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舞風学園演劇部 第一部 青春の開演  作者: 舞風堂
第四章 映画を作ろう
14/26

第十四幕 演劇部と動画撮影部、合同企画?!

 九月上旬。

 二学期が始まり、秋の気配が近づく舞風学園。

 放課後の多目的室に集まった演劇部の5人。


「さーて! いよいよ文化祭! 伝説の第二章、ド派手にぶち上げるよーっ!」


 いつもの調子で、ひのりが勢いよく開幕を宣言した。

 だが――七海はノート片手に、渋い顔で言った。


「……ひのり、ちょっと落ち着いて聞いて。実は、舞台が使えないの」


「えっ……?」


「体育館のステージ、軽音部のライブ機材が常設されることになったわ。バンドの転換だけで手一杯で、演劇のセットを組んだりバラしたりする時間は取れないって」


「そ、そんな……」


 ひのりがガクリと膝をつく。


「文化祭で演劇って、青春のド定番じゃん……! スポットライト浴びて、最後は紙吹雪の中で『ありがとうございましたー!』ってやるのが夢だったのにぃ……!」


「わかる、それめっちゃ憧れるやつ……」

 紗里も机に突っ伏して嘆く。


「教室も展示で埋まってるし、中庭はダンス部だし……。せっかく5人揃ったのに、披露する場所がないなんて……」

 みこも悲しげに眉を下げた。

 部室に重い沈黙が流れる。

 “場所がない”という現実は、彼女たちの熱意を消してしまうには十分すぎる壁だった。

 その時、沈黙を破ったのはみこだった。

「……なら、映画は?」

 全員が顔を上げる。

「映画なら、場所も時間も関係なく撮れるよ。教室のプロジェクターがあれば上映できるし……私たちの演技、形に残せる」

 その言葉に、ひのりがバッと顔を上げた。


「それだぁああああ!!!」


 さっきまでの落ち込みが嘘のように、ひのりが叫ぶ。


「自主制作映画!? 場所がないなら、世界全部を舞台にしちゃえばいいじゃん!」


「なるほど……それなら土曜日とかに撮影すればいいし、解決策としてはアリね」


「でも機材は? ウチらスマホしかないよ?」


 紗里の疑問に、ひのりはニカっと笑い、壁の向こうを指差した。


「あるじゃん! 機材持ってる人たち!お隣の動画撮影部に協力してもらおうよ!」


「……あの子たちなら、確かに」

 七海が納得したように頷く。


「で、監督は……やっぱ唯香ちゃんだよね!」


「えええええ!?」

 ──こうして、“場所がない”というピンチを逆手に取った、文化祭へ向けての新たな挑戦が始まった


 翌日の放課後、演劇部の5人はすでに揃っていた。長机に円を描くように並んで座り、ホワイトボードには「文化祭企画会議」と七海の字で書かれている。


「……来るかな、動画撮影部の人たち」


 紗里がソワソワと椅子を揺らしながら呟いた。


「さすがに来るでしょ。あたしたちから正式に依頼出したんだし!」


 ひのりは机の上で両手をパタパタと仰ぎながら言った。唯香は静かにうなずいている。


 すると――


「失礼しまーす」


 ドアが開き、明るい茶髪のポニーテールの少女が軽いカメラを手に入ってきた。


「動画撮影部部長の冴木あさひでーす! 呼んでくれてありがと!」


「元気だね……」とみこが小声で呟く。


 続いて、ツインテールで機材を抱えた少女が入室する。


「中島りつです。よろしく」


 最後に、落ち着いた雰囲気のショートヘアのメガネの少女が静かに会釈した。


「名塚真帆です。協力できると聞いて、少し楽しみにしてました」


「C組の宝さんと同じだよね?」と七海が確認すると、「うん」と真帆は微笑む。


「それじゃ、座ってください。今日はお願いがあって来てもらいました」


 3人が席につき、演劇部と動画撮影部が初めて同じテーブルにつく――そんな瞬間だった。


「じゃあ、さっそく本題に入ろっか」


 ひのりが勢いよく立ち上がり、両手で机をバン!と叩いた。

 その表情は、すでに何かに取り憑かれたような輝きを放っている。


「今回、文化祭で演劇部は《自主制作映画》を作ることにしたの! だから、動画撮影部に協力してほしいんだ!」


「ちょっとひのり、落ち着いて」


七海が制止する。


「映画……!」

 あさひの目がキラリと光る。


「おもしろそうじゃん、それ!」


「でしょ!? でね、私がやりたいのは――」

ひのりはホワイトボードの前に立ち、カラーマーカーで殴り書きを始めた。


『SF』『バトル』『爆破』――


「えっと、なんかどんどん物騒になってない……?」


 りつが眉をひそめるなか、ひのりはノンストップで語り出した。


「見たことないような超能力バトルとかさ、空からロボットが降ってくる感じの演出で……で、撮影は砕石場か工場跡地! ヒロインは記憶を失ってて、そこに謎の敵が――」


「待て待て待て!」


 七海がバシッと机を叩いた。


「予算、いくらかかると思ってんのよそれ!」


「えっ……」


 ひのりの口が「へ」の字に曲がる。


「火薬って簡単に使えないし、砕石場なんてまず借りられないし、VFXにいたっては……この動画撮影部にハリウッドスタジオでもあると思ってんの?」


「うっ……」


 まるで夢から現実に急降下するように、ひのりは黙り込んだ。


「そもそも文化祭の予算って1部活あたり上限決まってるからね」


 真帆が冷静に補足する。


「ロボットCGとか爆破シーンの外注とかは、現実的じゃないかも」


「くっ……現実って、厳しい……」


 ひのりは椅子に沈み込んで、まるで全ての希望を失った顔で天井を仰いだ。


「でも、アイデアとしては嫌いじゃない」


 ふと、あさひがニカッと笑って言った。


「むしろ、そこまで振り切ってる方が撮ってて楽しいよね。もちろん、できる範囲でね」


「……ほんと!?」


「やるからには面白く撮りたいし。でも、私たちができることも限られてるし――脚本とか演出とか、ちょっと現実的な路線で話し合ってみよっか?」


 七海がうなずく。


「そうね。とりあえず、まずは“何を撮るか”をちゃんと決めて、役割分担とかもしていきましょう」



休憩ムードになった頃、りつがぽつりと言った。


「思ったけど、演劇部ってみんなキャラ強いね。映えるわ」


「えっ、キャラ?」

ひのりが目を丸くする。


「本宮さんは“勢いで全部動かす主人公”。七海さんは参謀。紗里さんはムードメーカー。みこさんは癒し系で、たまに強いとこ出るタイプ」


「う、うぅ……恥ずかしい……」

みこが頬を染める。


真帆が唯香を見て言った。


「宝さんは……カメラ越しでも分かる“本物”」


「……昔の話よ」

唯香は控えめに微笑んだ。


あさひもうなずく。


「立ってるだけで画面の空気変わるんだよね。プロってすごいなって思う」


唯香は少し照れつつ、「まだ一年生よ、私も」とだけ返す。


その空気のまま、あさひがふと言った。


「ところでさ、演劇部の部長って誰なの?」


一瞬沈黙。


「……決めてなかったわね」

七海が苦笑する。


「自然とひのりちゃんが引っ張ってたから、部長かと思ってた!」

紗里が手を叩く。


「え、私!? 妄想爆走系だよ!?」

ひのりが慌てふためく。


「でも、企画を動かしたのは本宮さんの勢いでしょ?」

あさひが笑って背中を押す。


唯香もうなずいた。


「……その力、あると思う」


七海が机の中央に手を置く。


「じゃあ――ここで決めましょう。

 本宮ひのりを、部長として認めるってことで」


「賛成!」

「異論なし」

「いいと思う」


満場一致だった。


ひのりは一瞬きょとんとして――

やがて胸を張って宣言した。


「……じゃあ! 本宮ひのり、今日から部長やります!!」

 

 その宣言に、部屋の中から拍手が湧き起こる。


「文化祭、絶対成功させようね!」


 ひのりが両手を広げて言うと、あさひが笑って答えた。


「任せなさい、部長さん!」


 こうして、演劇部の新たな体制と文化祭への挑戦が、正式に“幕を上げた”のだった。


「で、撮影場所って、どうするの?」


 文化祭映画プロジェクトが本格的に動き出し、七海がノートを開きながら言った。


「砕石場なんかは当然無理だけどやっぱ背景って大事じゃん」


「うちの学校の中だけじゃ、雰囲気出すの難しそうだよね」


 みこが小声でつぶやく。


「そうなんだよ〜! せめて廃墟とか、無機質なビルの屋上とか……」

 ひのりがぐぬぬと頭を抱える。


「でも、屋上って鍵かかってるし、勝手に使えないよ」


「近くに森とか河原とかあったっけ?」と紗里。


「うーん……野外で撮ると、音が入るのも気になるんだよね」


 あさひがハンディカメラをいじりながら言った。


「風とか蝉の声とか、マイクめちゃ拾っちゃうから、セリフもノイズだらけになる可能性あるし」


「じゃあ、室内で工夫するしかないか……でも室内で“それっぽく”するのも限界あるし」


 七海が頬杖をついて考え込んでいた時、りつがふと口を開いた。


「ねえ、LEDウォールって知ってる?」


「なんか最近の映画で背景に巨大なスクリーン使って合成してるやつ?」


「そう。『マンダロリアン』とかで有名になったやつね。グリーンバックじゃなくて、撮影時に“背景”がリアルタイムに映ってるやつ」


「ええっ! そんなハイテクなことうちらでできるの!?」


 ひのりが前のめりに聞いた。


「本物のLEDウォールは無理。でも、近いことなら“風”にはできるかも」


 りつがカバンからノートPCを取り出し、手早く操作しながら続けた。


「プロジェクターで教室の壁に背景映すとか、大型モニターを設置して風景動画をループ再生するとか。あと、背景映像を合成前提で編集して、照明で雰囲気を出すとかね」


 真帆がそれを聞いて静かに補足する。


「“スクリーン越しに撮る”んじゃなくて、“その場にあるように見せる”ってことよね。動きのある背景をうまく光と合わせれば、印象が変わる」


「それっぽく見せるのって、意外とアイデア次第なのかも……!」


 七海が目を細めてうなずいた。


「じゃあさ、廃墟とか無機質な背景の動画素材を事前に撮っておいて、それを背景に映して演技するとか、できる?」


「うん。たとえば、美術室の一角を使って“異空間”っぽく演出できるかも」


「すごい……それ、なんか本当に映画っぽい!」


 紗里が目を輝かせる。


「演劇部が演技して、動画撮影部がセットと演出で世界を作るって、めっちゃいいコラボじゃん!」


「撮影用の照明、ちょっと貸してもらえるよう手配するね。教頭先生が機材に理解あるから、相談してみる」


 あさひがメモを取り始めた。


「脚本が固まってきたら、それに合わせて必要な背景動画とかも用意するから」


「りつ、頼れる~!」


 ひのりが感動したように言うと、りつは軽く口元を緩めて言った。


「……ま、妄想を現実に変えるのは、私の仕事だから」


「かっこいいな、おい……」


 みこがポソッと呟くと、部屋中から笑いが漏れた。


 ──こうして、撮影場所の問題は“アイデアと技術の工夫”で乗り越える方向に進み始める。


 演劇部と動画撮影部、それぞれの得意を武器に、夢は少しずつ形になっていこうとしていた。


 七海がパソコンに撮影計画の表を打ち込みながら、ふと口にした。


「……で、監督って誰がやるの?」


 再び沈黙。


「脚本はみんなで考えるにしても、演出とか、カット割りとか、現場で指示出す人は必要でしょ」


「うーん……私、演出は好きだけど、カメラの知識はないな〜」と紗里。


「私も……裏方得意だけど、映像の現場仕切るのはちょっと……」と七海が言いかけたそのとき。


「唯香ちゃん、やってみたらどうかな」


 みこが、ぽつりと呟いた。


 全員の視線が、一斉に唯香に向く。


「……私?」


「うん。だって、前に言ってたよね。映画監督のお父さんから、“ちょっとだけ撮り方教わったことある”って」


 みこの記憶力が鋭く光った。


「そういえば……!」と紗里が目を見開く。


「それに、唯香さんって、演技する側の目線も持ってるからさ。カメラ越しにどう見えるかとか、光の当て方とか、自然にわかってる気がする」


 あさひが腕を組んでうなずく。


「しかも、演技の間とか空気を“感じてる”の、カットを見てても伝わってくるよ。演出って、演技を“導く”仕事だし、向いてると思う」


「でも……」


 唯香は一瞬、視線を伏せた。


「確かに、撮影が嫌になって逃げたこともある。だけど――」


 ゆっくりと顔を上げ、まっすぐ前を見る。


「今は……自分の意志で“撮る側”に立ってみたいって思う。誰かに指示されるんじゃなくて、自分の目で見て、自分の言葉で“こうしたい”って言ってみたい」


 その言葉に、誰もが一瞬言葉を失った。


 あさひが静かに息を吐く。


「……かっこいいな、宝唯香」


「それってさ、子役だったからとかじゃなくて、今の唯香ちゃんが言うから、すごく響くんだよね」


 みこが微笑んだ。


「じゃあ……決まり?」


 七海が周囲を見渡すと、誰も異を唱えなかった。


「監督、宝唯香。異論――なし」


「ふふ……なんだか、責任重大ね。でも……やってみる」


 唯香が静かに、でも確かにうなずいた。


「監督ってさ、演出だけじゃなくて、人の心も見る仕事だと思う」


 あさひが真剣な目で言った。


「期待してるよ。唯香監督」


「うん。演劇部と動画撮影部で、一緒に“ひとつの映画”を作りましょう」


 唯香が手を差し出すと、まずひのりが手を重ね、続いて七海、紗里、みこ、あさひ、りつ、真帆が集まっていく。


「文化祭まで、あと3週間。やるしかないっしょ!」


 ひのりが声を上げる。


「演劇部初の映画作品、舞風の文化祭で――」


「――世界一、胸が熱くなるやつを撮ろう!」


 その小さな円卓の上で、8人の手がひとつに重なった瞬間――


 夢が、現実になり始めた。


 七海がホワイトボードに「脚本会議」と書き加えた。


「じゃあまず、どんな物語にするかから決めようか」


 唯香が、ひのりに目を向ける。


「主人公像は、すでにある程度浮かんでるんでしょ?」


「うん! 未来から来た記憶喪失の少女! 使命を思い出していく過程で……世界の命運がかかってるの!」


「ちょっと盛りすぎじゃない?」


 七海が呆れ気味に突っ込むと、


「でもその路線、悪くないよ」と真帆が言った。


「映像としても引きがあるし、SF設定なら多少演技が拙くても“それっぽく”見える利点がある」


「記憶喪失って設定も、説明ゼリフを自然に入れやすいしな」と、りつも頷いた。


「なら、世界観をちゃんと設定しないとね」


 七海が手元のタブレットを起動する。


「どこで何が起きてるのか、背景設定がブレると安っぽくなるから」


「背景は、スクリーンで映すタイプでどう?」


 あさひが言った。


「さっき話してたLEDウォールみたいな。さすがにフルセットは無理だけど、黒バックで合成用に撮って、必要な背景はこっちで作れば雰囲気出せるかも」


「それ、いけそう?」


「予算内なら、やれる範囲でね。重機の爆破は無理だけど、空を飛ぶっぽい演出とかはがんばればいける」


「マンダロリアン方式だね」


「知ってたんだ、あさひちゃん」と、みこがくすっと笑う。


「スターウォーズ、大好きだから。ああいうの憧れるよ」


 その瞬間、あさひの瞳が少しだけ、子供のような光を宿した。


「私、ずっとこういうのに関わってみたかったんだ。中学の頃、演劇も文化祭も、あんまり全力でやったことなくて……。今なら、本気でのめり込める気がする」


 そう言って、あさひは自分のキャップを直す。


「じゃあ、ここがあたしの“青春”ってことで!」


 部屋の空気が、一気に熱を帯びた。


「うん、やろう! とびきり面白いやつ!」とひのり。


「そのためには、まずプロットと構成ね」と七海。


「……キャラ設定も詰めておかないと」と唯香。


 こうして、5人+3人の“演者と撮影者たち”は、一つの夢に向かって物語を描き始めた。


 一通りの話し合いが終わり、時計の針は夕方を指していた。


「じゃあ……今日は最後に、ちょっと“テスト撮影”してみようか」


 唯香が立ち上がり、カメラの前で軽くストレッチをするひのりに視線を送った。


「えっ、私がやるの?」


「当然でしょ。主演候補なんだから」と七海。


「何でもいい。動きの確認と、光の入り方とかカメラのテストも兼ねてるから」と、あさひがカメラを構えながらウィンクする。


「じゃあ……いきまーす」


 唯香が、まっすぐにひのりを見る。


「カメラ、よーい……アクション!」


 一瞬の静寂。


 ひのりの表情が、ふっと切り替わった。

 彼女は手をぐっと前に出し、演劇部の舞台では見せたことのない“ヒーロー”的なポーズを決める。


「この世界は、もう誰にも渡さないっ!」


 ――一歩踏み出し、虚空を見据えるように叫ぶ。


「たとえ記憶を失っても、あたしの中には“誰かを守りたい”って気持ちが、残ってるんだよ……!」


 その迫力に、動画撮影部の3人が思わず声を漏らした。


「……これ、すごいな」


 りつが低く呟く。


「想像してたより、ずっと“カメラ映え”するじゃん……」


 あさひはカメラのファインダー越しに、ひのりの表情をしっかりと捉えていた。


「動きもいい。カット割り次第で、もっと引き立つ」


 唯香は、ひのりの演技を目で追いながら、短く頷いた。


「……使えるわ。これ、素材としても」


「素材って!?」

 ひのりがポーズを解いて、じたばたしながら振り返った。


「いやいや、褒めてるの!いい映像になってるってこと!」


「ならちゃんと言ってよねっ!」


 和やかな空気が流れた多目的室。

 でもその中には、はっきりとした“手応え”があった。


 テスト撮影が終わり、カメラをチェックしているあさひたち。ひのりは机に突っ伏しながらも、満足そうに息をついている。


 唯香は一人、窓際でカメラ越しに映ったひのりの表情を思い返していた。


 七海が手元のノートにメモを走らせながら呟く。


「……何を伝えたいか、そこをはっきりさせれば脚本は書ける」


 その言葉に、唯香がゆっくりと振り返る。


「伝えたいこと――か」


 窓の外はもう夕暮れ、校庭が茜色に染まっていた。


 そこへ、あさひが声をかける。


「映画ってさ、正直、めちゃくちゃ大変だけど……」


「それでも、撮ってよかったって思える瞬間、絶対あるよ」


 それは、あさひ自身がずっと味わいたかった“何か”への渇望だった。


 唯香が静かに答える。


「じゃあ、私たちでその“瞬間”をつかみに行きましょう」


 それぞれが顔を見合わせ、小さく笑う。


 やがて――


 ひのりが、ふと顔を上げて、宣言のように言った。


「絶対、最高の映画にしよう。あたしたちの、たった一度の文化祭だもん!」


 ──その言葉に、誰も異論はなかった。


 撮影はこれから。脚本もこれから。

 でも彼女たちは、確かに“幕が上がる前”に立っていた。


続く。

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