表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
舞風学園演劇部 1年編 青春の開演  作者: 舞風堂
第五章 日常という名の演劇
21/26

第二十一幕 お正月、幸せな1日

 年明け。元日の賑わいもひと段落した二日、見晴町には少しだけ穏やかな空気が流れていた。

 駅前で待ち合わせをしていた5人は、マフラーに顔をうずめながら、次々と集まってくる。


「おまたせ〜! 寒いねぇ〜!」


 元気いっぱいに手を振って走ってきたのはひのり。

 その手にはスマホが握られていて、「見て見て〜!」と嬉しそうに画面を差し出す。


「家族でね、初日の出見に行ったんだ!ハッピーちゃんも一緒!」


 写真には、朝焼けの海と、車の窓から顔をのぞかせるラブラドールレトリバーの姿があった。

 元気いっぱいのその犬は、しっぽをブンブン振っている。


「うわっ、かわいい!朝日が後ろに入ってて絵になるわね」と七海が笑いながら覗きこむ。


「うん、めっちゃ寒かったけど、家族で出かけるの久しぶりでさ〜。ハッピーちゃんが車の中で大はしゃぎで……ママに怒られてたけど(笑)」


「ふふっ、相変わらずにぎやかね、ひのりちゃんのとこ」

 唯香が静かに微笑む。


「唯香は元日どうしてたの?」とみこが首を傾げる。


「私は……両親とお家でのんびり。お雑煮食べて、ちょっとテレビ見て、あとは家族3人で神社に行ったよ。近くの、そんなに人の多くないとこだけど」


「静かなお正月もいいよね〜。七海は?」とひのりが振ると、


「おばあちゃんの家に行ったわよ。年に一度の恒例行事。おせちを一緒に作って、姉夫婦も親戚も集まって、にぎやかだったわ。私は伊達巻担当だったのよ」


「わあ〜、七海ちゃんの手作り伊達巻、食べたい!」と紗里が目を輝かせる。


「ふふ、また今度作ってあげるわ」


「私はさ〜、いとこや弟や妹達と凧上げしたんだよ!ほら、お正月って感じでしょ?」

 紗里は懐から折れた凧糸の芯を取り出して笑う。


「いとこって、けっこう年離れてるんでしょ?」とみこが訊くと、


「そうそう、小学生とか幼稚園くらい。全力で相手したらこっちが疲れた〜!でも将来保育士になるんだから慣れないとね」


「でも、そういうお正月もいいなぁ。紗里ちゃん」

みこがふんわりと笑いながら言った。


「私は、おばあちゃんとお父さんとお母さんと家で過ごしたの。おせちを一緒に食べて、のんびりしてたよ。風情があったなぁ……」


「うわぁ〜、みこちゃんの話だけちょっと情緒ある……!」


「じゃあ今日はその延長戦ってことで、初詣!新年の願いごと、ちゃんとしないとねっ」


 ひのりの言葉に、5人は笑いながら商店街を抜けて神社へ向かう。


 初詣客の列が長く伸びていたが、どこかそのざわめきすらも、楽しい冬の風景として胸に染み入っていくようだった——。


 午後の見晴町は、お正月らしいにぎわいを見せていた。

 天ノ杜神社の参道は初詣客で賑わい、両脇には屋台がずらりと並ぶ。


「うわ〜、まるでお祭りだね」

 ひのりが目を輝かせて歩きながら言った。


「年始って、もっと静かなのかと思ってたよ」

 七海も驚いたように周囲を見渡す。


「焼きそば、たこ焼き、わたあめ……りんご飴もある〜!」

 紗里がテンション高く指さし、みこがにこっと微笑む。


「なんか、夏の花火大会を思い出すね」

 唯香が懐かしそうに呟いた。


 そんなとき――


「やあ、また来てくれたんだね」

 白装束に身を包んだ神主が穏やかな笑みで声をかけてきた。


「神主さん、お久しぶりです。あけましておめでとうございます!」

 ひのりが元気よく挨拶し、4人もそれに続いた。


「おめでとう。今年もいい年になるといいね。君たちの文化祭公演、評判だったよ」


「ありがとうございます! 今年も伝説、作りますからっ!」

 ひのりの力強い言葉に神主は満足そうに頷き、拝殿の方を手で示す。


「さあ、年の初めに、しっかり願いを届けていきなさい」


 5人は手水を済ませ、列に並び、それぞれの願いを胸に静かに祈る。


 まず、ひのり。


(今年は、もっともっと活躍できますように!)

(演劇も、勉強も、全部全力で頑張るから…!)


 心の中で力強く誓うように、願いを込めて祈る。


(そして、いつか…伝説になれますように!)


 小さく微笑んで、手を離した。 


 次に、七海。


 静かに目を閉じ、ゆっくりと手を合わせる。


(今年こそ、自分の納得いく物語が書けますように)

(誰かの心に残るような、素晴らしいお話を――)


 その瞼の裏には、まだ見ぬ物語の景色がぼんやり浮かんでいた。


 


 唯香。


(……今年は、自分に嘘をつかないでいられますように)

(家族のことも、自分のことも……ちゃんと向き合えますように)


 願いを言葉にするだけで、少し胸が苦しくなる。でも、祈らずにはいられなかった。


 


 紗里。


(いとこや弟、妹たちが元気に、ケガなく過ごせますように)

(それと……ちゃんと保育士になれるようにがんばれますように)


 小さな子どもたちと過ごしたハロウィンの日を思い出し、自然と笑顔がこぼれた。


 


 みこ。


(おばあちゃんと、平穏な一年を過ごせますように)

(それと……少しずつ、前に進めますように)


 ぎゅっと手を握ったまま、小さく深呼吸する。


 


 5人がそれぞれの願いを終えると、ふっと視線が交差する。

言葉はいらない。ただ、笑顔で十分だった。


「お願い、した?」

 ひのりの問いに、全員が頷く。


「内容は……ナイショだけどね」と唯香が笑うと、他の4人も自然と笑い合った。


 ……そして、参拝後、彼女たちは境内の奥にある少し 高台のベンチに腰掛け、穏やかな空気の中で話を始めた。


「ねえ……みんな、将来の夢とか進路とか考えてある?」

 七海がふと聞いた。


「私はあるよ!」

 ひのりが立ち上がって空に向かって宣言する。


「わたしは大女優になる! 舞台に立って、テレビにも映画にも出て、ハリウッド映画にも出て世界中の人に感動を届けたいの!」


 その言葉に4人が少し驚きつつも、拍手と笑いが起きた。


「ひのりちゃん、すごいよ」

 みこが微笑む。


「うん、らしいっていうか、らしすぎる」

 唯香がくすりと笑う。


「次は……七海かな」

 紗里が促すと、七海は真剣な表情で言った。


「私は……物語を書く人になりたいって、最近思うようになったの。演劇部で脚本を書かせてもらったことで、表現するって楽しいなって思ったし。舞台の脚本だけじゃなくて、小説とか……そういう世界にも興味が出てきたの」


「すごい、七海ちゃん!」

ひのりが目を輝かせた。


「うん、でも……プロになるか、趣味で続けるかはまだ決めてないんだ。ただ、自分の中にある物語を形にするのが、やっぱり好きだなって」

七海は静かに笑った。


「わかる〜、七海ちゃん真面目だし」

 紗里が頷いたあと、自分の胸にも手を当てて言った。


「私はもう話したけど保育士になりたいって思ってるよ」


「お、もう進路決まってるタイプだ」

 ひのりが言うと、紗里は少し照れ笑いを浮かべる。


「年末年始もさ、いとこのちっちゃい子たちの相手して遊んでたんだけどね。ハロウィンのときに幼稚園行ったでしょ? あのときも、子どもたちの笑顔見てて“あ、こういうの好きかも”って思ったんだ。ちゃんと慣れとかないと、って」


「ああ〜あったね、仮装して演劇披露したやつ!あの時に保育士になるって言ってたよね」

 ひのりが懐かしそうに笑った。


「紗里ちゃん、保育士さん似合うと思う」

 みこが優しく言った。


「じゃあ、みこちゃんは?」

 七海に聞かれたみこは、小さく息を吸って答えた。


「私は……看護師になりたいなって思ってる。誰かの助けになれる仕事がしたいから。小さい頃、入院したことがあって、その時に担当してくれた看護師さんがすごく優しくしてくれたの。すごく不安だったのに、その人の笑顔と声だけで安心できたのを、今でも覚えてるんだ。私もあんなふうに、誰かの支えになれたらって思ってる」


「みこちゃん、優しいもん」

 唯香が自然にそう言った。


 そして、残るは唯香。


「私は……演じることの楽しさを、もっと多くの人に伝えたいな。今はまだ、自分が演じることで精一杯だけど、いつかは、誰かに“演じるってこんなに面白いんだよ”って教えられるようになりたい。監督とか、指導する側になるのもいいなって思う。誰かが舞台で輝く瞬間を、後ろから支えるのも、きっと素敵だよね」


「唯香ちゃんなら、きっと大丈夫!」

 ひのりが笑顔で言うと、唯香もうっすら笑みを浮かべた。


 そして、ふと見上げた空には、ほんの少しだけ茜色が残っていた。

 5人は無言のまま空を見つめ、少しだけ風が頬を撫でる。


「それぞれの夢、全部叶うといいな」

 みこがぽつりと呟いた。


「叶えるんだよ! だって私たち、伝説を作る演劇部員なんだから!」

 ひのりのその言葉に、誰もが心から頷いた。


 見晴神社の新年は、静かに、でも確かに、彼女たちの“これから”を照らしていた。


 参拝を終えた5人が鳥居をくぐろうとしたとき、境内の脇にある小さな社務所に気づいた紗里が声を上げた。


「ねぇねぇ、あそこにおみくじあるよ! せっかくだし、引いてかない?」


「いいね〜! 私、大吉しか引かない女だから!」


 紗里が勧めるとひのりが胸を張って財布を取り出す。


「……それ、気合の問題なの?」

七海が小さく笑いながら、5人は並んでおみくじを引く。


 それぞれがくじを開くと、反応はまちまちだった。


「……え、ちょ、マジで!? 大凶!? 今年終わった〜〜っ!」


 紗里の叫びに、全員が思わず吹き出す。


「“病:長引く”、“願い事:叶わず”、“失せ物:出ず”って、こんなフルコンボある!?」


「うわー、逆にレアだよそれ……ある意味、引き強かも?」

 ひのりがニヤニヤしながら言う。


「やだー、ひのりちゃん責任とって〜!」

 紗里は紙を振りながら、ひのりに詰め寄る。


「ふふ、騒がしい……」

 七海は自分のくじを眺めながら呟く。


「私は凶ね。“思い通りに行かぬ時、言葉を選び、機を待て”。……うーん、脚本のこと言われてる気がするわ」


「えっ、七海ちゃんも凶なの!? わ〜お、演劇部の未来が心配になってきたんだけど……」

 ひのりがあたふたしながら自分のくじを広げる。


「じゃーん! 私は大吉ーっ! 見て見て、『願い事:すべて叶う。人の上に立つ器あり』だって! ねっ!? 大女優になるって言ったもんね!」


「ひのりちゃん、さすがすぎる……」

 みこが小さく拍手を送る。


「私は……小吉。“焦らず、やわらかな心を持てば吉に転ず”。……うん、なんか優しい言葉で、ちょっと嬉しいかも」


「みこちゃんにはぴったりの言葉だね」

 唯香が微笑み、自分の紙を開く。


「私は吉。“努力は実を結ぶ。過去を糧とせよ”……ふふ、演劇部に入って良かったって、思えるな」


「唯香ちゃん、それすごく素敵……」

 ひのりがしみじみと言う。


「まあ、みんなバラバラだけど、演劇部って感じするよね!」

 紗里がくすっと笑う。


「ね。運勢なんて関係ないよ。私たち、ちゃんと“伝説”作れるよ」

 唯香が優しく言うと、


「言うねぇ〜! じゃ、次は紗里んちでお雑煮会だね!」

 ひのりの声に、再びみんなの笑顔がはじけた。


 まだ冷たい風が吹く見晴町の空の下、5人はそれぞれのおみくじをポケットにしまった。


 参拝とおみくじでひとしきり盛り上がったあと、神社の鳥居を抜けた5人は、ゆっくりと歩き出した。


 神社から歩いて十分ほど。冬の夕空に染まりかけた田舎道を進み、住宅街の一角にある一軒家の前で、紗里が立ち止まった。


「ここが、うちだよ。……みんなを呼ぶの、ちょっとドキドキするけど……いらっしゃい!」


「お〜、初・紗里ちゃんちだ〜っ!ついに来たーっ!!」

ひのりが感激したように手を広げて言う。


「夏祭りのときは来なかったもんね」

 七海が頷く。


「うん、見晴町には何度か来てるけど……紗里ちゃんの家に来るのは今日が初めてだよね」

 唯香もにこやかに微笑む。


「みこちゃんは近所だけど、初めてお邪魔するのはやっぱり緊張するよ〜」


 ひのりが言うと、みこもふんわりと笑う。


「でも、なんか嬉しい。みんなが私の地元に来てくれて」


 紗里が照れたように笑って玄関を開けると、すぐに明るい声が飛んできた。


「おかえり〜! お友達のみなさんもいらっしゃい!」


 出迎えたのは、エプロン姿の母・美津子。あたたかい笑顔と、台所から立ちのぼる出汁の香りが、家中に広がっていた。


「こちら、うちの母です。で、奥にいるのが父。ちょっとぶっきらぼうだけど、料理の腕は保証するよ〜!」


「……どうも。よう来てくれたな」

 父・正志が、少し照れたように頭をかいた。


 そこへ、足音を鳴らして駆け寄ってきた小さな女の子。


「お姉ちゃーん! お客さんいっぱい来たーっ!」


「この子が妹の花乃はなの、小学二年生!」


「こんにちは〜っ! 花乃っていいますっ!」


「うわー、元気いっぱいでかわいい〜!!」

ひのりが思わず花乃をぎゅっと抱きしめる。


 続いて、花音の後ろから、少しおとなしい男の子が顔をのぞかせる。


「……ぼくも、いるよ……」


「はい、弟の陽翔ひしょう。年長さん!」


「こんにちは……」

 陽翔は少し照れながらも、頑張って挨拶した。


「うちにはこのふたりも含めて、合計で……」


「演劇部5人+家族4人、で9人!」

 ひのりが指を折って数える。


「……ん、いや、もう一匹いるよ?」


「にゃ〜ん」


 廊下の奥から、ふらりと猫が登場。


「この子は“みかん”。我が家の癒し系担当!」


「にゃーん……」


「わ〜、かわいい〜〜っ!」

みこが目を輝かせて駆け寄る。


「ってことは……9人と1匹の大集合だね!」

 唯香がくすっと笑った。


「じゃ、みんな荷物置いてあったまって。お雑煮とおせち、用意してあるから!」


「お〜〜!楽しみすぎるっ!!」


 夕焼け色に染まる空の下、紗里の家には、笑顔と湯気と幸せな空気がふわりと広がっていった――。


 リビングのテーブルには、紗里の母・美津子が丁寧に盛りつけたおせち料理がずらりと並んでいた。黒豆、だてまき、昆布巻き、数の子、煮しめ……そして、大きな土鍋には湯気を立てた白味噌仕立てのお雑煮。


「うわ〜っ、すごい……! 旅館みたい……!」

みこが思わず目を丸くする。


「お母さん、これ全部手作りですか!?」

 七海が驚いたように聞くと、美津子は笑顔で頷いた。


「ええ、毎年ね。特にお雑煮は家ごとに味が違うでしょ? うちは白味噌と丸もちなのよ」


「いただきまーすっ!!」

 ひのりが両手を合わせ、みんなも続いて声を揃える。


「……んっ! お雑煮、やさしい味〜っ……」

 唯香が思わず目を細めてつぶやく。


「私、この里芋の煮物めっちゃ好きかも……」

 七海が箸を止めずにつぶやくと、


「だてまき甘くてふわふわ〜! わたしも今度作ってみたいな」

 みこもほっこり笑顔になる。


「母の味、絶賛されてます!」

 紗里が胸を張ると、美津子が恥ずかしそうに笑った。


「うちの人は、こう見えて昆布巻き担当なんですよ」

美津子が隣に座る正志を見ると、正志はもぐもぐ食べながらも照れくさそうに「まぁな」と小さく呟く。


「昆布、味しみしみ〜!」

 ひのりが感動の声を上げたそのとき――


「にゃ〜ん……」


 すっと足元に近づいてきたのは、家猫のみかん。


「あっ、みかんちゃん来たー!」


 ひのりが座りながら手を差し出すと、みかんはふわりとその手にスリスリ……そしてそのまま、ひのりの膝にちょこんと飛び乗った。


「……!? え、乗った!? わ、わたし、選ばれし者!?」

 ひのりが半ば固まったように呟くと、


「みかん、普段あんまり膝乗らないのに……」

 紗里が驚いたように言う。


「動いたらダメだ……!このぬくもり……尊い……」

 ひのりがそっと微動だにしないまま微笑む。


「ひのりちゃん、羨ましすぎる……」

 みこが思わず見つめて言い、他のみんなも笑い出す。


 温かい料理と家族の団らん、そして猫のぬくもり――。

 お正月の夕暮れは、ゆっくりと幸せな時間に包まれていった。


 食後の団らんがひと段落した頃、紗里がぽんっと手を叩いた。


「よーし、みんな! お腹もいっぱいになったし、次はトランプしよう!」


「やったー!」

 花乃が手を挙げ、陽翔も「久しぶりにみんなでできるね!」と嬉しそうに頷く。


「トランプか〜! 私、大統領やる〜っ!」

 ひのりが元気に宣言すると、


「それ、大富豪でしょ」

 七海がすかさずツッコミを入れる。


「えっ……一緒じゃないの!?」

「似てるけど、呼び方違うから」


「じゃあ、私が最初に“大統領”になるんだねっ!」

「だからそれ“大富豪”!アメリカの大統領じゃないの!」


 そんなやりとりに、みんながくすくすと笑い出す。


「ルールはうちでやってるやつにするね。花乃も陽翔も入れて、7人で勝負だよ!」


 紗里がカードを切りながら、にこにこと言う。


「勝った人には、お菓子もらえるってことでどう?」

「えっ、お年玉じゃなくて?」

「それはまた別口!」


 笑いの絶えない中、第一回「見晴町お正月大富豪大会」が始まった。


「うわ〜、ひのりちゃん革命しすぎ!」

「だってジョーカー来たら出すっしょ!」


「花乃ちゃん強いなぁ……」

「ふふん、陽翔には負けないもん!」


「唯香ちゃん、また大貧民?」

「カードって非情ね……」


「お姉ちゃんずるい〜っ!」

「陽翔〜、ちゃんとルール守りなさーい!」


 家族も混じってのゲームは、笑い声とツッコミで大盛り上がり。やがて布団を敷いてお泊まり会へ。


「なんか……凄く幸せな時間だよね」

「演劇部って、ほんと家族みたい」


 ひのりの膝には、いつの間にかみかんがちょこんと乗っていた。


「みかんちゃん……完全に一番いい場所取ったね」

「ね。今日の真の勝者だわ」


「何かおみくじの大吉の効果早速出てきたみたい」


 笑顔が絶えないまま、見晴町の夜は静かに更けていった。ゲームもひと段落し、リビングに布団がずらりと敷かれる。


 みんながパジャマ姿に着替えて、湯たんぽや毛布にくるまりながら、あたたかいお茶をすする。


「さっきと同じこと言っちゃうけどなんかさ、修学旅行みたいだね……」

みこが毛布の中から顔を出して、ぽそりと呟いた。


「うん、わかる〜。こうやってみんなでゴロゴロするの、最高だよね!」

 ひのりが嬉しそうに笑い、隣ではみかんがすやすやと丸くなっている。


「今日はいっぱい話したなあ……将来のこととか、今年の目標とか」

 七海がカップを手にしながら遠くを見つめる。


「おせちもお雑煮も美味しかったし、おみくじも盛り上がったし……最高のお正月だったよ」

 唯香がやわらかく微笑む。


「でもさ、こうして集まれるのも、演劇部があるからだよね」

 紗里が、みんなの顔を見渡しながら言った。


「うん……わたし、この部に入って本当によかったって思う」

みこがぽつりと呟いたその言葉に、みんなが頷く。


「よしっ、じゃあさ! 最後にこれだけは言っとこ!」


 ひのりが寝転がったまま腕を掲げる。


「今年もみんなで頑張ろうねっ! 演劇部、伝説を作るぞーっ!」


「おーっ!!」

 パジャマ姿の5人の声が、夜の見晴町にふわりと響いた。


 そして――


「おやすみ、みんな」

「うん、おやすみ……」


 笑顔のまま、布団に潜り込む彼女たち。


 暖かな灯りが静かに消え、幸せな夜が、やさしく包んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ