を抜けた先、ロータリーには私服姿の紗里とみこが待っていた。


「よっ! ようこそ田舎駅へ〜!」


 紗里が両手を広げて出迎えると、隣でみこも帽子を押さえながら、小さく手を振る。


「遠いところ……来てくれてありがとう……!」


「わ〜、ほんとに来たんだ……! 地元っ子のお出迎えって、なんか感動……!」


 ひのりは周囲を見回しながら、ふいに目を輝かせた。


「よしっ、では本日も始まりました〜〜! “舞風どうでしょう”、地元探訪編〜〜!!」


 そう言いながら、胸を張って一歩前に出る。


「レポーターはこの私、本宮ひのり! カメラは七海ちゃん! ナレーションは唯香ちゃん! そして現地ガイドは――紗里&看板娘のみこちゃんでお送りしますっ!!」


「何その大泉リスペクト……」


 七海が呆れたようにスマホを構えながら笑う。


「……本当に番組始める気なんだ」


 唯香がナレーション口調でぼそりと呟く。


「“果たしてこの旅、どんな珍道中になるのか……全貌は、まだ誰も知らない”」


「うわ、始まった!!」


 ひのりが嬉しそうに拍手し、紗里がノッて言う。


「じゃ、地元案内はあたしに任せてっ!」


「私……看板娘、がんばる……」


 みこがちょっと照れながらも覚悟を決めたように言い、五人は旅番組ごっこの空気のまま、ゆるやかに歩き出した。

 

 まず最初に向かったのは見晴町の小さな商店街だった。

 ひび割れた舗装、レトロな看板。どこか懐かしい昭和の匂いが漂う。


「はいっ、本日はこちら“見晴レトロストリート”からお届けしまーす!」


 ひのりがスマホに向かって叫び、七海が苦笑しながら撮る。


「ガイドは地元代表、紗里さーん!」


「どーもー! 生まれも育ちも見晴れ町、地元偏差値98です!」


 ノリノリの紗里に、唯香が淡々と付け加える。


「――案内人・紗里。地元を知り尽くした少女が、懐かしき風景へ誘う」


「詩的すぎるナレーション……!」


 ひのりが笑いながら、店先へ目を向ける。


「まずは“たけうち魚店”! コロッケが名物!」


 揚げたての香りに、ひのりが目を輝かせる。


「これぞ旅番組の“視聴率取れるやつ”!」


「番組じゃないってば……」


 七海がすかさずツッコミを入れる。


「次は“はしもと文具店”。小学校のころはここで全部そろえたの!」


「出た、地元民の青春スポット!」


 ひのりが笑い、唯香はまだ淡々と。


「棚の文具は、記憶と物語の種でもあるわね」


「唯香ちゃん、もうほぼプロ……」


 みこが小さくつぶやく。


「……こういうの、落ち着くかも」


「看板娘みこちゃん、いいコメント入りました〜!」


 軽口を交わしながら歩くうちに、五人の“旅番組ごっこ”はすっかり板についていた。

 

  商店街の奥に、小さな木造の駄菓子屋が見えてきた。


「到着〜! ここが“地元キッズの聖地”『ふるや』!」


 紗里の紹介に、ひのりがスマホへ向けて興奮気味に語る。


「懐かしさ120%……! これぞ放課後文化!!」


 引き戸を開けると鈴が鳴り、奥からおばあちゃんが顔を出した。


「あらまあ、紗里ちゃんにみこちゃん! まあ大きくなって……!」


「おばあちゃん、元気だった? 今日は演劇部連れてきた!」


 みこも小さく会釈する。


「こんにちは……久しぶりです」


「みんな、好きなもん選んでいきな〜。ここは昔も今も“子どもたちの味方”だよ」


「粉ジュースまだあるの!? エモすぎる!」


 ひのりが目を輝かせ、唯香は淡々と棚を眺める。


「昭和中期のデザイン……資料価値が高いわ」


「唯香ちゃん、急に学芸員みたいになってる……」


 七海が笑うと、紗里がみこを前へ押す。


「看板娘みこちゃん、はいどうぞ!」


「え、わ、私……? ……い、いらっしゃいませ。おすすめは、ポテトフライです……」


「来たーーー! 癒やしの地元オーラ!!」


 顔を真っ赤にするみこに、おばあちゃんが微笑む。


「みこちゃんは昔から“いい子ねぇ”って近所で評判だったのよ。お店の顔みたいでねぇ」


「看板娘、実績あったんだ……!」


 和やかな空気の中、奥からジュウゥ……と香ばしい音。

 おばあちゃんが鉄板で焼きそばを炒めていた。


「ちょうどお昼だよ。よかったら食べていきな」


「ほんとに!? ばあちゃんの焼きそばとか優勝じゃん!!」


 紗里が胸を張る。


「ここで一番うまいからね。“ふるやの味”といえばこれ!」


 紙皿が配られ、ひのりが勢いよく一口。


「んっ……まいう〜っ!! 香ばしさが神ッ!!」


「……石ちゃんじゃないんだから」


 七海が即ツッコミ。


「でも、ほんと安心する味……」


 みこがそっと言うと、唯香がナレーションのように呟いた。


「――味覚は記憶の扉。“ふるやの焼きそば”は、きっと誰かの原風景」


 食べ終えたところで、紗里が手を打つ。


「よし、次は“天ノ杜神社”行こ!」


「神社ロケきたー! 絶対いい画になるやつ!」


 おばあちゃんが笑って送り出す。


「いいとこだよ。気をつけておいで」


「ばあちゃん、焼きそば最高でした!!」


 何度も頭を下げながら、五人は「ふるや」を後にした。


「それじゃ、案内は“ご当地ガイド・紗里”にお任せくださーい!」


 紗里が得意げに胸を張り、ひのりが大げさにマイク代わりのペットボトルを向ける。


「はいはい、というわけで! 次の舞台は――“神秘と歴史が香る、天ノ杜神社”ですっ!」


 旅番組ごっこは続きながら、少女たちは次の目的地へと歩き出す――。


 木漏れ日の差す石段をのぼりきると、そこにはひっそりとした境内が広がっていた。


 小さな拝殿、手水舎、古びた狛犬。どれも手入れが行き届いていて、静けさの中に温かみがある。


「ここが、“天ノ杜神社”でございます〜!」


 ひのりが芝居がかった声で両手を広げると、七海がカメラを向けながらぽつり。


「……また始まった」


 唯香は静かにナレーション風に続ける。


「“天ノ杜神社”――町の背後に広がる森に包まれた、知る人ぞ知る小さな神社。地元の人々にとっては、日常の一部であり、思い出の交差点でもある」


 その言葉を受けて、紗里がふと真面目な顔になり、境内をゆっくりと見渡した。

 ナレーションを続けながら、唯香はふと心の奥で気づいていた。


(……今の私は、“演じさせられて”いるんじゃない。“自分から選んで”この声を出してる)


 子役だった頃。セリフの一言一言に、正解を探していた。

 でも今は違う。ただの遊び、旅番組ごっこ。そのはずなのに、こんなにも自然に言葉が出てくる。


(きっと私は、こうして“物語の語り手”でいるのが、いちばん自分らしいのかもしれない)



「……ここさ、あたしとみこが出会った場所なんだ」


「えっ、そうなの?」


 ひのりが目を丸くする。


「うん。小学校の時、みこが転校してきて、最初のうちはずっとひとりぼっちでさ。あたし、ここでたまたま見かけて、声かけたんだよね。“ラムネあげよっか?”って」


「……あの時、すごく嬉しかった。

親の仕事の都合で転校ばっかりだったけど……

おばあちゃんの家があるこの町は、なんか“帰ってきた感じ”がして。」


 みこが、少し照れたように微笑んだ。


「それからよく一緒に遊んで、この神社が“秘密基地”みたいになって。……なんか、思い出詰まりすぎてて、ちょっと泣きそうかも」


 紗里が苦笑まじりに言うと、ひのりも感慨深く頷いた中、みこがそっと続けた。


「……あの頃の私、すごくドジだったんだよ」


「え、みこちゃんが?」とひのりが驚く。


 みこは頬を赤らめ、指先でもじもじと裾をつまむ。


「転校してきてすぐの頃、教室で自己紹介したら緊張しすぎて“よろしくお願いします”を二回噛んじゃって……

 そのあとも、ランドセル忘れたり、水筒こぼしたり、毎日なにかしらやらかしてて……」


 紗里が「懐かしい〜!」と笑い声を上げる。


「しかもさ、みこって泣き虫だったよね? すぐ目が赤くなって。

 でも先生に叱られると、なぜか“ありがとうございます”って返すの」


「……あれは、どう返していいか分かんなかっただけ……」

 みこは小声で抗議しながらも、どこか嬉しそうだった。


 唯香が興味深そうに目を細める。


「みこちゃんって、昔から“守ってあげたくなるタイプ”だったのね」


「うん。でもね――」

 紗里が続ける声はどこか誇らしい。


「みこは見た目と違って、すっごくがんばり屋なんだよ。

 運動苦手なのに、かけっこでビリになりたくなくて、毎朝ひとりで走ってたし」


「えっ、そんなことしてたの!?」と七海。


 みこは視線を落とし、少し照れながら。


「……努力してるところ、誰にも見られたくなくて。

 見られたら“がんばってますアピール”って思われるかなって……」


「みこ、それ全然アピールじゃないよ」

 ひのりが即座に否定する。


「むしろ、すっごく素敵な一面だと思う!」


 紗里も頷く。


「そうだよ。あたし、そういうところ好きだったし。

 一緒にいると、なんか“守ってあげたくなる”だけじゃなくて、

 “この子のこと支えたい”って思えるんだよね」


「……紗里ちゃん」


 みこが小さく微笑むと、境内の風がそっと吹き抜けた。


 その静けさの中、七海がぽつりとまとめる。


「――みこちゃんは、静かな子だけど強い子。

 その強さがあったから、今こうして私たちは一緒にいられるのね」


 ひのりが「うん、ほんとに」と頷き、五人は自然と横に並んだ。


 天ノ杜神社の澄んだ空気のなか、二人の“原点”に、みこの“素顔”がそっと重ねられていくのだった。


「“運命の場所”って、ほんとだったんだね……!」


 そのとき――


 奥の社務所から箒を手にした神主がゆっくりと姿を現した。


「おや……これはこれは、紗里ちゃんに、みこちゃんじゃないか」


「わっ、神主さん!」


「こんにちは……! お久しぶりです」


 二人がぺこりと頭を下げると、神主は目を細めて笑った。


「大きくなったなぁ。まるで昨日まで、ここで走り回ってたみたいだ」


 演劇部の他のメンバーにも目を向けて、にこやかに続ける。


「お友達かい? ようこそ。この神社には、舞の神様も祀られておる。芝居を志す者には、なかなか縁深い場所じゃよ」


「出た〜、舞台とご縁のある神社だー!!」


 ひのりがテンション高く声を上げ、唯香が即座に補足する。


「神楽や奉納舞がルーツになっている演劇は、神社との歴史的関係が深い。これは資料価値もあるわ」


「ちょっとガチ解説入りましたー!」


 七海がカメラを下ろして笑い、紗里とみこも顔を見合わせて自然に笑った。


全員で拝殿の前に立ち、手を合わせる。


 パン、パン。


 小さく響いた拍子に、木々がそよぎ、どこか神聖な空気が流れた。


「……じゃあ、お参り終わったことだし、そろそろ次に――」


 ひのりが言いかけたとき、神主が声をかけた。


「せっかくだ。休憩所で少し休んでいかんかね? お茶とお菓子ぐらいは用意できるぞ」


「えっ、いいんですか!? ありがとうございますっ!」


 神主に案内されて、境内の奥にある古風な休憩所へ。


 畳敷きの広間に、低い木の机。開け放たれた縁側から、風がそっと入り込む。


 テーブルの上には急須と湯呑み、そして地元の和菓子――


「わあ……まさか神社でこんなゆったりしたお茶タイムになるとは」


 ひのりが感激したようにお茶を手に取る。


「“神社でお茶会”……なんか新しい絵面だね」


 七海も笑いながら湯呑みに口をつけ、唯香は淡々とした声で呟く。


「この静けさと空気の流れ……“舞台装置としての空間美”を感じる」


「もはや感想が芸術寄り!」


 紗里とみこは、少し離れたところで並んで座り、静かに笑い合っていた。


「……昔もさ、祭りの後とか、ここでラムネ飲みながら話してたよね」


「うん。今日のことも、きっと思い出になるね」


 しばしの沈黙。


 心地よい風と、茶の香り。鳥の声と木の葉の揺れる音だけが、静かに時を満たしていく――


神社の拝殿で参拝を終えると、神主の案内で境内奥の休憩所へ。縁側に腰かけて出されたお茶と和菓子を味わいながら、ひと息つく。


「ここ、落ち着くね……」

ひのりがそう漏らすと、紗里が懐かしそうに空を見上げる。


「……うちらさ、実はこの神社で、舞風学園に受かりますようにって願かけたんだよ」


「えっ、マジで!?」

 七海が驚き、唯香も興味深そうに視線を向ける。


「うん。たまたま受験前に2人で来てて、“都会の学校なんてムリかも”って話してて……でも、ダメ元でお願いしてみようって」


「まさかほんとに受かるとは思ってなかったけどね」

 みこが照れたように笑う。


「……今思えば、ここが最初の一歩だったのかもね」


 その言葉に、しばし沈黙が流れる。

風が木々を揺らし、縁側に心地よい影を落とす。


 ふと気がつくと、森の向こうがオレンジ色に染まり始めていた。


「……あっという間だね」

みこがつぶやき、全員が静かに頷いた。


 夕陽が沈みかけた頃、見晴駅のロータリーへ戻ってきた五人。町全体があたたかな橙色に包まれていた。


「なんか、今日はほんとに旅番組の1日だったね……」

ひのりが深く息を吸いながら笑った。


「“舞風どうでしょう”、無事ロケ完了って感じ?」

七海がからかうように言うと、唯香が軽くうなずいた。


「旅というより、“物語のロケハン”だったわね。とても有意義だった」


「また来てよ、今度は夏祭りもあるし」

紗里が笑顔で手を振ると、みこも隣で静かに言った。


「次は……もっといろんな思い出、作ろうね」


 電車のドアが開き、ひのり・七海・唯香の三人が振り返る。


「今日はありがとう! また絶対来るから!!」


 ひのりの声に、紗里とみこがそろって手を振る。


 列車が動き出し、ホームの灯りの下、笑顔がゆっくり遠ざかっていった。


 夕暮れの風が吹き抜け、見晴の町に、静かな余韻だけが残った――。


続く。





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