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舞風学園演劇部 1年編 青春の開演  作者: 舞風堂
第六章 夢を歌う舞台へ
26/26

最終幕 夢は光


 舞風学園の講堂、本番を告げるチャイムが、舞台袖に淡い緊張を落とした。


 衣装は制服そのままだが、照明の隙間から差し込む光は、まるで幕の向こうに広がる“未知”を誘うようだった。

 その光を前に、五人の少女は立ち尽くしている。

 胸の奥で高鳴る鼓動――抑えきれない期待と、不安と、夢。


「……いよいよだね」

 最初に声を発したのはひのりだった。

 笑顔を見せながらも、その拳は微かに震えている。


「……台詞、ちゃんと出てくれるかな」

 みこが両手を胸にあて、小さな声で呟く。

 その顔はまだ緊張で強張っていた。


「大丈夫。だって、みこちゃんの演技、練習の時からずっと……心に届いてた」

 唯香が静かに言う。その目には迷いがない。


「……そうよね。今さら迷ってる場合じゃない」

 七海は胸に台本を抱きしめ、静かに息を吐いた。


「よし、気持ちを切り替えよ! 練習全部、ここで燃やし尽くすんだから!」

 紗里が両手を叩き、笑顔を見せる。けれど、その笑顔にも少しの涙が滲んでいた。


 その時――

 背後で足音がした。音屋亜希がゆっくりと歩み寄ってくる。


「……全員、揃ってるわね」


 いつもの冷たい声。

 だけど、その目には、柔らかな光が宿っていた。


「怖がるな。練習で散々言った“もっと本気を出せ”“甘えるな”――あれは、あなたたちの力を引き出すための“役”だった。私も、演出家として舞台に立ってたってわけよ」


 その言葉に、ひのりが驚いた顔をする。


「じゃあ、あの鬼みたいな稽古は……」


「全部、演技よ。本番であなたたちが胸を張れるようにするためのね」

 亜希はふっと微笑んだ。

「……だから、もう怖い顔はしない。楽しむのよ。今日、この舞台で生きてきなさい。――私は袖から見守ってる」


 その言葉は、五人の心に温かく灯った。

 不安を焼き尽くし、ただ“やりきりたい”という熱に変えて。


「……ありがとう、先生」

ひのりは、まっすぐに頷いた。


 そして、全員を見渡す。

 胸の奥で、何かが込み上げるのを感じた。

 今言わなきゃ、一生後悔する――そんな確信とともに。


 ひのりは一歩前へ出て、声を張った。



「みんな、ここまで一生懸命頑張ってきたんでしょ?5月の初公演、唯香ちゃんの入部、7月の外部公演、夏の合宿、文化祭のための映画撮影、ハロウィンの幼稚園訪問、クリスマスの朗読劇、そして今日の学年末公演、沢山の活動してきたじゃん?


すごくない?まだ開校して一年目だよ?

それなのに、私たちはもう“物語”を作ってきた。

この舞風学園演劇部の伝説を!


4月からは後輩も入ってくる。

私たちがここで残すものは、きっとこれからのみんなの“魔法”になる。


だから――

絶対、全力で演じよう!!

この舞台は、誰のものでもない、“私たち”の青春なんだから!!」



「「おおおおっ!!!」」

 全員の声が、舞台袖に響く。


「七海ちゃんの脚本、みこちゃんの優しさ、紗里ちゃんの元気、唯香ちゃんの強さ――全部、この舞台で輝かせよう!」


 五人の手が重なった。

 温もりが伝わる。それは約束の証。

 もう、迷いはない。


(行こう。私たちの、青春のすべてをかけて)

 

 暗転の中、舞台袖から光の海へ――

 五人は、ただ前を見て走り出した。


 ミュージカル


 第一幕「夢は光」



冒頭:ひのりのソロ


(舞台は暗転。静かにピアノが鳴り始め、中央にスポットライト。制服姿のひのりが一人立っている)


ひのり(ソロ・しっとりと)

♪夢はまだ 小さな灯火

 誰にも見えない ひとりの光

 追いかけても 掴めなくて

 それでも――止まれなかった♪


(少しずつ舞台が明るくなり、背景に「学校の廊下」や「教室」のセットがうっすら浮かぶ)


ひのり(強く)

♪笑われても 迷っても

 胸の奥で 何かが叫ぶの

「行け」って、「立て」って

 夢は、私を呼ぶから――!


(音楽が転調し、ビートが加わる。ひのりの振り付けが大きくなり、舞台が活気づく)



他メンバー登場(順番に加わる)


みこ(登場・舞台袖から一歩ずつ)

♪見てたの その背中を

 走り続ける あなたを

(でも私は…… 進めなかった)


唯香(反対側から現れる)

♪叶えても 心は晴れず

 夢に縛られた日々

 誰のために 笑ってたの?


七海(中央後方に現れ)

♪支えるだけのつもりだった

 でも……胸が熱くなる

 この物語に 私も生きてるって


紗里(最後に元気よく登場)

♪楽しいって、嬉しいって

 みんなで笑えるだけで

 それが、夢でしょ!?

 ねえ、ねえ、そうでしょ!!



全員合流・サビ(フォーメーション揃ってダンス)


全員ユニゾン

♪夢は光! 私たちを照らす光!

 傷だらけでも つまずいても

 立ち上がれる強さに変わる!


 夢は光! 繋がったこの手の中

 ひとりじゃない そう思えたから

 今ここで――

 生きてる!!


(最後の「生きてる!」で全員が力強くポーズ、照明がブワッと広がる)


第二幕

ひのりにスポットライトが当たり、独白のシーンとなる。


(舞台が暗転し、中央にスポットライト。ひのりが一人、前を見つめて立つ)


ひのり(独白)


「小さい頃、私は“魔法少女”だった。

現実が怖くて、自信がなくて……だから、誰かになりたかった。

強くて、明るくて、みんなに笑われない“私じゃない私”。

なりきることで、私は少しだけ勇気を持てたんだ。」


(回想風の照明が差し、後方スクリーンや背景が“幼少期の公園”を映す。ひのりはひとり遊びのように、魔法少女のポーズをとる)


♪ソロ「なりきりの魔法」(歌いながら演技をする)


♪ ひとりきり 砂場の城

 だれにも見えない 王国の中

 魔法の言葉を 唱えれば

 わたしはもう 泣かない子


(魔法のステッキを模した動き。子どもの頃を演じるような柔らかい振付)


♪ だけどね 本当は知ってた

 これは夢 嘘の世界

 でも、ほんの少しの勇気が

 わたしを守ってくれたの


(音が止まり、再びスポットライト)


ひのり(静かに)


「でも、気づいたの。

“魔法”って、誰かに見せるための嘘じゃない。

本気で信じた時にだけ、生まれる――私の中の力だって。」


(場面が変わる。舞台に“舞風学園”のセットが現れ、制服姿に切り替わる)


♪続き:決意のフレーズ(明るく)


♪この場所で出会った

 仲間たちの言葉が

 もう一度 私を

 現実に連れ戻してくれた


♪演じるって怖いけど

 本気でやれば伝わる

 だから私は――

 舞風で、伝説を作るよ!


(最後、手を胸に当てて、まっすぐに前を見て)


「私は、もう逃げない。

“誰かになりたい私”じゃなくて――

“今ここに立つ私”として、演じるから!」


(スポットが徐々に広がり、次の人物の影が浮かび始める)


(舞台はそのまま、ひのりの光が静かにフェードアウトし、七海にスポットライト)


七海(独白)


「私はいつも“舞台の外側”にいた。

光を浴びる側じゃなくて、そこに立つ人の言葉を“書く”人だった。

静かに、本を読んで、想像して――

でも、ひのりたちと出会って思ったの。

“物語の外側”なんて、本当は存在しない。

だれだって、自分の中に舞台があるって。」


(背景に本棚が浮かび、ページが舞うような光の演出)


♪ソロ「ページをめくるように」


♪ ページをめくる 指の先に

 いつも誰かの想いが宿る

 書くことで つながる心

 私はそこに 命を吹き込むの


(舞台上に台本を模したプロップが浮かび上がる)


♪ 主役じゃない 光の中じゃない

 でも、私も信じたい

 この言葉たちが 誰かを動かせると――


(テンポが少し上がり、前に歩き出す)


♪ 舞台の袖で 祈っていた

 けれど今は 声をあげよう

 私の物語も、誰かに届くように


(感情を込めて)


♪ 描くだけじゃ足りない

 自分の足で、ページを踏みしめたい

 この舞台が私にくれた

 勇気という物語――!


(静かに、語り口調に戻る)


七海(決意)


「私は書く。

そして、演じる。

誰かのためでも、自分のためでもなく――

この物語を、生きるために。」


(スポットが広がり、次の人物へ)


(七海パートの静けさから一転、スポットが明るく跳ねるように転換。効果音とともに紗里が軽くジャンプして登場)


紗里(独白)


「演劇ってさ、めっちゃ難しいって思ってたんだよね。

台詞とか間とか、頭で考えることいっぱいで……。

でもある日気づいたの!

“舞台って運動場と同じだ!”って!」


(BGMが明るくポップに。ステージ上を走り回るように、元気いっぱいに動き始める)


♪ソロ「ステージは運動場!」


♪ ステージも グラウンドも

 走り出せば 風になる!

 深く考えるより 感じる方が速いんじゃね!?


(観客に語りかけるように)


♪ 笑って、泣いて、突っ込んで

 ドタバタだって青春だ!

 真面目だけじゃ 芝居にならん!


(途中でテンポを落として)


♪ でもね 知ってた?

 本気でやるって すっごく怖いんだよ

 失敗したら? ウケなかったら?

 ……私、怖かったんだ。


(ふっと沈んだあと、すぐに笑顔に戻る)


♪ だけど――


 みんながいたから、

 どんなにスベっても、カッコ悪くても、

 “もう一回!”って言える自分になれた!


(力強く)


♪ ステージは運動場! 転んでも起き上がれる場所!

 ひとりじゃできないことも、

 仲間となら――できるって信じられた!!


(最後は全力でポーズ!)


紗里(元気に)


「だから、あたしはやるよ!

みんなで走って、転んで、笑って、

この舞台を“勝ちに行く”!!」


(次のパートへバトンを繋ぐように、舞台奥へ手を差し伸べる)


(紗里パートの賑やかさが収まると、舞台が少し暗転。

淡い月明かりのような照明の中、みこが舞台中央に立つ)


みこ(独白・静かに)


「昔……星を見てた。

遠くて、届かなくて。

でも、綺麗だなって……思うだけで、満足してたの。」


「本当は、私も舞台に立ちたかったのに。

無理って、勝手に思い込んで、

“裏方でいい”って言い聞かせてた。

だって……目立つの、怖かったから。」


(ピアノソロが入り、旋律が静かに流れ始める)



♪ソロ「遠ざけた星」


♪ そっと 閉じた夢

 胸の奥 しまったまま

 誰にも見せない ままにしてた

 それが優しさだと 思ってた


♪ 輝く人が まぶしくて

 私は 手を伸ばすことさえ

 許されないと 決めつけてたの


(間を取って、囁くように)


♪ でも――

 誰かの声が 私を呼んだ

 “ねぇ、一緒にやろう”って

 その言葉が 魔法みたいに

 心を照らしてくれた


♪ 遠ざけた星に もう一度 手を伸ばす

 この場所で この声で

 私も――

 生きてみたいから



(歌い終えたみこは、少しだけ前を向いて微笑む)


みこ(優しく)


「今は、少しだけ……夢を見てもいいかな」


(やわらかい光に包まれながら、舞台の端に静かに下がり、今度は唯香が真ん中に立つ。)


唯香(独白)


「小さい頃の私は、誰かの台本どおりに笑って、泣いて、動いていた。

“完璧”じゃなきゃダメ、って……それが当たり前だと思ってた。

でもね、舞風に入って気づいたの。

“演じること”って、本当はもっと自由で、楽しいものだったって。」


(BGMがしっとりと始まり、徐々に温かい色合いに変わる。ステージ中央に唯香が立ち、胸に手を当てる)


♪ソロ「ただ演じた日々を越えて」


♪ 台詞どおりの笑顔じゃ

 心まで届かない

 拍手の裏 隠した涙

 あの日の私は ただの人形


(観客に語りかけるように、ゆっくりと歩きながら)


♪ でもね 君と出会って

 初めて知ったの

 演じることが こんなに

 嬉しいものだって――!


(途中でメロディが少し高まり、決意の色を帯びる)


♪ 押し込めてた声を

 もう隠さない

 この胸の奥から

 今 届けるよ


(少し笑みを浮かべて、手を広げる)


♪ 子役だった私を越えて

 本当の私を生きる

 仲間となら――

 “演じる”が“私”になる!


(最後は両手を胸に当て、真っ直ぐに前を見て)


唯香(静かに、でも確かな声で)


「ありがとう……。私、今ようやく、ここで“生きてる”って言える。」


(唯香の歌が終わり、暗転しかけた舞台にもう一度やわらかい照明が差す。

舞台袖から、制服姿のひのりがゆっくりと歩み寄ってくる)


ひのり


「……唯香ちゃん。」


(唯香が振り返る。

ふたりの距離はまだ少しあるが、静かに見つめ合う)


ひのり


「やっぱり……君だったんだね。」


唯香


「……え?」


ひのり


「ずっと前、公園で泣いてた女の子。

“魔法使いごっこ”しようって、声をかけた……あのときの……」


(唯香の目が、はっと見開かれる)


唯香


「……うそ。……本当に?」


(ひのりは頷く)


ひのり


「まさか、こんな形でまた出会えるなんて……

あのとき、私が託した魔法が、ちゃんと届いてたんだね」


唯香


(涙ぐみながら)


「……うん。あのときの魔法、今でも持ってる。

あなたがいたから……今の私があるの」


(ふたり、ゆっくりと近づき――)


(ひのりが唯香の手をそっと取る)


ひのり


「じゃあ、今度は一緒に……誰かに魔法を届けよう。

舞台の上から、ね?」


(唯香、静かに頷き――ふたりの間に灯がともる)


(背景がやわらかい光に包まれ、ふたりが舞台中央へ並び立つ)


(ひのりと唯香が向かい合い、静かに手を取り合っていた舞台。

やわらかい照明の中、ふたりの周囲に他の三人――七海、紗里、みこが歩み寄ってくる)


七海(穏やかに)


「ねえ……演じてきたはずの“魔法”が、

本当に誰かの心を変えてるのかもしれないって、思わなかった?」


紗里(笑顔で)


「私たち、本気で遊んでたんだよね。

バカみたいに、夢中で」


みこ(小さく頷いて)


「でも、それが……“演劇”なんだと思う」


(舞台の中央で5人が自然に円を描くように立ち、手を重ねていく)


ひのり(静かに、でも力強く)


「演じてきたすべての“物語”は……

ぜんぶ、私たちの一部になってたんだね」


(5人が顔を見合わせ、小さく笑い合う)


(そして――)


全員(ハーモニー風に短い曲・再会のフレーズ)


♪ここに立つのは 奇跡じゃない

 出会った意味が 今わかる

 君と描く 新しい未来

 このステージが――その始まり♪


(最後の「始まり」で、照明がぐっと暗転 → 短い静寂)


(ナレーションまたはモノローグ風にひのりの声が残る)


ひのり(モノローグ)


「夢の終わりじゃない。

ここからが、“舞台の始まり”――」


(暗転)


第三幕「夢は光 ― フィナーレ」


(暗転から、静かに照明が戻ってくる。舞台は“練習風景”と“本番”が交差する構成に)


(舞台後方には、稽古中のシーンをイメージしたセット。

黒板、姿見、スピーカー、ピアノなどが再現される)


(スポットライトが舞台袖に立つ音屋亜希先生を捉える)



音屋亜希


(少し笑って、腕を組みながら)


「……よく、ここまで来たわね。

あの日々は、ムダじゃなかった。

何度もダメ出しして、歌い直させて、泣かせて。

でも、それがなければ、今日のあなたたちはなかった」


(ひのりが舞台中央で一歩前に出る)


ひのり


「先生。……あの厳しさのおかげで、

私たち、自分を信じられるようになりました」


(先生、ふっと微笑む)


音屋亜希


「舞台は、誰かの代わりじゃ立てない。

でも、仲間となら――奇跡を起こせる。

……行ってきなさい。あなたたちの“物語”を、幕の向こうに」


(全員、静かに頷く)


(舞台の照明が変わり、練習室が“本番のステージ”へと転換されていく)



♪ フィナーレナンバー「夢は光(完全版)」


(※第一幕で登場した主題歌の再演・バージョンアップ)


(イントロはゆっくりと、ピアノ伴奏で始まる)



【ひのり・みこ(デュエット)】


♪あの日 誰かに 笑われても

 信じた夢が 今 ここにある

 迷った夜を 超えてきたから

 舞台の上で 光になれる



【七海・紗里デュエット


♪言葉は 不器用だったけど

 届けたくて 書き続けた

 笑顔に 隠した想いも

 みんなが 抱きしめてくれた



唯香ソロ


♪ひとりじゃなかった 気づいた時

 夢は 私を許してくれた

 逃げ出した 子どもだったけど

 この手で 繋いでいける――



(テンポアップ。照明が全面に広がり、5人がステージに並ぶ)



♪ 全員サビ(ラストパート)


♪夢は光! 私たちを照らす光!

 泣いた日々も 迷いも全部

 ステージの上で 力に変わる!


♪夢は光! 重ねた時間の中で

 繋がった手が 未来になる

 だから今――

 歌うよ、届け、この想い!



(ラスト直前、音がふっと止まる。舞台中央でひのりが前を向く)


ひのり(声を張って)

「ありがとう――舞風学園演劇部、ここにいます!」


(その言葉と同時に、照明が最高潮に)



♪ ラスト1フレーズ(アカペラ・全員)


♪夢は光――

 ずっと、私たちの中に


(全員、深く一礼。

カーテンコールのように観客に手を振る演出もあり)



エピローグ:音屋先生からの言葉


(舞台袖から再び先生が現れ、静かに拍手)


音屋亜希


「……本当に、よくやったわ。

あなたたちは、舞風の“初めての物語”を作った。

これから来る後輩たちにとって、その灯火はきっと道標になるわ。

……ありがとう。先生でいさせてくれて」


(5人、自然と歩み寄り、音屋先生の前で円になって抱き合う)



終演・暗転・幕


(音楽が静かに流れ出す。

エンドロール風のモノローグ)



ひのり(ナレーション風)


「春が来たら、私たちは二年生。

今度は、誰かに“魔法”を渡す番。

この舞台で生きたすべてを、次へと繋いでいく――」



(照明がフェードアウト)


 幕が静かに降りる。

 ――最終幕、終演。



 拍手の余韻が、まだ空気に残っていた。

 幕が下りてもしばらく、客席の人々は立ち上がろうとせず、感動の余波に沈んでいた。


 その空間に、静かに明かりが戻る。

 ロビーに出た観客たちの顔には、涙と笑顔が浮かんでいた。


「やっぱり……舞台ってすごいね」


 冴木あさひは、動画部の仲間たちと並んで立ち尽くしていた。

 中島りつが、袖を拭いながらぽつりと呟く。


「私、こんなに心が動いたの久しぶりかも」


「彼女たちの物語、ちゃんと“本物”だったよね」

名塚真帆が静かに言う。


 講堂の出口で、見栄晴町の駄菓子屋のおばあちゃんが、孫の手を引きながら微笑んでいた。


「ひのりちゃん……きっと、立派になってくれると思ってたよ」


 その傍らでは、紗里の両親と弟妹が目を潤ませていた。


「うちの紗里がねぇ……」

 母親がハンカチを手に、誇らしげに娘を見つめていた。


「姉ちゃん、いつも元気でうるさいだけかと思ってたけどさ……」

 弟の素直な言葉に、家族が笑った。


 みこの祖母は、杖をつきながらも姿勢を正して立っていた。

 その目には涙が滲んでいる。


「ありがとうね、みこ……あなたが輝いてる姿、ちゃんと見届けたよ」


 神主が手を合わせて目を細める。


「やはり、祈りの形には“演劇”も含まれていたのだな……」


 七海の姉も、感無量といった表情で頷いた。


「やるじゃん、七海。あんた、ちゃんと自分の“声”で物語を語ってたよ」


 そんな中――


 ひと組の夫妻が、ロビーの一角に静かに佇んでいた。

 唯香の両親。どこか堅い雰囲気を漂わせた母親と、穏やかな表情の父親。


「……唯香の舞台、あんなに“自分の言葉”で、語れていたなんて」


 母親の声がかすれる。彼女の手は、胸元で静かに震えていた。


 そのとき、ゆっくりと歩み寄ってきた女性の姿があった。

 白のブラウスに、落ち着いたスカート――

 ミュージカル体験会で彼女たちを指導した演出家・城戸洋子。


「あら……お久しぶりですね」


 唯香の母、真知子が一瞬、驚いたように目を見開く。


「……あなたは、確か……唯香のミュージカル講師でしたね?」


「ええ、指導を少しだけ。唯香さん……あの子、私のことを覚えててくれました」

 洋子は静かに微笑んだ。


「今日の舞台、素晴らしかったわ。ご両親として、誇らしいでしょう?」


 唯香の父、秋哉が、頷いた。


「……あの子がここまで自分を出せたことが、ただ……嬉しくてな」


「彼女の芝居には、葛藤も影もある。でも、その中に光が見えたんです。あの子の“心”が、演技を通して伝わってきたんですよ」


 真知子は、言葉を失ったまま、ぽろぽろと涙をこぼしていた。


 そのとき――


 ロビーの扉が開き、舞台裏から5人の少女たちが姿を現した。


 制服姿のまま、少しだけ汗ばんで、でも満ち足りた笑顔を浮かべながら。


「ひのり!」「七海ちゃん!」「みこちゃん!」「紗里ー!」「唯香……!」


 あちこちから、名を呼ぶ声が上がる。


「小塚さん……!」


 振り向くと、見覚えのある女性が立っていた。

 秋のハロウィンイベントで彼女たちが訪れた、あの幼稚園の先生だった。


「あっ……先生!」


 紗里が驚いたように駆け寄る。


「来てくれてたんですか!?」


 先生はにこやかに頷いた。


「もちろんです。あの時の園児たち、今でも“魔法のお姉さん”の話をしてるんですよ。今日の舞台も、本当に素敵でした」


「……うれしいなぁ。あたし、実は……」


 紗里は照れくさそうに、でも真っすぐな声で言った。


「……将来、保育士になりたくて。今、ちゃんと勉強中なんです!」


「そうなんですね」

先生は感慨深げに微笑み、そっと紗里の肩に手を置いた。


「今日のあなたの笑顔と元気なら、きっと、たくさんの子どもたちの心を動かせますよ」


「……頑張ります!」


 紗里はその言葉に大きく頷いた。


 一瞬の静寂。そして、次の瞬間――


 ――拍手が、湧き上がった。


 誰からともなく始まったその拍手は、次第に広がり、ロビー全体を包み込む。


 涙ぐむ声。

 手を差し伸べる姿。

「ありがとう」「感動した」「すごかったよ」――惜しみない称賛の言葉。


 彼女たちはその中心で、まるで夢の中にいるように立っていた。


 ひのりが、そっと涙を拭いながら、小さく口を開いた。


「……ありがとう。私たち、精一杯、演じきりました」


 七海が隣で微笑み、紗里が涙をこらえながら笑う。


 みこは少しうつむいて、それでも嬉しそうに手を振る。


 そして――唯香は、静かに両親の方へ歩み出る。


 母と目が合う。しばらくの沈黙。

 だが、やがて母親は、声を震わせながら言った。


「……素敵だったわよ。唯香」


 唯香は、驚いたように目を見開き、そして――ふっと微笑んだ。


「ありがとう、お母さん」


 その瞬間、彼女たちの物語は、ほんの少しだけ前に進んだ。


(そして照明が少しずつ暗転)


 ――舞風学園演劇部、学年末公演は、確かに“伝説”となった。


 講堂の明かりはすでに落ち、残るのは夜の帳と、わずかに照らす街灯の光。

 舞風学園の校門前、制服姿のままの五人が並んで歩いていた。


革靴の音が、夜の静けさに心地よく響く。

疲れたけど、心は軽かった。


「……なんかさ」

ひのりがふと、空を見上げながら口を開いた。


「この一年間って、夢みたいだったね」


「ほんとに。怒られて、笑って、泣いて……全部が“演劇”だったみたい」

七海が微笑む。


「でもさ、夢じゃなくて“現実”だったんだよね」

紗里が腕を大きく振って、空気を吸い込む。


「私たちの物語」

みこが、小さな声で添えるように言った。


 唯香は、立ち止まって校舎を振り返った。


「……ねえ、もしさ。これが、全部“誰かが描いた物語”だったとしたら、どうする?」


 他の4人が振り返る。


 ひのりが、少し笑って言った。


「うーん……そうかもしれない。

誰かが、“舞風学園演劇部”って物語を紡いでくれてて――」


 空を見上げ、星のない夜空に手を伸ばす。


「私たちはその中で、一生懸命、泣いたり笑ったり、演じたりしてきたのかも」


「“キャラクター”として、生きてたってこと?」

紗里がからかうように笑う。


「でも、そんなのでもいいかも。だって……」

ひのりが振り返って、みんなを見た。


「この一年間、最高の物語だったから」


 その言葉に、全員が頷く。

 五人の少女たちの物語は、確かにそこにあった。


 ひのりが、最後にもう一度だけ、ぽつりと呟く。


「――私たちのお話。

誰かが描いてくれた物語かもしれないね」


 風がそっと吹いた。

 制服の裾が揺れ、未来の匂いが混じった風に乗って――


 物語は、静かに幕を閉じた。


____________________

 ご観劇いただき、ありがとうございました。

 開校1年目の舞風学園演劇部、彼女たちの第一期生にして1年目の物語は、今日ここでひとつの節目を迎えました。


 悩んで、笑って、ぶつかって、手を取り合って。

 何もなかった舞台に、彼女たちは確かに“物語”を刻みました。


 けれど、これは「終わり」ではありません。

 春が来れば、また新しい幕が上がります。

 後輩たちと出会い、新たな舞台が始まり――

 その先に続いていく“未来”を、きっと彼女たちは演じていくでしょう。


 この舞台を見届けてくださったあなたへ。

 ここから先の物語も、どうか心の中で応援していただけたら幸いです。


 また、どこかの舞台でお会いしましょう。


 ――舞風学園演劇部の物語は、まだ続きます。


 舞風学園演劇部 1年生編

 ―完―


 好きなジャンルの学園青春ものアニメに影響を受けて、2016年から少しずつ構想を練ってきたこの物語。

 舞風学園演劇部の物語は、長い時間をかけて少しずつ形になり、そしてChatGPTの力も借りながら、ようやくここまで書き上げることができました。


 彼女たちの1年目の軌跡は、確かに一つの物語として完結を迎えました。

 けれど、彼女たちの青春はまだ続いていきます。


 2年生編では、新たなキャラクターとの出会いや、新しい展開も用意しています。

 進級した彼女たちは、後輩たちとともに、再び伝説を作っていくことでしょう。


 これからも、舞風学園演劇部の物語を温かく見守っていただけたら嬉しいです。

 最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。


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