第二十一幕 お正月、幸せな1日
年明け。元日の賑わいもひと段落した二日、見晴町には少しだけ穏やかな空気が流れていた。
駅前で待ち合わせをしていた5人は、マフラーに顔をうずめながら、次々と集まってくる。
「おまたせ〜! 寒いねぇ〜!」
元気いっぱいに手を振って走ってきたのはひのり。
その手にはスマホが握られていて、「見て見て〜!」と嬉しそうに画面を差し出す。
「家族でね、初日の出見に行ったんだ!ハッピーちゃんも一緒!」
写真には、朝焼けの海と、車の窓から顔をのぞかせるラブラドールレトリバーの姿があった。
元気いっぱいのその犬は、しっぽをブンブン振っている。
「うわっ、かわいい!朝日が後ろに入ってて絵になるわね」と七海が笑いながら覗きこむ。
「うん、めっちゃ寒かったけど、家族で出かけるの久しぶりでさ〜。ハッピーちゃんが車の中で大はしゃぎで……ママに怒られてたけど(笑)」
「ふふっ、相変わらずにぎやかね、ひのりちゃんのとこ」
唯香が静かに微笑む。
「唯香は元日どうしてたの?」とみこが首を傾げる。
「私は……両親とお家でのんびり。お雑煮食べて、ちょっとテレビ見て、あとは家族3人で神社に行ったよ。近くの、そんなに人の多くないとこだけど」
「静かなお正月もいいよね〜。七海は?」とひのりが振ると、
「おばあちゃんの家に行ったわよ。年に一度の恒例行事。おせちを一緒に作って、姉夫婦も親戚も集まって、にぎやかだったわ。私は伊達巻担当だったのよ」
「わあ〜、七海ちゃんの手作り伊達巻、食べたい!」と紗里が目を輝かせる。
「ふふ、また今度作ってあげるわ」
「私はさ〜、いとこや弟や妹達と凧上げしたんだよ!ほら、お正月って感じでしょ?」
紗里は懐から折れた凧糸の芯を取り出して笑う。
「いとこって、けっこう年離れてるんでしょ?」とみこが訊くと、
「そうそう、小学生とか幼稚園くらい。全力で相手したらこっちが疲れた〜!でも将来保育士になるんだから慣れないとね」
「でも、そういうお正月もいいなぁ。紗里ちゃん」
みこがふんわりと笑いながら言った。
「私は、おばあちゃんとお父さんとお母さんと家で過ごしたの。おせちを一緒に食べて、のんびりしてたよ。風情があったなぁ……」
「うわぁ〜、みこちゃんの話だけちょっと情緒ある……!」
「じゃあ今日はその延長戦ってことで、初詣!新年の願いごと、ちゃんとしないとねっ」
ひのりの言葉に、5人は笑いながら商店街を抜けて神社へ向かう。
初詣客の列が長く伸びていたが、どこかそのざわめきすらも、楽しい冬の風景として胸に染み入っていくようだった——。
午後の見晴町は、お正月らしいにぎわいを見せていた。
天ノ杜神社の参道は初詣客で賑わい、両脇には屋台がずらりと並ぶ。
「うわ〜、まるでお祭りだね」
ひのりが目を輝かせて歩きながら言った。
「年始って、もっと静かなのかと思ってたよ」
七海も驚いたように周囲を見渡す。
「焼きそば、たこ焼き、わたあめ……りんご飴もある〜!」
紗里がテンション高く指さし、みこがにこっと微笑む。
「なんか、夏の花火大会を思い出すね」
唯香が懐かしそうに呟いた。
そんなとき――
「やあ、また来てくれたんだね」
白装束に身を包んだ神主が穏やかな笑みで声をかけてきた。
「神主さん、お久しぶりです。あけましておめでとうございます!」
ひのりが元気よく挨拶し、4人もそれに続いた。
「おめでとう。今年もいい年になるといいね。君たちの文化祭公演、評判だったよ」
「ありがとうございます! 今年も伝説、作りますからっ!」
ひのりの力強い言葉に神主は満足そうに頷き、拝殿の方を手で示す。
「さあ、年の初めに、しっかり願いを届けていきなさい」
5人は手水を済ませ、列に並び、それぞれの願いを胸に静かに祈る。
まず、ひのり。
(今年は、もっともっと活躍できますように!)
(演劇も、勉強も、全部全力で頑張るから…!)
心の中で力強く誓うように、願いを込めて祈る。
(そして、いつか…伝説になれますように!)
小さく微笑んで、手を離した。
次に、七海。
静かに目を閉じ、ゆっくりと手を合わせる。
(今年こそ、自分の納得いく物語が書けますように)
(誰かの心に残るような、素晴らしいお話を――)
その瞼の裏には、まだ見ぬ物語の景色がぼんやり浮かんでいた。
唯香。
(……今年は、自分に嘘をつかないでいられますように)
(家族のことも、自分のことも……ちゃんと向き合えますように)
願いを言葉にするだけで、少し胸が苦しくなる。でも、祈らずにはいられなかった。
紗里。
(いとこや弟、妹たちが元気に、ケガなく過ごせますように)
(それと……ちゃんと保育士になれるようにがんばれますように)
小さな子どもたちと過ごしたハロウィンの日を思い出し、自然と笑顔がこぼれた。
みこ。
(おばあちゃんと、平穏な一年を過ごせますように)
(それと……少しずつ、前に進めますように)
ぎゅっと手を握ったまま、小さく深呼吸する。
5人がそれぞれの願いを終えると、ふっと視線が交差する。
言葉はいらない。ただ、笑顔で十分だった。
「お願い、した?」
ひのりの問いに、全員が頷く。
「内容は……ナイショだけどね」と唯香が笑うと、他の4人も自然と笑い合った。
……そして、参拝後、彼女たちは境内の奥にある少し 高台のベンチに腰掛け、穏やかな空気の中で話を始めた。
「ねえ……みんな、将来の夢とか進路とか考えてある?」
七海がふと聞いた。
「私はあるよ!」
ひのりが立ち上がって空に向かって宣言する。
「わたしは大女優になる! 舞台に立って、テレビにも映画にも出て、ハリウッド映画にも出て世界中の人に感動を届けたいの!」
その言葉に4人が少し驚きつつも、拍手と笑いが起きた。
「ひのりちゃん、すごいよ」
みこが微笑む。
「うん、らしいっていうか、らしすぎる」
唯香がくすりと笑う。
「次は……七海かな」
紗里が促すと、七海は真剣な表情で言った。
「私は……物語を書く人になりたいって、最近思うようになったの。演劇部で脚本を書かせてもらったことで、表現するって楽しいなって思ったし。舞台の脚本だけじゃなくて、小説とか……そういう世界にも興味が出てきたの」
「すごい、七海ちゃん!」
ひのりが目を輝かせた。
「うん、でも……プロになるか、趣味で続けるかはまだ決めてないんだ。ただ、自分の中にある物語を形にするのが、やっぱり好きだなって」
七海は静かに笑った。
「わかる〜、七海ちゃん真面目だし」
紗里が頷いたあと、自分の胸にも手を当てて言った。
「私はもう話したけど保育士になりたいって思ってるよ」
「お、もう進路決まってるタイプだ」
ひのりが言うと、紗里は少し照れ笑いを浮かべる。
「年末年始もさ、いとこのちっちゃい子たちの相手して遊んでたんだけどね。ハロウィンのときに幼稚園行ったでしょ? あのときも、子どもたちの笑顔見てて“あ、こういうの好きかも”って思ったんだ。ちゃんと慣れとかないと、って」
「ああ〜あったね、仮装して演劇披露したやつ!あの時に保育士になるって言ってたよね」
ひのりが懐かしそうに笑った。
「紗里ちゃん、保育士さん似合うと思う」
みこが優しく言った。
「じゃあ、みこちゃんは?」
七海に聞かれたみこは、小さく息を吸って答えた。
「私は……看護師になりたいなって思ってる。誰かの助けになれる仕事がしたいから。小さい頃、入院したことがあって、その時に担当してくれた看護師さんがすごく優しくしてくれたの。すごく不安だったのに、その人の笑顔と声だけで安心できたのを、今でも覚えてるんだ。私もあんなふうに、誰かの支えになれたらって思ってる」
「みこちゃん、優しいもん」
唯香が自然にそう言った。
そして、残るは唯香。
「私は……演じることの楽しさを、もっと多くの人に伝えたいな。今はまだ、自分が演じることで精一杯だけど、いつかは、誰かに“演じるってこんなに面白いんだよ”って教えられるようになりたい。監督とか、指導する側になるのもいいなって思う。誰かが舞台で輝く瞬間を、後ろから支えるのも、きっと素敵だよね」
「唯香ちゃんなら、きっと大丈夫!」
ひのりが笑顔で言うと、唯香もうっすら笑みを浮かべた。
そして、ふと見上げた空には、ほんの少しだけ茜色が残っていた。
5人は無言のまま空を見つめ、少しだけ風が頬を撫でる。
「それぞれの夢、全部叶うといいな」
みこがぽつりと呟いた。
「叶えるんだよ! だって私たち、伝説を作る演劇部員なんだから!」
ひのりのその言葉に、誰もが心から頷いた。
見晴神社の新年は、静かに、でも確かに、彼女たちの“これから”を照らしていた。
参拝を終えた5人が鳥居をくぐろうとしたとき、境内の脇にある小さな社務所に気づいた紗里が声を上げた。
「ねぇねぇ、あそこにおみくじあるよ! せっかくだし、引いてかない?」
「いいね〜! 私、大吉しか引かない女だから!」
紗里が勧めるとひのりが胸を張って財布を取り出す。
「……それ、気合の問題なの?」
七海が小さく笑いながら、5人は並んでおみくじを引く。
それぞれがくじを開くと、反応はまちまちだった。
「……え、ちょ、マジで!? 大凶!? 今年終わった〜〜っ!」
紗里の叫びに、全員が思わず吹き出す。
「“病:長引く”、“願い事:叶わず”、“失せ物:出ず”って、こんなフルコンボある!?」
「うわー、逆にレアだよそれ……ある意味、引き強かも?」
ひのりがニヤニヤしながら言う。
「やだー、ひのりちゃん責任とって〜!」
紗里は紙を振りながら、ひのりに詰め寄る。
「ふふ、騒がしい……」
七海は自分のくじを眺めながら呟く。
「私は凶ね。“思い通りに行かぬ時、言葉を選び、機を待て”。……うーん、脚本のこと言われてる気がするわ」
「えっ、七海ちゃんも凶なの!? わ〜お、演劇部の未来が心配になってきたんだけど……」
ひのりがあたふたしながら自分のくじを広げる。
「じゃーん! 私は大吉ーっ! 見て見て、『願い事:すべて叶う。人の上に立つ器あり』だって! ねっ!? 大女優になるって言ったもんね!」
「ひのりちゃん、さすがすぎる……」
みこが小さく拍手を送る。
「私は……小吉。“焦らず、やわらかな心を持てば吉に転ず”。……うん、なんか優しい言葉で、ちょっと嬉しいかも」
「みこちゃんにはぴったりの言葉だね」
唯香が微笑み、自分の紙を開く。
「私は吉。“努力は実を結ぶ。過去を糧とせよ”……ふふ、演劇部に入って良かったって、思えるな」
「唯香ちゃん、それすごく素敵……」
ひのりがしみじみと言う。
「まあ、みんなバラバラだけど、演劇部って感じするよね!」
紗里がくすっと笑う。
「ね。運勢なんて関係ないよ。私たち、ちゃんと“伝説”作れるよ」
唯香が優しく言うと、
「言うねぇ〜! じゃ、次は紗里んちでお雑煮会だね!」
ひのりの声に、再びみんなの笑顔がはじけた。
まだ冷たい風が吹く見晴町の空の下、5人はそれぞれのおみくじをポケットにしまった。
参拝とおみくじでひとしきり盛り上がったあと、神社の鳥居を抜けた5人は、ゆっくりと歩き出した。
神社から歩いて十分ほど。冬の夕空に染まりかけた田舎道を進み、住宅街の一角にある一軒家の前で、紗里が立ち止まった。
「ここが、うちだよ。……みんなを呼ぶの、ちょっとドキドキするけど……いらっしゃい!」
「お〜、初・紗里ちゃんちだ〜っ!ついに来たーっ!!」
ひのりが感激したように手を広げて言う。
「夏祭りのときは来なかったもんね」
七海が頷く。
「うん、見晴町には何度か来てるけど……紗里ちゃんの家に来るのは今日が初めてだよね」
唯香もにこやかに微笑む。
「みこちゃんは近所だけど、初めてお邪魔するのはやっぱり緊張するよ〜」
ひのりが言うと、みこもふんわりと笑う。
「でも、なんか嬉しい。みんなが私の地元に来てくれて」
紗里が照れたように笑って玄関を開けると、すぐに明るい声が飛んできた。
「おかえり〜! お友達のみなさんもいらっしゃい!」
出迎えたのは、エプロン姿の母・美津子。あたたかい笑顔と、台所から立ちのぼる出汁の香りが、家中に広がっていた。
「こちら、うちの母です。で、奥にいるのが父。ちょっとぶっきらぼうだけど、料理の腕は保証するよ〜!」
「……どうも。よう来てくれたな」
父・正志が、少し照れたように頭をかいた。
そこへ、足音を鳴らして駆け寄ってきた小さな女の子。
「お姉ちゃーん! お客さんいっぱい来たーっ!」
「この子が妹の花乃、小学二年生!」
「こんにちは〜っ! 花乃っていいますっ!」
「うわー、元気いっぱいでかわいい〜!!」
ひのりが思わず花乃をぎゅっと抱きしめる。
続いて、花音の後ろから、少しおとなしい男の子が顔をのぞかせる。
「……ぼくも、いるよ……」
「はい、弟の陽翔。年長さん!」
「こんにちは……」
陽翔は少し照れながらも、頑張って挨拶した。
「うちにはこのふたりも含めて、合計で……」
「演劇部5人+家族4人、で9人!」
ひのりが指を折って数える。
「……ん、いや、もう一匹いるよ?」
「にゃ〜ん」
廊下の奥から、ふらりと猫が登場。
「この子は“みかん”。我が家の癒し系担当!」
「にゃーん……」
「わ〜、かわいい〜〜っ!」
みこが目を輝かせて駆け寄る。
「ってことは……9人と1匹の大集合だね!」
唯香がくすっと笑った。
「じゃ、みんな荷物置いてあったまって。お雑煮とおせち、用意してあるから!」
「お〜〜!楽しみすぎるっ!!」
夕焼け色に染まる空の下、紗里の家には、笑顔と湯気と幸せな空気がふわりと広がっていった――。
リビングのテーブルには、紗里の母・美津子が丁寧に盛りつけたおせち料理がずらりと並んでいた。黒豆、だてまき、昆布巻き、数の子、煮しめ……そして、大きな土鍋には湯気を立てた白味噌仕立てのお雑煮。
「うわ〜っ、すごい……! 旅館みたい……!」
みこが思わず目を丸くする。
「お母さん、これ全部手作りですか!?」
七海が驚いたように聞くと、美津子は笑顔で頷いた。
「ええ、毎年ね。特にお雑煮は家ごとに味が違うでしょ? うちは白味噌と丸もちなのよ」
「いただきまーすっ!!」
ひのりが両手を合わせ、みんなも続いて声を揃える。
「……んっ! お雑煮、やさしい味〜っ……」
唯香が思わず目を細めてつぶやく。
「私、この里芋の煮物めっちゃ好きかも……」
七海が箸を止めずにつぶやくと、
「だてまき甘くてふわふわ〜! わたしも今度作ってみたいな」
みこもほっこり笑顔になる。
「母の味、絶賛されてます!」
紗里が胸を張ると、美津子が恥ずかしそうに笑った。
「うちの人は、こう見えて昆布巻き担当なんですよ」
美津子が隣に座る正志を見ると、正志はもぐもぐ食べながらも照れくさそうに「まぁな」と小さく呟く。
「昆布、味しみしみ〜!」
ひのりが感動の声を上げたそのとき――
「にゃ〜ん……」
すっと足元に近づいてきたのは、家猫のみかん。
「あっ、みかんちゃん来たー!」
ひのりが座りながら手を差し出すと、みかんはふわりとその手にスリスリ……そしてそのまま、ひのりの膝にちょこんと飛び乗った。
「……!? え、乗った!? わ、わたし、選ばれし者!?」
ひのりが半ば固まったように呟くと、
「みかん、普段あんまり膝乗らないのに……」
紗里が驚いたように言う。
「動いたらダメだ……!このぬくもり……尊い……」
ひのりがそっと微動だにしないまま微笑む。
「ひのりちゃん、羨ましすぎる……」
みこが思わず見つめて言い、他のみんなも笑い出す。
温かい料理と家族の団らん、そして猫のぬくもり――。
お正月の夕暮れは、ゆっくりと幸せな時間に包まれていった。
食後の団らんがひと段落した頃、紗里がぽんっと手を叩いた。
「よーし、みんな! お腹もいっぱいになったし、次はトランプしよう!」
「やったー!」
花乃が手を挙げ、陽翔も「久しぶりにみんなでできるね!」と嬉しそうに頷く。
「トランプか〜! 私、大統領やる〜っ!」
ひのりが元気に宣言すると、
「それ、大富豪でしょ」
七海がすかさずツッコミを入れる。
「えっ……一緒じゃないの!?」
「似てるけど、呼び方違うから」
「じゃあ、私が最初に“大統領”になるんだねっ!」
「だからそれ“大富豪”!アメリカの大統領じゃないの!」
そんなやりとりに、みんながくすくすと笑い出す。
「ルールはうちでやってるやつにするね。花乃も陽翔も入れて、7人で勝負だよ!」
紗里がカードを切りながら、にこにこと言う。
「勝った人には、お菓子もらえるってことでどう?」
「えっ、お年玉じゃなくて?」
「それはまた別口!」
笑いの絶えない中、第一回「見晴町お正月大富豪大会」が始まった。
「うわ〜、ひのりちゃん革命しすぎ!」
「だってジョーカー来たら出すっしょ!」
「花乃ちゃん強いなぁ……」
「ふふん、陽翔には負けないもん!」
「唯香ちゃん、また大貧民?」
「カードって非情ね……」
「お姉ちゃんずるい〜っ!」
「陽翔〜、ちゃんとルール守りなさーい!」
家族も混じってのゲームは、笑い声とツッコミで大盛り上がり。やがて布団を敷いてお泊まり会へ。
「なんか……凄く幸せな時間だよね」
「演劇部って、ほんと家族みたい」
ひのりの膝には、いつの間にかみかんがちょこんと乗っていた。
「みかんちゃん……完全に一番いい場所取ったね」
「ね。今日の真の勝者だわ」
「何かおみくじの大吉の効果早速出てきたみたい」
笑顔が絶えないまま、見晴町の夜は静かに更けていった。ゲームもひと段落し、リビングに布団がずらりと敷かれる。
みんながパジャマ姿に着替えて、湯たんぽや毛布にくるまりながら、あたたかいお茶をすする。
「さっきと同じこと言っちゃうけどなんかさ、修学旅行みたいだね……」
みこが毛布の中から顔を出して、ぽそりと呟いた。
「うん、わかる〜。こうやってみんなでゴロゴロするの、最高だよね!」
ひのりが嬉しそうに笑い、隣ではみかんがすやすやと丸くなっている。
「今日はいっぱい話したなあ……将来のこととか、今年の目標とか」
七海がカップを手にしながら遠くを見つめる。
「おせちもお雑煮も美味しかったし、おみくじも盛り上がったし……最高のお正月だったよ」
唯香がやわらかく微笑む。
「でもさ、こうして集まれるのも、演劇部があるからだよね」
紗里が、みんなの顔を見渡しながら言った。
「うん……わたし、この部に入って本当によかったって思う」
みこがぽつりと呟いたその言葉に、みんなが頷く。
「よしっ、じゃあさ! 最後にこれだけは言っとこ!」
ひのりが寝転がったまま腕を掲げる。
「今年もみんなで頑張ろうねっ! 演劇部、伝説を作るぞーっ!」
「おーっ!!」
パジャマ姿の5人の声が、夜の見晴町にふわりと響いた。
そして――
「おやすみ、みんな」
「うん、おやすみ……」
笑顔のまま、布団に潜り込む彼女たち。
暖かな灯りが静かに消え、幸せな夜が、やさしく包んでいった。




