第十九幕 演劇部、遊園地へ!
時期は11月。舞風学園演劇部の5人は、休日を利用して遊園地へ向かっていた。
「遊園地楽しみだ!わーい!」
「落ち着きなさいひのり。電車ではしゃぐの恥ずかしいわよ」
七海が軽く注意するが、ひのりのテンションは止まらない。
「でもだって、ジェットコースター!メリーゴーランド!観覧車!全部乗りたい〜!」
窓の外を見つめるひのりの目はキラキラ。
「まるで遠足に向かう小学生だね〜」
みこが笑い、
「ほんとほんと。テンション高すぎ」
紗里が頬杖をつく。
「……でも、こういう時のひのりって、なんか元気もらえるわよね」
唯香がほほえむと、七海も少しだけ認めるように頷いた。
「たしかに。ちょっと恥ずかしいけど……まぁ、今日は特別ってことで」
そんな会話のうちに、電車は目的地へ到着した。
――
改札を抜けると、目の前には大きなゲート。「ワンダードリームランド」の文字が輝いている。
「着いたぁ〜〜っ!!!」
ひのりは両手を広げてくるくると回り、勢いよく駆け出した。
「わ、待ってひのり! チケットまだよ!」
七海が追いかける。
「ちゃんと5枚あるよ〜!」と唯香が財布を掲げると、
「うわぁ、めっちゃ人いるね〜!人気なんだこの遊園地」
みこが目をぱちぱち。
「まぁ、休日だしね。混むのも当然ってやつ」
紗里が屋台を見ながら呟いた。
「でもさ〜、今日だけは子どもに戻ってもいいんじゃない?」
ひのりがにっと笑うと、自然と全員の表情がほころんだ。
「よし、それじゃあ……まずはどこ行く!? ジェットコースター?観覧車?それとも――お化け屋敷!?」
「えっ、それはやめよ……」
みこが引き気味に呟く。
五人は、色とりどりのポスターや音楽に包まれた遊園地の正門をくぐり、舞風学園演劇部の遊園地の1日の幕開けとなった。
「わあぁ……!」
園内の光景が目に入った瞬間、ひのりは駆け出しそうな勢いで声を上げた。
「ひのり、走っちゃだめ。はぐれるわよ」
七海がガイドマップを広げながら注意する。
「ごめんごめん……でも、遊園地って聞いただけでテンション上がるでしょ!」
「わかるけど、もうちょっと落ち着こう?」
みこも言いつつ、メルヘンな装飾に見とれていた。
「せっかくだし、最初は定番からでしょ?」
紗里が指したのは中央のメリーゴーランド。
「メリーゴーランド? 子ども向けじゃん〜……って、私が言うのキャラ的にやばい?」
「だいぶ矛盾してると思う」
唯香がさらりと返す。
「ま、まあ……いっか! 馬に乗るの好きだし!」
全員が笑い、自然と足はメリーゴーランドへ向かった。
――
降りた瞬間、ひのりは手を広げてぐるぐる回る。
「たーのしーっ!! やっぱりお馬さん最高!!」
「子どもたちに手を振り返してたの、見てたよ」
みこが微笑む。
「ちゃんと“お姉さん感”出せてたでしょ!」
「たぶん“テンション高いお姉さん”だったわね」
唯香が笑うと、七海がガイドマップを見ながら一言。
「次はスカイサイクルかゴーカート行ってみない?」
「え、ゴーカートあるの!? めっちゃ気になる!」
ひのりがその場で跳ねる。
「上から景色もいいけど……走りたいでしょ!」
「どうせなら、みんなでレースっぽくやろうよ〜!」
「なんか……レースゲームみたいになりそうね」
七海がため息をつき、
「でも、それちょっと楽しそう」
みこがぽそっと漏らす。
「……じゃあ決まりだね」
唯香の微笑みに、全員の視線がコースへ向いた。
⸻
ゴーカートコースは軽快なBGMとエンジン音に包まれ、小さなレース場のようだった。
「おお〜!遊園地のわりに本格的!」
紗里が感心して見渡す。
「ということは……誰が一番速いか、決まっちゃうわけね〜?」
ひのりが挑発的な視線を送る。
「え、それ勝負なの?」
みこが困った表情のまま、でも少しにやける。
「私は優雅にドライブ楽しむ派で行くから」
紗里が大人ぶると、
「そういう人が一番ハンドル切るのよ」
七海が即ツッコミ。
「それぞれ性格が出そうね」
唯香が静かに笑った。
⸻
いよいよ順番が来て、5人は横一列のカートに乗り込んだ。
「うぉぉ〜!テンション上がる〜っ!」
「落ち着いて。スピード出ないからね」
七海が呆れ気味に言う。
「でも気分はF1! “ひのり号”発進準備よ!」
「……魔法で飛びそうな車名」
みこが静かに座るが、ハンドルを握った瞬間、目が鋭くなる。
「道あけろぉっ!ひのりのお嬢ちゃん!」
「え、みこちゃんキャラ変わった!?」
紗里が叫ぶ間に、みこは完全に別モード。
「全員、覚悟しな!」
「これは面白くなりそうね」
唯香も微笑み、エンジン音が高まる。
「3……2……1……スタート!」
5台が一斉に飛び出す。
「いっけぇぇぇ!! 魔女号、発進だーっ!」
「前見て運転して!」
七海が横からツッコむ。
唯香は静かにコーナーを抜け、紗里は大げさにハンドルを切る。
その時、低く響く声が後ろから。
「遅すぎるよ……どきな」
みこが鋭いライン取りで内側を一気に抜ける。
「え、誰!?」
「……別人格ね」
「完全にレーサーみこだ……!」
ひのり・七海・紗里が次々に驚きの声をあげる。
「行くよ、唯香ちゃん。反射速度、試して?」
「ふふ……来るならどうぞ」
二人のカートが火花のように競り合う。
「これほんとに遊園地のゴーカート……?」
七海が呟く中、ゴールが迫る。
「いっけえぇぇ!!」
「ぬおおお!!」
僅差で――みこの勝ち。
停止した瞬間、みこはふわっと笑顔へ戻る。
「……あ、勝っちゃった。うふふ」
「テンション差どうなってるの!?」
ひのりが息を切らし、
「ほんとに同一人物……?」
「……すご……」
紗里と唯香がぽつり。
「でも楽しかったぁ」
みこは普段どおりに降車していく。
遊園地の一日は、まだまだ賑やかに続いていく――。
五人はしばらく遊んだあと、園内の観覧車へと向かった。
ゆっくりと回るゴンドラにそれぞれ乗り込み、空へと舞い上がる。
──観覧車を降りて数十分後。
「おまたせ〜!……ふぅ、高かった〜」
ひのりが手すりにつかまって一息つく。
「楽しかったけど、ちょっと静かすぎて緊張したかも……」
みこがぽそっと言い、
「無言だったわね、あのゴンドラ」
七海が笑う。唯香も穏やかにうなずいた。
「そろそろ、お昼にしない?」
紗里の提案に、
「大賛成〜〜っ! テーマパーク飯って2倍おいしく感じない?」
ひのりが真っ先に手をあげる。
フードコートが見えた途端、ひのりの足取りは一気に軽くなった。
「わ〜!どれも美味しそう〜!」
「……ひのりちゃん、目が本気だよ」
みこが笑う。
「誘惑多いのよ、こういう場所……」
七海はメニューと格闘しながら呟いた。
「ねぇねぇ、唐揚げとクレープあるよ!両方食べたい〜!」
「“ご飯とおやつ一緒に行くのアリ?”って聞いたの、あなたでしょ?」
唯香が即ツッコミ。
「いや、これは“セット”だから! 塩分と糖分のバランス!」
「それ偏りっていうのよ」
七海が呆れつつ返す。
みこはワッフルに吸い寄せられ、紗里はローストビーフサンドを撮影し、唯香は迷いなくカレーを選ぶ。
そして、五人はテラス席で食事を広げた。
「いただきまーす!」
「うまっ!!唐揚げサックサク!!」
「食レポ始まったわね」
七海が笑う。
「クレープってデザートだよね?」
「うん。“メイン・デザート・デザート”の流れでいくの」
「デザート×2なんだ……」
唯香が紅茶を飲みながら微笑む。
青空の下で食べるテーマパークのごはんは、軽やかで、ちょっと自由で――
部室とはまた違う、休日の時間がゆっくり流れていた。
午後に入り、風が冷たくなってきた頃。
5人は遊園地の一角、「ミステリアス・マンション」――お化け屋敷の前に着いた。
「わあ……雰囲気出てる……」
西洋風の古びた屋敷を見て、みこが足を止める。
「うっわ、絶対叫ぶやつ……!」
ひのりは入口を見ただけで肩をすくめた。
「入る前から腰引けてるじゃん」
紗里が背中を押し、
「叫ぶのは“盛り上げ”であって恐怖ではない!」
ひのりが強がると、
「それ、怖がってるって言うのよ」
七海が即ツッコミした。
「……私も、ちょっと苦手かも」
唯香が小声でつぶやくと、
「手、震えてない?」
みこが気づいて覗き込む。
空気を和ませるように紗里が言った。
「よし、怖がり順予想しよ! まずひのり」
「即決!?」
「次、唯香ちゃん」
「……否定できない」
「みこちゃんは平気そうだよね」
「うん。“中の人”が頑張ってるって思うと感心するかも」
「七海ちゃんは絶対驚かなそう」
「誰かが叫んだら、くらいかな」
「じゃあ最後は私! ノリで叫ぶタイプ!」
「リアクション芸じゃん……」
笑い合いながら列に加わる。
やがて前のグループが扉へ吸い込まれ、係員が声をかけた。
「5名様、どうぞ~。中は暗くなっておりますので足元にご注意ください」
「うわぁ……本格的だ……」
ひのりが震える声でつぶやき、唯香が小さく息を吸い込む。
「だ、大丈夫、私が先頭いくよ!」
みこが一歩前に出ると、ひのりが慌ててその後ろつく。
「じゃ、じゃあ私は二番目で……うん……みこちゃんの背中を信じてる……」
「唯香ちゃん、一緒に真ん中行こう!」
紗里が手を取り、唯香もうなずいて後ろへついていく。
「はいはい。じゃあ私は最後尾で」
七海が落ち着いた声でしんがりを務める。
そして、ギィィィ……と重たい音を立てて扉が開き、舞風演劇部の5人は、闇の中へと足を踏み入れていった。
──中は、思った以上に“静寂”だった。
足音、かすかな風の音、そして――
突然、「ギャアアア!!!」という絶叫が響いた。
「ひぃぃぃぃっっっ!!!」
「ぎゃあああああ!!!」
ひのりと唯香の見事なハモり声が、通路の奥に響き渡る。
「うわっ、出た出た!! 叫びコンビ!」
紗里が笑いながらも、肩をピクリと跳ねさせた。
「……あの仕掛け、上から降ってくるやつだったんだ。面白いなぁ」
みこは至って冷静、好奇心すら込めた目で見上げている。
「これ、演劇部の演出参考になるかも……」
七海も小声で感心していた。
そうして5人は、絶叫と驚きと笑いの渦に飲まれながら、作られた恐怖の館を進んでいく。
――怖いけれど、なぜか楽しい。
そんな“お化け屋敷”という非日常体験が、演劇部の休日にまた一つ、忘れられない彩りを加えていったのだった。
お化け屋敷の出口の扉がギィ……と開き、まぶしい光が5人を迎えた。
「ひいいぃぃ……外……! 光……! 人間界……!」
ひのりが太陽の光を両手で仰ぐように出てきた。
「もう、ホント無理……あと2秒いたら心折れてた……」
唯香は、珍しくほっとした顔でぐったりと壁にもたれかかった。
「意外だったなー唯香ちゃんがあんなに叫ぶなんて。ひのりと声、完全にユニゾンしてたし」
紗里が爆笑しながら背中を叩く。
「演技じゃなかったの……?」
みこが無邪気に尋ねると、唯香は肩を落として首を横に振った。
「……完全にガチ」
「にしても、冷静すぎでしょみこちゃん」
ひのりが少しむくれ気味に言うと、
「だって、中の構造気になっちゃって。吊り下がってたお化け、空気圧だったよね。あれ演劇にも使えるな〜って」
「そういう視点……」
七海は思わず苦笑した。
「じゃあ、次はいよいよ――」
唯香がマップを指し示す。
「……次、ジェットコースターね」
巨大なレールの先から絶叫が響き、ひのりは思わず後ずさる。
「うわ……高っ……!」
「ここが今日のクライマックスだな」
七海が呟き、全員の視線がレールへ向く。
「ひのり、行ける?」
唯香が優しく問いかける。
「い、行く! 魔法少女は負けない! ……たぶん!」
「“たぶん”が弱いのよ」
七海がため息。
「私は平気。むしろこういうの好き」
みこはうっすら笑う。
「……みこちゃん、キャラ変わらないでね?」
紗里が小声で言う。
5人は列に並び、コースターが軋む音を聞きながら順番を待つ。
「……今ならまだ引き返せるかな……?」
ひのりがぼそっと漏らすと、
「逃げ道はないよ」
七海が肩を掴み、
「叫べば全部吹き飛ぶって!」
紗里が背中を押し、
「上の景色、ほんと綺麗だから」
唯香が優しく添える。
ひのりは深呼吸し、拳をぎゅっと握った。
「……よし、乗る!」
そして5人は並んでライドへ乗り込んでいった――。
安全バーが降りると、ぐんぐんとレールを昇っていく感覚に、ひのりがぎゅっとバーを握る。
「だ、大丈夫……魔法で飛ぶほうが怖いって思えば……これは訓練……!」
「なにその魔法理論……」
七海が横で呆れながらも笑った。
ガタン、ガタン……と音がして、最上部へとたどり着く。
「景色、ほんと綺麗……!」
みこが感動した声でつぶやいた次の瞬間――
「きゃああああああああああああああ!!!」
叫び声と共に、コースターが急降下を始めた。
風が顔に叩きつけられ、景色が一気にブレていく。
「ぎゃああああああああ!!!」
「わああああああ!!!」
「いええええええい!!!」
「うおおおおおおおっ!!!」
――5人の叫び声が交差する。
風に吹かれて髪が舞い、目を閉じている子、叫びながら笑っている子。
スピードと重力の嵐の中で、誰もが“子どものような素の表情”を浮かべていた。
そして、カーブ、ループ、急降下を抜け――
カートがブレーキをかけてゆっくり止まり、無事に乗り場へと戻ってきた。
「……っつ、た、生きてる……!」
ひのりが真っ白な顔で降りてきて、へたり込む。
「ふふ、ひのりちゃん……泣いてる?」
唯香がそっとハンカチを差し出す。
「わ、わかんない……感動で涙出たのか、怖すぎて涙出たのか……!」
「でも、叫び声だけは一番元気だったよ」
みこがくすっと笑うと、ひのりも力なく笑った。
「これで、今日のクライマックスは制覇だな」
七海が言うと、紗里が腕を広げた。
「よっしゃ、記念にプリ撮ろう! 叫んだ顔、全部残してやろうぜ〜〜!」
5人のにぎやかな笑い声が、ジェットコースターの轟音の合間をぬって空へと吸い込まれていく――。
ゴーカート、観覧車、お化け屋敷、そしてジェットコースター――
ひと通り遊び尽くしたあと、五人は園内のショップエリアへと向かっていた。
「もう足が棒だよ〜〜! でも最高だった!」
ひのりがぐったりとしながらも満足そうに笑う。
「今日は本当にいろんな顔見せてくれたわね。絶叫のひのりとか、豹変みことか」
七海がくすりと笑うと、みこは口をとがらせてぷいとそっぽを向いた。
「……あれは事故ということで……」
「うんうん、面白い事故だったね〜!」
紗里がにやにやしながら言うと、みこは頬を赤くして「むー」と唸る。
その時――唯香が立ち止まり、アトラクションの一角を指差す。
「……あそこ、プリクラ機あるみたい」
視線の先には、ライトアップされた撮影コーナー。
「おおーっ、記念撮影しよしよ! こういうの撮っておかないと青春感ゼロになっちゃう!」
ひのりが食いついた。
「全員で撮るなら、あたし変顔していい?」
「ダメに決まってるでしょ」
七海が即答した。
「じゃあ、ふつうに撮ろ。笑って終わろ!」
ということで、5人は一台のプリクラ機にぎゅっと詰め込まれた。
「ちょっと、押してる!髪が写らない!」
「唯香ちゃん、笑って笑って〜〜! はい、ポーズっ!」
シャッター音が連続で響き、賑やかに撮影が進んでいく。
出てきたプリクラの写真には、それぞれの笑顔がしっかりと刻まれていた。
満面の笑み、ちょっと照れた横顔、なぜか全力ピースのひのり、そして――
写真の端っこでツインテールが逆立ってるみこ。
「ふふっ、いい記念になったね」
唯香が写真を見つめて、そっと呟いた。
──そして日が傾き始めた頃、遊園地のゲート前。
「じゃあ……帰ろっか」
七海がぽつりとつぶやくと、みんな少し名残惜しそうにうなずく。
空は夕焼け色に染まり、観覧車がオレンジ色の光を受けてゆっくりと回っていた。
「なんか……ちょっとさみしいね」
紗里がぽつんと漏らすと、ひのりが明るく言った。
「でもでも、また来ればいいんだよ! 次は何かテーマ決めてさ、“演劇部の課外活動”とか言っちゃって!」
「それ、ただの口実になりそう……」
七海が苦笑しながらも、どこか楽しげな声だった。
夕暮れの風に吹かれながら、5人は駅へと続く道を並んで歩いていく。
笑って、叫んで、時々キャラ崩壊していく演劇部の休日は、どこまでも騒がしくて、どこまでも温かかった。
続く。




