第06話:襲撃 第一日目そして治療開始
本日の第三弾!!
監視を始めて暫くすると、カイルがヨハンさんを連れて戻ってきた。
「ヨハンさん、シュザイルさんですけど、痛み止めとか止血などは出来ていますが、骨も複雑に折れて、傷口も開いている状態です。なるべく早く処理しないと後遺症が出る可能性が高いですよ」
「そんなに酷いのか……うーーん。詰所でも処置できるか?」
「いや、難しいですね。結構、大掛かりな処置が必要なので万全を期して、店の処置室に運んだ方が良いです。あっちなら治療機材や色々と薬もありますから、まあ、私はシュザイルさんに付きっ切りになってしまうので、他の人に何かあれば呼びに来てもらうようになりますが」
「ああ、なるほど、分かった。ではさっそく、こいつを運んでしまおう」
えぇ。今、どうやった??
ヨハンさんは、シュザイルを抱えて櫓の階段を前向きで駆け下りて行った!?
櫓の階段って梯子階段だから垂直だよ。普通、梯子に向き合って手で持ちながら降りるよな?
あれって、私だけなのかぁ??
私がどうでも良いことに気を取られているうちに、色々と決まったみたいで、カイルはこのまま交代要員として櫓に残って、シュザイルさんを運んでくれるヨハンさんと私は、店に向かうことになった。
――――
私の店は、村の中心から見ると南西にある。今、戦闘が起きている北門や東櫓から離れていてるので、先ほどの喧騒が嘘のように静まり返っている。
店の扉を開け中に入ると、正面には、年季の入った大きなカウンタが見える。
いつもは、カウンタの向こうに立って、そのさらに奥にある大きな薬棚から、店に来た患者の症状に応じた薬を取り出して渡しているんだ。でも今日は、そんなカウンタの前を素通りし、横の壁にあるペンキが剥がれかけた扉を開いた。扉の中は窓も無く暗い小部屋。
壁に取り付けておいたランプに火を灯すと、ブワっと部屋の中が見えてきた。
部屋の真ん中には処置用のベッドを置いている。真っ白な布のベッドシーツなどは無い、無機質で光沢のある皮が張られているだけのベッド。言うまでもないけど、寝心地は優先していないよ。血で汚れても洗い流しやすい素材が大事だな。
「ヨハンさん、シュザイルさんをこのベッドの上にお願いします」
「……リナ、この部屋って、なんだが怖いなぁ……」
そうかな? 何に使うんだって感じの工具を置いているからかな?
でも、このノコギリで骨を切断しないといけないこともあるし、鎖と滑車で頭やら腕やら足やらと引っ張って正しい位置に戻さないといけないこともあるんだ。
「ちょ、ちょっと隊長。変なこと言わないでくださいよ」
シュザイルさんは、落ち着きなく目を動かしながら、青ざめながら体を小刻みに震えさせている。
うーーん。失血による痙攣か、本当に怖くなって来たのか……わからん。
「えーと。大丈夫ですよ。それに、シュザイルさんは眠ってもらいますから、目が覚めたころには処置は終わっていますよ」
私は、なるべく穏やかな顔をしながら、素早くベッドについている拘束具でシュザイルの体をベッドに縛り付けていく。
処置中に舌を噛んだりしないように猿轡もはめてっと。
徐々に体が動けなっていくシュザイルさん……目だけが忙しなく動かして……捕まった動物に見えるぞ。
その姿を憐れむように見るヨハンさん。
それでは、始めますか。
空の革袋に液体になっている色違いの薬剤を二本注いでいく。皮袋の中で、薬が反応してシュワーという音がしてきた。ちなみに、この革袋、私が小さいときにドクロのマークを落書きしちゃったんだよな。
「うーなひゃん? んえ、んえふぁふぁひ? 」
うん。何を言っているのかわからん。
かわいいドクロマークがついた革袋を持ってシュザイルさんに近づくと、逃れたいのか体を捩らせようとしている。どうせ拘束具を付けているんだから、たいして動けないんだ。おとなしくしていてほしいなぁ。
ガバっという音と共に革袋をシュザイルさんの頭から首まですっぽりと被せた。
「アガッ! 」
というシュザイルさんの声がしたかと思うと、体の動きも止まり静寂が広がった。
まぁ、全身麻酔をかけただけなんだが。
「やっぱり、シェロブの麻痺毒は良く効くよ『え、それって魔物の毒なのか』」
私の独り言を拾って、ヨハンさんは驚いている。
まぁ、シェロブはクモ型の魔物で獲物を麻痺毒で昏睡状態にさせて生きたまま食べるという、えげつない奴だ。しかし、この麻痺毒と中和剤をほどよく混ぜると、強い睡眠薬の出来上がりだ。
「ヨハンさんいつも患者運ぶの手伝ってくれて、ありがとうございます」
「いや、構わんよ。特に初めて連れてくる奴は、反応が面白いからなぁー」
ん、ん? まぁ、手伝ってくれるから良いけど。
「じゃあ、あとは私の方で治療しておくので大丈夫ですよ。シュザイルさんも明日まで目が覚めませんから」
と言いながらシュザイルから革袋を脱がしてあげた。
当たり前だが、革袋を被せっぱなしにすると息が吸えなくって死んでしまうんだ。
ヨハンさんは、北門の状態も気になるし東西の櫓の連絡係は、何かあったら北の詰所に来るように伝えているので、長い時間、留守にするわけにもいかなってことで戻っていった。
――――
処置室に籠って、すでに二時間。
折れたり砕けた骨を一個づつ丁寧に、時には力技で、正常な位置に戻す。
切断された重要な血管は、血が噴き出さないように止血しながら切断面同士を指で挟んで繋いでいく。そんな気が遠くなるような作業をこなした。
「よーーし。あと一息だ」
開いていた傷口は、シェロブの糸と縫い針で丁寧に縫い合わせて。そして、化膿止め、炎症止め、鎮痛を混ぜ込んだ塗り薬を湿布にして貼り付け、包帯を巻いて、最後に皮のベルトで肩と腕が動かないように固定したら完成!
「やっと、終わった。つっかれたーー」
過去にも何度か、このような治療は行ったことがあるけど……
何とか今回も、乗り越得ることが出来たという安堵感と共に、また、今になって手が震えてきた。そう、回復魔法無しで怪我を治療すると、どんなに頑張っても乗り越えられない場合もあるんだ。
あぁ、いつも重傷者は怖い……
襲撃されても、何とか一晩は耐えたかな。
まだ寝ているシュザイルを起こさないように、そっと店の外に出てみることにした。
北の方向から、時折、重たいものが当たる低い音が聞こえてくる。
門か櫓が攻撃されているのかな。カイルは大丈夫かな?
カイルは小さい頃からヨハンからの剣術指導を受けてはいたけど、あまり熱心じゃあなかったからな。いや、むしろ真逆の方向。如何に鍛錬をサボるかという方面に熱心に取り組んでいたよ。しょっちゅうサボって、私の薬草採取に付いて来て、後でヨハンに見つかって怒られるまでがワンセット。
はぁーー。前の日常は戻ってくるのかな……
「シュザイルさんを預かっているから、店から離れるわけにもいかないけど、誰も来ないってことは、誰も大きな怪我はしていないってことだよね……。さて、今のうちに少し休んでおくか」
トボトボと再び処置室へと戻っていった。
処置室に患者がいるときは、急な容態変化に対応できるように処置ベッドの横に椅子をおいて、座りながら仮眠を取るのがいつものスタイルだ。
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