第十七幕 第一回舞風祭
第十七幕 文化祭
文化祭当日――
晴れ渡る空の下、舞風学園の校舎には色とりどりの装飾が施されていた。
校門から続く道には「第一回舞風祭」と描かれた横断幕が風になびき、
教室の窓や廊下にはカラフルな切り紙や手作りポスターが張られている。
中庭ではたこ焼き、焼きそば、クレープの屋台が並び、準備中で香ばしい匂いと笑い声が混じる。
「何だか文化祭って凄いワクワクするよね。中学にはなかったからさ」
「そうね。ひのりが言ってた“伝説を作ろう”、この日も……伝説になる日だわ」
その一言に、ひのりの目がきゅっと細まる。
「うん……がんばろうね、七海ちゃん!」
その後、ふたりは合流した紗里とみこと共に、午前中の展示・出店を巡ることにした。
ひのりたちは、まず中庭の屋台通りへと足を運んだ。
「焼きそばの匂い……あっちだね! 行こう行こうっ!」
ひのりが鼻をひくひくさせながら駆け出すと、紗里が後を追いかけるように笑う。
「さすがに朝から全力だね〜、ひのりちゃんは!」
「こういうのって“最初の一口”が一番美味しいのよ?」
七海はそう言いながらも、どこか楽しげに目を細めた。
みこはというと、すこしだけ日陰に寄りながら、クレープの屋台の前でメニューを見つめていた。
「……チョコとバナナ、いいなあ……」
そのつぶやきに、ひのりが振り返って即決する。
「決まり! クレープ→焼きそば→たこ焼きの順で行こうっ!」
「絶対胃もたれするやつ〜!」と紗里が突っ込みつつも、笑顔で財布を出していた。
たこ焼き、焼きそば、クレープ……
それぞれが思い思いに屋台を楽しむ中で、みこはふと一軒の小さな展示に足を止めた。
「……あ、これ」
そこは文芸部の『ショート詩展示』だった。
模造紙に綴られた十行にも満たない詩の数々に、みこは目を細めた。
「みこちゃん、こういうの読むの好きなんだ?」とひのりが聞くと、
「うん。――言葉って、役よりも本音が出ることあるから」
「詩とか、書いたりもするの?」
みこは少しだけ頬を赤らめて、ぼそりと。
「……たまに、ね」
意外な一面に、ひのりたちは思わず顔を見合わせた。
午前中のクラス出し物巡りも、それぞれ個性が出ていた。
1-Aの**「喫茶ワンダーランド」**では、ひのりと七海がメイド風の衣装を着て接客を担当。
演劇部員らしく、ちょっとした“即興ミニ芝居つき”の接客が話題を呼んでいた。
「“ご主人様、お帰りなさいませ♡”って言ったら、先生がめっちゃ照れてたの見た! めっちゃ笑えた〜」
「そういうの、録画して配信したらバズるよね!」と紗里がニヤニヤと茶化す。
続いて1-Bのお化け屋敷へ。
「ようこそ……命の保証は、いたしません……」
入り口に立っていた紗里の演技に、本気で驚く他クラスの生徒たち。
「ホントにやめて、マジで怖いのダメなんだから……」とみこは袖をつかんで離さない。
1-Cの展示室では、静かな空間に整然と並べられた作品の数々が目を引いた。
唯香は、部屋の奥で作品の説明パネルを貼っていたが、4人に気づくと控えめに笑みを見せる。
「来てくれてありがとう。……午後は、よろしくね」
「……唯香ちゃんの展示、なんか、上品だったよね」とひのりが感想を漏らすと、
「センスが洒落てた」と七海も頷いた。
そして、午前が終わる頃――
校内放送が昼休憩と午後の予定を伝える。
「まもなく午後の部、部活動発表が開始されます。体育館での映画上映は13時より開場、13時半上映開始です」
その放送を聞いて、ひのりの背筋がしゃんと伸びた。
「いよいよ、あたしたちの出番だね……!」
「準備、急ごう」と七海が小さく頷き、演劇部の仲間たちは揃って体育館へと足を向けた。
廊下を歩きながら、ひのりはふと口にする。
「こんなに人が来てくれるなんて思ってなかったな……本当に、映画、観てもらえるんだね」
「うん。でも、見せよう。あたしたちが“本気で作った”ものを」
七海の言葉に、唯香がちらと横目で微笑む。
「きっと、伝わるわ」
体育館では、すでに動画撮影部のメンバーが機材をチェックしており、部員たちが椅子を並べたりスクリーンを確認している。
ひのりは深呼吸して、目の前に広がる準備中の空間を見つめた。
「行こう。今日、この場所を――舞台にするんだ」
体育館の舞台袖に、演劇部の5人が並んで立っていた。
舞台上では動画撮影部のあさひ、りつ、真帆たちが、最後のプロジェクター確認を終え、アイコンタクトを交わしている。
椅子席には、保護者らしき大人の姿もちらほら見えはじめ、生徒たちも続々と席を埋めていく。
「……思ったより、お客さん多いね」
ひのりがそっと呟くと、隣にいた七海が口角を上げた。
「当然でしょ。舞風初の自主制作映画。――ちゃんと伝わるって、信じよう」
その言葉に、紗里が大きく深呼吸する。
「うーっ、緊張してきた! でもワクワクするっ! 絶対盛り上がるって!」
「……うん。あたしたち、ここまで来たんだもんね」
みこが小さく呟くと、唯香はスッと背筋を伸ばし、みんなを見る。
「大丈夫。今日のこの上映が、私たちにとっての“ひとつの舞台”になる。……さあ、見届けましょう」
そのとき、舞台裏の扉が静かに開いた。
「はいはーい、差し入れ持ってきたわよ〜。緊張して何も喉通らない子、いない?」
振り返ると、紙袋を抱えた音屋亜希先生が立っていた。
その手には、小分けにされたペットボトルやゼリー飲料、飴の袋。
「せんせ……!」
ひのりが真っ先に駆け寄る。
「ありがとう……先生のおかげでここまで来れたよ」
「なに言ってんの、あんたたち自身の力よ。私はただの応援団長」
音屋先生は飄々としながらも、その目元はどこか誇らしげだった。
「上映が始まったら、私は最後列で拍手準備してるからね。演出も編集も、ちゃんと見届けさせてもらうわ」
そう言って先生は5人に視線を巡らせる。
「みんな……堂々としてなさい。これはもう、舞台よ」
「はい!」
5人の声が揃った瞬間――
体育館に設置されたスピーカーから、アナウンスが流れる。
「それではまもなく、舞風学園演劇部と動画撮影部による自主制作映画『わたしがわたしになる場所』を上映いたします。ご着席の上、お静かにお楽しみください」
場内が次第に静まっていき、照明が落ちる。
ひのりは深く深呼吸し、手のひらで自分の胸を押さえる。
「……行こう。わたしたちの、“本気”を見せる時だよ」
5人は、静かに、上映の幕開けを待った。
映画はひのりのナレーションによる予告編から始まる。
「ここは、わたしが誰だったかも、なにをしてたかも忘れた世界。
目を覚ましたとき、名前も、思い出も、全部どこかに置いてきてた。
でも……心のどこかで知ってたの。
“このままじゃいけない”って。
だから――わたしは、歩き出したんだ。」
第一幕 目覚めの時
静かだった。
音も気配もなくて、自分がここにいるって感覚だけが残ってた。
背中が冷たくて、床は硬い。
制服の襟が少し苦しくて、息もしにくい。
ゆっくり目を開けた。
天井。蛍光灯。白い天井。……それだけ。
でも、何かが変だった。
見たことあるはずなのに、全部が他人の世界みたいで。
身体を起こす。
少し重い。呼吸が浅い。
静まり返った教室。
机の脚、窓のカーテン、揺れてない空気。
第二幕 逃走
足音だけが響いてた。
無人の廊下。白い壁。誰もいないはずなのに、誰かの気配がする。
制服の裾を押さえながら、ひのりは走る。
息が荒い。喉が痛い。
でも止まったら、何かに追いつかれそうで。
曲がり角、掲示板。
見覚えあるようで、違って見える。
逃げてる途中で、自分のことすらわからなくなっていく。
階段を駆け上がる。手すりは冷たい。
足が震える。でも止まれない。
二階の踊り場。
窓から光が差す。そこで一瞬、立ち止まる。
(わたし……なにから逃げてる?)
でも、すぐにまた足音が聞こえた気がして――教室に飛び込む。
ドアを閉めて、机の下へ。
息を殺す。
手で口を押さえながら、耳だけが周囲の気配を探してる。
ふと、床に落ちたバッジに気づく。
拾って見ると、“MAIKAZE”の文字。
(舞風……? わたしは、生徒?)
そのとき、廊下の外を何かが通り過ぎた。
気のせいかもしれない。でも、本能がそうじゃないと言ってる。
震えた声が漏れた。
「……誰か……教えて……」
答えはない。
でも、それでも、彼女はまだ呼びかけていた。
第三幕 記憶
足元に広がる光の粒が、ゆっくりと揺れていた。
床は見覚えある教室のはずなのに、足音の響きが違う。
どこか遠くで鳴ってるみたいだった。
「……ここは……」
声が、少しだけ反響する。
世界が、少しずつ滲んでいく。
壁も窓も、景色も、まるで夢の中みたいにゆらいでる。
「……夢の、続き……?」
そのとき、前方の光が強くなって、誰かが歩いてくる。
――七海だった。
でも、普段の七海とは違う。
白と黒の衣装。冷たい視線。
どこか機械みたいな口調で、こう言った。
「あなたは、間違ってる。
“自分が誰かを知らない”まま、走ってるだけじゃ、何も変わらない」
「……七海……? 違う。でも、似てる……」
次に、背後からパーカー姿の少女がぴょんと跳ねて現れる。
――紗里。
けど、その笑顔も、少しだけ怖かった。
「考えるなってば〜! 感じろってやつ!」
「さっきの逃げ足、めっちゃ“本音”出てたし!」
ふたりが左右に立ち、ひのりを挟む。
「あなたは感情。あなたは論理。じゃあ……私は?」
ひのりは、ぽつりと呟いた。
最後に、教室の奥。
静かに立っていた少女が、ひとつ時計を持ち上げる。
――みこ。
真っ白なワンピース。胸元に懐中時計。
「……この音、覚えてる?」
カチ、カチ。
時計の音に合わせて、視界が揺れた。
光と音のノイズの中、映像が次々に浮かぶ。
誰かの笑い声。
まぶしい光。
指切り。
手を振る姿。
「……これ、わたしの……記憶……?」
心が揺れる。
でも、それを認めたら、自分が壊れそうで。
「……やだ……」
小さな声が漏れた。
ひのりは、一歩、後ずさる。
けど、その足元にまた光が落ちてくる。
――思い出すか、逃げるか。
世界が、それを試しているようだった。
第四幕 対峙
暗闇の奥から、影が現れた。
輪郭のない、真っ黒な塊。
だけど、ひのりにはわかった。
――これは、自分の心の奥にある“何か”。
教室の隅。モニター越しに唯香が呟く。
「……ここからよ」
光が歪む。
映像がざらつき、影がゆっくりとにじり寄ってくる。
まるで、ひのりにまとわりつくみたいに。
「っ……!」
思わず後ずさる。けど、誰かの手が背中を支えた。
「立って。逃げるだけじゃ何も変わらない」
七海の声は、静かで強い。
「ねえ、怖いなら、一緒に叩きのめそ!」
紗里が、拳を構えてにかっと笑う。
「大丈夫……わたしも、ここにいるよ」
みこが、そっと手を差し出す。
ひのりは、一瞬だけ戸惑って――うなずいた。
「……うん、やろう。4人で!」
その瞬間、空気が変わった。
ひのりは一歩を踏み出し、影に向かって駆け出す。
見えない敵。
でも確かにそこに“ある”もの。
紗里が拳を振り下ろす。
みこが手を広げて受け止める。
七海が冷静に構えて、封じるように手をかざす。
そして――
ひのりが叫ぶ。
「思い出したよ……あたしは、逃げてなんかない……!!」
世界が揺れる。
光が溢れ、プロジェクターの映像が白く飛ぶ。
“影”はノイズとともに消えていった。
しんとした教室。
でも、4人の胸には確かに何かが終わった感覚が残っていた。
「……終わったの?」
ひのりがつぶやいた、そのとき。
コツ、コツ、と足音。
教室の奥、影の中から現れたのは――唯香。
黒いワンピース。冷たい目。
でも、どこか全部を知っているような瞳だった。
「……演じるのって、楽しい?」
その一言で、空気が止まる。
「“本当のあなた”を思い出すことと、
“演じている誰か”になりきること。
どっちが、あなたの“本音”なのかしらね?」
ひのりは答えられなかった。
ただ、立ち尽くす。
唯香は何も言わず、ひのりの前を通り過ぎた。
その姿は、現実と幻想の狭間に溶けていくみたいだった。
ひのりは、その場に残された。
――誰もいない記憶の教室。
胸に残る、たったひとつの問い。
(……私って、なんだろ)
ついさっきまで誰かと戦ってた。
笑ってた。叫んでた。
でも今、自分の身体も、声も、まるで借り物みたいだった。
台詞はない。脚本もない。
でも、言葉が浮かんできた。
「……ねえ。
誰かに“何者か”として期待されて、
誰かの記憶に縛られて、
それでも私――」
息をのむ。
「私って、何?」
静かな教室に、その声だけが響いていた。
「怖かった。
誰かにならなきゃって、ずっと思ってた。
でも今なら少しだけわかる。
逃げた自分も、迷った自分も、
嘘じゃなかったんだ。
わたしは――わたしとして、ここにいる」
CAST
主演:本宮ひのり
出演:伊勢七海、小塚紗里、城名みこ、宝唯香 ほか
監督:宝唯香
撮影:冴木あさひ
編集:中島りつ・名塚真帆
脚本:演劇部一同
(暗転していた会場。再び、照明が点く)
舞台上に、ひのりがひとり立っていた。
静まり返った空間。観客席も息をのんでいる。
すると――
ステージ背後のスクリーンに、ひのりが映る。
先ほどの映像の中にいた、もうひとりの“ひのり”。
画面の中の彼女が、ゆっくりと口を開いた。
「……まだ、迷ってるの?」
舞台のひのりが、顔を上げる。
けれど、即答はしない。しばらく黙って、深く息をついた。
「……ううん。たぶん、もう大丈夫。
ちょっとだけ、自分のこと……好きになれそうだから」
「それって、強がりじゃなくて?」
「うん、前まではそうだったかも。
でもね、“誰かになりたかった私”も、
本当は“私を信じたい私”だったんだって……今は思える」
スクリーンの中のひのりが、静かに微笑んだ。
その笑顔は、これまでどこかに隠していたもの――
あの日の魔法ごっこの笑顔だった。
「なら……もう、ひとりじゃないね」
画面の中のひのりが、手を伸ばす。
それに、舞台のひのりがゆっくりと手を伸ばして――
両者の手が、画面と舞台の境界で重なった瞬間――
光が広がった。
スクリーンの映像が溶け、舞台の上に吸い込まれていく。
まるで、ふたりの“ひのり”が、ひとつになっていくように。
音が止み、光も静かに収まったあと――
舞台に立っているのは、ただ一人の少女。
本宮ひのり。
彼女は正面を見つめ、
堂々と、優しく微笑んでいた。
そして、静かに一礼をする。
観客席に、拍手の音が広がっていく。
暗がりの中、舞台のひのりと映像のひのりの会話が終わると体育館内にひときわ大きな拍手が響いた。
一瞬の静寂。そして、会場のどこからともなく沸き起こる歓声。
「すごかった……」
「泣きそうになった」
「演技、マジで本物みたいだった」
客席に広がる反応の波の中、舞台袖で息を詰めていたひのりが、そっと拳を握る。
「……やった……!」
そんな彼女を先導するように、七海が一歩前に出る。
「行こう、舞台に」
拍手が鳴り止まないうちに、5人はステージに登壇した。
舞台中央に並ぶその姿に、照明がふわりと灯る。
マイクが用意され、ひのりが最初に一歩進み出る。
⸻
「今日は、この映画を観に来てくれて、本当にありがとうございました!」
ひのりは、ちょっとだけ震える声で言葉を紡ぐ。
「今日は観てくれてありがとうございました!」
「小さい頃からごっこ遊びが大好きで、演劇部に入りました。でも、自分って何だろうって悩んだこともあります」
「それでも今は言えます。わたしたちは、伝説を作ってるって!」
「本当に、ありがとう!」
深くお辞儀をして、マイクを七海に渡す。
⸻
七海は凛とした表情のまま、言葉を続ける。
「この作品は、わたしたちが“今”の自分たちを全力でぶつけたものでした」
「作るってことは、自分と向き合うことだと思う。迷ったり、ぶつかったりした時間も、全部含めて、私たちの“青春”だったんです」
ほんの一瞬、声が詰まりかける。
「――ありがとう。観てくれて」
⸻
次に、紗里がマイクを受け取った。
「えっと、私は演技とか最初、全然自信なかったんだけど……この仲間たちといたら、“やってみたい!”って思えたんです!」
「笑ってほしくて、泣いてほしくて……いっぱい練習して、編集して、詰め込んで。映画って、すっごい大変だけど――超楽しかったです!」
「またやりたい! ありがとうっ!」
⸻
その勢いのまま、みこが続く。
「……私、みんなの中じゃ一番しゃべらないタイプかもしれないけど……」
ちょっとだけ間を置いて、客席を見渡す。
「でも、映画の中での私は“私”で、ここに立ってる私は……“みんなと一緒に作った私”なんです」
「誰かと一緒に何かを作るって、こんなにあったかいんだなって、初めて思えました。ありがとう」
そう言って、小さく会釈する。
⸻
そして、最後に唯香が一歩前へ。
「この作品は、私にとって“過去と未来をつなぐ一本の糸”のようなものでした」
「自分のこと、家族のこと……向き合わなきゃいけないものがあって、それでも、今の私はここにいます。こうして、仲間と舞台に立ってます」
「この時間をくれたすべての人に、心から感謝しています。ありがとうございました」
静かに、けれど力強く頭を下げる。
⸻
そして再び、5人が並んだ。
ひのりがもう一度マイクを取り、明るい声で締めくくる。
「これが、舞風学園演劇部の映画でした! ここから、もっともっと――夢を見せていきますっ!」
再び、大きな拍手が体育館を包んだ。
観客の中には涙ぐむ姿もあり、誰もがこの映画と、5人の想いに心を動かされたのだった。
舞台挨拶が終わり、幕が下りる。
拍手の余韻を背に、5人は舞台袖へと戻ってきた。
その先で、音屋亜希先生が拍手を続けながら立っていた。
そして、口元を緩めてふっと息を吐き――
「映像の中の“間”も、光の使い方も……よく考えてあったわ。舞台じゃない分、ああいう工夫が効いてくるのよね」
5人が顔を見合わせる。想像以上に細かく観ていた先生に驚いたようだった。
「それに、演技。自分の役を“演じる”んじゃなくて、“生きてた”わね。あれは演劇部じゃなきゃできない映画だったと思う」
唯香がほんの少し、口角を上げる。
七海は静かに頷き、紗里は「うぉ……マジでプロっぽい評価きた」と小声でつぶやく。
「あなたたち、ちゃんと“物語”をつかんでた。自分たちで作って、自分たちで伝えた。……それがすごいのよ」
その言葉に、ひのりが胸を張って言った。
「……舞台も、映画も、どっちも――あたしたちの“伝説”ですから!」
音屋先生は目を細めて、笑った。
「ふふ、それじゃ次は……何を見せてくれるのかしら。期待してるわよ、演劇部!」
――そして舞風祭の一日は、静かに、華やかに、幕を閉じた。
続く