第四幕 言葉と動きのリハーサル
ゴールデンウィーク明けに行われる部活動PRウィークの一環で初演劇を披露することになった舞風学園演劇部の稽古場でもある多目的室には、いつもよりわずかに緊張感を帯びた空気が流れていた。
「じゃあ、台本、印刷してきたよ」
七海がプリントアウトされた数部の台本を机に並べる。
「わぁ、ついに来た……!」
ひのりは目を輝かせながら、一枚を手に取った。
校内PRウィーク――開校1年目の舞風学園で各部活動が成果をアピールする春の初の行事。
彼女たち演劇部にとっては、“初舞台”となる、特別な機会だ。
「今日は読み合わせの前に、体ほぐしからね」
音屋先生がにこやかに声をかける。
「よーし、いよいよ演劇部っぽくなってきたーっ」
ひのりはストレッチマットに立ち、腕を回しながら思わず声を上げる。
肩、首、腰……前屈で体を伸ばし、リズムに乗ってステップを踏む。
軽く息が上がると、そこにじわりと湧き上がってくるのは、心地よい高揚感だった。
ストレッチを終えると音屋先生はあめんぼの詩を勧める。
「じゃあ次は、“あめんぼの詩”いってみようか」
唯香が手本を見せるように、静かに口を開いた。
「私からやります。あめんぼ あかいな あいうえお
うきもに こえびも およいでる」
柔らかい声が部屋に響く。
「……あっ、それ知ってる!」
ひのりが顔を上げる。
「小学校の時にやったやつ! でも今やると……なんか、言葉の一つひとつがちゃんと“音”に聞こえる」
「そう。発声練習の基本中の基本。でも、ただの早口言葉じゃないの」
唯香が微笑みながら続ける。
「“言葉にリズムを感じる”こと、“音で情景を浮かべる”こと。それが演技にもつながるのよ」
「……情景を浮かべる、かぁ」
七海が腕を組み、少し考え込む。
「じゃあ、“水面に浮かぶあめんぼ”の気持ちで読めってこと?」
「お、名言出た!」
紗里が笑う。
「でも確かに、言葉の中の“景色”を感じるって大事だね」
「じゃあ全員で一緒に言ってみましょう」
音屋先生が指で合図する。
彼女たちの声が重なった。
「あめんぼ あかいな あいうえお――」
テンポを合わせて、リズムを刻み、音が重なっていく。
その声はまるで、これから生まれる“舞台のハーモニー”のように響いていた。
「皆、基礎はもう身についてきたから、今日は“間”と“リズム”を意識してね」
音屋先生の言葉に、みこが小さくうなずく。
「……わ、私、ちゃんとできるかな……」
不安げな声に、唯香が優しく微笑む。
「大丈夫。失敗しても、どう魅せるかが大事なのよ」
「次は基本の発声。“五十音連呼”、今日は“感情付き”でやってみましょう」
「感情付き……?」
七海が小さく首を傾げると、唯香が説明を添える。
「“あ・い・う・え・お”を、“怒ってる風”“泣いてる風”“叫んでる風”でね。同じ言葉でも、感情で全く違って聞こえるの」
「うおー、面白そう!」
ひのりが一歩前に出て、挑戦する。
「怒ってる風――“あ!い!う!え!お!”……ってどう!? 怒ってるって感じた!?」
「反抗期の中学生だった」
即座にツッコんだのは紗里。
「わかりにくっ!」
ひのりは口を尖らせながらも笑って返す。
みこの頬にも、ふっと笑みが浮かぶ。
「じゃ、次は泣いてる風で……“あ……いぃ……う……え……おお……”」
「うわ、妙にリアルで心配になるやつ……」
七海がぼそっと漏らすと、皆がくすりと笑った。
「声を出すって、ただ大きいだけじゃない。呼吸、音の高低、間……そういうのが全部、感情になるのよ」
唯香の声は穏やかで、説得力があった。
「じゃあ私は、“感情爆発系”でいこうかな!」
「まだ爆発って言ってる……」
七海が呆れ顔でツッコむ。
冗談と笑い声が交じるなかで、発声練習は自然と熱を帯びていく――。
基礎練習と発声を終え、少女たちは多目的室の机に集まり、いよいよ「読み合わせ」が始まる。
「じゃあ、まずは“本読み”から始めよう!」
ひのりがプリントされた台本を机に並べながら、目を輝かせる。
「えへへ、こういうの、ずっと憧れてたんだよね〜」
「読み合わせは演技の第一歩。でもここでは、感情を込めすぎず、“言葉を丁寧に運ぶ”ことが大事」
七海が隣で補足しながら、台本をめくる。
「うわ〜……」
紗里が思わず吹き出したように言った。
「私のキャラ、完全に“うっかり精霊”なんだけど!? 一行目から“うわあああトラブル起きた〜!”とか書いてあるし!」
「演劇界の“ドジっ子枠”を背負ってるね」
七海が即座に返す。
「なんであたしだけバラエティ感満載なの!? これ絶対コメディ担当じゃん!」
「でも、妙に似合ってるよ」
と、冷静に言い放つ七海。
「似合ってるって言うなー!」
笑いの中、みこはおそるおそる台本を手に取る。
「……わ、私の最初の台詞……“あの、ここはどこですか……?”……完全に異世界転生のテンプレ……」
「異世界ヒロインかぁ。展開が急にライトノベルになってきたね」
紗里がニヤリ。
唯香がそのやりとりを聞きながら、少し口元を緩める。
「でも、いい台詞よ。“日常と非日常の境界”を感じさせる、導入としては王道」
「そ、そう……かな……」
「さあ、次はひのりのターンだよ」
七海がページをめくる音と共に視線を向ける。
「任せて!……『伝説の剣に選ばれし者、本宮ヒノリ! 今こそ宿命を受け入れる時――!』……えっ、めっちゃ中二病入ってる!?」
思わず目を見開いて、自分で言って自分で照れるひのり。
「ちょっと待って、誰だよこんな恥ずかしい台詞書いたの……」
その言葉に、全員の目が七海に向く。
「……私です。でも、ひのりが“ここはドカーンって来て!”って言うから……」
「その“ドカーン”がこれ!? 演出過剰〜〜!」
紗里が爆笑しながら頭を抱える。
「でも、私はこういうの、嫌いじゃない」
みこが小さくつぶやく。
「うん、物語としてはちゃんと“起点”になってるわよ」
唯香も頷く。
「じゃあ、みこちゃん、試しに読んでみて」
唯香に促され、みこは緊張気味に声を出す。
「……あの、ここはどこですか……?」
小さな声だったが、その一言に、どこか空気が揺れる。
数秒の沈黙の後――
「……リアルだった」
七海がぽつりとつぶやく。
「ほんと。今の声、すごく自然だった」
ひのりも思わず息を呑む。
「……え……?」
みこは、ぽかんとした表情を浮かべる。
「その“戸惑い”が、ちゃんと伝わったわ」
唯香が優しく評価する。
ざわざわしていた空気が、少しだけ静けさを取り戻す。
「本読みってだけなのに、すごく緊張したけど、すごく楽しいかも!」
ひのりが笑顔で息を弾ませる。
「読みながらキャラを掴んでいく感じ、いいよね」
七海も小さく頷いた。
発声練習の延長にあった“声”が、いま“演技”の入口になろうとしていた。
本読みを終え、教室の空気が少しずつ演技モードへと切り替わっていく。
「じゃあ次は、“動き”の練習に移ろうか」
音屋先生の声に、少女たちは立ち上がる。
「今回は“暗転明けの導入シーン”ね」
唯香が台本を確認しながら説明する。
「姫が最初に目を覚まして、周囲の異変に気づく。そこから勇者と精霊が次々登場していく流れ」
「姫役、スタンバイお願い」
唯香の指示に、みこがやや緊張した面持ちで立ち位置に向かう。
「……はい」
教室の机を「森」に見立てて配置した即席の舞台セット。照明はないけれど、どこか空気が引き締まっていく。
暗転を想定して一拍――
みこが、静かに身体を起こす。
「……ん、ここは……どこですか……?」
周囲を見渡すように目線を動かし、肩をすくめる。その動作に、全員が無言で見入っていた。
「おお……自然に動いてる」
紗里が思わず声を漏らす。
「次、勇者登場〜〜!」
ひのりが元気よく、椅子に登って“木の上”を演出する。
「なんだこの衣装!? てか、なんで木の上!? うわ、降りれないー!!」
と、おどけながら叫ぶ。
「って――うわあっ!!」
ひのりがバランスを崩し、椅子の上でぐらりと揺れた。
「ひのり!?」
その瞬間、みこが駆け寄る。
小さな身体で、ひのりの腕をしっかり掴んだ。
「だ、大丈夫!? 手、ここに置いて!」
ひのりはみこの手を支えにして、なんとか椅子の上で体勢を立て直す。
「ふぅ〜〜〜……危なかった〜……」
息を整えながら、ひのりが照れ笑いを浮かべる。
「……ありがと、みこちゃん」
「ううん、あ、あんまり力になれなかったけど……でも、無事でよかった……」
みこは恥ずかしそうに視線を逸らすが、その手は微かに震えていた。
その様子に、紗里が感心したように言う。
「姫役って“守られる側”だと思ってたけど、今の完全に“支える側”だったよね」
「いやもう、ナイトだった」
七海も静かに頷く。
音屋先生が、笑みを浮かべながら声をかける。
「そうよ。演劇は“想定外”がつきもの。その瞬間にどう動けるかが、演者としての本質でもあるの」
「……私、なんとなく動いただけ、で……」
「でも、その“なんとなく”が、舞台にとって大切な本能になることもあるのよ」
唯香が優しく言った。
ひのりは、みこの手を軽く握ると、笑顔で言った。
「やっぱ、みこちゃんが姫で正解だったな〜!」
「えっ、わ、私……?」
「なんか、守りたいし、守ってくれる。最強じゃん!」
言われたみこは顔を真っ赤にして、「そんなこと……」と小さくつぶやく。
でも、心の中で確かに何かが灯っていた――
“私もこの舞台の一員なんだ”と、そう感じさせてくれる瞬間だった。
「ふぅ……ひのり、大丈夫だったね」
紗里が椅子の脚を押さえながら言う。
「うん……ほんと、びっくりした〜……落ちたら絶対、痛いやつだった……」
ひのりがほっと息をつく。
その横で、みこが少しだけうつむきながらも、ふっと微笑む。
「……でも、助けられて、よかったです」
「助けてもらってよかったよ〜。ありがと、みこちゃん!」
ひのりがにっこり笑うと、みこは恥ずかしそうに小さくうなずく。
その場の空気が自然と和み、笑いがぽつぽつと広がっていく。
一通りの練習を終えるとそこへ音屋先生が、優しい拍手と共に声をかける。
「よし、今日はここまでにしましょう。とても良い時間だったわ」
少女たちは、ほっとしたように息をつき、手にした台本をそっと閉じる。
「次は……いよいよ“村のシーン”ね」
唯香が微笑む。
「うわ、あそこ……感情の見せ場が多いから緊張するなぁ」
ひのりが両肩をすくめながらも、目はどこか嬉しそうだ。
「でも、今のみこちゃんみたいに、咄嗟の動きも含めて“生きた舞台”になるといいわね」
唯香の言葉に、皆が頷く。
夕暮れの教室。窓の外には、茜色の光が差し込んでいた。
明日はまた新しい一歩。
今日の練習は終わり、でも物語は、まだ始まったばかりだった。
翌日、放課後の多目的室。
教室の机は片付けられ、中央には舞台を模したスペースが設けられていた。
ひのりたちはそれぞれ立ち位置に立ち、読み込んだ台本を手に軽く呼吸を整えている。
「じゃあ今日は、“村のシーン”から通してみましょう」
唯香が台本を持ちつつ、落ち着いた声で言う。
「ミコリア姫、最初の台詞、お願い」
「……はい」
みこはひとつ息を吐いてから、静かに演じ始めた。
「……まさか、村中の人が眠ってるなんて……!」
しっかりとした声。
驚きと戸惑いが混ざった口調に、場の空気が引き締まる。
続いて、ひのりが勢いよく台詞を繋ぐ。
「寝坊レベルじゃないって! 完全に魔法案件でしょこれ!」
やや大げさな演技に、紗里が木のセットを叩いて声を上げる。
「おーい、起きて〜! 朝ごはんできたよ〜! ……って、だめだ……全然反応ない……」
その瞬間、七海が立ち位置から軽やかに登場した。
「……この村の空気、何かがざわついているわ。魔力の気配を感じる」
登場の仕草は自然で、落ち着いた声が部屋の空気を少し緊張させた。
その瞬間、唯香が手を上げて止める。
「はい、ストップ」
4人が顔を見合わせて足を止めた。
「悪くないわ。特にみこちゃん、最初の台詞、とても丁寧に“状況の異常さ”を伝えられてた。でも――」
唯香はみこに視線を送りつつ、穏やかに続けた。
「このシーンは、“静けさ”と“不気味さ”の緩急がすごく大事なの。叫んだり動きすぎると、観客の緊張が薄れてしまう」
「なるほど……ちょっと賑やかすぎたかな」
ひのりが苦笑いしながら頷く。
「昔、私が子役の時にね、とある舞台で“嵐の後の村”の場面を演じたことがあったの」
唯香がふと懐かしそうに語り出す。
「そのとき、舞台の中央に立った瞬間、何も言わなくても観客の息が止まるような“静寂”があった。……台詞より、空気が物語を語ってくれることもあるのよ」
「……空気で語る、か」
七海が静かに呟いた。
「でも、演技が物足りないってわけじゃない。だからこそ、抑えるところをちゃんと意識すると、台詞が何倍も際立つの」
みこは、小さくうなずいてから言った。
「……ひのりちゃんの“完全に魔法案件”って台詞、もう少し、“無理に明るくしてる感じ”を出すと、違和感が出て面白いと思う」
「おお……!なるほど!演技で“ごまかしてる”雰囲気か!」
ひのりが目を輝かせる。
「紗里ちゃんも、木を叩くところ、ちょっと勢いが強すぎるかも。もっと“声をかけてるだけ”って感じにしたほうが、落差が出るかも……」
みこの言葉に、紗里が目を見開く。
「まじで? でも確かに、あたしも“起きろー!”って気持ちで叩いてたわ。もうちょい優しくいってみる!」
「姫、演出もこなすとは……」
七海が小声で呟くと、唯香がにこりと笑った。
「本番を見据えた“感覚”があるってことね。……みこちゃん、頼もしいわ」
皆の視線がみこに集まると、みこは少しだけ頬を染めながら、けれど真っ直ぐに台本を見つめた。
「……わたし、演技はまだまだだけど。誰かの演技を見て、“ここがもったいない”って思うことは、あるから……」
「それって、演劇にすごく向いてる感性だと思うよ」
唯香のその一言に、みこは静かに、でもしっかりとうなずいた。
「じゃあ、もう一度、村のシーン、頭からやってみましょう。今度は“間”と“空気”に気を配って」
「了解です!」
少女たちは再び立ち位置に戻り、深呼吸をしてから、台詞の世界へと身を沈めていった。
一通りの場面練習が終わると、教室の空気がふっと緩んだ。
「よーし、ちょっと休憩しよっか〜!」
紗里が両腕を伸ばして大きくあくびをする。
「水分補給忘れないでね」
七海がペットボトルを差し出しながら、汗を拭う。
みこは壁際に腰を下ろし、手帳に何かを書き込んでいた。演技中の細かな気づきを、忘れないうちにメモしているようだ。
「……真面目だね、みこちゃん」
ひのりがその様子を見て笑いかける。
「う、うん……自分のことはまだ全然だけど、他のみんなの演技、見てるの好きだから……」
そんな会話の中、音屋先生が手を叩いて皆の注意を集めた。
「さて、今日はこれでひと通りの練習は終わりです。お疲れさまでした」
「おつかれさまでしたー!」
軽やかな声が返るが、音屋先生の表情はどこか真剣だった。
「でもね、ここからちょっと厳しい話もします」
その一言に、全員の背筋が少しだけ伸びた。
「今のままでも“楽しそう”には見える。でも、舞台に立つ以上、それだけじゃ足りないの。観客の前に出るってことは、すべての表情、声、動きを“伝える責任”があるということ」
その言葉に、誰もが真剣な顔になる。
「本宮さん。あなたの元気とリーダーシップは本当に素晴らしい。でも勢いだけで押し切る演技は、時に粗さになってしまう。“抑える演技”にも挑戦してみて」
「……はい、意識してみます!」
「伊勢さん。冷静な演技と表情のコントロールは秀逸です。けれど、他人に厳しく、自分に甘くなっていないかしら? もっと自分の演技にも敏感になって」
「……肝に銘じます」
「小塚さん。コメディパートを引き立ててくれて感謝しています。でも、感情の切り替えが遅れると、観客の温度がついてこなくなる。テンポを大事にして」
「わかりましたっ……ギャグだけで終わらせたくないもんね!」
「城名さん」
みこは少し体をこわばらせながら顔を上げる。
「あなたは、今日一番“舞台全体”を見ていました。他の演技者を支える力、気づきの鋭さ。これは舞台を作る上で大きな強みです」
「……ありがとう、ございます」
「でも。だからこそ、自分の演技にも、もう一歩踏み込んでほしい。演出目線に頼るのではなく、役の心にもっと深く入ってみて」
みこは小さくうなずいた。やや唇を噛みしめながら、それでもその指摘を正面から受け止めている。
「演劇は、“チームで創る”芸術です。誰かが目立てばいいわけじゃない。ひとりひとりが全体を支えながら、全力で輝くこと。それが、本当の舞台」
音屋先生は一呼吸おいて、言葉を締めくくった。
「皆、今日はよく頑張りました。このチームなら、まだまだ良くなる。誇りを持って、一緒に作り上げていきましょう」
「はい!」
多目的室に、まっすぐな返事が響く。
ひのりがふと、唯香の方を見て言った。
「ねえ、唯香ちゃんって……この劇に出たりしないの?」
唯香は少しだけ目を見開いたあと、微笑んで首を振った。
「私はあくまで“指導”と“サポート”の立場だから。表に立つのは、みんなの役目よ」
「そっか〜……でも唯香ちゃんの演技、めっちゃ見てみたいんだけどなあ」
ひのりが名残惜しそうにつぶやくと、唯香は少しだけ視線を外し、やがてこう言った。
「でも……“ナレーション”なら、やってもいいかも」
「えっ!ほんとに!?」
ひのりが食いつくように声を上げる。
「演じるのとは違うけど……物語を支える“語り手”として、皆の世界を導く役。――ちょっと素敵だと思わない?」
「超素敵!ぜったいそれお願いしたい!」
ひのりが瞳を輝かせる。
唯香は静かに笑って頷いた。
「うん。私の声が、みんなの舞台を引き立てられるなら、嬉しいわ」
笑い声が広がる中、音屋先生がにこやかに言葉を添えた。
「宝さんのナレーション――いいじゃない。舞台に“言葉の力”が宿るわね」
少女たちはそれぞれの台本を胸に、また明日からの練習に思いを馳せる。
校内PRウィーク、舞風学園での“初舞台”に向けて――
春の陽射しの中、舞風演劇部はまた一歩、新たなステージへと進んでいくのだった。




